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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第4章:魔王カーミラ
33/112

第32話:新たなる船出

今回で第4章完結です。

前半、描写としてはキス程度ですが、ちょっとだけレズ濡れ場シーンがあります。

新たな国王に就任したラインハルトが、国民たちに対して演説を行うのですが…。


物凄く久しぶりに太一郎が登場です。

 その後、もうすぐ日が暮れるという事で、魔王カーミラたちはラインハルトの計らいで、城の来賓室で一泊する事になった。

 食堂で4人で仲良く夕食を済ませた後、個別に割り振られた1人部屋でのんびりとくつろぎ、今日一日の疲れをゆっくりと癒す魔王カーミラたち。


 だが、もうすっかり夜遅くになった頃…風呂から上がった魔王カーミラが、パジャマ姿でふかふかのベッドの上に寝転がりながら、部屋に置かれていた本に興味深そうに目を通していた、その時だ。

 コンコンコンと、部屋をノックする音が聞こえたので、魔王カーミラが本をかたわらに置いて起き上がったのだが。


 「は~い。入っていいわよ?」

 「カーミラ様。失礼致します。」


 扉を開けて部屋に入って来たのは、色っぽいネグリジェ姿の若い女性だった。

 ベッドの上に座る魔王カーミラの前に静かに歩み寄り、礼儀正しく正座して頭を下げる女性。


 「今宵のカーミラ様の夜伽の相手を務めさせて頂く事になりました、レズ風俗『ワルキューレ』から参上致しましたティファニーと申します。どうかお見知りおきを。」

 「夜伽って…ラインハルト君からは何も聞いていないわよ?」

 「仰います通り、国王陛下からの御依頼では御座いません。」

 「でしょうね。まあ本当にラインハルト君からの依頼だったなら、それはそれで面白いんだけど。ふふふっ。」


 苦笑いしてしまった魔王カーミラの顔を、ティファニーがじっ…と表情1つ変えずに見据えている。

 だが一体、彼女は誰に依頼されてここに来たのだろうか…。思わず思案にふけってしまった魔王カーミラだったのだが。

 

 「此度の会議における、カーミラ様に対する無礼な態度へのお詫びとして、私にカーミラ様の夜伽の相手をし、身も心も癒して差し上げろと。」

 「そうなの。それにしても、この世界にもレズ風俗なんてあったのね。私も向こうの世界で夫と結婚する前に、何回か利用させて貰った経験があるんだけど。」

 「店の決まりとしての守秘義務が御座います故、依頼人の名前は申し上げられませんが、とある方からの依頼を受けてここまで馳せ参じた次第で御座います。代金の方はもう既に全額頂いておりますので、ご安心下さいませ。」

 「まあいいわ。なら、こっちにいらっしゃいな。」

 「は。」


 まあ折角の機会だから楽しませてもらう事にしようと…魔王カーミラは優しく両手を広げ、ティファニーを迎え入れたのだった。

 とても優しい笑顔で魔王カーミラに促されたティファニーが静かにベッドの上に乗り、魔王カーミラの首を両腕でぎゅっと優しく抱き締める。

 至近距離で見つめ合う魔王カーミラとティファニー。そして…。


 「ではカーミラ様、失礼致しますね。」

 「ええ。」

 「んっ…。」


 ティファニーは、魔王カーミラと優しく唇を重ねた。

 とても柔らかくて気持ちいい、男性とのキスでは決して味わえない、女性同士特有のティファニーとの夢心地のキスの感触を、静かに目を閉じながら存分に堪能する魔王カーミラだったのだが。


 「…んっ…ちゅっ…んっ…。」

 「ちゅっ…ちゅっ…。」

 「…そ…そんな馬鹿な!?貴様、何故平気なのだ!?何故死なない!?」

 「何故って、今日の会議の時に貴族たちに忠告したはずよ?毒なんかじゃ私を殺せないわよって(笑)。」


 ティファニーを優しく抱き寄せながら、とってもにこやかな笑顔でそう告げる魔王カーミラ。

 先程とは一転した驚愕の表情で、慌てて魔王カーミラを振りほどいたティファニーが、懐に隠し持っていたナイフで魔王カーミラに斬りかかったのだが…あまりにも無駄な抵抗に過ぎなかった。


