第31話:波乱の戦後会議
久しぶりのラインハルト登場です。
魔王カーミラによって営倉室から釈放されたラインハルト。
この国の今後の在り方について話がしたいと申し出た魔王カーミラですが、当然貴族たちが黙ってはおらず…。
ラインハルトが牢屋に入れられてから、既に3日が経っていた。
顔から無精髭を生やしたラインハルトが、神妙な表情で椅子に座ったまま考え事をしている。
あれから一体どうなったのか。自分が営倉入りになってから、パンデモニウムとの戦争の状況はどうなったのか。
城の使用人の女性が定期的に食事を提供してくるものの、彼女は戦争の件に関しては本当に何も知らないようで、目ぼしい情報は何も入ってこない。
自分がいない間に、チェスターが暴走でもしていなければいいのだが…そんな心配をしていたラインハルトだったのだが。
「開けなさい。」
「はっ!!」
聞き覚えのある女性の声が聞こえたと同時に、兵士が牢屋の扉の鍵を解除したのだった。
予想外の人物の声に、ラインハルトが驚愕の声を上げる。
「なっ…!?」
「出なさい、ラインハルト君。釈放よ。」
「貴女はまさか、カーミラ殿か!?何故貴女がここにいるのだ!?」
ラインハルトの目の前にいたのは、とても穏やかな笑顔を見せている魔王カーミラだった。
チェスターとの戦いで破損した仮面を外していたので、ラインハルトは一瞬彼女が誰なのか分からなかったのだが…すぐに雰囲気から魔王カーミラだと察したのだった。
そして彼女の傍らにはイリヤ、アリス、エキドナ…そしてセレーネの姿も。
「ラインハルト様ぁっ!!」
感極まった表情でラインハルトに駆け寄り、抱き着いたセレーネ。
彼女の柔らかい身体の感触と温もり、そして仄かな香水の香りに、ラインハルトは思わず赤面してしまったのだった。
「ちょ、おま!!」
「ラインハルト様…!!よくぞ御無事で…!!」
「セレーネ!!これは一体どういう事なんだ!?何故お前が彼女たちと一緒にいる!?」
ラインハルトが戸惑うのも無理も無いだろう。本来なら魔王カーミラたちは敵国の幹部であり、こんな所にいていいような存在では無いはずだからだ。
自分が営倉入りになってから3日間の間に、一体何があったというのか。
「ラインハルト君。全て話すわね。あれから一体何があったのかを。」
戸惑うラインハルトに魔王カーミラは穏やかな笑顔で、事の顛末を…その事実を包み隠さず、全て馬鹿正直に話したのだった。
ラインハルトが投獄された後、セレーネがチェスターからの命令で、自分に親書を届けにやってきた事。
だがその親書はチェスターが用意した罠で、紙の中に爆裂魔法が仕込まれており、チェスターがセレーネごと自分を殺そうと企んでいた事。
咄嗟に自分がセレーネたちを守ったので全員無事だったものの、そこへ間髪入れずにチェスターがパンデモニウムまで攻め込んできた事。
その戦いでチェスターの命令で兵士たちが民間人までも攻撃し、多数の死傷者が出たという事。それに上申しようとした兵士2名が無残にもチェスターに殺されてしまった事。
結局戦いは魔王軍の勝利に終わり、チェスターは自分との戦いで戦死した事。
その後、パンデモニウムの復興作業や防衛の指揮をドノヴァンに任せ、自分がこうしてラインハルトを助ける為に、サザーランド王国にやってきたのだという事を。
流石に戸惑いを隠せなかったラインハルトだったのだが、それでも瞬時に頭を整理し、状況を分析し、今の現状を理解したのだった。
サザーランド王国は、魔王軍との戦争に負けた…そして明らかな正当防衛による結果だとはいえ、魔王カーミラの占領下に置かれてしまったのだという事を。
このラインハルトのような聡明さ、冷静な判断力がチェスターにもあれば、もしかしたら万に一つの確率で、それこそ何かの間違いで、戦況は変わっていたかもしれないのに…。
「…そうか…私がいない間に、陛下がそんな馬鹿げた真似を…。」
「エキドナたちのお陰で、私たちの被害は何とか最小限に食い止める事は出来たわ。だけど…。」
