第30話:狂王の末路
魔王カーミラVSチェスターの頂上決戦。
その圧倒的な力で、チェスターは魔王カーミラを追い詰めていくのですが、それでも余裕の態度を崩さない魔王カーミラ。
サザーランド王国騎士団と魔王軍…チェスターの愚かな野望によって引き起こされた両軍の悲しい戦争が、遂に決着です。
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チェスターと魔王カーミラ…両軍のトップに立つ者同士の凄まじいまでの頂上決戦を、周囲にいた両軍の兵士たちの誰もが戦いの手を止め、神妙な表情で見つめていたのだった。
どちらが勝っても、この愚かな戦いに終止符が打たれる事になる。
そしてどちらが勝ったとしても、敗者に待ち受けるのは残酷な「死」だけだ。
己の欲に取り憑かれ、民間人の魔族たちまでも傷つけたチェスター。
そんなチェスターから魔族たちを守ろうと、奮戦する魔王カーミラ。
サザーランド王国騎士団と魔王軍…チェスターの愚かな欲望によって引き起こされた今回の馬鹿げた戦争に、もうじき終焉の時が訪れようとしていたのだった。
「『氷結の槍【フリジットジャベリン】』!!」
魔王カーミラが『異能【スキル】』によって生み出した無数の氷の槍が、情け容赦なくチェスターに襲い掛かる。
だがそれをチェスターは聖斧デュランダルで、軽々と全て弾き返してみせた。
妖艶な笑みを浮かべながら、魔王カーミラを見下すチェスター。
「ぶはははははははは!!魔王カーミラよ!!貴様の力はそんな物か!?ラインハルトを倒したと言うからにはどれ程の物かと、正直期待していたのだがなぁっ!!」
「『雷迅の刃【ライトニングエッジ】』!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁっ!!」
さらに魔王カーミラが『異能【スキル】』で生み出した雷撃の刃を、チェスターはいとも簡単に弾き返してみせる。
その様子をセレーネが、魔王軍の精霊術師の女性の治癒魔法を受けながら、絶望の表情で見つめていたのだった。
「そんな…カーミラ殿でさえも、チェスターには…聖斧デュランダルには太刀打ち出来ないと言うのか…!?」
チェスターの猛攻の前に、徐々に追い詰められていく魔王カーミラ。
チェスター自身の戦闘能力も決して侮れないが、それに加えて聖斧デュランダルの攻撃力も圧倒的なのだ。
いや、攻撃力だけではない。魔王カーミラの攻撃を立て続けに防いでしまう聖斧デュランダルの頑丈さや防御力も、伝説の武器の名に恥じぬ凄まじい性能を有している。
生半端な武具では魔王カーミラの攻撃を受け切る事など到底出来ないというのに、直撃を何度も受けているのに傷1つ付いていないのだ。
何とか『防壁【プロテクション】』の『異能【スキル】』でチェスターの攻撃を受け続けているが、完全に防戦一方なのは誰が見ても明らかだ。
魔王カーミラを援護したいのに、それが出来ない自分の傷だらけの身体がもどかしい。とても悔しい。
こうして魔王カーミラが追い詰められているのを、ただセレーネは黙って見ている事しか出来ないというのか。
そんな中でも魔王カーミラは、表情1つ変えていない。全く冷静さを失っていない。
追い詰められながらも威風堂々と、『防壁【プロテクション】』の『異能【スキル】』でチェスターの猛攻を受け続けていた。
だが。
「食らえぃ!!暗黒流角竜斧奥義!!滅砕破!!サイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイ!!」
遂に発動したチェスターの奥義が、情け容赦なく魔王カーミラに襲い掛かったのだった。
独楽のように高速回転しながら、チェスターの横薙ぎの連撃が魔王カーミラが生み出した障壁に連打連打連打連打連打連打連打連打。
「サイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイ!!」
少しずつ、しかし確実に、魔王カーミラは壁際へと追い詰められていく。
そして…。
「おおおおい!!おおおおおおおおおい!!おおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!」
チェスターの強烈な一撃を受け切れず、とうとう魔王カーミラは壁に叩きつけられてしまったのだった。
絶望の表情で、その惨状を見つめるセレーネや魔族たち。
「カ、カーミラ殿が…吹っ飛ばされた…!?」
「ぶはははははははは!!どうだ見たかこれが我が暗黒流角竜斧の真髄よ!!魔王だか転生者だか何だか知らぬが、貴様如きに容易く見切れる代物では無いわぁっ!!」
地面に手を付き、膝を付く魔王カーミラ。勝ち誇るチェスター。
