第20話:怒りのサーシャちゃん
サーシャちゃんのヤキモチ・ザ・ライトニング。
そして、とばっりちを受けるケイトwwwww
鈍感にも程がある太一郎wwwww
「い、いいですかケイト。太一郎さんたちが店から出てきたら、あくまでも偶然を…そう、偶然を装って駆けつけるのですよ?」
「はぁ。」
太一郎たちがキャバクラに足を運んでから、そろそろ1時間が経とうかという頃…相変わらずサーシャとケイトが物陰に隠れながら、じ~~~~~~~~っとキャバクラの入り口を睨みつけていたのだが。
「今日はご来店頂きまして、本当にありがとうございました。」
「いや、僕の方こそ楽しかったよ。ありがとな、ナタリア。」
ナタリアたちキャストの女性たちからの見送りを受けながら、太一郎たちが店から出てきたのだった。
「…来た!!行きますよケイト!!」
「はぁ。」
「太一郎さ~ん!!」
それを確認したサーシャがケイトと共に、両手に高級ワインを大事そうに抱えながら、慌てて太一郎たちの所に駆け付ける。
「き、『奇遇』ですね、こんな所で出会うなんて。」
「サーシャとケイトじゃないか。こんな時間にこんな所で、一体どうしたんだい?」
「た、『たまたま』この辺りに用事があったのですが、ぐ、『偶然』太一郎さんの姿を見かけたので、声を掛けたのですよ。」
「そうなのか。」
サーシャのような未成年の可憐な少女が、一体こんな時間にこんな場所に、何の用事があったんだろう。
怪訝に思う太一郎だったが、深く考えるのは止めておく事にした。
太一郎と同じようにサーシャだってプライベートな時間に、のんびりを羽を伸ばしたい時くらいあるだろうから。
これ以上詮索するのは、プライパシーの侵害という奴だ。
「…オホン。ところで太一郎さん、今日は一体どうしてこのようなお店に?」
だがサーシャのこの問いかけに、アベルたちは戦慄する事になってしまう。
鈍感な太一郎は気付いていないようだが、なんかサーシャの全身から、物凄い漆黒のオーラがほとばしっていたのだから。
やばい。やばいやばいやばい。アベルたちは一瞬で察したのだった。
サーシャはキャストの女性たち…特に太一郎を直接接客したナタリアに対して、猛烈にヤキモチを焼いているのだという事を。
顔は笑っているサーシャだったが、目が全然笑っていなかった…。
もし…もし、太一郎をこの店に誘ったのが自分たち3人だという事実が、サーシャにバレてしまったら。
頭の中でそれを想像した瞬間、恐怖のあまり完全に酔いが冷めてしまったアベルたちなのであった…。
「ああ、夕食を食堂で食べた後、この辺りを1人で当てもなく散策していたんだけど、その時にたまたまこの3人に出くわしてさ。」
そんなサーシャの気持ちなど知らず、事実だけを笑顔で馬鹿正直に話す太一郎。
このままではサーシャのヤキモチ・ザ・ライトニングが、自分たちに向けて放たれる事になってしまう。
それを恐れたアベルが、必死に太一郎に耳打ちをしようとしたのだが。
(あの、太一郎殿…俺たちが太一郎殿をこの店に誘っ…)
「それでこの店に一緒に行かないかって、この3人に誘われたんだ。」
「「「ぎぃあああああああああああああああああああああ(泣)!!」」」
残念ながら、数秒遅かったようだ…。
「僕もキャバクラなんて今日初めて足を運んだんだけど、結構楽しかったよ?ナタリアにフルーツの盛り合わせを奢って貰えたし。ほら、トメラ村を救ったお礼だとか言われてさ。」
自分の思いの丈を、初めて足を運んだキャバクラの感想を、馬鹿正直に笑顔でサーシャに語る太一郎。
何でこんなにもアベルたちが焦ってるのか、太一郎にはよく分からなかったのだが。
「「「ちょっとおおおおおおおおおおおお!!何で馬鹿正直に姫様に話しちゃうんですか!?太一郎殿おおおおおおおおおお(泣)!!」」」
「え?言ったらまずかった?何で?」
