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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第3章:それぞれの思惑
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第19話:キャバクラにて

無事に完全復活した太一郎ですが、繁華街を当ても無くブラブラしていた所へ、たまたま通りかかった3人の兵士たちと何故かキャバクラに行く事に。


その現場をサーシャに目撃されてしまい…。

 母親の瑠璃亜を失い、2人きりでこの異世界に飛ばされてしまった太一郎と真由ではあるが、それでも四六時中行動を共にしているという訳では無い。

 太一郎とてプライベートな時間に誰にも邪魔されずに1人きりで、羽を伸ばしたいと思う時だってあるのだ。


 ある日の夜7時、食堂での夕食を済ませた太一郎は、多くの人出で賑わう夜の繁華街に1人で繰り出していた。

 様々な店が立ち並ぶ繁華街で、多くの店員が笑顔で客引きを行い、それに釣られて多くの通行人が笑顔で足を止める。

 大通りは絶好の立ち食いスポットとなっており、ズラリと立ち並ぶ露店において、唐揚げ、焼き鳥、コロッケ、アイスクリーム、クレープ、フルーツパイなどの様々な軽食が売られており、それらを沢山の人々が笑顔で頬張りながら大通りを行き交っている。


 王都内での人々の幸せな光景、充実した笑顔…これらは全て太一郎と真由が、今まで命懸けの戦いによって守り抜いてきた代物なのだ。

 その証拠に多くの人々が太一郎に対して笑顔で手を振り、挨拶をする。

 太一郎と真由がこの国の人々から、強い信頼を勝ち取った証拠だろう。

 

 「これは太一郎殿。まさかこんな所でお会い出来るとは。」


 そんな最中、たまたま通りかかった私服姿の3人の兵士たちが、笑顔で太一郎に会釈したのだが。


 「やあ、カインとアベル。それにバーツじゃないか。」

 「我々のような下々の者の名前まで覚えて頂けるとは!!光栄です!!太一郎殿!!」

 「そりゃまあ、4日前のラムダ村での戦闘で一緒になったからさ。」


 フォルトニカ王国騎士団には膨大な数の兵士たちが所属しているのだが、それでも太一郎はこれまでに自分が担当した任務で同行した27人の兵士たちに関しては、全員の顔と名前を完璧に把握していた。

 理由は簡単だ。魔物や盗賊たちとの戦闘中に指示出しをしようにも、顔と名前が分からないのでは指示を出すのに支障が出るからだ。

 特に生きるか死ぬかの戦闘中においては、ほんの数秒の指示ミスや遅延が原因で、兵士たちの生死を分ける事にもなりかねない。

 だから太一郎は少なくとも自分が関わった兵士たちに関しては、顔と名前を完璧に把握するよう務めているのだ。


 向こうの世界での米軍の特殊戦闘部隊とかだと任務に支障をきたさないように、兵士たちをコードネームで呼ぶようなケースもあると聞いた事があるのだが。

 少なくとも太一郎は兵士たちに対して、そんな道具のように扱うような真似をするつもりは無かった。

 太一郎にとって兵士たちは、自分と共に生死を賭けて戦う『仲間』なのだから。


 「今日はこの繁華街に、一体どのようなご用命で?」

 「いや、そんな大層なもんじゃないよ。ただ当ても無く何となく1人でブラブラしていただけさ。」

 「でしたら、これから我々と一緒に飲みに行きませんか?可愛い女の子と一緒に美味い酒を飲める、いい店を知ってるんですよ~。」


 ニヤニヤしながら自分を誘うアベルに、太一郎は思わず苦笑いしてしまう。


 「…それって、もしかしなくてもキャバクラだよね(笑)?」

 「もしかしなくてもキャバクラですよ。太一郎殿も俺らと一緒に行きましょうよ。」

 「いや、僕は酒は飲めないんだけど…。」

 「大丈夫大丈夫。飲めない人の為にノンアルコールドリンクも豊富にありますから。ほらほらほら。あの店ですよ。」

 「ちょ…!?」


 有無を言わさず、太一郎はアベルに手を引っ張られてキャバクラへと連行されてしまう。


 「あ、すいません!!4名ですけど席空いてますか~!?」

 「はい、4名様、すぐにご案内出来ますよ!!」

 「この時間は仕事帰りに立ち寄る人とかも多いから、結構混むんですけどね。席が空いていて良かったですよ。」

 「4名様ご案内!!4名様ご案内!!皆様、こちらへどうぞ!!」


 客引きの男性に連れられて、店内の奥の広間へと案内された太一郎たち。

 向こうの世界で太一郎が何件か検挙した経験がある、ボッタクリの店とかじゃ無ければいいのだが。

 まあそのような店なら、とっくの昔に騎士団に取り締まられているはずだし、こんな人通りの多い繁華街で堂々と営業なんか出来ないだろうが。

 というか太一郎のような病み上がりの人間を、普通は連れて行くような場所では無いと思うのだが…。

 



