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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第5章:悲劇
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第33話:酒場にて

今回から第5章開始です。物語は再びフォルトニカ王国へと舞台を移します。

酒場に訪れた太一郎と真由は、情報屋から遂に聖剣ティルフィングの安置場所の手がかりを掴みます。

そこには強大なガーディアンがいるとの事ですが…。


 仕事帰りの多くの人たちで賑わう、夜7時のフォルトニカ王国城下町の酒場。

 毎日この時間帯になると従業員が休憩を取るどころか、トイレに行く時間を作る事さえも大変になってしまう程の大盛況ぶりを見せている。

 給仕の女性たちが慌ただしく客に注文を聞きに行き、出来立ての料理や酒をテーブルに運び、厨房の男性スタッフたちが次々と入り込む注文に追われ、物凄い勢いで料理を作っている。


 これも太一郎と真由の活躍により、この国の景気と治安が良くなっている事による恩恵というか、嬉しい悲鳴と言うべきか。

 店長も人手が足りなくて困っている物だから従業員を随時募集しているものの、なまじ太一郎と真由のお陰で景気が良くなってしまったせいか、他の業種に人手を取られ、中々思うように集まってくれなかったりする。

 

 「きゃあっ!?」

 「おっとっと~。悪いな姉ちゃん。つい手が滑っちまったわ。わっはっはっはっは。」


 そしてこういう大繁盛し、様々な客が集まる店だからこそ、起きてしまう事件。

 柄の悪い筋肉質の大柄な男が『手が滑った』と主張しながら、テーブルに追加注文された酒と料理を運んできた給仕の少女の胸を、思い切りわし掴みにしたのだった。

 思わず少女は泣きそうな表情で男の手を振りほどき、身体を震わせながら自分の胸を両手で抑え込む。

 その様子を同じテーブルに座っていた他のガラの悪い男たちが、ニヤニヤしながら見つめていたのだが。


 「ちょ、ちょっと、お客さん!!」


 それを目撃した先輩の女性従業員が、慌てて少女の下に駆けつけてきたのだった。

 震える少女の肩を優しく抱き寄せながら、女性が男を睨みつける。


 「ここは風俗店ではありません!!従業員の身体への接触行為は止めて頂けませんか!?」

 「おいおい何だ文句あんのかよ。俺は『手が滑った』って言ってるだろうが。決してわざとじゃねえよ。」

 「手が滑ったって…!!そんな無茶苦茶な言い分が通じると、本当に思っているんですか!?」


 ガラの悪い大男に対しても決して怯む事無く、男を睨みつける女性。

 だがそんな女性の勇敢な姿勢に、男は露骨に不満そうな態度を見せたのだった。


 「おいおい俺は『手が滑った』っつってんだろうが!!わざとじゃねえっつってんだろうが!!それなのに何だてめぇはよ!?一方的に俺が悪いって決めつけてんじゃねえよ!!ああん!?」


 酒が入っている影響もあるのか、元々癇癪かんしゃく持ちの性格なのか、男は完全に頭に血が上ってしまっているようだ。

 無論、手が滑ったとか、わざとじゃないとか、そんな無茶苦茶な言い分が通じる訳がないのだが。

 そんな言い分が本当に通じてしまうのであれば、例えば公衆の面前で堂々と痴漢行為を働いたとしても、『手が滑ったなら仕方が無いな』で無罪放免にされてしまうだろう。

 まあ本当に故意ではなく事故による接触だったならば、物凄い勢いでジャンピング土下座をしながら誠意ある謝罪をすれば、済む話なのだが。


 周囲の客たちが大騒ぎになり、客の1人が店の外の通行人たちに、巡回中の兵士を呼んでくれと大声で頼み込み、それを聞きつけた通行人たちが慌てて兵士を呼びに行く。

 だがそこへ、物凄く絶妙なタイミングで姿を現したのは…。

 