そしてチェスターの一撃による衝撃で、いつの間にか魔王カーミラの仮面が顔から外れていた。
これまで仮面に隠れていて見る事が出来なかった彼女の素顔は…ラインハルトが言っていたように、とても美しい女性だ。
見た目は20代前半と言った所だろうか。とても美しく、とても優しく、慈愛に満ち溢れた、およそ魔王だとは思えない女性の姿が、そこにあった。
「余の力の前では魔王カーミラでさえも、このザマよ!!無事に転生術を奪取した暁にはフォルトニカ王国にも攻め入り、『閃光の救世主』さえも余がぶちのめしてくれるわ!!ぶはははははは!!ひゃーーーーーーーーーーーーーーーーっはっはっはっはっ…!!」
「…そんなに嬉しいの?」
「…は!?」
ふと、魔王カーミラが静かに呟いた。
追い詰められているにも関わらず全く動揺せず、地面に手を付きながらも…目の前で勝ち誇るチェシターを冷静沈着に、そして冷徹な瞳で睨みつけながら。
「たかが私を吹っ飛ばして壁に叩きつけた位で、一体何をそんなに子供のようにはしゃいでいるのかって…私はそう貴方に聞いているのよ。」
「何ぃ!?」
呆れたように溜め息をつきながら、魔王カーミラがチェスターにはっきりと告げたのだった。
「…国王としての器が知れるわね。チェスター。」
「何だとコラぁ!?余に対して何だその無礼な口の聞き方はぁっ!?」
膝を付いても尚、余裕の態度を見せる…それ所か挑発までする魔王カーミラ。
それに完全にブチ切れてしまったチェスターが、またも奥義を魔王カーミラに繰り出したのだった。
「貴様に余という絶対無敵の存在を思い知らせてくれるわ!!暗黒流角竜斧奥義!!滅砕破!!サイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイサイ!!」
自らの身体を独楽のように高速回転させながら、凄まじい横薙ぎの連撃を繰り出すチェスター。
だがこの早まった選択が、チェスターに無様な敗北を与えてしまう最大の決定打になってしまったのである。
性格はアレだが、確かにチェスターは強い。それに関してはマジで疑いの余地はない。
魔王カーミラが転生させられた、この美しくも戦乱に満ち溢れた世界の中において、間違いなく上位に君臨する実力の持ち主だ。それに加えて聖斧デュランダルの性能も圧倒的だ。
別に普通に戦っても決して負ける相手では無いのだが、いかに魔王カーミラといえども決して油断出来るような相手ではないのだ。
だがそれでもチェスターには己の能力を過信し、どうも相手を見下すような節がある。
その辺の雑魚が相手ならともかく、魔王カーミラのような強者が相手だと、その過信は致命的になりかねないのだ。
自分に自信を持つのと過信するのとでは、その意味合いは全く違うのだから。
この状況下において、もし魔王カーミラと相対しているのが『閃光の救世主』やラインハルトだったならば、2人揃って
「「いや、これ、どう考えても罠だよね?」」
などとあからさまに魔王カーミラの策を警戒し、挑発に乗って真正面から攻めるような真似だけは絶対にしないはずだ。
チェスターにも、この2人のような聡明さ、慎重さが少しでもあれば…もしかしたら何かの間違いで、それこそ事故のような形であっても、立て続けに何らかの奇跡が起きまくった結果、万が一にも魔王カーミラに対して勝機があったかもしれないというのに。
地面に膝を付きながら、右手を地面に付けている…そんな無様な醜態を晒す魔王カーミラに、チェスターの必殺の一撃が迫る。
そう…魔王カーミラは、「右手を地面に付けている」のだ。
その意味をチェスターがもう少し早く理解していれば…もう少し注意深く魔王カーミラの右手を警戒していれば…こんな事にはならなかっただろう。
少なくとも『閃光の救世主』やラインハルトならば、魔王カーミラの思惑を瞬時に見抜き、即座に回避行動に移っていただろうに。
チェスターが、この2人と決定的に違う点。
それは、どうしようもない「馬鹿」だという事だ。
「サイサイサイサイサイサイサイサイサイサ…っ!?」
次の瞬間、高速回転するチェスターの足元から襲い掛かった、魔王カーミラの『十頭の大蛇【ウロボロス】』。
5本の漆黒の鞭がチェスターの足元に絡みつき、さらにチェスターの身体が横方向に高速回転しているもんだから、その勢いもあって漆黒の鞭がどんどんチェスターの身体に巻き付いていく。
「いああああああああああああああああああああああっ!?」
木工、鉄工関連の工場の現場で働いていて、普段からボール盤…特に大口径の穴を開ける為に使用される、パワーのあるラジアスボール盤を使った作業をしている読者の方は、社長や上司からこんな事を言われた経験があるのではないだろうか?
