第38話:エルダードラゴンとの邂逅
遂に聖地レイテルへと辿り着いた太一郎たちでしたが、そこへエルダードラゴンが強襲を仕掛けてきます。
何とか対話への道を模索しようと、決死の覚悟でエルダードラゴンと向き合うサーシャですが…。
今回の調査任務での主な目的は、聖地レイテルに住まうとされるエルダードラゴンと邂逅し、可能であれば対話を、それが無理なら最悪討伐してでも、近隣住民の命と生活をエルダードラゴンの脅威から守る事だ。
だが相手は、伝説の聖獣…Aランクの冒険者6人を瞬殺する程の力の持ち主だ。
これまで太一郎が戦ってきた魔物や盗賊たちとは、あまりにもレベルが違い過ぎる。相当な覚悟でもって任務に臨まなければならないだろう。
もし戦闘になった場合、いかに太一郎と言えども決して無傷では済まされない相手だ。
だからこそ真由だけでなく、サーシャまでもがヒーラー役として同行してくれたのは本当にありがたい。
聖地レイテルは、トメラ村のすぐ近くにある。
無理をすれば王都から日帰りで往復出来なくはない距離だが、それでも探索にかかる時間を考慮し、余裕をもってトメラ村に外泊させて貰う事になった。
だがサーシャが村長に事情を説明して交渉を持ち掛けた際、村長が血相を変えて
「聖地レイテルは神聖なる禁足地!!決して足を踏み入れる事は許されませぬ!!」
「ワシらの事を気遣って下さるのはありがたいが、どうか思いとどまって下され!!」
「もしワシらが聖竜様に焼き殺されるのであれば、それが天命だったという事ですじゃ!!」
などと猛反対されてしまったのだが。
それでも聖地レイテルに住まうエルダードラゴンが、実際にAランクの冒険者6人を蹂躙しているのだ。
それ程の強大な存在によって、このトメラ村が…いいや、このフォルトニカ王国全土がいつ被害に遭うか分からない以上、このまま放置しておく訳にはいかなかった。
また太一郎と真由にとっては、シリウスによって自分たちにかけられた『呪い』を解く鍵である、聖剣ティルフィング入手の絶好の機会でもある。
今この機会を逃してしまえば、また振り出しに戻ってしまう。どんな危険を冒してでも、無理をしてでも取りに行かなければならないのだ。
今の所は聖剣ティルフィングが聖地レイテルに安置されている事については、知っているのは太一郎と真由の2人だけのようだが。
そして村の人々から昼食をご馳走になった後。
休憩時間を挟み、いよいよ午後1時から聖地レイテルの調査任務が開始された。
太一郎とケイトを先頭に、後方に真由とサーシャがヒーラーとして控え、さらにその後方から一馬ら『ブラックロータス』が追従。
今回の任務で同行した兵士5名は、何かあった時の為の伝令役や後方支援として、トメラ村に待機する事になった。
午後6時までに戻らなければMIA(作戦行動中行方不明)と認定し、直ちに王都に帰還してクレアに報告するようにと、そうサーシャに命じられて。
「ここが聖地レイテルか…禁足地と呼ばれているだけあって、随分と美しい場所なんだな。」
周囲を警戒しながら、太一郎が感心したように感嘆の声を上げる。
聖地レイテルとは所謂ダンジョンや遺跡などではなく、向こうの世界でいう所の国家認定の国立公園みたいな物だろうか。
とても美しい木々と可憐な花々に囲まれた、何という美しい光景なのだろうか。
これらの美しい光景が人々からの干渉を一切受けないまま、自然のままの状態で残されているのだ。
ただ向こうの世界における国立公園と違う点は、この聖地レイテルがトメラ村の人々にとっては禁足地であり、伝説の聖獣であるエルダードラゴンがガーディアンとして住み着いているという点だ。
それさえ無ければ、ここはフォルトニカ王国騎士団によって整備、整地され、今頃は観光地として多くの人々で賑わっていただろうに。
「真由。周囲に…」
「いるよ。お兄ちゃん。」
