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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第4章:魔王カーミラ
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第25話:暴君チェスター

魔王カーミラに敗れ、無様に敗走を喫したラインハルトらサザーランド王国騎士団。

その疲れを取る暇も与えられないまま、即座にチェスターから出頭命令を下されたラインハルト。

魔王カーミラから託された親書をチェスターに渡すラインハルトですが…。


もうどっちが魔王だか分かったもんじゃねえよwwwwwww

 夕刻にパンデモニウムから帰還したラインハルトだったが、それでも休む暇も与えられないまま、帰還直後にチェスターに玉座への出頭を命じられた。


 あれだけ激しい戦いの後だったというのに。

 ラインハルト様も相当疲れていらっしゃるのに。

 報告なら明日でも駄目なのか。


 セレーネが顔を赤くしながら、そんなような愚痴をラインハルトにこぼしたのだが…それをラインハルトが苦笑いしながらいさめたのだった。


 兵士たちからの敬礼を受けながら、チェスターが待つ玉座の扉を開けるラインハルト。

 ラインハルトの視線の先で、物凄く不機嫌そうな表情のチェスターが、玉座にどっかりと座りながら威風堂々とラインハルトを睨みつけている。

 チェスターの前に凛とした態度で歩み寄り、跪くラインハルト。


 「陛下。ラインハルト、お呼び預かりにつき只今出頭致しました。」

 「うむ。先刻のパンデモニウム攻略作戦の件、既に報告を受けておる。ラインハルト。貴様、またしても無様に敗走を喫したそうだな?」

 「は、面目次第も御座いません!!」


 とても申し訳無さそうな表情で、チェスターに頭を下げるラインハルト。

 部下が戦場から帰還したばかりだというのに、激しい戦闘の後で疲れ切っているというのに、チェスターはラインハルトに全く労いの言葉も寄越さなかった。

 そんなチェスターの態度に、周辺の兵士たちの誰もが怪訝な表情を浮かべるものの、懲罰を恐れて誰1人としてラインハルトを擁護しようとしない。

 もしそんな事をしようものなら、最悪の場合は国家反逆罪や抗命罪の罪に問われ、自分のみならず連帯責任として、家族や友人、恋人までもが懲罰を受ける可能性があるからだ。

  

 「余は貴様に命じたはずだ。民間人を人質に取り魔王カーミラを脅せと。あの汚らわしい魔族たちを一匹残らず皆殺しにしろと。」

 「は…!!」

 「それなのに貴様は余の命令に造反し、全く民間人を攻撃しなかったそうではないか!!挙句の果てに魔王カーミラに一方的になぶり殺しにされた挙句、情けをかけられて見逃されるとは!!貴様本気でこの戦いに勝つ気があるのかぁっ!?」


 興奮して顔を赤らめながら、チェスターがラインハルトにひらすら暴言を吐き続ける。

 このチェスターの暴虐な態度が、彼の国王としての器量の無さを顕わにしてしまっていると言えるだろう。

 少なくとも魔王カーミラやクレアなら、同じ状況なら真っ先に疲れ切ったラインハルトを気遣い、労ってくれるはずなのに。

 それなのに、何故こんな事になってしまうのか。

 

 「…陛下。お言葉ですが、陛下にどうしてもお伝えしておきたい事があります。」

 

 そんなチェスターの理不尽な叱責に全く怯む事無く、ラインハルトは真っ先にチェスターを見据える。

 どうしてもチェスターに伝えなければならないのだ。魔王カーミラの想いを。魔王カーミラの決意を。


 「私は先の戦いにおいて魔王カーミラと交戦したものの、無様に敗北を喫した上に情けをかけられ見逃され、こうして生き恥を晒す結果となってしまいました。」

 「その通りだ!!貴様は騎士として恥ずかしいとは思わんのかぁっ!?」

 「ですが現在の魔王カーミラは先代の魔王カーミラとは違い、決して残虐非道な女性では御座いません!!」

 「何ぃ!?女性だと!?魔王カーミラが女だったと言うのか!?」

 「は!!母性や慈愛、優しさに満ち溢れた、とても美しく聡明な魔族の女性でした!!」


 それだけ告げてラインハルトは立ち上がり、あの戦いの後に魔王カーミラから託された親書をチェスターに手渡したのだった。

 そして後ろに下がり、またしてもチェスターに跪く。


 「そちらの親書は私が魔王カーミラより、陛下宛てに託された物です!!是非陛下に目を通して頂ければ!!」

 「魔王カーミラからの、余への親書だと…!?」

  

 自分は先代の魔王カーミラとは違う。

 決して他国の人間たちを攻め落とし、奴隷として扱うような真似はしない。

 だがそれでも敵対し続けるというのであれば、決して容赦はしない。


 そんなような内容の文書が書かれた、魔王カーミラの想いと決意が込められた親書に、チェスターが静かに目を通していたのだが。


 「陛下!!その親書に書かれているように、魔王カーミラは我が国にとって決して危険な存在などではありません!!我々に対して決して干渉はしない、ただパンデモニウムで他の魔族たちと静かに暮らしていたいだけだと、私は彼女に直接告げられました!!」