 「ば、化け物がぁっ!!死ね…っ!?」

 「えいっ(笑)。」

 「はぁ…っ…。」


 ちょん、と魔王カーミラがティファニーの額に優しく右手人差し指を当てた途端、ティファニーは力が抜けたかのように魔王カーミラの身体にしなだれかかり、力強く握り締めていたナイフを力無く手放してしまう。

 カラカラと乾いた音を立てて、ナイフが床へと転がり落ちる。

 そして魔王カーミラがティファニーの顔を豊満な胸にうずめ、優しく両腕で抱き寄せながら、とても優しく耳元で囁いたのだった。

 

 「貴女の唇に塗られた毒、それに今のナイフ捌き…貴方はレズ風俗のコンパニオンなんかじゃなく、プロの暗殺者ね?」

 「…はい…私はこの国の冒険者ギルドに所属する、Aランクの冒険者です…。忍者としての技能を心得ております…。」

 「だから暗殺の技術もここまで手練れているのね。それで?誰の命令で私を殺そうとしたの?」

 「はい…シェスター様から…カーミラ様を殺すよう命じられました…。」


 とても気持ちよさそうな、夢でも見ているかのような幸せそうな表情で、魔王カーミラにされるがままになっているティファニー。

 そんなティファニーを特に傷つけようとせず、とても優しい笑顔で、魔王カーミラはティファニーの頭を優しく撫で続けている。


 「安心しなさい。貴女をどうこうするつもりは無いわ。あの時に言ったものね。私の命を狙いたいなら好きにしなさいって。だけど、そう簡単には殺されてあげないわよって。」

 「はい…。」

 「だけど、もし私の命を狙う過程で、他の何の関係も無い第三者まで苦しめるような真似をしたら、絶対に許さないと…私は確かに貴族たちにそう告げたはずよ。」

 「はい…。」

 「正直に答えてくれる?貴女は依頼人に脅されたの?大切な人を人質に取られたとか?私を殺さなければ貴女の大切な人を殺すとでも迫られた?」


 すっかり安心し切った表情のティファニーは、魔王カーミラの豊満な胸に顔をうずめながら、とても馬鹿正直に答えたのだった。


 「いいえ…単に依頼を受けて、カーミラ様の命を狙っただけです…。」

 「そう、分かったわ。なら貴女の依頼人は殺さないでおいてあげる。」

 「はい…。」


 これがもしティファニーが家族や友人、恋人を人質に取られて、止むを得ず魔王カーミラの命を狙いに来たというのであれば、魔王カーミラは情け容赦なく依頼人の貴族を殺すつもりだった。

 だが単にティファニーが冒険者として貴族からの正式な依頼を受け、仕事として魔王カーミラの命を狙っただけだという事が分かった以上は、魔王カーミラもこの件に関しては手打ちにする事にしたのだ。


 あの時に言ったはずだからだ。自分の命を狙うのは別に構わないが、それで他の無関係の第三者を巻き込む事だけは絶対に許さないと。

 そしてこの件に関してはラインハルトやセレーネにも伝えてあるし、ちゃんと了承も得ている事だ。


 「ああそうそう、これは物凄く重要な質問なんだけど、今の貴女に夫や恋人はいる?貴女が今、想いを抱いている人は?」

 「いいえ、いません…独り身です…。」

 「そう、なら問題無いわね。折角来てくれたんだから、今夜は2人で楽しみましょう?」

 「はい…。」

 

 ティファニーを優しくベッドに寝かせ、優しく唇を重ねる魔王カーミラ。

 互いの身体をいたわるように優しく抱き締め合い、幸せそうな表情で身を絡め合う2人を、月の光が優しく包み込んでいたのだった…。

 

 そして、翌日の朝9時。

 新たな国王となったラインハルトの就任式が、今まさに城の大広間で開かれようとしていた。

 大広間には多くの国民たちが集まり、ラインハルトの演説が始まるのを今か今かと待ち続けている。

 国民の誰もが待ち望んでいたのだ。ラインハルトがチェスターの代わりに国王になってくれる、その時を。


 「な、なあ、カーミラ殿…。」

 「何かしら?ラインハルト君。」

 「その、何だ…やけに貴女の肌がツヤツヤしているような気がするのだが…私の気のせいか?」

 