『敵意感知【ホストセンサー】』でエルダードラゴンの気配を察知してくれ…そう太一郎が伝えるまでもなく、真由が真剣な表情で太一郎に危険を知らせたのだった。
「物凄く強大な力。私たちに憎悪の心を向けてる。物凄い速さで上空からこっちに飛んできてる。」
「間違いなくエルダードラゴンだな。他に敵は?」
「…いや、ちょっと待って。」
戸惑いの表情で、真由が太一郎に告げたのだった。
エルダードラゴンだけではない。真由が『敵意感知【ホストセンサー】』の『異能【スキル】』で察知した強大な力が、既にこの聖地レイテルの奥深くに存在していたのだ。
「私たちへの敵意は感じられないけど、他に強大な力を持った魔族の女の子が2人。」
「魔族の少女2人か。僕たちの他にも先客がいたんだな。」
「しかも何なのこの力…!?2人共、お兄ちゃんやサーシャにも匹敵するかもしれない…!!」
「落ち着け、真由。取り敢えずその2人の魔族の場所だけ教えてくれ。」
その2人の魔族の少女の事は気になるが、まだ自分たちの敵だと決まった訳では無い。
それよりも今は、今現在ブチ切れながら真っすぐにこちらに飛んできているという、エルダードラゴンへの対処が最優先だ。
取り敢えず場所だけ把握しておいて、対処は後回しにするとしよう。
「ここから1.5km先。真っすぐ北の方角。」
「1.5km先、北だな。了解した。」
方位磁石で方角を確認した太一郎だったのだが、その時だ。
「それよりもお兄ちゃん!!エルダードラゴンが、もうすぐ近くに!!」
「光の壁よ!!かの者たちを守る障壁となれ!!」
真由の警告よりも先にサーシャの精霊魔法によって、太一郎たちの周囲に光の壁が展開。
その瞬間、凄まじい威力の光のブレスが、上空から太一郎たちに襲い掛かったのだった。
あまりの威力に、サーシャによって生み出された光の壁に亀裂が走る。
「総員戦闘態勢を維持したまま待機!!ただし私の指示があるまでエルダードラゴンへの攻撃は厳禁とします!!いいですね!?」
「「「了解!!」」」
「けっ。」
サーシャからの命令に応じた太一郎、真由、ケイト。応じなかった一馬ら『ブラックロータス』。
隼丸の柄に右手を添え、いつでも『抜ける』ように警戒する太一郎。
そんな太一郎たちの眼前に、遂にエルダードラゴンが物凄い勢いで降り立ったのだった。
その巨体から太一郎たちを見下す伝説の聖獣の眼光が、情け容赦なく太一郎たちを射貫いている。
何という凄まじい『圧力』。太一郎もサーシャもケイトも、エルダードラゴンが内に秘めた凄まじい『力』を敏感に感じ取っていた。
曲がりなりにも、Aランクの冒険者6人を瞬殺したというだけの事はある。
いや、これは確かに情報屋が言っていたように、Sランクの冒険者たちでさえも正面から戦うのは避けるような相手だろう。
まともに戦えば、太一郎と言えども絶対に無傷では済まされない。
「薄汚い人間共が!!またしても性懲りもせず、この神聖なる台地を荒らしにやって来たのか!?」
高度な知能を有していると情報屋が言っていただけあって、人間の言葉も流暢に話せる様だ。
問題なのは、話し合いの余地があるのかどうか、という事なのだが…。
「お待ちくださいエルダードラゴン殿!!私はフォルトニカ王国王女・サーシャと申します!!今回は貴方と戦いに来たのではありません!!」
「フォルトニカ王国の王女が直々に訪れるとは!!私と争う気が無いと言うのであれば、一体何用で私の下に馳せ参じたというのか!?」
「私たちは貴方との対話の為に、この聖地レイテルに訪れました!!」
光の壁を解除してソードレイピアを鞘に収め、両手を広げ、敵意が無い事をエルダードラゴンに示すサーシャ。
そんなサーシャを守る為に、太一郎とケイトが彼女の前に出て盾となる。
「対話だと!?この神聖な台地を何度も土足で踏みにじるような薄汚い人間共と、今更何を対話しろと言うのか!?」