「そうだな、陛下のせいで民間人に多くの死傷者が出てしまったのだろう?それに関しては弁明のしようもない。本当に済まなかった。」
とても申し訳無さそうな表情で、ラインハルトは魔王カーミラたちに頭を下げたのだった。
ラインハルト自身は投獄されていて直接関わってはいないとはいえ、チェスターのせいで多くの民間人に死傷者が出てしまったのだから。
生真面目なラインハルトが責任を感じてしまうのも、無理も無いだろう。
「頭を上げなさい、ラインハルト君。貴方に責任があるわけじゃないわ。それ位の事は私もイリヤたちも理解しているから。」
そんなラインハルトを全く責めようとせず、魔王カーミラはポン、とラインハルトの肩に優しく手を置き、とても穏やかな笑顔をラインハルトに向けたのだった。
むしろ魔王カーミラにしてみれば、ラインハルトは逆に被害者の方だろう。
そもそもラインハルトの投獄自体が理不尽極まりない物なのだ。抗命罪で投獄されたとの事だが、その命令自体が「民間人を殺せ」という無茶苦茶な代物だったのだから。
「カーミラ殿…。」
「それでね、今後の事について話がしたいんだけど…こんな所で立ち話も何だから、どこか落ち着ける場所でお茶でも飲みながら話しましょうか。」
「…今後の事…か…。」
「ええ。ラインハルト君とセレーネちゃん、それにこの国の貴族たちも交えてね。」
サザーランド王国がパンデモニウムとの戦争に敗北してしまった以上、今のこの国は魔王カーミラの占領下に置かれている状況だ。
魔王カーミラなら、決して悪いようにはしないだろうが…それでも敗戦国である以上、魔王カーミラの発言はこの国にとって、膨大な影響力を持つ代物になる。
流石にセレーネちゃんとレズセックスさせなさいとか、国の若い女性たちを集めて私とレズ乱交させなさいとか、そんな無茶苦茶な命令をされたならば、ラインハルトもこの国の人々を守る為、魔王カーミラと戦わなければならなくなるだろうが。
…まあ、それはそれで見てみたいような気も…しないでもないのだが…。
「了解した。それに関しては私も望んでいる事だ。皆さんを城の会議室に案内しよう。セレーネ。戻って来たばかりの所を申し訳ないが、早急に貴族たちを全員招集してきてくれないか?」
「はっ!!承知しました!!」
こうして魔王カーミラからの呼びかけによって、夕方5時頃…美しい夕陽に照らされた城の会議室において、ラインハルト、魔王カーミラ、この国の貴族たちを交えた戦後会議が開催されたのだった。
ラインハルトの傍にはセレーネが、魔王カーミラの傍にはイリヤ、アリス、エキドナが起立し、護衛として控えている。
そして怪訝な表情で、魔王カーミラを睨みつける貴族たち。彼らの傍にもまた護衛役として、私兵として雇った大柄な男たちの姿が。
「皆様方、本日はお忙しい所を急に招集してしまい、本当に済みませんでした。」
「そんな事はどうでもいいわ!!何故そ奴らがこの城に堂々と居座っておるのだ!?」
そうだそうだ!!と、貴族たち全員がラインハルトに対して、露骨に不満そうな態度を見せたのだった。
無理も無いだろう。いきなりセレーネに呼び出されたと思ったら、いつの間にかチェスターが戦死しており、さらに魔王カーミラがこの国の今後の在り方について相談したいなどと言い出したのだから。
そしてこの国が魔王カーミラの占領下に置かれたという現状も、貴族たちは決して納得していなかった。するはずが無かった。
これまでチェスターに付き従い、その見返りとして彼に施された甘い汁を啜ってきたからこそ、チェスターの忠実な下僕として裕福な生活をして来られたのだから。
そのチェスターが死んでしまった以上、これから自分たちは一体どうなってしまうというのか。
「それに関してはセレーネから事情は聞いているでしょう?我が国はパンデモニウムとの戦争に敗北し、陛下はカーミラ殿との戦いの果てに戦死なされたのです。我々には敗戦国として、カーミラ殿の話に耳を傾ける責務があります。」
「その女の話を聞けという事自体が、納得が行かぬと言っているのだ!!」
「皆さんの気持ちは分かります。ですがそれでも、どうか穏便にカーミラ殿と相対しては頂けないでしょうか?」