 「ん?これは一体何の騒ぎなんだい?」

 「ああ、アンタらか!!本当に丁度いい所に来てくれたよ!!実はかくかくしかじかで、こういう事になってるんだよ!!」

 「分かったよ。知らせてくれて有難う。」


 完全に頭に血を登らせた男が女性の胸倉を掴み。あぁん!?とか言いながら女性を睨みつけている。

 同じテーブルの男たちもぎゃはははははは!!とか盛大に笑いながら、あまり虐めてやるなよ~、やり過ぎるなよ~、などと男をからかっている。

 女性は男の大柄な体格、鋭い眼光、威圧感に恐怖で震えながらも、それでも少女を守る為、決して怯む事無く男を厳しい表情で睨みつけていた。

 何よりもこんな所で自分が引いてしまったら、他の大勢の客にも迷惑を掛けてしまう事になりかねないからだ。


 「てめぇ、俺様を誰だと思ってんだ!?俺様は世界最強の拳法・暗黒流螳螂拳あんこくりゅうとうろうけんのガッデス様だぞ!?」

 「何が世界最強なもんか!!アンタなんか『閃光の救世主』の足元にも及ばないよ!!」

 「あぁ!?何が『閃光の救世主だ』!?あんなヒョロガリ、この俺様が叩きのめしてやるよ!!ぎゃっはっはっはっはっは!!」


 ガッデスの口の中から盛大に放たれる酒の匂いに、顔をしかめる女性だったのだが…その時だ。


 「そこまでだ。」

 「あぁ!?」


 そこへガッデスの前に姿を現したのは、たまたま用事があってこの店に訪れていた、太一郎と真由だった。

 2人の登場に店内の客たちも従業員たちも、誰もが希望に満ち溢れた表情になる。

 その希望を絶望に変えてやろうと…ガッデスがニヤニヤ笑いながら、そんな分不相応な事を考えていたのだった。


 「呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃーん。」

 「てめぇ、『閃光の救世主』か!?面白ぇ!!英雄呼ばわりされて調子に乗ってるようだけどよ!!今からてめぇに井の中の蛙って奴を思い知らせてやるよ!!」


 女性を突き放したガッデスが、両手の人差し指と中指を立て、まるでカマキリのような構えを取る。

 そんなガッデスを見つめながら、太一郎は呆れたように深く溜め息をついたのだが。


 「食らえぃ!!暗黒流螳螂拳奥義!!十字斬!!キィーーーーーー!!キィーーーーーー!!キィーーーーーーーーーーーーっ!!」

 「はいよ。」

 「ぎぃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 太一郎の流れるような体術によって、あっさりガッデスは床に叩きつけられ、拘束されてしまったのだった。

 暗黒流だか最強の拳法だか何だか知らないが、この程度の使い手が相手ならば隼丸を『抜く』までもない。

 

 「19時13分、痴漢の容疑、及び公務執行妨害、暴行未遂、器物損壊、迷惑防止条例違反の現行犯で逮捕な。」

 「ば…馬鹿な…っ!?」

 

 息1つ乱さず、それこそ普通に息をするのと同じように、物凄く簡単そうにガッデスを取り押さえてしまった太一郎の雄姿に、店内の客も従業員も、誰もがうおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!と大歓声を浴びせたのだった。

 唖然とした表情で尻もちを付いて座り込む少女と女性に、しゃがみ込んだ真由がとても穏やかな笑顔で呼びかける。


 「大丈夫ですか?どこか怪我をしている所はありませんか?」

 「わ、私は大丈夫です!!本当に有難う御座いました!!」

 「アタシも大丈夫だよ。しかし本当に強いんだね。アンタのお兄さん。」

 

 真由の手を借りて立ち上がった少女と女性が、目をうるうるさせながら真由を見つめている。

 やがて駆けつけてきた兵士たちによって、ガッデスたちは呆気無く連行されてしまったのだった。

 敬礼する兵士たちに、穏やかな笑顔で軽く手を振る太一郎。

  

 やがて騒ぎが一通り収まり平和になった店内に、元の喧騒が戻ってきた。

 そして真由と共にカウンターの席に座った太一郎に、先程ガッデスに因縁を付けられていた店員の女性が、穏やかな笑顔で注文を聞きにやってきたのだった。

 一時はどうなる事かと思ったが、太一郎と真由のお陰で本当に助かった。

 この2人がたまたま店に来てくれなかったら、今頃どうなっていたか…。

  

 「今日は本当にありがとう。お礼と言っては何だけど、今日は2人共ドリンク一杯半額にしてあげるよ。」

 「じゃあ僕はオレンジジュースで。真由はどうする?」

 「私はホットココアでお願いします。」

 「はいよ。オレンジジュースとホットココア、入りまーす!!」


 店員の女性が慌ただしく厨房に注文を届けに行った、その直後。

 黒ずくめの服を着た壮年の男が、ふうっ…と溜め息をつきながら、太一郎の隣の席に静かに座ったのだった。


 「よう、相変わらずの大活躍じゃねえか。」

 「早かったですね。」

 「5分前行動がモットーだからよ。」

 

