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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第4章:魔王カーミラ
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第22話:攻撃命令

今回から新章開始。

しばらく太一郎たちの出番は無く、新キャラのラインハルトが当面の主人公となります。

前回シリウスの口から「魔王軍と度々小競り合いになっている」と語られた、サザーランド王国が舞台です。


今回の話から、これまで名前しか語られなかった魔王カーミラが、いよいよ本格的に物語に関わっていく事になります。

 遥か昔、まだこの世界の文明がそれ程発展してはいなかった頃。

 かつて魔族たちは人間たちと共存共栄を果たし、互いに助け合いながら静かで平和な日々を送っていた。

 だがある日、人間と魔族…種族が違うが故の文化や価値観の違いが原因で、両者のほんの些細な揉め事がやがて大きな争いへと…そして壮絶な戦争へと発展してしまう。

 人間と魔族、共に多くの犠牲を出しながらも、戦争は人間たちの勝利で何とか終結。

 だがこの戦争によって受けた傷跡はあまりにも大きく、人間と魔族の関係修復は最早不可能になってしまった。


 やがて長い年月が流れる内に、魔族たちはかつて共存していた人間たちから迫害されるようになってしまい、住処を追われた魔族たちは辺境の荒野に魔族だけの国家・魔都パンデモニウムを設立。

 そこで魔族だけで静かに暮らしていたものの、長い年月の果てにかつての共存共栄の過去の歴史が人間たちに忘れ去られてしまい、いくつかの国家が正義の名を振りかざし、パンデモニウムに度々侵略行為を仕掛けるようになってしまう。


 これに対抗する為に、魔族たちは開発に成功したばかりの転生術で、自分たちの救世主になってもらうべく異世界の人間を召喚。

 こうして向こうの世界から転生させられた39歳の童貞ニートの男性は魔族へと転生し、かつて人間と魔族の戦争の際に多大な功績を残した魔族の勇者・カミラスのように、自分たちを救って欲しいという願いから、魔族たちから「魔王カーミラ」と呼ばれるようになる。


 魔族たちは魔王カーミラに懇願した。どうか我々を助けて欲しいと。

 迫りくる人間たちの脅威から、どうか自分たちを守って欲しいと。

 果たして魔王カーミラは、転生した際に身に着けた強大な力・『異能【スキル】』の恩恵もあり、侵略行為を仕掛けた各国の人間たちを次々と返り討ちにする。

 魔族たちは誰もが喜んだ。これで我々は救われると。人間たちの迫害から守ってくれる救世主がようやく現れたのだと。

 …だが。


 「陛下。ラインハルト、お呼び預かりにつき只今参上致しました。」

 「うむ。入れ。」

 「はっ、失礼致します。」


 フォルトニカ王国の遥か東に位置する、魔都パンデモニウムの隣国であるサザーランド王国。

 威風堂々と城の王室の扉を開けた騎士団の青年・ラインハルトの視線の先にいるのは、玉座にどっかりと腰を下ろし自分を睨みつけている中年の男性…サザーランド王国の国王・チェスター。

 凛とした態度で、ラインハルトはチェスターが座る玉座へと歩み寄る。

 そして周囲の兵士たちが次々とラインハルトに敬礼する最中、チェスターの前に歩み寄ったラインハルトは、その場でチェスターに対してひざまずいたのだった。


 「よく来てくれたなラインハルト。表を上げよ。」

 「は。」

 「今回、貴様を呼んだのは他でもない。パンデモニウムの攻略作戦についてだ。」


 チェスターの言葉に、ラインハルトは苦虫を噛み締めたような表情になる。

 何故ならチェスターの命令でパンデモニウムを何度も攻撃しているものの、その度にサザーランド王国騎士団は敗走を繰り返しているからだ。


 「新たな魔王カーミラがパンデモニウムに顕在してから、既に2か月が過ぎておるな。」

 「は、仰る通りで御座います。」

 「その2か月の間、貴様ら騎士団は今まで何をやっておった?未だにパンデモニウムを落とせんとは一体どういう事なのだ?」

 「ははっ、面目次第も御座いません!!」


 チェスターの厳しい視線と言葉に、ラインハルトはただただ平伏するしか無かった。

 新たな魔王カーミラがこの世界に現れてからというもの、チェスターはラインハルトら騎士団に何度もパンデモニウムの攻略を命じてきた。

 だがそれでも魔王軍の必死の抵抗、そして最新鋭の魔導兵器の驚異もあって、未だ魔王カーミラの元に辿り着く事さえ出来ていないのだ。それがチェスターの怒りを買ってしまっているのだ。


 チェスターは確信していた。世界中の国々が技術提供を要求している、フォルトニカ王国だけが実用化に成功している転生術を、パンデモニウムの魔族たちも秘密裏に実用化に成功しているのだという事を。