きょとんとした表情の太一郎に、泣きながら抗議するアベルたちだったのだが。
「…ふ、ふーん…そうなんですか。この3人にねぇ…。」
もう何もかも手遅れだった…。
全身から漆黒のオーラを放ちながら、物凄い笑顔でアベルたちを睨みつけるサーシャ。
状況を察したナタリアたちも、自分たちにヤキモチを焼いているサーシャを、苦笑いしながら見つめていたのだった…。
「だ、大体太一郎さんは、体調不良から回復したばかりの病み上がりなんですよ!?それなのにこんな、べ、別にキャバクラ自体悪いとは言いませんよ!?ちゃんと営業許可を取って、法に則って正当な営業をしている訳ですから!!ですが病み上がりの人を行かせるような場所では無いでしょう!?」
サーシャが言っている事は物凄く正論なのだが、アベルたちにはサーシャのこの正論が、完全にナタリアたちにヤキモチを焼いているようにしか聞こえなかった。
と言うか、そもそも何でサーシャが、こんな時間にこんな所にいたのだろうか。
何となく察したアベルたちだったのだが。
「あの、姫様、さっき『偶然』とか『たまたま』とか『奇遇』とか言ってましたけど、もしかして俺らがこの店から出てくるのをずっと待っ…」
「あぁん(爆笑)!?」
「「「し、失礼致しましたあああああああああああっ(泣)」」」
なんかもう泣きそうな表情で両手でちんちんを押さえながら、物凄い笑顔のサーシャに頭を下げたアベルたちなのであった…。
そんな3人を無視し、不貞腐れながら太一郎に向き直ったサーシャ。
太一郎の為に自らの私費で購入した、高級ワインを抱える両手に力を込めるサーシャだったのだが。
「太一郎さん、そんなにお酒が飲みたいのなら、私が幾らでもお酌してあげるのに…!!」
「いや、僕は酒は飲めないんだ。」
「え(泣)!?」
あっさりと太一郎に拒絶されてしまったサーシャなのであった…。
「飲めない!?お酒を!?全然!?」
「うん。全然。だからこの店ではノンアルコールカクテルと、オレンジジュースを飲んでたんだよ。」
太一郎が酒を飲めない。
全く想定していなかった事態に、サーシャは戸惑いを隠せずにいた。
これでは折角太一郎の為に買ってきた高級赤ワインが、太一郎にとっては迷惑以外の何物でも無いではないか。
そりゃそうだろう。酒を飲めない者に飲酒をさせるなんてのは、向こうの世界でも新聞やニュースで報じられる程の問題になっている、立派なアルコールハラスメントなのだから。
こんな状況でサーシャが太一郎に高級ワインをお酌などしよう物なら、完全にサーシャの太一郎に対する悪質な嫌がらせだ。
まして太一郎が酒を飲めないという事実を、サーシャが知ってしまった後なのだから。
「ところでサーシャ、さっきから気になってたんだけど、そのワイン…。」
「ええ、姫様が太一郎殿の為に、自らの私費でご購入なさった物なのですが…。」
「本当かい!?なんか御免よサーシャ。僕なんかの為に、そんな高そうなワインをわざわざ用意してくれて…。」
ケイトの言葉で、とても申し訳なさそうな表情でサーシャに謝罪する太一郎。
「い、いえいえいえいえ!!いえいえいえいえいえいえいえいえいえいえ(泣)!!」
サーシャの心遣いに関しては本当に嬉しく思った太一郎だったが、それでも正直言って酒はどうしても飲めないのだ。
過去に向こうの世界で先輩の警察官に、忘年会の際に嫌だと言っているのに無理矢理ビールを飲まされた事があったのだが。
たった一口ビールを飲まされただけで、太一郎はめまい、息切れ、吐き気などの体調不良を起こして倒れてしまった。
それに慌てた先輩警察官が119番で救急車を呼び、太一郎を病院まで連れて行ったのだが、慌てて駆けつけた瑠璃亜が本気で激怒し、付き添った先輩警察官を物凄い剣幕で怒鳴り散らしたのだ。
飲酒を嫌がる太一郎に、何故無理矢理酒を飲ませたのかと。