 「………。」

 「そのような者を相手にこれ以上侵略攻撃を加えるなど、それこそ陛下が仰るような『騎士として恥ずかしい行為』だと、そう私は解釈しております!!陛下はどうお考えなのでしょうか!?」

 「………。」

 「その親書を読まれた上でなお、パンデモニウムへの侵攻を命じられるというのであれば、それこそ我々は正真正銘の犬畜生に成り下がってしまいます!!」

 「………。」

 「陛下!!どうか!!どうか!!今一度ご再考を!!」


 何しろ魔王カーミラは、決してこちらから人間たちに攻撃はしないと、そう親書で断言してしまっているのだ。

 そのような者をさらに攻撃するというのは、それこそ騎士道精神など存在しない、ただの侵略者に成り下がってしまう愚劣な行為なのではないか。それこそ他国からの笑い物にされてしまうのではないのか。

 親書を読んだチェスターが、少しでもそういう考えに至ってくれれば…それを期待したラインハルトだったのだが。


 「…何だ貴様…!!魔王カーミラに誘惑されたか!?それとも魔王カーミラに洗脳でもされおったかぁっ!?」


 そんなラインハルトの願いも虚しく、チェスターがラインハルトに激怒したのだった…。


 「いえ、決してそのような事は!!」

 「おおおおおい!!おおおおおおおおおおおおおおおい!!おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!」


 顔を真っ赤にして興奮しながら、魔王カーミラの想いと決意が込められた親書を乱暴にバラバラに破り、グシャグシャに固めてラインハルトに投げつけ、叩きつけるチェスター。

 乾いた音を立てて、グシャグシャになってしまった親書がラインハルトの顔面に直撃する。

 

 「向こうから攻撃しないから何だと言うのだ!?そんな物は余の知った事ではないわ!!それに奴らは汚らわしい魔族なのだぞぉっ!?」

 「しかし陛下!!」

 「貴様ぁ!!まだ余に意見するつもりかぁっ!?騎士如きが国王である余に意見など、許されるとでも思っているのかぁっ!?」


 一体ラインハルトの事を何だと思っているのか。

 もうどっちが魔王なのか、分かった物ではなかった…。


 「…陛下。1つだけ、1つだけ陛下に、どうしてもご確認したい事が御座います。」


 それでもラインハルトは引く訳には行かなかった。

 あれだけの母性と慈愛の心に満ち溢れた、およそ魔王と名乗るのには到底相応しくない魔王カーミラを、何としてでも守らなければならないのだから。

 そうしなければラインハルトは騎士道精神など欠片も無い、ただの犬畜生に成り下がってしまうのだ。


 「陛下は何故そこまでして、パンデモニウムの侵攻にこだわるのでしょうか!?彼女らに他国への侵略意思など無いと知ってもなお、そこまで魔王カーミラを討ち取ろうなどとお考えになるのは何故なのでしょうか!?」

 「何ぃ!?」

 

 ラインハルトからの問いかけに、チェスターが思わず眉をひそめる。

 やはり魔王軍が密かに実用化に成功した、転生術の鹵獲ろかくが目当てなのだろうか。

 周囲に他国からの密偵が潜んでいる可能性がある上に、どこから情報が洩れるか分かった物ではないので、ラインハルトは敢えて「転生術」という言葉を直接口にしなかった。

 理由は簡単だ。もし他国にバレようものなら、他国もまた転生術欲しさに一斉にパンデモニウムの攻略を企てるかもしれないからだ。

 魔王カーミラやパンデモニウムの人々を守る為にも、それだけは絶対に避けなければならないのだ。


 何しろ転生術の実用化に成功しているのは、表向きにはフォルトニカ王国だけだという事になっているからだ。

 その転生術を目当てにエリクシル王国がフォルトニカ王国に侵略行為を仕掛け、両軍共に死傷者を出した戦争状態になったばかりではないか。

 それに他国の騎士団の指揮官がラインハルトのように、民間人に絶対に被害を出さないような作戦を立ててくれるとは限らないのだ。

 これ以上の戦乱を起こす事は、絶対に避けなければならない。ラインハルトはそれを強く願っていたのだが。

 

 「何だ貴様の余に対しての、その反抗的な態度はぁっ!!」

 「陛下…っ!?ぐはあっ!!」

 「おおおおおおおおおおい!!おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!」

 「ぐはっ!!がはあっ!!」


 玉座から立ち上がったチェスターが、自分に跪くラインハルトに殴る、蹴るの暴行を加え続ける。

 騎士としての立場上、反抗する事も出来ず、ただ暴行を受け続けるしかないラインハルト。

 ここでラインハルトがチェスターに反抗でもしようものなら、国家反逆罪や抗命罪に問われ、自分のみならず部下たちやその家族、友人、恋人にまで連帯責任に問われ、厳罰を下される事にもなりかねないのだ。

