第1話:惨劇
第1話にして、主人公死亡wwwwwww
この後、異世界へと吹っ飛ばされますわ。
何とか週に一度のペースで更新が出来ればと思っていますが…仕事やFF14がクソ忙しいからなあ…w
清々しい青空と暖かい太陽の光に包まれながら、母親の瑠璃亜が運転する車の中で、太一郎は妹の真由と共に車の窓から、田舎の大自然溢れる美しい風景を見つめていたのだった。
今日は家族3人水入らずで、1泊2日の家族旅行に出かけているのだ。
この後、近くのファミレスで昼食を取ってから観光地を色々回り、17時に予約していた温泉旅館にチェックインする予定になっている。
車の運転には運転手の性格がよく出ると言われているが、瑠璃亜が運転する車は全く事故を起こす気配を見せないまま、とても穏やかに道路を走り抜けていく。
そう…車の運転には、運転手の性格がよく出る物なのだ…。
「そこの2人乗りのバイク!!事故を起こすぞ!!いい加減止まれぇっ!!」
もうすぐ昼になろうかという、こんな早い時間から爆音を響かせながら、男子高校生2人がヘルメットも被らずに、対向車線を大型バイクで走り抜けていく。
そんな暴走する大型バイクを、緊急サイレンを鳴らしながらパトカーが必死に追走するものの、男子2人はパトカーを挑発しながら蛇行運転を繰り返していた。
全く、いつの時代も、何でこういう馬鹿がいなくならないのかと。太一郎は折角の旅行だというのに苦虫を嚙み締めたような表情になったのだった。
こういう大型バイクで暴走する男子高校生たちを見ていると、あの時の事を思い出す。
今から半年前…太一郎が助けられなかった、無様に死なせてしまった、あの17歳の女子高校生の事を。
太一郎は警察官として地元の警察署で働いているのだが、半年前に今回と同じように大型バイクで暴走する男子高校生を、パトカーで追走していた際…運転を誤った男子高校生が、当時17歳だった1人の女子高校生をひき殺してしまったのだ。
その少女の名は、須藤明日香。
飲食店でのアルバイトから帰宅途中に、事故に巻き込まれてしまったのだ。
後にこの男子高校生は太一郎の手によって現行犯逮捕されたのだが、それでも事故を起こした男子高校生に下されたのは、保護観察処分…少年院ではなく家庭内で日常生活を送りながら更生を目指して貰おうという物だった。
当然の事ながら、何の落ち度も無いのに理不尽に家族の命を奪われた遺族たちは、男子高校生が保護観察処分となった事を自宅まで伝えに来た太一郎に対して、怒りを爆発させた。
何故刑事罰に問えないのかと。人を殺しておきながら何故保護観察処分などという大甘な処分なのかと。何故加害者が保護されないといけないのかと。
この一件は太一郎の心の中に、今も深い傷として残っているのだ。
「…太一郎君。半年前に須藤さんを死なせてしまった事、もしかしてまだ気にしてるの?」
その太一郎の様子を瑠璃亜がバックミラー越しに確認しながら、太一郎を励ますかのように、とても穏やかな笑顔で語りかける。
無論、事故を起こさないよう、前方への注意を決して怠らずにだ。
「そんなんじゃないよ。ただ、どうしてこういう馬鹿な連中が、いつまで経ってもいなくならないのかなって思ってさ。」
「ご遺族の皆さんは太一郎君に罵声を浴びせたらしいけど、それでも須藤さんが死んだのは太一郎君の責任ではないからね?」
「それは僕だって理解しているよ。署長も僕と斎藤さんの追跡の仕方に問題は無かったって言ってくれてたし。」
「そう、ならいいんだけど。」
瑠璃亜は、太一郎の本当の母親ではない。
太一郎と真由は異母兄妹であり、瑠璃亜は真由の母親…言わば太一郎の継母なのだ。
それでも瑠璃亜は太一郎に対して、真由と変わらぬ深い愛情をもって接してくれている。
まだ太一郎が4歳の頃、彼の母親は交通事故に巻き込まれて亡くなった。
事故の原因は、無免許の男子高校生の暴走による運転ミス…速度制限が40km/hの道路を80km/h超の速度で運転した上に、追い越し禁止の車線であるにも関わらず前方の車を無理に追い越そうとした結果、たまたま自転車で対向車線を走行中だった母親に直撃してしまったのだ。
後にこの男子高校生は逮捕された後、乗っていた車は父親が所有していた物で、父親に学校の成績について厳しく注意された事で、ムシャクシャしたから鍵を盗んで運転したと供述した。
だが、まだ未成年…しかも反省の態度を見せている事を理由に保護観察処分で済ませられてしまう。
それでも何の落ち度も無い妻が突然に、理不尽に命を奪われたという事で、当時の父親は記者会見で男子高校生への怒りを激しく顕わにしていた物だ。
何故妻が、こんなにも理不尽な死に方をしなければならなかったのと。加害者が未成年だというだけで何故刑事責任を問えないのかと。何故保護観察処分などという甘い処分しか下せないのかと。
その後、父親は男手一つで自分を育ててくれたのだが、ある日運命的な出会いをした瑠璃亜と再婚する事になり、二人の間に真由が産まれたのだ。