 時間を少しだけ遡る。


 「ふふんふ~ん、ふ~んふふふ~ん♪」


 ダンボールで厳重に梱包された赤ワインの瓶を、両手で大事そうに抱えたサーシャが、護衛役のケイトと共に鼻歌を交えながら繁華街を歩いていた。

 風邪と過労でぶっ倒れる程の酷使をしてしまった太一郎への詫びと言っては何だが、サーシャが奮発して高級赤ワイン(値段は5シルバー。日本円にして5000円程度。)を、サーシャの私費で購入してきたのだ。

 ただサーシャも太一郎が酒を飲めないなんて知らなかったので、これが後にケイトに対して、とんでもない災厄として降りかかる結果になってしまうのだが…。

 

 「随分と奮発なされましたね、姫様。」

 「ええ、太一郎さんには随分と無理をさせてしまいましたから。これで今までの活躍をねぎらって、少しでも英気を養って頂こうかと思って。」

 

 この後、あの時のお茶会の時のように太一郎と真由を部屋に誘って、太一郎にこの高級赤ワインをおしゃくしながら、つまみとしてフォルトニカ王国特産のチーズも提供して、太一郎に少しでも身も心も安らいで貰おうかと…そうサーシャは思ったのだ。

 ただ流石に未成年の真由に酒を飲ませる訳にはいかないので、真由には紅茶を提供するつもりだったのだが。

 

 「あ、太一郎さ…( `・ω・´)んんんんんん!?」

 

 たまたま太一郎の姿を見かけたので、声を掛けようとしたサーシャだったのだが…次の瞬間思わず絶句してしまう。

 3人の兵士たちに連れられた太一郎が、キャバクラに足を運ぶのを目撃してしまったのだ。

 思わず目を点にしながら、サーシャは唖然としてしまったのだった。


 「…ケイト、あの店は一体どのような店なのですか?」

 「はぁ、キャバクラですね。キャストと呼ばれる女性店員が、男性客を相手に酒類や軽食を提供し、接待をするという店なのですが…。」

 「じょ、女性が男性に接客!?それってもしかして女性が男性の前で裸になって、性的なサービスをするお店なのですか!?」

 「いえ、キャバクラというのはむしろ、キャストへの接触は固く禁じられている健全な飲食店です。」


 ケイトの言葉でサーシャは深く溜め息をついて、思わず安心してしまったのだが。


 「そ、そうですか…私はてっきり太一郎さんが欲求不満になって、そのような店でコンパニオンの方に対して、合法的に淫らな行為でも行うつもりなのかと…!!」

 「まあ太一郎殿だって健全な男性ですからね。そういう時もあるでしょうけど…あの店はキャバクラですから、そのような行為を行う店ではありませんよ?」


 というかコンパニオンなんて言葉、一体姫様はどこで覚えたんだろう。

 そんなしょーもないツッコミを、心の中で入れたケイトなのであった…。

 

 「と、とにかく!!このまま太一郎さんを放っておくわけにはいきません!!」

 「しかしあの店はキャバクラですから、18歳未満は入店禁止ですよ?姫様、確か今17でしたよね?」


 例え一国の王女だろうと、法は法だ。

 特別扱いは駄目。絶対。


 「うぐっ!!で、では仕方がありませんね。ここで太一郎さんが出てくるのを待つとしましょう!!」

 「はぁ…。」


 うるうるした瞳で、物陰に隠れて様子を伺うサーシャ。

 なんかもう繁華街を行き交う人々の目の前で、とんでもない光景が繰り広げられていたのだった…。




 「それでは太一郎殿の復活を祝して、乾杯!!」

 「「「「「乾杯ーーーーーーーーーー!!」」」」」


 カインの音頭によってアベルとバーツ、そしてキャストの女性たちが一斉に盃を重ね、乾杯をする。

 こうして太一郎が見ている目の前で、太一郎の復帰祝いという名目の馬鹿騒ぎが始まったのだが…。


 「太一郎殿は本当に凄いんだ!!この人が刀を振るう度に『閃光』がほとばしるんだぜ!?それでこの人は多くの魔物や悪党共を叩きのめしてきたんだ!!ぎゃはははははははは(笑)!!」