 ラインハルトが戸惑いの表情で、物凄く充実した笑顔を見せている魔王カーミラの顔を見つめていたのだが。

 何と言うか、昨日の夜に就寝用の個室を案内して別れた時と比べて、魔王カーミラが随分と若返ったというか…やけに生き生きとしていたのが気になったのだ。

 あれから一体、何があったんだろう…戸惑いを隠せないラインハルトだったのだが。


 「ええ、あれから美味しく頂いたから(笑)。」

 「美味しく頂いたって何を(汗)!?」

 「そ・ん・な・こ・と・よ・り!!…もう時間よ?」

 「どあああああああああああああああああっ!?」


 ポンッ、と、魔王カーミラがラインハルトの背中を優しく押し、ラインハルトを壇上へと押し出したのだった。

 押し出されたラインハルトの眼下に映ったのは、希望に満ちた表情で自分の事を見上げる国民たちの姿。

 壇上に姿を現わしたラインハルトに、国民たちがうおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!と盛大な大歓声を浴びせる。

 国民の誰もが、ラインハルトの一挙一動に注目していた。

 

 「ほらラインハルト君。国民の皆に挨拶してあげなさい。折角来てくれたんだから。お客さんを待たせるなんて10年早いわよ?」

 「ま、全く、貴女と言う人は…。優しいのか強引なのか…。」


 苦笑いしながらラインハルトは拡声器のタリスマンを手に、眼下の国民たちを見下ろしながら…ふうっ、と深く息をついた後…声高々と挨拶したのだった。


 「皆!!今日は私なんかの為にこんなにも沢山集まってくれて、本当に有難う!!」


 うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!と、国民の誰もが盛大な歓声を浴びせる。

 そしてラインハルトが軽く右手を上げると、まるで訓練されたかのように、国民たちが一斉に声援を止めてラインハルトに傾注したのだった。

 これだけでもラインハルトが、国民たちに相当慕われているという事が分かるだろう。


 「既に皆も知っていると思うが、陛下は此度の戦で戦死なされ、私が新たな国王に就任する事になった!!私は政治に関しては全くの素人なので、正直言って不安を感じているのだが、それでも私なりに勉強して精一杯やらせて貰うつもりだ!!」


 国民に対する演説の中で、ラインハルトは全てを語った。

 チェスターがセレーネに託した親書に爆裂魔法が仕込まれていて、セレーネごと魔王カーミラを殺そうとした事。

 チェスターがパンデモニウムで、多数の無抵抗の民間人まで虐殺したという事。

 それに激怒した魔王カーミラとの壮絶な一騎打ちの果てに、チェスターは戦死した事。


 後に両国との間で執り行われた戦後会議の結果、魔王カーミラからこの国の国王になるよう要請された事。

 そして国民の誰もが望んでいて、しかも他に適任者がいないという理由から、ラインハルトがそれを受諾したという事。


 ラインハルトの口から事の真相を知らされた国民の誰もが、戸惑いの表情で演説に耳を傾けていた。

 当然だろう。チェスターが戦死した事は既に報じられていたのだが、その詳細に関しては未だに国民たちに知らされてはいなかったからだ。

 これではむしろサザーランド王国は悪質な加害者…パンデモニウムの魔族たちは、どこからどう見ても完全に被害者ではないか。


 「そして先日の夕方の戦後会議において、私はカーミラ殿との間に不可侵条約を締結した!!これで我々との間で悲しい戦争が引き起こされる事は、もう無くなったのだ!!」


 ラインハルトの演説が力を帯びる。国民の誰もがラインハルトの言葉に真剣に耳を傾けている。

 

 「陛下は…いいや、チェスターは、パンデモニウムの魔族たちに対して取返しの付かない事をしてしまった!!だがそれでもカーミラ殿は私を信じて下さったのだ!!私ならばこの国を良き方向へと導いてくれると!!」