 それだけ告げて、鞄から何やら大きな封筒を取り出し、太一郎に差し出した男。

 

 「お待たせしました!!オレンジジュースとホットココアです!!…って、いらっしゃいませっ!!」


 先程ガッデスに胸を触られていた少女が、笑顔で注文を届けにカウンターにやってきたのだが、いつの間にか太一郎の隣にいた男に慌てて挨拶をする。

 ついさっき、あんな騒ぎがあったばかりなのだから、怯えて仕事どころじゃなくなってもおかしくないだろうに。

 可憐な見た目に反して、随分と気丈な少女のようだ。

 

 「嬢ちゃん。仕事に復帰して本当に大丈夫なのかい?」

 「物凄く忙しくて、人手が全然足りていませんから。休んでなんかいられません。」

 「そうかい。その歳で大したもんだねえ。俺の娘にも見習わせてやりてえよ。」


 向こうの世界のニート共にも見習わせてやりたいなぁ…そんなしょーもない事を考えた太一郎なのであった。


 「ふふふっ、嬉しいです。ご注文は如何なさいますか?」

 「この店で一番強いのと…後は適当につまみを見繕ってくれや。」

 「はい!!承知しました!!ドワーフさえも酔い潰してぶっ殺す超ド急アルコール飲料、ドワーフクラッシャー白!!それとつまみAセット!!入りまーす!!」


 なんか物凄く物騒な商品名が聞こえたような気がしたが、まあ気にしないでおこう。

 渡された封筒に入っていた数枚の資料を取り出し、オレンジジュースを飲みながら、太一郎が静かに資料に目を通す。

 隣に座っている真由も、ホットココアを口に含みながら、神妙な表情で資料を覗き込んでいる。


 「…成程。聖地レイテルか。灯台下暗しとは、よく言ったものですよ。」

 「お待たせしました!!ドワーフさえも酔い潰してぶっ殺す超ド急アルコール飲料、ドワーフクラッシャー白です!!」

 

 なんか物凄く物騒な名前の酒が届けられたような気がするが、まあ気にしないでおこう。


 「おつまみの方は、もう少しだけお待ち下さいね!!只今厨房の男性スタッフが血反吐を吐きながら、命を削って作ってますので!!」

 「おう、ありがとな。嬢ちゃん。」


 給仕の少女が去った後、ぐいっ、と、白濁の液体が入ったグラスを口に含んで傾ける男。

 そして一口飲み干した後、バン!!とグラスを盛大にカウンターに叩きつけたのだった。


 「くうううううううううう!!効くぜえええええええええええええ!!」

 「それ、本当に飲んでも大丈夫な奴なんですか(汗)?」

 「なら、兄ちゃんもやってみるかい?意外といけるぞ?」

 「遠慮しておきますよ。お酒は全く飲めないんで。」


 何しろ太一郎は向こうの世界で、ビールを一杯飲んだだけで病院に救急搬送されて、真由と瑠璃亜を物凄く心配させてしまった経験があるのだ。

 こんな物騒な物を飲んだら、それこそ冗談抜きで即死してしまいそうな気がする…。

 