「此度のシャーロット王国の冒険者6名が、貴方によって壊滅させられた件については聞き及んでおります!!貴方にとっては自分の住処を勝手に荒らした賊を、正当防衛として始末したのと同義なのでしょう!?」
「然り!!この神聖なる大地を、薄汚い人間共が踏み荒らそうとしたからだ!!」
つまり、以前太一郎がサーシャに言っていたように、今回のエルダードラゴンの行動に善も悪も無いという事だ。
シャーロット王国の冒険者6人が自分の住処に不法侵入したから、正当防衛として叩きのめしたに過ぎない。ただそれだけの話なのだ。
読者の皆さんも想像してみて欲しい。もし皆さんの家に泥棒が入ったら、皆さんならどうするだろうか。
当然、不法侵入なのだから警察を呼ぶなり、追い払うなり、叩きのめすなりするだろう。
つまりは、そういう事なのだ。
ならば、もしかしたら、エルダードラゴンと話し合いの余地があるのかもしれない。
「エルダードラゴン殿!!この聖地レイテルは、我らフォルトニカ王国の領土内に位置しております!!」
「領土だと!?それは貴様ら人間共が勝手に取り決めた事であろう!?」
「それに関しては貴方の言う通りです!!ですが私たちの領土内に存在しているならば、国際法に則って私たちフォルトニカ王国の手で、聖地レイテルを禁足地として厳重に管理し、誰にも足を運ばせないように責任を持って…っ!?」
だが人間というのはエルダードラゴンが言うように、一体どこまで愚かで身勝手な連中ばかりなのか。
サーシャがこの国の人々の安全を守る為、これ以上エルダードラゴンの住処である聖地レイテルを踏み荒らさせない為、必死になって身体を張ってまで、エルダードラゴンと交渉をしているというのに。
それなのに何故、そんなサーシャの決死の覚悟を理解しようともせず、こんな馬鹿げた真似が平気で出来てしまうのか。
次の瞬間、サーシャの決死の想いなど知った事ではないと言わんばかりに、一馬ら『ブラックロータス』がとんでもない行動に出てしまったのだった。
「今だ!!やれ!!伸二!!」
「ヒャッハー!!『爆炎【エクスプロージョン】』!!」
『ブラックロータス』の少年から放たれた凄まじい威力の爆炎が、情け容赦なくエルダードラゴンの胴体に直撃したのだった。
まさかの出来事に、太一郎も真由もサーシャもケイトも驚きを隠せない。
「ぬおあっ!?」
派手な爆発音と共に、エルダードラゴンの身体が僅かに揺らぐ。
「おのれぇっ!!貴様らあああああああああああああああああああっ!!」
この程度の爆炎ではエルダードラゴンに大したダメージは与えられなかったようだが、それでも激怒させるには充分だった。
当然だろう。対話をしたいなどと言っておきながら、突然こんな騙し討ちのような真似をしでかしたのだから。
「なっ…!?貴方は一体何を…っ!?」
「ひゃははははははは!!せいぜいてめぇらで勝手に潰し合いなぁっ!!達也ぁっ!!」
「はっはっはーーーーー!!『空間転移【テレポート】』!!」
さらに畳みかけるように『ブラックロータス』の少年の『異能【スキル】』によって、太一郎、真由、『ブラックロータス』の姿が突然消え失せてしまったのだった。
後に残されたのはサーシャとケイト、そして突然の騙し討ちに激怒するエルダードラゴンの3人だけ。
「おのれ薄汚い人間共が!!対話をしに来たと言っておきながら、結局は私を騙し討ちにするのか!?」
「ち、違います!!私たちはそんな…!!」
「何が違うと言うのか!?やはり人間とは信用出来ない薄汚い生き物だ!!最早問答する価値さえも無い!!今ここで貴様らを私が始末し、然る後にあのガキ共も私が焼き殺してくれるわぁっ!!」
こうなってしまっては、最早エルダードラゴンとの対話など不可能だった。
猛烈な殺意を顕わにし、サーシャとケイトに襲い掛かるエルダードラゴン。
一体何故、こんな事になってしまったのか。
一馬たちは何故、このような馬鹿げた真似をしでかしてしまったのか。