万が一高速回転する機械に軍手の糸くずが絡まってしまったら、巻き込まれて大事故に繋がりかねないから、必ず素手で作業をしろよ、と。
今回チェスターが晒した無様な醜態は、それを守らずに軍手を使って作業をしたら、機械がどういう状態になるのか…その典型例だと言えるだろう。
「な、な、な、な、何だこれはああああああああああああああああああああっ!?」
全身を漆黒の鞭でグルグル巻きにされてしまい、ポンポンと左手で埃を払いながら威風堂々と立ち上がった魔王カーミラの前で、無様に倒れてしまったチェスター。
いつの間にか右手の指から、5本の漆黒の鞭が地面に突き刺さっていた。
そう…魔王カーミラは右手をわざと地面に付ける事で、『十頭の大蛇【ウロボロス】』を地面に向かって放ち、まるでミミズのように土の中を潜らせ、地中からチェスターを狙い撃ちしたのだ。
完全に油断してしまっていたチェスターは、そんな魔王カーミラの策に全く気が付いていなかったようだ。
必死にもがくチェスターだったが、魔王カーミラの『十頭の大蛇【ウロボロス】』は、もがけばもがく程容赦なく相手に絡まっていく。
ほんの数秒前までは、圧倒的にチェスターが優位に立っていたというのに。
それなのに何故…こんな事になってしまったというのか。
「う、動けん!!く、くそっ!!一体何なのだこれはぁっ!?」
「チェスター。私は親書でこう伝えたはずよ。私達の方から人間たちに危害を加えるつもりは一切無い…だけどそちらから攻撃してくるのであれば、一切合切容赦はしないってね。」
「ひ、ひいっ!?」
強靭さにしなやかさまでも加わった『十頭の大蛇【ウロボロス】』は、チェスターの強靭な腕力をもってしても、全く振りほどく事が出来ない。
先程までとは一転して恐怖に震えるチェスターを、魔王カーミラが冷徹な瞳で見下していた。
「私はこのパンデモニウムに暮らす魔族たちを、とても大切に想っているわ。それに成り行きで魔王になってしまったけれど、ここでの暮らしも結構気に入っているのよ?」
ゆっくりと、じっくりと、チェスターに恐怖を味合わせながら、魔王カーミラはチェスターの足元へと歩み寄っていく。
「彼らは魔族として生まれたというだけで、何の罪も犯していない。それにこの世界に召喚されて右も左も分からなかった私の事を、とても親切に支えてくれたのよ?」
魔王カーミラの周囲で、必死に魔族たちが消火活動や救助活動を行っている。
理不尽に傷つけられ、殺された民間人の魔族たち。
中には両親を殺され、絶望しながら泣き叫ぶ子供たちの姿までもあった。
そんな彼らの悲しみが、怒りが、憎しみが、魔王カーミラに降り注いでいたのだった。
早く、早く、早く、そこで無様に転がっている、薄汚い人間を殺してくれと。
「そんな彼らが、どうしてこんなにも理不尽に苦しめられなければならないの?どうして傷付けられなければならないの?どうして殺されなければならないの?」
右手で生み出した『十頭の大蛇【ウロボロス】』でチェスターを拘束しながら、冷徹な瞳でチェスターを見下し、左手に漆黒のオーラを纏わせた魔王カーミラ。
「『帝王の拳【カイザーナックル】』…!!」
そのまま動けないチェスターに馬乗りになり、その醜い顔面に左手でパンチを連打連打連打連打連打。
「あぶぶぶぶぶぶうべべべべべべべべべべべっぼぼぼぼぼぼぼぼぼあばばばばばばあばっばばばばば!!」
「ねえチェスター。答えなさいよ。ねえ。ねえ。ねえ。」
「ぶぼべべべべべっばばばばばっばばばばっばびびびびびびびべべべべべべべべべ!!」
魔王カーミラの左拳が血まみれになる。そして顔面を何度も殴られ、醜い顔がさらに醜くなってしまったチェスター。
ここまで来ると、最早「戦い」とは呼べない。一方的な「虐殺」だ。
だがここまでしなければ、理不尽に傷つけられ、殺された魔族たちの怒りや憎しみは、決して収まりはしないだろう。