 そして魔王カーミラというのは、その転生術によって異世界からこの世界に召喚され、魔族たちから魔王として崇められている者の『総称』なのだという事を。


 だからこそチェスターはラインハルトたちに、早くパンデモニウムを落とせと急かしているのだ。

 転生術を自分たちの物にしてしまえば、彼らを戦略兵器として活用して他国に攻め入り、制圧し、自分がこの世界の王になる事も夢では無いのだから。

 何しろ転生術さえ手に入れてしまえば、あの『閃光の救世主』に匹敵する戦力を、自らの思うがままに出来るかもしれないのだ。


 「『雷神の魔術師』の異名を持つ貴様程の男が、一体何を手間取っておるのだ。さっさとパンデモニウムを落として見せんか。」

 「…陛下。恐れながら、上申させて頂きます。」

 「何だ?申してみよ。」

 「は、パンデモニウムは強力な魔導兵器を数多く有しており、また魔王軍の戦力も侮りがたく、その守りは陛下がご想像なされている以上に、極めて強固な物となっております。」

 「だから何だ?それを何とかするのが貴様の仕事だろうが。」

 「懸念材料はそれだけでは御座いませぬ。いかに魔族と言えど、パンデモニウムの城下町には無抵抗の民間人も数多く居住しております。彼らを犠牲にする事無く攻略作戦を行うとなると、こちらも入念に作戦を練る必要が…。」


 いかなる理由があろうとも、例え相手が魔族だろうとも、戦闘に無抵抗の民間人を巻き込む事だけは絶対に避けなければならないのだ。

 そんな事をすれば、それは最早戦争ではない。ただ暴力的に力を振るうだけの『虐殺』でしかないのだから。

 だが。


 「…貴様は馬鹿か?」

 「は!?」


 そんなラインハルトの騎士道精神を、チェスターは情け容赦なく侮蔑したのだった。


 「民間人だから何だというのだ。相手は汚らわしい魔族共だぞ。むしろ魔族共を全員根こそぎ皆殺しにする位の気概で戦わんか。愚か者めが。」

 「しかし陛下!!」

 「まさか貴様、今までそんな甘っちょろい事を考えながら、奴らと戦ってきたとでも言うのではあるまいな?」

 「は、それは…!!」

 「そんな事だから貴様は何時まで経ってもパンデモニウムを落とせんのだぞ。むしろ民間人を人質に取り、魔王カーミラを脅す位の気概を見せんか。」

 「何を馬鹿な事を言っているのです!?そんな事をすれば我々は…!!」

 

 ただの犬畜生に成り下がってしまいます!!

 チェスターにそう訴えようとしたラインハルトだったのだが。


 「…ラインハルト。貴様、余の言葉に意見するつもりか?」


 冷酷な瞳で、チェスターはラインハルトに脅しをかけたのだった。

 いかにサザーランド王国の英雄と言えども、たかが騎士団に所属する一介の兵士如きが国王に意見するなど、到底許されるはずがないのだ。


 「いえ!!決してそのような事は!!」

 「これ以上の問答は無用だ。貴様ら騎士団には明日の明朝8時より、パンデモニウムの制圧作戦の実行を命じる。奴ら汚らわしい魔族共を生かしておく必要は無い。民間人だろうと一匹残らず皆殺しにするのだ。よいな?」

 「…はっ!!」


 チェスターへの反論をぐっ、と口の中に飲み込みながら、立ち上がってチェスターに敬礼し、その場を去っていくラインハルト。

 何しろこれは、ラインハルト1人だけの問題ではない。

 これ以上チェスターに反論しようものなら国家反逆罪や抗命罪の罪に問われ、ラインハルト自身だけでなく彼の部下たちや家族にまで、連帯責任として重い懲罰が下される可能性がある。

 ラインハルトは騎士団の隊長として、サザーランド王国の英雄として、彼らの命と尊厳を守らなければならないのだ。


 兵士たちの敬礼を受けながら王室から出て、扉を閉めるラインハルト。

 チェスターから下されたあまりの理不尽な命令に、ふうっ…と、大きな溜め息をついたのだが。


 「ラインハルト様!!」

 「セレーネか。」


 セレーネと呼ばれた1人の騎士団の若い女性が、とても心配そうな表情でラインハルトに駆け寄ってきた。


 「陛下からは、一体どのようなお話を…!?やはり先日のパンデモニウム制圧作戦の失敗を、お咎めになられたのでしょうか!?」

 「うむ。だがそれだけではない。またパンデモニウムの制圧を命じられたよ。明日の明朝8時には出撃しろとの事だ。」

 「そんな、我が軍があれだけの損害を受けたばかりだというのに…!!陛下は一体何をお考えになられているのでしょうか…!!」


 先日の攻略作戦による損害もそうだが、生き残った兵士たちも度重なる連戦に次ぐ連戦により、相当疲労が溜まってしまっている。

 にも関わらず、兵士たちの体調を全く考慮せず、また戦場に赴けなどと…チェスターは一体兵士たちを何だと思っているのか。


 いや、兵士たち以上にラインハルト自身も、相当な心労が溜まっているはずだ。

 自ら戦場の最前線で戦っているだけでなく、作戦の立案、部下たちへの指揮を行い、その上で民間人に絶対に被害を出さないように、常に戦場で神経を張り詰めてしまっているのだから。