「どうして…!?どうしてこんな事になってしまったのですか…!?私はただ…!!」
「どうしても何もあるか!?全ては貴様らが選んだ道であろうがぁっ!!」
放たれた光のブレスを、何とか光の壁で受け止めるサーシャ。
だがあまりの威力に、サーシャは完全に押されてしまっていたのだった。
「姫様、最早エルダードラゴンとの対話は不可能です!!不本意ですが近隣住民を守る為、我々2人で討伐するしかありません!!」
「そうですね。転移させられた太一郎さんと真由さんも気掛かりですし…っ!!」
光の壁が粉々になり、襲い掛かった光のブレスを横っ飛びで辛うじて避けたサーシャとケイト。
2人の後方で、派手な爆発音が響いたのだった。
何という凄まじい威力なのか。直撃すればサーシャもケイトも決して無事では済まないだろう。
「死ね!!薄汚い人間共がぁっ!!」
「…太一郎さん…真由さん…!!」
決死の覚悟でサーシャはソードレイピアを鞘から抜き、エルダードラゴンに斬りかかったのだった。
そしてサーシャとケイトから北に1km程離れた、聖地レイテルの広場。
太一郎も真由も『ブラックロータス』の少年たちも、そこに転移させられていた。
まさかの予想外の出来事に困惑する真由。このような状況下でも必死に頭をフル回転させて状況を把握し、冷静さを失わずに真由を守ろうとする太一郎。
そしてそんな2人を妖艶な笑みを浮かべながら取り囲む、一馬ら『ブラックロータス』の少年たち。
全員が武器を構え、猛烈な殺気を太一郎と真由に向けていたのだった。
「俺が一番恐れていたのはよ。てめぇと王女に連携される事だ。そんな事をされたら流石に勝ち目が無くなるからな。」
「これは一体どういうつもりなんだ。一馬。」
「どういうつもりって、てめぇら全員ここで皆殺しにする為に決まってんだろうが。」
太一郎にガンを飛ばしながら、狂喜乱舞の笑みを浮かべる一馬。
「まずはここでてめぇらを殺す。そして王女と竜を潰し合せて消耗させて、生き残った方を殺す。あの女騎士もついでに殺す。その後にシリウスも女王も俺様が殺してやんよ。」
「そんな事の為に君たちは、エルダードラゴンをわざと怒らせて、対話が不可能な状況に追い込んだとでもいうのか。」
「その通りよ!!そんでもって!!この俺様がフォルトニカ王国をシメる(支配する)!!これこそがこの俺様の完璧な計画よ!!」
サーシャがエルダードラゴンとの対話の最中に、わざとエルダードラゴンに攻撃を仕掛けて激怒させ、対話が不可能な状況に陥れた上で、サーシャとエルダードラゴンにガチの殺し合いをさせる。
そこへ太一郎と真由にサーシャとケイトの援護をさせない為に、『空間転移【テレポート】』の『異能【スキル】』で2人をサーシャとケイトから引き離した上で、10人がかりでリンチして殺す。
そしてサーシャとエルダードラゴンのどちらが生き残ったとしても、どちらも決して無傷では済まされないだろう。その隙を狙って生き残った方を一馬たちが殺す。ついでにケイトも殺す。
そうして邪魔者を全て殺した後、フォルトニカ王国に帰還して自分たちに『呪い』をかけたシリウスを殺し、さらにクレアも殺して自分が王となりフォルトニカ王国を支配する。
その為に、その為だけに…こんな下らない野心なんかの為に、一馬はサーシャの想いを踏みにじる行為を平気で行ったのだ。
「…一馬。君は自分が何をしでかしたのか本当に分かっているのか?サーシャがどれ程の覚悟でエルダードラゴンとの対話に臨んだと思っているんだ。それを君は…!!」
「そんなの俺の知ったこっちゃねえなぁ!!気に入らねえ奴らは全員ぶっ殺す!!ただそれだけの事だぁ!!」
殴りたいから殴る。
殺したいから殺す。
犯したいから犯す。
欲しくなったから奪う。
腹が減ったから食う。
眠いから寝る。
それを邪魔する奴らは全員ぶっ殺す。
