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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第4章:魔王カーミラ
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第27話:託された物

ラインハルトが投獄された件に関して、チェスターに文句を言うセレーネ。

そんなセレーネにチェスターは、突然使者としてパンデモニウムに赴けと告げるのですが…。

 ラインハルト投獄…その衝撃的なニュースはサザーランド王国内において、新聞記事の一面と社会面をでかでかと飾る事になり、国民たちが相当な騒ぎと混乱を引き起こす事態になってしまった。

 何故ラインハルトが投獄されなければならないのかと。一体ラインハルトが何をしでかしたのかと。

 多くの国民たちがラインハルト投獄に不満を顕わにし、チェスターの横暴さを批判する騒ぎになってしまう。

 ラインハルトが国民たちに、どう思われているか…それを明確に表していると言えるだろう。


 だがそれも兵士たちの耳に決して届かないように、陰口で罵る程度の代物でしかなく、表立った抗議活動を行う者たちは誰1人として存在しなかった。

 理由は明白だ。下手に抗議活動でもしようものなら、家族もろとも強制収容所送りになってしまうか、最悪その場で処刑されてしまいかねないからだ。

 国民たちの誰もがチェスターを「愚王」と呼び、その横暴さに不満を顕わにしながらも、それを表立って抗議する事が出来ずにいる。

 サザーランド王国は、女王クレアの善政によって潤っているフォルトニカ王国とは違う…チェスターの暴政によって国民たちが苦しめられている国なのだ。


 そして多くの国民たちが、心の底からこう思っていた。

 いっその事、ラインハルトが国王になってくれればいいのに…と。


 「セ、セレーナ殿!!お願いですから、どうか落ち着いて下さい~~~~~~!!」

 「これが落ち着いていられるか!!今から陛下に面会させろ!!今からどうしても陛下に御進言しなければならない事があるのだ!!」

 「しかしセレーネ殿に陛下からの面会許可は下りておりませぬ!!陛下は日々の御政務で御多忙の身故、どうか正式な手続きを経た上での御面会を!!」

 「ええい離せ!!離さんか!!そんな悠長な事を言っていられる場合では無いのだ!!何故ラインハルト様が投獄されなければならぬのだ!?」


 そして城内でもまたラインハルト投獄の新聞記事によって、早朝からセレーネが興奮しながら玉座に詰めかける事態になってしまっていた。

 面会許可が下りていないからと、警備担当の兵士たちが必死にセレーネをなだめるが、それでもセレーネの怒りは収まらない。


 「ええい、何事だ!?騒々しい!!」


 あまりの騒ぎに、玉座にどっかりと腰を下ろしながら書類に目を通していたチェスターが、控えていた兵士に苛立ちながら問い詰めたのだった。


 「は!!セレーネ殿が陛下に謁見を求めておられるのですが、その…相当憤っておられるご様子で…!!」

 「何ぃ?セレーネが?」


 まあ理由は聞かなくても分かる。どうせラインハルトの投獄の件に関して激怒しているのだろう。

 セレーネはラインハルトの副官であり、ラインハルトに絶対的な忠誠を誓っているのだから。

 それにラインハルトに好意を抱いているというのが、誰の目から見てもバレバレだ。

 鈍感なラインハルトは、そんなセレーネの好意に全く気が付いていないようだが。

 そのラインハルトが投獄されたとなれば、文句を言いたくなるのも当然だろう。


 「まあ良いわ。余も丁度奴と話をしたいと思っておった所だ。」

 「は!?よろしいのですか!?」

 「うむ。通せ。」

 「しょ、承知致しました!!セレーネ殿、こちらへどうぞ!!」


 慌てて兵士が扉を開けた途端、セレーネが顔を真っ赤にしながら、玉座にどっかりと腰を下ろしているチェスターに向かって、ズケズケと歩み寄っていく。

 そしてチェスターに対してセレーネは跪く事無く、チェスターを睨みつけて仁王立ちしながら、チェスターを怒鳴り散らしたのだった。


 「陛下!!ラインハルト様を投獄したとは、一体どういう事なのですか!?」

 「ひいいいいいいいいいいいいいいいい!!セレーネ殿おおおおおおおおおおお!!陛下の御前で、そんな無礼なああああああああああああ(泣)!!」


 およそ国王に対しての態度とは思えない、チェスターに対してのセレーネの無礼な態度。

 それを見せつけられた兵士の1人が、慌ててセレーネをなだめたのだが…セレーネの怒りは収まらなかった。