 とても心配そうな表情で、セレーネはラインハルトを見つめている。

 このままではラインハルトがフォルトニカ王国の『閃光の救世主』のように、過労で倒れてしまわないだろうか…それをセレーネは危惧しているのだ。


 これまでのパンデモニウム攻略作戦においては、ラインハルトの卓越した指揮能力と『雷神』の如き活躍のお陰で、サザーランド王国騎士団の被害は何とか最小限で済ませる事が出来ていた。

 だがそれにも限界があるだろう。どれだけ英雄と呼ばれていようとも、ラインハルトとて生身の人間なのだから。


 実際に『閃光の救世主』もフォルトニカ王国の女王クレアの酷使が原因で、風邪と過労がたたって魔物との戦闘中に倒れてしまっているのだ。

 これには流石のクレアも猛省し、いけない事だと分かってはいたが、つい彼に頼り過ぎてしまっていたと記者会見で謝罪。

 今後は何があろうとも週に2日の休みを必ず与えるようにしたと、この間の新聞の社会面で大きな記事で掲載されていたのだが。

 このままではラインハルトも同じ事になってしまうのではないかと…それをセレーネは危惧しているのだ。


 「だがそれでも、陛下は今度こそパンデモニウムを落とせと私に命じられた。ならば私は騎士団の隊長として、その陛下の期待に応えなければならぬ。」


 そんなセレーネの心情を察したのか、セレーネを心配させまいと、ラインハルトはとても気丈な態度でセレーネに接したのだった。

 だが。


 「ラインハルト様…。」

 「いずれにしても、相当厳しい戦いになりそうだがな。何故か奴らの方から我が国に全く攻めて来ない事が、私にはいまいち理解出来ないのだが…。」


 そう、それがラインハルトが以前から疑念を抱いている事なのだ。

 これまでにチェスターからの命令で、ラインハルトらサザーランド王国騎士団は、もう何回にも渡ってパンデモニウムに攻撃を仕掛けてきた。

 その度に魔王軍の必死の抵抗、そして魔王軍が有する強力な魔導兵器の脅威もあって敗走を繰り返してきたのだが、何故か魔王軍の方からサザーランド王国に反撃を仕掛ける素振りを全く見せていないのだ。

 そんなラインハルトの懸念に対し、チェスターは


 「奴らは我が軍の脅威に恐れを成しているのだあ!!ぶわっははははははははは!!」


 などと楽観的に構えているのだが…果たして本当にそうなのだろうか。


 魔導兵器に関しては極めて強力な兵器ではあるものの、移動して使う事が出来ない、あるいは移動させるのに物凄く手間がかかる、固定式の兵器ばかりだという致命的な弱点がある。

 だからこそ魔王軍は守る事に関しては圧倒的な強さを誇るが、向こうから攻める事に関してはリスクを伴うのだ。

 それを理由に攻めてこないという事も考えられるのだが…幾ら何でもそれは希望的観測過ぎるのではないだろうか。


 何故なら先代の魔王カーミラは、そんな事はお構いなしに他国にガンガン侵略を仕掛けてきたからだ。

 そしてその圧倒的な軍事力、魔王カーミラ自身の圧倒的な強さもあって、これまで多くの国々が制圧され、多くの人々が奴隷として扱われてきたのだ。

 なのに現在の魔王カーミラは、何故それをしないのだろうか…。

 

 「とにかく我が軍は、明日の明朝8時にパンデモニウム攻略作戦を実行する。お前は兵士たちに陛下からの命令を伝達しておいてくれ。」

 「は!!了解しました!!」

 「頼んだぞ。私は今から自室に戻り、作戦の立案をする。」


 敬礼してその場を去っていくセレーネを見送りながら、ラインハルトは厳しい表情で、悲壮な決意を胸に秘めたのだった。

 今度こそ…今度こそ、自分たちの手で魔王カーミラを倒し、パンデモニウムを制圧し、こんな馬鹿げた戦いを終わらせるのだと。


 (そうだ、魔王カーミラさえ倒してしまえば、それで全ては終わるのだ…!!こんな馬鹿げた戦いは、今度こそ私の手で終わらせてやる…!!)


 両拳をぎゅっと握り締めながら、ラインハルトは城の窓から、美しい夕陽を見つめていたのだった。

次回はサザーランド王国騎士団と魔王軍の死闘が開始。

魔王カーミラもようやく初登場します。


その圧倒的な強さと優れた戦術により、魔王軍を追い詰めるラインハルトですが…。

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