一馬は向こうの世界でも、この異世界に転生させられてからも、ただそれだけを考えて生きてきたのだ。
それでどれだけ周囲に迷惑をかけようが、どれだけ多くの人々を傷つけようが、そんな物は一馬の知った事ではないのだ。
今回の一件にしても、太一郎たちを全員殺す絶好の機会だったから、エルダードラゴンを利用させて貰った。ただそれだけの話なのだ。
それで仮に激怒したエルダードラゴンによって、周辺地域の人々が何人犠牲になろうが、そんな物は一馬の知った事ではなかった。
「大体てめぇはよぉ!!シリウスに復讐するとか俺らに公言してやがったけどよ!!マジで復讐する気があんのかコラァ!?」
「それは…!!」
「そんなにシリウスが憎いってんならよぉ、とっとと奴をぶっ殺せば済む話だろうが!!それなのにてめぇはチマチマチマチマ、グダグダグダグダ、めんどくせー事ばかり言いやがってよぉ!!」
「だから一馬、今シリウスを殺してしまえば…!!」
「うるせぇっ!!てめぇは甘ぇんだよ!!気に入らねえ奴らは全員ぶっ殺す!!それでいいじゃねえかよぉっ!!」
『呪い』を掛けた術者であるシリウスを殺してしまえば、『呪い』が永久に解けなくなってしまう可能性がある。
それを太一郎は一馬に分かりやすく説明してやったというのに、一馬は全く理解していないようだ。いや、理解しようともしていないようだ。
「そもそもの話、折角この異世界で『異能【スキル】』っていう強大な力を手に入れたんだからよ…!!その力を存分に使わねえと勿体無ぇだろうがぁ!!」
「君はサーシャを殺すとか言ってたけど、模擬戦闘訓練でサーシャにあそこまでボコられた君が、サーシャを殺せると本気で思っているのか?」
「ふざけんな!!あの時は模擬戦だったから本気でやらなかっただけだ!!模擬戦で相手を叩き潰すまで本気でやる馬鹿がどこにいるってんだ!?」
ブーメラン。
「今回は模擬戦じゃねえ!!マジの殺し合いだぁ!!あの時の俺と同じだと思ったら大間違いだぞコラぁ!?」
「全く、今はこんな事をしている場合じゃないってのにな。」
呆れたように深く溜め息をついた後、太一郎が直立不動の姿勢のまま、鞘に収められた隼丸の柄に手を添えたのだった。
今、サーシャとケイトが戦っているのが、その辺の魔物や盗賊とかだったなら、太一郎も鼻クソをほじりながら、のんびりと一馬たちの相手をしていただろうが。
だが今はそんな悠長な事をしていられる場合ではない。何しろ相手は伝説の聖獣なのだ。サーシャやケイトと言えども苦戦は免れない相手だろう。
だから今すぐに一馬たちを叩きのめして無力化してから、一刻も早く2人と合流しなければならない。
聖剣ティルフィングや2人の魔族の少女の事は確かに気がかりだが、それよりも今はサーシャとケイトの救援に回る事が最優先だ。
仮にサーシャが聖剣ティルフィングを封印するとか言い出したなら、土下座して這いつくばってサーシャの靴をベロベロと舐め回してでも、少しの間だけでいいから使わせてくれと必死こいて懇願するとしよう。
守る為に戦う…向こうの世界で警察官だった頃も、この異世界に転生させられてからも、太一郎の信念は今も、これからもずっと不変なのだから。
「俺はなぁ、前々からてめぇらの事が気に入らねえって思ってたんだよ…!!ここなら誰にも邪魔されねえ!!存分にてめぇらをぶっ殺してやんよ!!」
「仕方が無い。サーシャとケイトが心配だ。とっとと君たちを叩きのめして、すぐに合流させてもらうぞ。」
「上等だぁ!!生きてここから帰れると思うなよコラァ!?」
サーシャ&ケイト VS エルダードラゴン
太一郎&真由 VS 『ブラックロータス』
一馬の下らない暴走によって引き起こされた、あまりにも無意味で、どこまでも愚かな戦いが、今ここに繰り広げられる羽目になってしまったのだった…。
次回はサーシャ&ケイト VS エルダードラゴン。
この壮絶な戦いの果てに待ち受ける物とは…。