魔王カーミラには、このパンデモニウムの魔族たちを守る責務がある…それに理不尽に傷つけられ、死んでいった魔族たちの無念を晴らさなければならないのだから。
暴力だけでは何も解決はしない…そんな物は大切な物を奪われた経験が無い者たちの、所詮は自分勝手な遠吠えに過ぎないのだ。
魔王カーミラとて、心の底ではこんな事はしたくない。
だがそれでも魔王という立場上、彼女は多くの命を理不尽に奪ったチェスターを、魔族たちが見ている前で痛めつけなければならないのだ。
「…カーミラ殿。もういいです。」
そんな魔王カーミラの首を、セレーナが背後から両腕で優しく抱き締めたのだった。
魔王カーミラが背負っている物…そして悲しみを、心の底から身に染みて理解しながら。
本来なら敵国の兵士であるはずの自分に対して、あんなにも優しくしてくれた…こんなにも慈愛に満ち溢れた女性の心と身体を、これ以上血で染めてしまう訳にはいかないのだ。
「分かりましたから。私にはもう分かりましたから。貴女の苦しみも。貴女の悲しみも。そして今この場にいる魔族たちの怒りや憎しみも。貴女が魔王として、それを受け止めなければならないという事も。」
「…セレーネちゃん…。」
「それでもこんな下衆な男のせいで、貴女の心を闇に染めてしまう訳にはいきません。だからどうか、ここは私にお任せを。」
魔王カーミラの身体を放し、立ち上がったセレーネが槍を手に、無様に転がっているチェスターを見据えたのだが。
「お、おお!!セレーネよ!!余を助けてくれるというのか!?」
「勘違いするな!!カーミラ殿の代わりに、私が貴様を殺すと言っているのだ!!チェスター!!」
「な、何だとおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
汚物を見るような瞳で自分を睨みつけるセレーネに、チェスターの表情が一気に絶望に染まってしまったのだった。
槍の先端を、チェスターの首筋に突き付けるセレーネ。
「そ、そんなに爆裂魔法で貴様を殺そうとした事を憎んでいるのか!?そ、それに関しては素直に謝罪しよう!!」
「チェスター…!!」
「そ、そうだ!!詫びと言っては何だが、貴様には特別褒章人の地位を授けよう!!滅多に与えられない最高の名誉だぞ!?特別褒章人になれば貴様には常に使用人が付き、さらには立派な車と豪邸も…!!」
「貴様は何を言っているのだ!?何故私が貴様を殺すと言っているのか!!貴様はまだ分からないとでも言うのかぁっ!?」
「ぎゃひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
あまりにも身勝手な事を抜かすチェスターに、怒りを爆発させるセレーネ。
何という下衆な男なのか。自分は今まで、こんな男の為にその身を粉にして働き、命を賭けて戦ってきたとでもいうのか。
こんな男のせいで、こんなにも多くの魔族たちが理不尽に傷つき、苦しみ、死んでいったというのか。
それを思うと、セレーネはあまりにもやり切れなかった。
やはりこの男は、今この場で殺してしまわなければならない。
さもなければ強欲に心を支配されたこの男の手によって、さらに多くの罪も無い人々が苦しみ、傷つき、殺される事になるだろうから。
その決意を胸に秘め、セレーネはかつての上司の首元を槍で貫こうとしたのだが。
「…ありがとうセレーネちゃん。だけどこれは魔王としての私の役目よ。譲る訳にはいかないわ。」
そんなセレーネの槍を握る右手を、立ち上がった魔王カーミラが左手で優しく包み込んだのだった。
とても穏やかな笑顔で、魔王カーミラはセレーネを見つめている。
「カーミラ殿…。」
「私なら大丈夫よ。だってセレーネちゃんが、こんなにも私の事を気遣ってくれたのだから。」
笑顔でセレーネにウインクした魔王カーミラが、右手で生み出した『十頭の大蛇【ウロボロス】』でチェスターを拘束し続けながら、左手に爆炎を生み出す。
「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「覚悟しなさいチェスター。貴方の命もここまでよ。」