 名指しされた魔王カーミラが腕組みをしながら、とても優しい瞳でラインハルトの演説を見つめていたのだった。

 ラインハルトの演説が、さらに熱を帯びる。

 セレーネも、イリヤも、アリスも、エキドナも、とても真剣な表情でラインハルトの演説に耳を傾けている。

 そして…。


 「私は若輩者故、色々と皆に迷惑をかけてしまう事があるかもしれない!!だがそれでも皆!!私が挫けそうになった時、どうか私を助けて欲しい!!どうか私を支えて欲しい!!私が道を誤った時は、どうか私を正しい方向へと導いてくれ!!頼んだぞ!!」


 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 国民の盛大な歓声を背に、ラインハルトは威風堂々と壇上を去る。

 そして演説を追えて、すっかり緊張の糸が切れてしまったラインハルトは、出迎えた魔王カーミラたちの目の前で、盛大に溜め息をついてしまった。 


 「お疲れ様。見事な演説だったわよ?」

 「こんな情けない私でも、この国の国王として相応しいと言えるのかな?」

 「この歓声が答えなんじゃないの?」


 苦笑いするラインハルトにそう答えた魔王カーミラは、とても穏やかな笑顔でラインハルトを見つめていたのだった。


 かくして愚かな欲望に取り憑かれたチェスターによって引き起こされた、今回のサザーランド王国とパンデモニウムとの戦争は、サザーランド王国の敗北、そして両者との間に不可侵条約が結ばれるという形で決着した。

 国王のチェスターは、魔王カーミラとの壮絶な一騎打ちの果てに戦死。

 その後の両国との間で執り行われた戦後会議の結果、魔王カーミラからの要請によりラインハルトが新たな国王となり、サザーランド王国は新しい一歩を踏み出す事となった。


 またラインハルトが国王になった事で、ラインハルトの副官だったセレーネは彼の秘書兼護衛役として、ラインハルトを支えていく事になる。

 後にセレーネがラインハルトと相思相愛となり、結婚して王妃となり子宝にも恵まれる事になるのは、そう遠くない未来の話である。

 国民たちの誰もが熱狂し、ラインハルトが国王になった事で、国全体がお祭り騒ぎになってしまっている。

 ラインハルトならば、この国をフォルトニカ王国にも決して負けない、素晴らしい国へと発展させてくれるだろう…。


 だが運命の神様という物がこの世界に存在するのであれば、一体どこまで残酷で意地汚いのだろうか。

 そして人間というのは、一体どこまで醜く、そして欲深い生き物だというのだろう。


 確かにラインハルトは魔王カーミラとの間に不可侵条約を結び、これによりサザーランド王国とパンデモニウムとの間で悲しい戦争が起こる事は無くなった。

 だがそれでもチェスターと同じように、魔族たちが密かに転生術を実用化している事を突き止めた他国の王たちが、何とかして転生術を我が物にしようと、虎視眈々とパンデモニウムへの侵略を企てているのだ。

 

 「魔王カーミラという強大な存在を生み出してしまった転生術…この世界の秩序を維持する為、当然我らシャーロット王国が厳重に管理、運用せねばならぬな。」


 「あんな強大な力を薄汚い魔族たちに使わせるなんて、そんなの危険過ぎますよ。凶暴な猛獣には鎖をつけてやらないと、いつ暴れるか分かったもんじゃないですからねえ。この世界の平和の為、我らテレスティア王国が彼らを押さえつけてあげないと。」


 「ぐわっはっはっはっはっは!!魔王カーミラがなんぼのもんじゃい!!転生術はワシらバルガノン王国が頂く!!」


 「ふん、チェスターが死んだのか!!だが奴など所詮は井の中の蛙に過ぎぬ!!この暗黒流鳳凰剣のベルド様が、魔王カーミラ如き討ち取ってくれるわ!!そして転生術は我らギャレット王国の物となるのだ!!」


 彼らの誰もが口を揃えて言う。魔王カーミラは危険だと。魔族たちは滅ぼさなければならない存在だと。

 それは魔王カーミラが、100億%チェスターの自業自得で情状酌量の余地が全く無く、殺されて当然の事をしでかしたとはいえ、命乞いをするチェスターを殺してしまったから。