 「何だ貴様の余への、その反抗的な態度はぁっ!?」

 「そんな事はどうでもいいのです!!何故ラインハルト様を投獄なされたのですか!?納得の行く理由を説明して下さい!!」

 「奴は余に対して反抗的な態度を取ったのだ!!それにパンデモニウム侵攻作戦において、余に与えられた命令を無視したのだ!!投獄されて当然だろうが!!」

 「ラインハルト様がパンデモニウムの民間人たちに犠牲者を出さなかった事を、お咎めになられておいでなのですか!?」

 「そうだ!!余は民間人を人質に取って魔王カーミラを脅せと、そう奴に命じたのだぞ!?」

 「そんな事をすれば我が国は他国から厳しい目で見られ、政治的に多大な不利を被る事にもなりかねません!!今回の命令違反は、それ故のラインハルト様のご配慮あっての事!!陛下にはそれが分からないのですか!?」


 睨み合うセレーネとチェスターの一触即発の光景を、周囲の兵士たちがあわわわわ(泣)言いながら、オロオロしながら見つめている。

 仮にも国王であるチェスターに対する、このセレーネの無礼な態度。

 今回のチェスターのあまりの横暴さに腹が立ったというのもあるが、セレーネにとってラインハルトは、それ程の存在だという事なのだろう。

 だが。


 「セ、セレーネ殿、あまり陛下に対して反抗的な態度を取らない方が…。」

 「何ぃ!?」

 「セレーネ殿は先日この場にいなかったので、御存じではないようですが…ラインハルト様の投獄に関して陛下に意見を述べた兵の1人が、陛下に強制収容所行きを命じられたのです。」

 「な、何だと!?」

 

 兵士の言葉に、セレーネは驚愕の表情を浮かべる。

 そしてその言葉の意味を、兵士の警告の意味を、セレーネは瞬時に理解したのだった。

 そう…これ以上セレーネがチェスターに対して反抗的な態度を取ろう物なら…セレーネだけでなく彼女の両親や妹にまで、連帯責任として厳罰が下される事にもなりかねないのだ。

 自分1人だけが懲罰を受けるのならまだしも、何の関係も無い家族にまで迷惑をかけてしまう訳にはいかないのだ。


 「その後、陛下の寛大な御対応により、その兵は無罪放免となったのですが…どうかセレーネ殿も、あまり陛下に対して無礼な態度は取られませぬ様…。」

 「…くそっ!!」


 とても悔しそうに歯軋りし、チェスターから視線を外してうつむくセレーネを、チェスターが汚物を見るかのような目で、勝ち誇ったように睨みつけていたのだが。 


 「…ふん、まあ良いわ。」


 突然チェスターが懐に置いてあった親書を取り出し、セレーネにヒラヒラと見せびらかしたのだった。


 「元々貴様にこれを渡すつもりだったからな。貴様から余の元に来てくれて、手間が省けて助かったわ。」

 「一体どういう事なのです?」

 「セレーネ。これより貴様に重大な任務を与える。この親書を魔王カーミラに届けるのだ。」


 チェスターに促された兵士が、慌ててチェスターから親書を丁重に受け取り、それを慌ててセレーネに丁重に差し出す。

 サザーランド王国からの公的文書である事を示す、竜の紋章付きの封が施された封筒の中に、やや厚めの紙束が入っているようだが。

 

 「親書…ですか?私に?」

 「そうだ。貴様には単騎でパンデモニウムに赴き、我が国の使者となってもらう。かなり危険を伴う任務ではあるが、我が国が誇る優秀な竜騎士である貴様だからこそ頼める、極めて重大な任務だ。」


 この話の流れの中で、自分に親書を魔王カーミラに託せとは…一体チェスターはどういうつもりなのか。

 だがここでチェスターは、さらにセレーネの心に揺さぶりをかける、悪魔の一言を発したのだった。 


 「それを無事に届けた暁には、貴様の熱意に敬意を表し、ラインハルトの営倉入りを解除してやろうではないか。」

 「なっ…!?」


 突然ラインハルトの名前を出されたセレーネが、途端に困惑の表情を浮かべる。

 そして困惑しながらも、チェスターに念を押して確認したのだった。

 

 「本当ですね!?二言はありませんね!?」

 「無論だ。余を何だと思っているのだ貴様。」


 心の底から暴君だと思っているのだが。

 それを決して口に出す事無く、セレーネは兵士から丁重に差し出された親書を受け取った。

 チェスターの真意はよく分からないが、それでもこの親書を魔王カーミラに届けさえすれば、ラインハルトを解放すると言っているのだ。


 先日、パンデモニウムへの侵略行為を行った直後で、魔族たちの怒りゲージがMAXになっている状況下において、単騎でパンデモニウムに赴き魔王カーミラに直接親書を届ける。