いきなり魔王が目の前に現れて話を聞けなどと言い出したのだ。貴族たちが納得するはずがないという事は、ラインハルトも理解はしていたのだが。
それでも納得してくれないと、ここから先に話が進まない。
「私も一度だけ彼女と戦った経験があるから分かりますが、彼女はとても信頼出来る女性です。この国と民にとって不利益になるような真似だけは、絶対にしないでしょう。」
「ふざけるなぁっ!!魔王だか何だ知らんが、陛下を殺した挙句に我が国を支配しようなどと!!納得が出来る訳が無かろうがぁっ!!」
至極真っ当な事を言っているように見えるが、これは所詮は欲にまみれた貴族たちの薄汚い建前に過ぎない。
魔王カーミラがこの国を支配下に置いたせいで、これまでチェスターから施されていた自分たちへの甘い汁が、断たれてしまうのではないか…それが貴族たちの本音なのだ。
これまではチェスターの忠実な下僕として付き従っていたからこそ、その見返りとして多大な恩恵を受けていたというのに。
「今この場で我々がその女共を殺し、陛下の仇を討ってくれるわ!!」
「ちょ、ま」
「お前たち!!即刻その女共を殺せい!!この国が薄汚い魔族如きに支配される事など、あってはならぬわぁっ!!」
「「「「「はっ!!」」」」」
ラインハルトが止める暇も無く、貴族たちの傍に控えていた屈強な男たちが、一斉に魔王カーミラに襲い掛かったのだが。
「「「「「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」
「めっ。」
「「「「「ぐああああああああああああああああああああああああっ!!」」」」」
あっさりと魔王カーミラに指一本で吹っ飛ばされてしまったのだった。
氷の槍を、雷神の刃を、爆炎の炎を、烈風の一撃を立て続けに浴びせられ、壁に叩きつけられ、その場にうずくまってしまう屈強な男たち。
予想外の出来事に、貴族たちは驚きを隠せない。
「ば…馬鹿な…っ!?こ奴らは全員、我が国の冒険者ギルドにおいてBランクに位置する、選りすぐりの冒険者たちなのだぞ!?それをこうもあっさりと…!!」
Bランクだか何だか知らないが、彼らの実力などラインハルトやセレーネの足元にも及ばない。
魔王カーミラにとっては、指一本で事足りる相手だった。
とはいえ殺さないように手加減はしてあげたのだが…少々やり過ぎてしまったようだ。
床に倒れ込んでうずくまり、激痛で表情を歪める冒険者たち。
「貴方たちが戸惑うのも無理も無いわ。だけどラインハルト君が言うように、どうか私の話に耳を傾けて貰えないかしら?」
「き、貴様、わ、我々にこんな真似をして、た、只で済むとでも思っているのかぁっ!?」
「止めて下さい皆様方!!彼女たちは我々に戦いを挑みに来たのではないという事を、何故御理解して頂けないのですか!?」
慌ててラインハルトが魔王カーミラたちを庇うように、貴族たちの前に立ちはだかったのだった。
頭の中で可能性の1つとして想定はしていたのだが、結局こうなってしまうのかと…ラインハルトは苦虫を噛み締めたような表情になっていた。
確かに魔王カーミラはチェスターを殺し、この国を占領下に置いた。それは紛れも無い事実だ。
だがそれは100億%チェスターが悪いのであって、魔王カーミラにとっては完全な正当防衛だ。しかも本来ならばサザーランド王国は、無抵抗の民間人を大量虐殺した件に関して、魔王カーミラに対して真摯に謝罪をしなければならないはずの立場にあるのだ。
そのような状況下において、魔王カーミラは穏便に話をしたいと言ってきてくれているのに、それを仇で返すような真似をするなど…。
「いいのよラインハルト君。彼らが不安になる気持ちも分かるわ。」
「カーミラ殿…!!」
使用人の女性に差し出された紅茶を一口飲み、ふうっ…と一息つく魔王カーミラ。
ダージリン特有の果実のような甘い香りが、魔王カーミラの口の中にふわっと広がる。
美味だ。
その様子を見た貴族たちが、思わず妖艶な笑みを見せてしまったのだが。