 「笑い上戸かよ!?」


 酔っぱらって爆笑しながら自慢話をするアベルに、思わずツッコミを入れてしまう太一郎。


 「俺さ、本当に駄目人間で…!!いっつも太一郎殿に助けられてばかりで…!!この人が刀を振るう度に『閃光』がほとばしるんですよ!?それでこの人は多くの魔物や悪党共を叩きのめしてきたんですよ!?うわああああああああああああん(泣)!!」

 「泣き上戸かよ!?」


 酔っぱらって号泣しながら自慢話をするカインに、思わずツッコミを入れてしまう太一郎。


 「おい!!姉ちゃん!!本当に分かってるのか!?この人が刀を振るう度に『閃光』がほとばしるんだよ!!それでこの人は多くの魔物や悪党共を叩きのめしてきたんだ!!なあ、本当に分かってるのか!?あーーーーっ(激怒)!?」

 「怒り上戸かよ!?」


 酔っぱらって顔を赤くしながら興奮するバーツに、思わずツッコミを入れてしまう太一郎。

 というか何で3人共揃いも揃って、本人が見ている目の前で、まるで謀ったかのように全く同じ話題を口走ってしまうのか。

 なんか太一郎は、とてつもなく恥ずかしくなってしまったのだった。


 そんな3人の三者三葉の態度に全く動じる事無く、手慣れた態度で適度に相槌ちを打ちながら、笑顔で応えるキャストの女性たち。

 接客のプロだ。

 

 「…はぁ、全く…少しは落ち着いて酒を飲めない物なのかな。」


 酒を飲めない太一郎が、こんな事を言うのも何なのだが。

 注文したノンアルコールカクテルを口にして、馬鹿騒ぎをする3人を苦笑いしながら見つめていた太一郎だったのだが、その時だ。


 「お待たせ致しました。フルーツの盛り合わせで御座います。」

 「…?僕に?」

 「はい。」

 「…頼んでないけど?」


 突然男性店員に身に覚えの無いフルーツの盛り合わせを差し出されて、即座に警戒する太一郎。

 まさか酒に酔って判断能力が低下した(太一郎は酒を飲んでいないのだが)客に対して、注文していないメニューを提供して高額な代金を請求し、客が覚えていないと否定しても確かに注文したと高圧的に接するという、よくあるボッタクリの手口か…!?

 向こうの世界での経験を活かし、厳しい表情で咄嗟に身構える太一郎だったのだが。


 「ふふふっ、ボッタクリの手口だと思いました?心配させてしまって御免なさいね。これは私からのお客様へのおごりです。」

 「え?」


 太一郎に接客していたキャストの女性が、穏やかな笑顔でそう呼びかけたのだった。

 男性店員も笑顔で頷いて、このフルーツの代金は結構ですからと、太一郎に断りを入れて去っていく。


 「トメラ村で私の祖母を助けて頂いたお礼ですよ。『閃光の救世主』さん。」

 「トメラ村って…。」

 「お婆ちゃんが私に自慢してましたよ。とんでもない剣閃だったって。」

 「…まさか…!!」

 「はい。雑穀米と野菜の天ぷらをご馳走になりましたよね?」


 トメラ村。お婆ちゃん。雑穀米と野菜の天ぷら。

 思い出した。太一郎が真由と共にトメラ村を襲った魔物たちを討伐した、あの時(第8話参照)の。

 確かにあのお婆ちゃんは太一郎と真由に対して、王都のキャバクラで働いている孫娘がいると語っていたのだが。


 「あの時のお婆さんの、お孫さん!?」

 「ナタリアと言います。よろしくお願いしますね、『閃光』さん。うふふふっ。」

 

 ナタリアは悪戯っぽい笑顔で、太一郎に名刺を手渡したのだった。




 一方、その頃。


 「た、太一郎さん、やけに遅いですね。」

 「遅いも何も、どこのキャバクラも大体60分コースが基本になってますからね。まだ30分しか経ってませんよ?」

 「ううう~、では後30分も待たないといけないのですか…。」

 「さらに太一郎殿がもし時間を延長すれば、待ち時間はもっと伸びますよ?」


 サーシャはケイトと共に物陰に隠れながら、太一郎が店から出るのを今か今かと待ち続けているのだが。


 「ママ~、あれ何~?」

 「近付いたらいけません!!」


 サーシャを指さした通りがかりの男児が、母親に慌てて連れられてしまったのだった…。

 そんな親子連れなど無視し、サーシャが物陰に隠れながら、じぃ~~~~~~~っと店の入り口を睨みつけている。

 なんかもう、訳が分からない光景が繰り広げられていた…。 


 