 チェスターの言うように相当危険を伴う任務だ。セレーネにしか頼めないというチェスターの言い分も一理あるだろう。

 並の使い手では親書を届けに行ったのはいいが、魔族たちに迎撃されて殺される…なんて事にもなりかねないからだ。

 エキドナに無様に敗れたとはいえ、手傷を負わせた程の実力者であるセレーネだ。しかも使者を任せるに値するだけの品格も充分にある。

 確かにチェスターが言うように、セレーネこそが一番の適任者なのかもしれないが。

 

 「承知致しました。では念の為に親書の内容を確認しても?」

 「駄目だ。それを魔王カーミラに届けるまで、貴様が封を開ける事は決して許さん。いいか?絶対にそのままの状態で魔王カーミラに届けるのだ。よいな?」


 親書とは国からの公的文書であり、極めて重大な意味合いが込められている代物だ。

 内容によっては当事者以外には決して知り得てはならない、極めて重大な内容の文書が書かれている事も充分に有り得る。

 それ故に第三者の使者でしかないセレーネが許可無く開封し、まして中身を確認するなど、到底許される事ではないのだ。


 先日ラインハルトが魔王カーミラからの親書の内容を確認した際、事前に魔王カーミラの承諾を得た上で本人の目の前で行ったのは、そういう理由があっての事なのだ。

 それは政務上当然の事ではあり、セレーネも騎士という立場上、そんな事は重々承知しているのだが。


 「…はぁ、分かりました。」


 何か引っ掛かる物を感じるのは、セレーネの気のせいなのだろうか…。


 「では飛竜の朝食の世話が終わり次第、直ちに出立致します。」

 「うむ。貴様の働き、期待しておるぞ。」

 「ラインハルト様の解放も期待していますからね?」

 「くどい。さっさと行かぬか。」

 「…はっ!!」


 チェスターに敬礼し、王室を去っていくセレーネだったのだが。

 次の瞬間チェスターが兵士に、とんでもない命令を下したのだった。


 「…おい!!セレーネが出立次第、直ちにパンデモニウムへの出撃準備を整えよ!!」

 「はあ!?」


 全く予想もしていなかったチェスターからも無茶苦茶な命令に、兵士は困惑の表情を浮かべる。

 当然だろう。ついさっき、たった今、セレーネに「魔王カーミラに親書を届けろ」と命令したばかりではないか。

 それなのに出撃準備をしろとは…一体チェスターは何を考えているのか。

 

 「あの…陛下。セレーネ殿に魔王カーミラへの親書を託されたのですよね?」

 「だから何だ!?直ちに出撃準備を整えろと言っておるのだ!!」

 「なのにパンデモニウムに武力介入するんですか!?セレーネ殿が親書を魔王カーミラに渡しに行くのに!?」

 「そうだ!!うだうだ言ってないでさっさと動かんか!!」

 「え!?…えええ!?…えええええええええええええええ(困惑)!?」


 あの親書には、一体どんな内容の文書が書かれているというのだろうか…。


 「それで、ラインハルト様はどうなさるんです?パンデモニウムに武力介入するなら、当然あの方の力も必要になるのでは?」

 「あんな甘ちゃんなど、戦場にいた所で邪魔になるだけだ!!今回の侵攻作戦は余が自ら指揮を執る!!余自らが奴らを完膚無きまでに叩きのめしてくれるわ!!」

 「へ、陛下自らが戦うと仰られるのですか!?」

 「そうだ!!聖斧デュランダルの用意をさせろ!!魔王カーミラ如き、余の暗黒流角竜斧あんこくりゅうかくりゅうふの餌食にしてくれるわぁっ!!」

 「は、ははーーーーーーーっ!!」


 慌ててその場を去っていく兵士の後ろ姿を見つめながら、チェスターが威風堂々と立ち上がる。


 「思い知るがいい魔王カーミラ!!余の優れた策略の前に慌てふためくがいいわぁっ!!ふはははははははははは!!」


 妖艶な笑みを浮かべながら、自らの勝利を信じて疑わないチェスターが、その場で高笑いしたのだった…。

次回はセレーネと魔王カーミラの邂逅。

セレーネを処刑するべきだと迫るドノヴァンを押し切り、セレーネを客人として丁重に迎え入れる魔王カーミラ。

ですがチェスターの卑劣な謀略が、魔王カーミラに襲い掛かり…。

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