「な、何をしている貴様ら!?早く余を助けんかぁっ!!」
兵士たちに必死に呼びかけるチェスターだったが、そんな彼を助けようとす兵士など、最早誰一人として存在しなかった。
兵士たちの誰もが侮蔑に満ちた表情で、チェスターを睨みつけている。
当然だろう。このような「愚王」など、一体誰が心の底から助けたいと思うだろうか。
ラインハルトを理不尽に投獄し、魔王カーミラをセレーネごと殺そうとしたり、挙句の果てに無抵抗の民間人まで虐殺するよう兵士たちに命じ、それに上申しようとした兵士2人を容赦なく虐殺したのだ。
こんな男が一体何をどうしたら、兵士たちから人望を得られるというのだろうか。
誰にも助けて貰えない四面楚歌の状況に絶望したチェスターが、目から大粒の涙を流しながら、必死の形相で魔王カーミラに頼み込んだのだが。
「ひ、ひいいいいいいいいいいい!!た、助けてくれ魔王カーミラ!!い、命だけはああああああああああああああああっ!!」
何という見苦しい醜態なのか。これが仮にも一国の王という地位にいる者が見せるべき振る舞いなのか。
こんな男のせいでラインハルトは投獄され、セレーネは殺されそうになったというのか。
汚物を見るような冷酷な瞳で、魔王カーミラはチェスターを睨みつけている。
「お、お前は、命乞いをする者まで殺すのか!?そんな事をしよう物なら重篤な国際問題になるぞ!?世界中の国々を敵に回す事にもなりかねないぞ!?それでもいいのか!?」
「貴方は一体何を言っているの?貴方は無抵抗の民間人まで殺すように、兵士たちに命じたのでしょう?」
「ぎゃひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
命乞いをする者にまで危害を加えてはいけない…この期に及んで苦し紛れに国際法を持ち出したチェスターに、魔王カーミラは怒りを爆発させたのだった。
その命乞いをする者まで沢山傷つけ、殺したのは、他ならぬチェスターではないか。
「ラ、ラインハルト!!な、何をしておる!?早く余を助けんかぁっ!!」
取り乱したチェスターが恐怖のあまり、とうとうこの場にいない者にまで助けを求め出したのだった…。
「ラインハルト君なら営倉室よ。」
「え、営倉だと!?こ、この非常事態だというのに、だ、誰が奴をそんな所に入れたのだぁっ!?」
「セレーネちゃんから聞かされたわ。貴方が彼を投獄したのでしょう?」
「ひいいいいいいいいいいやああああああああああああああああああああ!!」
無茶苦茶な事を言うチェスターに向かって、爆炎の狙いを定める魔王カーミラ。
そして…遂にその時がやってきた。
「御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい御免なさ…!!」
「『爆炎【エクスプロージョン】』!!」
「ぎぃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
魔王カーミラが『異能【スキル】』によって生み出した爆炎の炎が、情け容赦なくチェスターを飲み込み…チェスターの身体が残酷に焼き尽くされていく。
やがて爆炎が消え去った後に残されたのは、黒焦げになったチェスターの無残な死体と…持ち主を失った、神々しい光を放ち続けている聖斧デュランダル。
そんなチェスターの無様な姿を、侮蔑の表情で睨みつける民間人の魔族たち。
戦いの勝利を確信し、雄叫びを上げる魔王軍の魔族たち。
魔族たちから転生術を奪取し、その強大な力でもってこの世界の支配者となる。
そんな愚かな欲望に取り憑かれた末に、地位も人望も人生も、何もかも全てを失った愚かな男に呆気無く訪れた…あまりにも哀れな最期の瞬間であった。
次回は久しぶりにラインハルトが登場します。
魔王カーミラによって営倉室から釈放されたラインハルトに、魔王カーミラが告げた事とは…?