 それを恐れ、ただひたすらチェスターの暴力に耐え続けるラインハルト。


 周囲の兵士たちもチェスターの懲罰を恐れ、誰もラインハルトを助けようともしなかった。

 誰もがひたすらに苦虫を噛み締めたような表情で、目の前で暴行を受け続けるラインハルトを助ける事が出来ずにいる。


 「はぁっ、はぁっ、はぁっ…クズが!!クズがクズがクズがぁっ!!」

 「へ、陛下…っ!!」

 「貴様如きが余の崇高な理念を理解する必要など無いわ!!貴様らはただ余の命令に従っていればそれで良いのだぁっ!!」


 存分にラインハルトに暴行を加えたチェスターが、息を切らしながら玉座に座り直してラインハルトを睨みつける。

 何とか立ち上がったラインハルトは鼻から血を流しながら、とても悔しそうな表情でチェスターに再び跪く。

 そうしなければ、くどうようだが国家反逆罪や抗命罪に問われかねないのだから。


 そんなラインハルトの心情など知った事ではないと言わんばかりに、チェスターはラインハルトに対して、さらに理不尽な命令を下したのだった。


 「ラインハルト!!貴様には当分の間、営倉入りを命じる!!次のパンデモニウムへの侵攻作戦までに存分に頭を冷やしておけ!!いいな!?」

 「…はっ!!」

 「おらおら、とっとと連れて行けぇっ!!」


 近くに控えていた兵士たちに対し、横暴に命令を下すチェスターだったのだが。


 「し、しかし陛下、ラインハルト様を投獄するなど、それは流石に民からのひんしゅくを買うのでは…!?」

 「よし分かった!!貴様と家族全員、抗命罪で1年間の強制収容所行きを命じる!!貴様には確か恋人もいるのだったな!?そいつとその家族も一緒にまとめてだ!!」


 流石に見かねて反論した兵士の1人に、ブチ切れたチェスターが無茶苦茶な事を言い出したのだった…。


 「え!?そ、そんなぁっ!!陛下、どうかお許しをぉっ!!」

 「ならば貴様、今から余への忠義を存分に示してみせよ!!今から余が良いと言うまでラインハルトを殴り続けるのだ!!」

 「そ、そんな…!!大恩あるラインハルト様を殴り続けるなんて、俺にはとても…!!」

 「そうすれば貴様らへの抗命罪は帳消しにしてやると言っているのだ!!分かったのならさっさとやらんかあっ!!」

 「し、しかし…!!」


 見かねたラインハルトが穏やかな笑顔で、兵士の肩をポン、と叩いた。

 そして…。


 「構わない。やってくれ。」

 「ラ、ラインハルト様…!!」

 「お前や家族、そして恋人を、強制収容所に行かせる訳にはいかないからな。」

 「くっ…!!」


 確かにラインハルトの言う通りだ。自分1人だけが強制収容所送りになるならまだしも、自分のせいで家族や恋人まで巻き込む訳にはいかないのだ。

 ラインハルトに促された兵士が、断腸の想いでラインハルトの頬を殴ったのだった。


 「うわあああああああああああああああああああああっ!!」


 チェスターが見ている前で、泣きながらラインハルトを殴り続ける兵士。

 それを他の兵士たちは、とても悔しそうな表情で、ただ黙って見ている事しか出来なかった…。

 誰もが心の中でチェスターを侮蔑し、ラインハルトに謝罪をしながら。

 これが、こんな男が、国の最高責任者たる国王のあるべき姿だというのか。

 神は何故このような愚劣な男に、国王という地位を与えてしまったのか。

 兵士たちの誰もが、そのような恨み事を心の中でこぼしていたのだった。 


 それから10分間、兵士はラインハルトをひたすら殴り続けたのだが。 


 「はぁっ…はぁっ…はぁっ…!!」

 「よーし、もう良い。もう分かった。貴様の余への忠義は存分に見せて貰った。」

 「あ、ありがとうございます!!陛下!!」

 「うむ。今の余は非常~~~~~~~~に気分が良い。よって貴様らへの抗命罪は却下とする。余の温情に感謝するのだ。良いな?」

 「ははーーーーーーっ!!」


 その10分間が、兵士には1時間近くに感じられたのだった…。

 涙を流しながら、心の中でラインハルトに謝罪する兵士。


 「よーし、その馬鹿を牢屋に連れて行け!!」

 「…はっ!!」


 涙を流しながら、ラインハルトを殴り続けた兵士が、ラインハルトを牢屋へと連行する。

 それを止める事も出来ず、ただただ悔しそうな表情で歯軋りする他の兵士たち。


 「…全く、どいつもこいつもクズ共が。」


 そんな部下たちを、チェスターがどっかりと玉座に腰を下ろしながら、侮蔑の表情で見つめていたのだった…。

次回はパンデモニム城での会議です。

魔王軍といえども、決して一枚岩ではない。そんなお話になります。

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