 「そうかい。酒が飲めないなんざ、人生の半分を損してるようなもんだけどな。」

 「そんな事より、探し出してくれて本当に感謝しています。助かりましたよ。」


 そう静かに告げた太一郎が、懐から小さな子袋を取り出して男に差し出した。

 男は袋の中身を確認し、満足そうな表情で頷いて鞄の中にしまう。


 「確かに。代金は全額頂いたよ。」

 「しかし、まさか本当に見つけてくれるとは…僕も真由も正直言って半信半疑だったんですけどね。」

 「おうおう、プロの情報屋を舐めじゃねえぞコラぁ。」


 ドヤ顔の男に、給仕の少女が笑顔でつまみを男に差し出したのだった。


 「お待たせしました!!つまみAセットです!!ご注文は以上でよろしかったですか!?」

 「おうよ。」

 「有難う御座います!!ゆっくりしていって下さいね!!」


 給仕の少女が去った後、色とりどりの軽食が置かれた皿からフライドポテトを取り出し、ポリポリと美味そうに口にする男。

 そう言えば給仕の少女は、厨房の男性スタッフが血反吐を吐きながら、命を削ってつまみを作っているなどと言っていたのだが。

 つまみと一緒に添えられたケチャップの小皿を見て、思わず太一郎は顔をしかめてしまったのだった…。


 「それだけじゃないですよ。場所さえ分かればそれでいいと思っていたんですが、まさか聖地レイテルの詳細な地図まで提供してくれるとは…。」

 「これでも俺はこの国の諜報部で働いてた経験があるからな。今は独立して、こうして自分の店を立ち上げたんだけどよ。どんな情報だろうと依頼されれば掴んでやんよ。」


 一通り資料に目を通した太一郎が、とても満足そうな表情で封筒の中に資料を入れ、鞄の中に大事そうにしまう。


 「それこそ、姫様のスリーサイズとか、ケイトちゃんの彼氏の浮気現場とか、依頼されれば何でも…。」

 「止めて下さいよ。サーシャとケイトに殺されますから。」


 プライパシーも何もあった物では無かった…。


 「まあ、冗談は置いといて…だ。」


 突然真剣な表情になった男が、グラスの中の白濁の液体を口に含み、ふうっ…と深く溜め息をつく。

 

 「…兄ちゃん。聖剣ティルフィングなんざ手に入れて、一体どうしようってんだ?」


 男の質問に、太一郎はオレンジジュースを静かに口に含みながら、神妙な表情になったのだった。

 以前サーシャが語っていたように、聖剣ティルフィングとは先代の転生者だった明日香が使っていた、世界中に点在している伝説の武器の1つだ。

 中にはサザーランド王国が所有する聖斧デュランダルのように、国家レベルの資産として厳重に扱われているような例もある。

 サーシャが言うには、これらの伝説の武器の所有権を巡り、かつて国同士の戦争にまで発展してしまったケースまで幾つかあるらしい。


 例えば、とある魔術師の女性冒険者が、遺跡から伝説の槍を発掘して城下町に持ち帰ったのだが、自分には槍なんてとても扱えないからと、国に献上して報奨金を貰おうと考えた。

 ところが、それを嗅ぎ付けた各国の上層部が一斉に駆けつけて、槍の所有権を巡って言い争いになり、遂には何人もの犠牲者を出す戦争にまでなってしまったのだと。

 それ程までに、その槍に秘められた力が絶大だったという事なのだろうが…本当に人間というのは、どこまで欲深くて愚かな生き物なのだろうか。


 他にも太一郎が存在を把握しているのは、今の所は以下の3つだ。

 

 魔剣ヴァジュラ。

 星杖セイファート。

 神刀アマツカゼ。


 いずれも図書館に置かれていた本に伝説として情報が残されていて、さらに調べてみると今でも多くの国々が我が物にしようと、血眼になって捜索しているらしいのだが…未だに手がかりすら見つかっていない状況らしい。


 それだけの物騒な代物であるにも関わらず、どうしても手に入れる必要が出て来たから、どうにかして情報を貰えないかと…以前太一郎が頼み込んで来た時には、正直言って男はドン引きしてしまった物だ。

 まあ仕事として依頼された以上、こうしてプロとしてしっかりと役目を果たして来た訳だが。

 かつて須藤明日香が使っていて、それを賢者シルフィーゼが持ち帰ったのかもしれない。

 これらの明確なキーワードを太一郎が事前に提示してくれたお陰で、探す事自体はそんなに苦労はしなかったのだが…。


 「…なあ、兄ちゃん。アンタが一体何を抱えていて、何で聖剣ティルフィングを欲しがってるのかは知らないけどよ。」


 バツが悪そうな表情で、情報屋は太一郎に警告したのだった。


 「アンタらに情報を売った俺がこんな事を言うのは何だが…悪い事は言わねえ。マジでそいつだけは止めておきな。」

 「聖地レイテルを守護するガーディアン…エルダードラゴンの事を言っているんですね?」

 「そうだ。幾ら兄ちゃんでも殺されるぞ。何しろ相手は伝説の聖獣だ。Sランクの冒険者でさえも、まともに戦うのは避ける程の強大な存在だぞ。」


 男とて、太一郎の強さはよく知っている。

 フォルトニカ王国軍の精鋭部隊である近衛騎士でさえも太刀打ち出来ない程の強さを誇る、あの暗黒流蛇咬鞭あんこくりゅうじゃこうべんのバルゾムさえも、息1つ乱す事無く叩きのめしてしまった。