太一郎が7歳の頃の話である。
だがその父親も太一郎が高校に進学した直後、夜中に近所まで自治会費の徴収をしに行った際、交通事故に巻き込まれて亡くなってしまった。
事故を起こしたのは、夜中に大型バイクで近所を爆走していた暴走族の男子高校生…盗難車による無免許運転だったのだ。
この男子高校生も太一郎の母親を殺した男子高校生と同様、警察に逮捕されたものの保護観察処分に留められてしまう。
こうして母親に続いて父親までも理不尽に奪われた太一郎だったのだが、それでも瑠璃亜は女手一つで太一郎と真由の事を育ててくれたのだ。
本当に瑠璃亜には、どれだけ感謝しても足りない程だ。
「母さん。お昼ご飯を食べたら、僕が運転変わるよ。」
「ありがとね太一郎君。正直疲れてたから、とても助かるわ。」
「何、お安い御用さ。ゆっくり休んでてくれよ。」
時計を見ると11時丁度だが、そろそろ目的地のファミレスに着く頃だ。
予定よりも少し早めに着いてしまいそうだが、それでも混雑しない内に昼食にありつけるのだから良しとしよう。
「真由。少し早いけど、そろそろガストに着きそうだ。」
「うん。お兄ちゃんは何を食べるか、もう決めたの?」
「最近ハンバーグの新メニューが出たんだっけ?それ試してみようと思ってるんだ。」
「私はやっぱりパスタかなぁ。お母さんは何を食べるの?」
「私は和繕にしようかしら。」
交差点で信号機が赤になっている間、一時停止した車の中で、何の他愛も無い会話で3人が穏やかな笑顔を見せる。
だが3人のこの家族水入らずの幸せの時間が…この後一瞬にして、理不尽に、無慈悲に奪われる事になるのだ…。
3人には何の落ち度も無いのに。ただ家族旅行に来ていただけなのに。
それなのにどうして、このような酷い仕打ちに見舞われなければならないのか。
信号が青になったので、瑠璃亜が車をゆっくりと発進させる。
そして交差点の真ん中辺りまで、車を走らせた…その瞬間。
「…なっ!?」
突然の大音量のクラクションに、太一郎が驚きの表情を見せる。
そして物凄い速度で信号無視をしてきた大型トラックが…全く速度を落とす事もないまま、太一郎たちを乗せた車に激突したのだった…。
あれから、一体どれだけの時間が経ったのだろう。時間の感覚が完全に曖昧だ。
薄れゆく意識の中、完全に大破してしまった車の中で、最早完全に虫の息となってしまった太一郎の耳の中に、周囲の野次馬たちの悲鳴と喧噪、そして事故を起こした車の運転手と警察官の口論が届いていた。
「お前んたぁみたいな、お役所仕事しか出来へんような連中にはなぁ!!一生掛かっても分からへんわ!!仕事はとにかく早くやらなあかんのや!!」
「それで安全への配慮を怠ってもいいって言うのか!?荷台への過剰積載に速度超過!!信号無視!!それでアンタはこんな凄惨な大事故を起こしているんだぞ!!」
「そうは言ってもよ!!納期に間に合わんと親会社との信用問題に関わるんや!!」
「仕事の納期を守るのと安全への配慮と、一体どっちが大事なんだ!?」
「んなもん納期に決まっとるだろうが!!安全とか知ったこっちゃねえ!!こっちだって生活が懸かっとるんや!!従業員たちもその家族も、俺が食わしてやらなあかんのや!!」
「一体何を言ってるんだアンタはぁっ!?」
(…ば…馬鹿な…!!そんな事で…!!そんなしょうもない事で…!!僕たちはこんな…こんな所で死ぬのか…!?)
逮捕されたトラックの運転手は、追突した相手である太一郎たちの安否を全く気遣う事無く、むしろ仕事の納期が間に合わなくなる事をしきりに気にしている様子だった。
恐らくトラックに積んでいる部品を期日通りに納めないと、親会社の生産ラインが止まってしまう…そうなると完全に親会社の信頼を失墜し、今後の取引にも影響が出てしまう…そんな所だろうか。
特に最近は自動車関連や航空関連の成長が著しく、その影響もあって親会社が子会社に無茶な納期を要求するケースもあると、太一郎も新聞で読んだ事があった。
何でも極限までの作業の効率化、徹底した無駄の排除を図るために、親会社は部品の在庫を一切持たず、部品を納める子会社に対して納期の厳守は当然として、部品を納める時間帯まで厳しく指示しているのだとか。
それ故に子会社が納期に間に合わないような事があると、親会社の生産ラインが完全に止まってしまい、多額の損失を出す事になるのだと。それで納期に間に合わなかった子会社に親会社が損害賠償請求をするようなケースもあるのだそうだ。
だからこそ事故を起こしたトラックの運転手も、無謀な運転をしてまで納期に間に合わせようと必死だったに違いない。
だが、だからといって、それで無謀な運転をした挙句に焦って事故を起こす事が許されていいはずがない。そもそも巻き込まれてしまった太一郎たちにとっては、たまった物では無いだろう。
(…か…母さん…!!真由…!!)