 そして、店内。


 「聖剣ティルフィング…ですか?先代の転生者さんが使っていた?」

 「うん。何でもいいんだ。知っている事があれば是非教えて欲しいんだけど。」

 

 キャバクラでカインたちが馬鹿騒ぎをしている今の状況においても、『呪い』を解く鍵に成り得るかもしれない、聖剣ティルフィングに関しての情報収集を決して怠らない太一郎なのであった。

 ナタリアはしばらく思案していたのだが、やがて申し訳なさそうな表情で太一郎に頭を下げる。


 「御免なさい、私にはちょっと分からないです。そもそも私は先代の転生者さんとは、お話自体した事がないんですよ。」

 「そうか、分かったよ。ありがとう。」

 「お役に立てなくて御免なさいね。」

 「いや、いいんだ。そんなに気にしないでくれ。」


 ナタリアのように接客業を務める女性なら、様々な客から色々な情報を仕入れているのではないか…そんな期待からナタリアに問いかけてみた太一郎だったが、どうやら空振りに終わってしまったようだ。

 心底残念だが、いつまでも気にしていても仕方が無い。


 「ところで君は定期的にトメラ村に帰省してるとか言ってたけどさ、魔物や盗賊とかに襲われたりしないのかい?ほら、王都の外は物騒だからさ。」

 「実家に帰省する時は、騎士団の方がトメラ村まで用事がある時を見計らって、一緒に同行させて頂いているんです。この間は近衛騎士のマチルダさんに護衛して頂いたんですよ。」

 「そうなのか。まあそれが一番安全かな。」

 「でも最近は魔物や盗賊たちに襲われる事も少なくなりましたよ?」

 「そうなのかい?」

 「はい。お客様が魔物や盗賊たちを追い払って下さっているお陰です。」


 心からの感謝の言葉を述べながら、満面の笑顔を浮かべるナタリア。

 シリウスに『呪い』を掛けられ、戦う事を強要されてしまっている太一郎たちではあるのだが、それでも太一郎が隼丸を振るった数だけ、目の前にいるナタリアのように、救われた人たちが大勢出ているのだ。

 

 「この国の繁華街は凄く賑わっていたでしょう?これも全てお客様が、魔物や盗賊たちを討伐して下さっているお陰ですよ。だから私たちもこうして安心して営業が出来るんですから。」

 「そう言って貰えると、何だかちょっと恥ずかしいな。」


 苦笑いする太一郎を、満面の笑顔で見つめるナタリア。

 相変わらずカインたちが酔っぱらって馬鹿騒ぎする最中、太一郎とナタリアの周囲だけは落ち着いた空気に包まれている。


 太一郎の目的は、あくまでも自分たちを陥れたシリウスへの復讐だ。

 そもそも魔物や盗賊たちとの戦いだって、シリウスに『呪い』をかけられた事で無理矢理やらされている代物なのだ。

 だがそれでも確かに太一郎は魔物や盗賊たちを討伐する事で、このフォルトニカ王国の沢山の人々を救い、それによって国中の人々からの絶大な信頼と感謝を受けているのだ。


 「お客様、そろそろお時間になりますが、延長はなさいますか?」


 そこへ、男性店員が穏やかな笑顔で太一郎たちに語り掛けて来た。

 ナタリアと話し込んでいる内に、いつの間にか予定の60分になってしまったようだ。


 「カイン、アベル、バーツ。あまり夜遅くなると明日の任務に差し支える。そろそろおいとましよう。」

 「え~、もう60分ですか。任務の時は長く感じるのに、こうして酒を飲んでるとあっという間に過ぎちまうなぁ。」

 「不条理だけど、そんなもんだよ。それじゃあ清算をお願いします。」

 「かしこまりました。では出口までご案内致します。こちらへどうぞ。」


 男性店員に案内され、ナタリアたちに付き添われながら、出口へと向かう太一郎たち。

 決して望んだ戦いの日々ではないが、それでも目の前にいるナタリアのように、こうして自分に感謝してくれる人が大勢いるのなら、こんな戦いに明け暮れる日々も悪くは無いんじゃないかと…そう太一郎は思ったのだった。

次回『怒りのサーシャちゃん』。

サーシャのヤキモチっぷりが凄まじいです。そしてとばっちりを受けるケイトwwwww

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