「ダージリンのセカンドフラッシュ(夏摘み)ね?とてもいい香りがして美味しいわ。」
「お、お褒めに預かり光栄に御座います。カーミラ様。」
「まあそれはそれとして…こんな程度の毒じゃ私は殺せないわよ(笑)?」
「んなっ…!?」
とっても爽やかな笑顔で魔王カーミラに指摘された使用人の女性が、途端に怯えた表情になって尻もちを付いてしまう。
貴族たちもまた、予想外の魔王カーミラの言葉に驚きを隠せない。
「そ、そんな馬鹿なぁっ!!ほんの数滴で大型の獣さえも動けなくしてしまう程の猛毒なのだぞぉっ!?」
「毒とは一体どういう事なのですか!?この神聖な会議の場において、そんな馬鹿な真似が許されるとでもお思いか!?」
激怒するラインハルトだったのだが、使用人の女性が怯えた表情で、泣きながら魔王カーミラに謝罪をしたのだった。
「も、申し訳ありませんカーミラ様…!!シェスター様に脅迫されて…!!妹を殺されたくなければカーミラ様を毒殺するようにと…!!」
「シェスター卿ぉっ!!」
「いいのよラインハルト君。」
「…っ!!カーミラ殿…!!」
怒りの形相で貴族の男性に掴みかかろうとするラインハルトを、魔王カーミラが穏やかな笑顔で右手で制して止めたのだった。
選りすぐりの冒険者たちが束になっても殺せない。毒でさえも殺せない。
魔王カーミラのあまりの化け物ぶりに焦りを隠せない貴族たちに、魔王カーミラが静かに語り掛ける。
「今、彼女に私を毒殺させようとしたように、私を殺したいと思うのなら、どんな手段を使ってくれても構わないわよ。もっとも、そう簡単に殺されてはあげないけどね。」
「き、貴様、どこまで我々を馬鹿にして…!!」
「ただし。」
魔王カーミラが鋭い眼光で、貴族たちを睨みつけたのだった。
「これだけははっきりと言っておくわ。ここにいるイリヤたちや、パンデモニウムの魔族たち…それにラインハルト君やセレーネちゃんや、何の関係も無いこの国の人々にまで危害を及ぼすような真似をしたら…その時は只では済まさないわよ…?」
その瞬間、魔王カーミラから貴族たちに向けて放たれた、凄まじいまでの「殺気」。
それを感じ取った貴族たちが、途端に怯えた表情になってしまう。
魔王カーミラ自身、自分の事を別に大した存在だとは思っていない。
それこそ、どれだけ悪口を言われようとも、今みたいに暗殺未遂を食らったとしても、自分1人だけが被害を受ける分には、別に何とも思わなかった。
だからこそ貴族たちに対して、私を殺せる物なら殺してみせろと挑発してみせたのだし、毒が入っていると分かっていた上で、敢えて貴族たちが見ている目の前で紅茶を飲んでみせたのだ。
だがもし、それによって、何の関係も無い第三者にまで危害が及んでしまうというのであれば。
その時は魔王カーミラは貴族たちに対して、絶対に容赦はしないだろう。
その魔王カーミラの「圧力」に完全に気圧されてしまった貴族たちは完全に腰を抜かしてしまい、中にはお漏らしする醜態を晒してしまった者さえも…。
そんな彼らの見苦しい醜態を目の当たりにして、魔王カーミラは呆れたように溜め息をついたのだった。
彼らは所詮、貴族という身分と地位に溺れて胡坐をかいているだけの、口先だけの小物たちに過ぎないという事が証明されてしまったのだから。
やはり彼らに、この国の国王を任せる事など出来はしない。
「あらあら、少しやり過ぎてしまったかしら。」
「ひ、ひいいいいいいいいいいいいい!!」
「まあそれはそれとして、取り敢えず今後のこの国の在り方について、私から提案したい事があるんだけど…聞いて貰っていいかしら?」
最早魔王カーミラに口答えしようとする貴族たちなど、只の1人として存在してはいなかった。
「国王のチェスターは私がこの手で殺した…だから今、この国は国王が不在の状態になっている。チェスターの代わりとなる国王を早急に決めなければならないわ。別に私の占領下に置いたままにしてもいいんだけど、それだと争いの火種になりかねないでしょう?」
「それは確かに貴女の言う通りだ。だが国王とは国の頂点に立ち、民を導く責務を背負う者…そう簡単に適任者など見つかる訳が…。」