 それを口実に「国際法違反だ」などと小賢しい建前を並べ、パンデモニウムへの武力介入の準備を着々と進めようとしているのだ。


 当然彼らの矛先は、パンデモニウムと不可侵条約を結んだサザーランド王国に…国王であるラインハルトにも向けられる事となる。

 パンデモニウムと締結した不可侵条約を直ちに破棄し、我らに協力せよと。

 人間でありながら、薄汚い魔族と友好関係を結ぶとは何事かと。

 周辺各国から、毎日のように厳しい圧力をかけられ続ける事になるラインハルト。

 転生術を巡り、周辺各国とパンデモニウムとの間に緊張が走る中…ラインハルトが下した決断とは…。


 そして物語の舞台は、再びフォルトニカ王国へと舞い戻る。

 チェスター戦死、ラインハルトの新国王就任…その一報はフォルトニカ王国の人々にも物凄い勢いで広がっていき、朝っぱらからとんでもない大騒ぎへと発展していた。

 そんな中、鼻歌を交えているサーシャが朝食を作り終わるのを待っている間、じっくりと新聞記事に目を通す太一郎。

 新聞の一面と社会面には、チェスター戦死、ラインハルトの新国王就任の記事がでかでかと掲載されている。


 いつの間にか太一郎と真由の毎日の食事は、何故かサーシャが作ってくれる事になってしまっていた。

 とても楽しそうな笑顔で、まな板の上のレタスを包丁で手際良くザクザクと斬るサーシャ。

 

 「魔王カーミラが遂に動き出したのか…。だが専守防衛、サザーランド王国との不可侵条約…彼女は一体どういうつもりなんだろう…?」


 太一郎はチェスターやラインハルトとは全く面識が無いので、彼らがどれだけの実力者なのかは全然分からない。

 それでも記事を見た限りでは、2人共相当な使い手である事は間違いは無さそうだ。

 それなのに、そんな2人でさえも打ち負かす程の力を持っていながら、一向に他国に侵略する素振りを見せず、専守防衛の意思を貫く魔王カーミラ。

 挙句の果てに戦争で打ち負かした、しかも民間人の魔族を大量虐殺するという愚行を犯したサザーランド王国に対して、占領や報復行為などを一切しないばかりか、ラインハルトを新国王に就任させ友好関係を結ぶとは。


 余程の平和主義者なのか…それとも他国に侵略出来ない事情が何かあるのだろうか。

 太一郎ら転生者たちがシリウスの手によってフォルトニカ王国に召喚させられたのは、魔王カーミラを倒してフォルトニカ王国の人々を守る為だ。

 だが魔王カーミラはシリウスが言っていたように、果たして本当に倒さなければならない存在なのだろうか…?

 むしろ戦って倒すのではなく、ラインハルトのように話し合いに持ち込むべき相手ではないのだろうか…?

 

 「魔王カーミラ…彼女は一体何者なんだろう…。」

 「お待たせしました。朝御飯が出来ましたよ~。」

 「ああ、ありがとう。サーシャ。」


 サーシャが作ってくれたベーコンエッグマフィンとホットコーヒーの香ばしい香り、そしていろどり溢れたオムレツとサラダが、太一郎の食欲を容赦なく引き出してくる。

 エプロンを外したサーシャがクレアの隣の席に座り、太一郎や真由と向かい合う形になった。


 「さあ、冷めない内に頂きましょう。」

 「うん。頂きま~す。」


 まあ今はそんな事よりも、サーシャが作ってくれた目の前の朝食を平らげるのが先だ。

 サザーランド王国の一件は確かに気になるが、それでもフォルトニカ王国が直接的な被害を受けている訳では無いのだから。

 新聞を丁寧に畳んで傍らに置いた太一郎が、出来立て熱々のマフィンに手を伸ばす。

 相変わらずサーシャの料理の腕は見事な物だ。店に出しても通用するんじゃないかと、毎日サーシャの料理を食べる度に、心の底からそう思えてくる。


 盛大に両手で掴んでかぶりつきながら、マフィンを美味しそうに食べる太一郎を、サーシャがとても嬉しそうな笑顔で見つめていたのだった…。

次回から第5章開始。物語は再びフォルトニカ王国へと舞台を移します。

『呪い』を解く鍵となる聖剣ティルフィングの情報を、遂に掴んだ太一郎と真由なのですが…。

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