運転席で車を運転していた瑠璃亜は発動したエアバッグも虚しく、突っ込んできたトラックに完全に押しつぶされてしまっており、即死状態だった。
後部座席に座っていた真由は直撃を免れ、今はまだ辛うじて息があるが…それでもパイプか何かが腹部を完全に貫いており、もう助からない事は明らかだった。
太一郎も全身に激痛が走っており、身体を全く動かす事が出来ない。自分の身体がどんな状態になっているのかさえ確認する事も出来なかった。
薄れゆく視界の中で唯一分かるのは、自分と真由の身体から血が大量に流れ出ているという事だけだ。
(…僕も真由も…もう長くは持たない…か…!!)
自分の体の事は、自分が一番良く分かっている。
もう助からない、あと数分で死ぬという事を、太一郎は瞬時に理解していた。
最早身体を全く動かす事が出来ないが、車の外で自分たちの救助に駆けつけたレスキュー隊たちが、懸命な救助作業を行っているのが分かる。
諦めるな、必ず助ける、などといった励ましの声が太一郎の耳に届いているが、もう助からない事を理解しているだけに、何の励ましの言葉にもなっていなかった。
(…ぐっ…がはっ…!!)
『シリウス様。転生者8名の肉体の再構築、無事に完了しました。』
『残りの魔力で後2人は転生させられそうだな。転生措置が完了後、ただちに例の禁呪を転生者たちに発動させる。』
(…くそっ…どうして…どうしてこんな事に…!!)
『しかしシリウス様、本当によろしいのですか?転生者の皆様にこのような非道な禁呪をかけるなど…もし今回の事がクレア様やサーシャ様に知られたら…。』
『良いのだレイナ。凶暴な猛獣には鎖を繋げておかねば、いつ飼い主に牙を向くか分からぬのだからな。』
(…転生…!?禁呪…!?何の事だ…!?一体何を言っているんだ…!?)
だが今にも消え失せそうな意識の中、太一郎の頭の中に妙な会話が聞こえてきた。
恐らく若い男女二人組だろうか。会話の内容は全然理解出来ないが、転生だとか禁呪だとか、何だかゲームに出てきそうなキーワードが会話の中に混ざっていたのだった。
『お前も戸田龍二たちが起こした、あの愚かな惨劇を忘れた訳ではあるまい。あのような事はもう二度と繰り返してはならぬのだ。例えどんな非道な手を使ってでもな。』
『シリウス様…そこまでのお覚悟を…!!』
(…だ…駄目だ…もう…何も聞こえない…い…意識…が…。)
『あの惨劇があった以上、最早二度と転生術を使う事は無いと思っていたのだがな。だが魔王カーミラが復活してしまった上に、クレア様のご命令とあれば止むを得ん。』
『シリウス様。残り2名の転生術の準備が、無事に整いました。』
(…意識が…消え…て…。)
最早全く原型を留めていない車を無理矢理破壊して、レスキュー隊員が何とか太一郎たちを車から引きずり出したのだが。
必死の救助活動も虚しく…もう既に太一郎も真由も瑠璃亜も…死んでいたのだった…。
「駄目です!!救助した3名の死亡を確認致しました!!」
「くそっ、何て事だ!!おい!!この3人はアンタが殺したんだぞ!!分かってるのか!?」
「んな事、俺に言われてもよ!!こっちだって納期に間に合わせんとあかんのや!!」
「皆さん、危ないから下がってください!!規制線から中に入らないで!!」
スマホを手に事故現場に押しかけようとする野次馬たちを、警察官たちが必死に押しとどめようとする。
だが既に死んでしまっている太一郎には、最早その騒ぎが全く聞こえていなかった。
何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。何も考える事が出来ない。
全てを包み込み、全てを飲み込み、全てを消し去る…圧倒的なまでの闇。
それが、それだけが、今の太一郎に映る全てだった。
(………。)
『よし、レイナ!!転生術を発動するぞ!!』
『はっ!!』
だがその時、闇に包まれた太一郎の視界が、優しくて暖かい光に包み込まれていく。
そして光に包まれた太一郎の意識が、物凄い力でどこか遠くへと引っ張られていったのだった…。