 これだけでも相当な物だが、この3か月間もの間に太一郎は数多くの魔物や盗賊たちを打ち倒し、まさしくこの国の「英雄」と呼ぶに相応しい程の戦いぶりを見せつけてきたのだ。

 

 間違いなく太一郎はこの国において…いいや、それどころか世界全土を見渡してもトップクラスの実力者だろう。

 その太一郎の強さを知ってもなお、男は太一郎に警告したのだ。

 太一郎でさえも、エルダードラゴンが相手では殺されるかもしれない…と。


 「忠告は有難く受け取っておきますよ。だけど、それでも僕たちは命を賭けてでも手に入れなければならないんです。聖剣ティルフィングをね。」

 「そうか。まあ、これ以上はアンタらのプライベートの領域だ。俺はこれ以上深入りするつもりはねえけどよ…。」

 「それに、何もエルダードラゴンと戦わなければならないと決まった訳では無いですから。相手は高い知能を持つ伝説の聖獣なんですよね?」

 「だから話し合いに持ち込めたら…か?そう甘くはねえと思うんだけどな。」


 そんな物は、それこそ希望的観測に過ぎないだろう。

 相手は長年に渡って聖地レイテルを守り続けているガーディアンだ。聖地を踏み荒らしたとして太一郎と真由に敵意を向けたとしても、決しておかしくはない。

 だがそれでも、太一郎と真由は行かなければならないのだ。

 シリウスにかけられた『呪い』を解く為に。本当の意味でこの世界において、自由の身となる為に。


 そして自分たち転生者を理不尽に苦しめたシリウスに対して、復讐を果たす為に。


 「だが兄ちゃんよ。これだけは言わせてくれや…絶対に死ぬんじゃねえぞ。アンタは今じゃ俺たちの…いいや、この国の『希望』なんだからよ。」

 「ええ、それは重々承知していますよ。それに僕たちだって、こんな所で死にたくはないですからね。」

 「それを聞けただけで安心だ。」


 死ぬ覚悟だとか、命を捨ててでもとか、そういう言葉が太一郎の口から出なかったので、男は正直ホッとしたのだった。

 少なくとも太一郎も真由も、命を捨ててまで聖剣ティルフィングを欲している訳では無い。

 事情はよく知らないが、『生きる為に』聖剣ティルフィングを手に入れようとしているのだ。


 「さてと、それじゃあ僕たちはこれで失礼します。貴方がくれた情報を元にして、聖剣ティルフィング入手の為の計画を立てないといけませんからね。」

 「そうか。月並みな言葉だが、精々頑張ってくれよ。」

 「はい。それでは。」


 清算を済ませた太一郎と真由が店を出て、すっかり陽が沈んでしまった城下町を歩いていく。

 いよいよだ。待ち望んでいたこの時が、遂に訪れたのだ。

 これで100億%『呪い』を解除出来ると決まった訳では無いのだが、それでも『呪い』を解く強力な手段に成り得るかもしれない聖剣ティルフィングの安置場所を、太一郎と真由は遂に見つけ出したのだ。


 聖地レイテルは、かつて太一郎と真由が訪れたトメラ村から、そんなに遠く離れていない場所にある。本当に灯台下暗しという奴だ。

 フォルトニカ王国の城下町からだと日帰りで行けない事はないが、聖地レイテルを探索する時間を考えると、余裕を持ってトメラ村で外泊させて貰う事も検討しなければならない。

 だがそれもサーシャに外泊許可を貰って、今度の連休にでも行けば済むだけの話だ。


 聖剣ティルフィングが安置されている、聖地レイテル。いよいよ太一郎と真由は、そこに足を踏み入れる事となる。

 だがそこで待ち受ける事になる悲劇を、この時の太一郎も真由も、知る由も無かったのであった…。

次回は物凄く久しぶりに一馬たちが登場します。


太一郎がサーシャに外泊許可を貰うまでもなく、転生者たちで聖地レイテルの調査部隊を編成する事になったフォルトニカ王国騎士団。

指揮官としてサーシャが同行する事になったのですが、それに不満を爆発させた一馬に対して、サーシャが模擬戦闘訓練をしようと言い出して…。

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