警察官という国民の手本にならなければならない立場にある者が、何故部下に対してこのような嫌がらせとも取れる行為を平然と出来るのかと。
ビールを一口飲んだだけで倒れるなんておかしい、酒を飲むというのは社会人として必要なコミュニケーションの一環だと、先輩警察官は瑠璃亜に謝るどころか、逆に不服そうに反論したのだが。
とても苦しそうに嘔吐した太一郎の姿を見せつけられ、瑠璃亜の怒りは収まらなかった。
幸いにも病院側の迅速かつ的確な対処のお陰で太一郎は無事に回復したのだが、この件があってから太一郎は二度と酒は飲まない、社員旅行や宴会にも二度と行かないと心に誓ったのだ。
自分1人だけが苦しむのならまだしも、それで真由や瑠璃亜を心配させたのでは話にならないのだから。
だがそれでもサーシャが自分なんかの為に、自らの私費で買ってくれた高級赤ワインだ。
このまま腐らせてしまうのは勿体無い…そう思った太一郎が、あるとんでもない提案をしてしまったのだった…。
「そうだ、折角だからケイトにあげたらどうだい?」
「え(泣)!?」
いきなり太一郎に名指しされたケイトが、戸惑いの表情を浮かべてしまう。
「ほら、この間、僕が寝込んでる間、トメラ村を盗賊たちから命懸けで守ってくれたそうじゃないか。それを労う意味でさ。」
(太一郎殿おおおおおおおお!!貴方のその優しさと気配りは嬉しいんですけど!!嬉しいんですけれどもおおおおおおおおおおお!!)
太一郎にしてみれば、こんな高そうな赤ワインを誰にも飲まれる事無く廃棄されてしまう位なら、酒が飲める誰かに飲ませた方がいいんじゃないかと…そんな『当たり前の事』を言っただけなのだが。
何しろ太一郎の目の前に、飲める人間がいるのだから。
戸惑うケイトを物凄いジト目で、じぃ~~~~~~~~~~っと睨み付けるサーシャ。
「…ちっ。」
やがて舌打ちしながらサーシャは、ケイトに高級赤ワインを差し出したのだが。
それをケイトがサーシャから、とても大事そうに受け取った瞬間。
「ぐああああああああああああああああああああああああああああ(泣)!!」
あまりの『重さ』に耐え切れず、ケイトの両手が物凄い勢いで、地面に叩きつけられてしまったのだった…。
(お、重い!!姫様の太一郎殿への愛が、物凄く重いいいいいいいいいいいいいいいい!!)
そんなケイトの醜態など無視し、不機嫌そうに太一郎に向き直るサーシャ。
何でこんなにもサーシャが不機嫌なのか、マンボウみたいに頬を膨らませてるのか、太一郎にはよく分からなかったのだが…。
「…太一郎さん、さっさと帰りましょう。」
「え?でも…。」
「もうこんな時間ですし、それに太一郎さんはまだ病み上がりなんですから。明日も早いですし、ちゃんと身体を休めないと駄目ですよ?」
「う、うん、そうだね。」
「ほらほら、帰りましょう。さっさと帰りましょう。すぐ帰りましょう。」
太一郎の右手を左手で掴んで、無理矢理帰らせようとするサーシャ。
戸惑いながらも、サーシャにされるがままになっている太一郎。
苦笑いしながらナタリアたちは、去り行く太一郎に軽く手を振って見送ったのだった。
「ひ、姫様、お待ちを~~~~~~~~(泣)!!」
そんなサーシャと太一郎を、両腕で物凄く重たそうに高級赤ワインを抱えながら、慌てて追いかけるケイト。
なんかもう、大勢の市民たちが見ている目の前で、訳が分からない光景が繰り広げられていたのだった…。
ちなみにケイトがサーシャから貰った高級赤ワインは、この後ケイト、シリウス、レイナの3人で仲良く分け合って美味しく頂きました。
次回はシリウスとレイナが主役の話です。
太一郎の嫌がらせによって、宮廷魔術師としての信頼を失墜しつつあるシリウス。
職を失い路頭に迷いたくなければ、とっとと呪いを解けと無言の圧力を掛ける太一郎。
そんな太一郎に抗議すると主張するレイナに対し、シリウスは…。