「いるじゃないラインハルト君。今ここに、これ以上無いっていう位の最高の適任者がね。」
「ここにって…カーミラ殿。貴女は一体誰の事を言っているのだ?」
とても穏やかな笑顔で、魔王カーミラはラインハルトにはっきりと告げたのだった。
チェスターの代役として国王となるのに相応しい、人格、人望、能力のどれを取っても穴の無い、仁智勇全てを兼ね備えた最高の人物。それは…。
「ラインハルト君。それは貴方よ。」
「…はあああああああああああああああああああああああああああああ(汗)!?」
魔王カーミラに名指しされたラインハルトが、予想外のカーミラの言葉に仰天してしまったのだった。
無理も無いだろう。ラインハルトはサザーランド王国騎士団の隊長という身分でしかない…しかも王家の血筋でも貴族でもない、ただの平民なのだから。
「いや、ちょっと待ってくれ!!私が国王だって!?貴女は一体何を馬鹿な事を言っているのだ!?」
「今、貴方の目の前で無様な醜態を晒している彼ら貴族たちに、国王としての資質があると思う?」
「そ、それは…!!」
「こんな情けない人たちに国王だなんて大役は、とてもじゃないけど任せられないわ。」
所詮は己の欲に縋るだけの小物たち。今回の一件でそれが証明されてしまったのだから。
彼らが国王になった所で、第2、第3のチェスターになってしまいかねないだろう。
そうすればどれだけ多くの人々が傷つき、苦しめられ、命を落とす事になってしまうのか。
だがラインハルトは違う。彼らと違い決して口先だけの見苦しい男などではない。
それに誰よりもこの国や民の事を大切に想い、人々からの人望も厚いのだ。能力的にも問題無いだろう。
ラインハルトが国王になる事に、国民の誰1人として文句を言う者などいないはずだ。
「そ、その、ラインハルトさん。この件に関しては、あの…以前セレーネさんとも話をしていたんです。ラインハルトさんが国王になったらいいのにねって。」
それでも躊躇うラインハルトに、おずおずとアリスが可憐な笑顔で後押しをしてきたのだった。
イリヤもエキドナも当然の事だと言わんばかりに、笑顔でうんうんと大きく頷いている。
「ま、アンタなら問題無いじゃないの?」
「私も同感です。ラインハルト様ならばこの国を、必ずや良き方向へと導いて下さると確信しております。」
「アリス殿…イリヤ殿…エキドナ殿…。」
貴族たちはすっかり魔王カーミラに怯えてしまっており、誰も反対意見を口にしようとしない。
穏やかな笑顔で魔王カーミラに促されたラインハルトが…観念したかのように、呆れたような深い溜め息をついたのだった。
そして。
「…重いな…。ああ、凄く重いよ。カーミラ殿。貴方は私に、何て重たい物を背負わせるつもりなのだ…。」
「勿論、投げっぱなしで済ませるつもりは無いわよ。私はこれからも貴方と良い関係を築いていきたいと思っているから。魔王として全力で貴方をサポートさせて貰うわ。」
「私は戦術や兵法に関してはともかく、政治に関しては全くのど素人なんだぞ?それでもいいのか?」
「私だって魔王になる前は、政治に関しては全くのど素人だったわよ?」
「ああもう、分かったよ!!こうなったらもう、なるようになれだ!!」
苦笑いしながら、ラインハルトは魔王カーミラに右手を差し出したのだった。
「ただし!!やるからには徹底的にだ!!貴女が私に助力をくれるというのなら、友好国として徹底的に助力を頼みまくってやるから、覚悟しやがれ!!」
「ええ、勿論よ。その代わり私が辛くなった時は、容赦無く助けて貰うからね?ラインハルト君。」
差し出された右手を、穏やかな笑顔で握り返した魔王カーミラ。
セレーネもアリスもイリヤもエキドナも、握手をする2人に満面の笑顔で、盛大な拍手を送る。
その様子を貴族たちが無様に腰を抜かしながら、とても悔しそうな表情で睨みつけていたのだった…。
次回は第4章完結です。
サザーランド王国の新たな国王に就任したラインハルトが、国民に対して演説を行います。
物凄く久しぶりに太一郎が登場します。