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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第3章:それぞれの思惑
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第17話:ケイトの意地

今回はケイトが主役のお話です。

太一郎が風邪と過労で戦えない中、盗賊たちを相手に奮闘するケイトですが…。

 インターネットが存在しないこの異世界においても、人の噂が流れるのは本当にあっという間だ。

 太一郎が風邪と過労で倒れてしまったという噂は、城から王都へ、王都から街へ、街から村へ、人から人へと、あっという間にフォルトニカ王国全土に広まってしまう事になる。

 たかが風邪と過労で倒れただけで、ここまでの大騒ぎになってしまう…このフォルトニカ王国にとって太一郎は、最早そういう存在になってしまっているのだ。


 それを千載一遇のチャンスだとばかりに、今まで太一郎を恐れて活動に鳴りを潜めていた盗賊たちが、一斉に近隣の村への略奪行為に走り出したのだった。

 村を襲い、金や食料を奪い、我が物顔で村に居座る盗賊たち。

 この太一郎が戦えない非常事態においても、各地の村人たちは一馬ら『ブラックロータス』の救援を頑なに拒んだのだった。

 これまでの一馬たちの度重なる迷惑行為は、それ程までに村人たちの信頼を失墜してしまったという事なのだろう。


 「ぶははははは!!『閃光の救世主』が来れぬというのであれば、もうワシらに恐れる物は何も無いでごわす!!これからお主らには、このゼエウン様の付き人として働いて貰うでごわすよ!!」

 

 美しい夕日が辺りを照らし出す、夕方6時…このトメラ村においても、アルベリッヒにも劣らない屈強な巨体の盗賊・ゼエウンが、村の自警団をあっさりと叩きのめし、我が物顔で村に居座っていたのだった。

 ゼエウンに叩きのめされ、地面に倒れてうずくまる自警団の若者たち。

 その無様な光景を、これから自分たちは一体どうなるのかと、村人たちが恐怖に怯えながら見つめていたのだが。


 「矢を放てぇっ!!」


 凛とした気高い女性の声と共に、突然無数の矢が放たれたのだった。

 不意を突かれたゼエウンの部下たちが、次から次へと矢の直撃を受け、倒されていく。

 

 「な、何ぃ!?ぬおっ!?」

 「はあああああああああああああああああああっ!」


 さらに畳みかけるかのように、ケイトがロングソードでゼエウンに斬りかかった。

 振り下ろされたロングソードを、ゼエウンは咄嗟にバックステップでやり過ごす。

 とても厳しい表情で、ケイトがゼエウンを睨みつける。


 「この男は私が相手をする!!お前たちは他の連中を相手にしろ!!」

 「「「「「はっ!!」」」」」


 兵士たちと盗賊たちの凄まじい戦いが繰り広げられている最中、ケイトとゼエウンの1対1の決闘が始まろうとしていた。

 やはり『閃光の救世主』は来れないのかと…村人たちが不安そうな表情でケイトを見つめている。


 「貴様たちの悪行の限りも、ここまでだ!!」

 「フォルトニカ王国騎士団の近衛騎士、女剣士ケイトでごわすな?しかし『閃光の救世主』がいないお主らなど、恐れるに足らぬでごわすよ。」

 「そうやって余裕の態度でいられるのも、今の内だけだ!!」

 「面白いでごわすな!!お主にワシの暗黒流殺鬼掌あんこくりゅうさっきしょうの真髄、思い知らせてやるでごわすよ!!」


 盛大に四股を踏んだゼエウンが前傾姿勢を取り、妖艶な笑みをケイトに浮かべる。

 ケイトもロングソードを構え、ゼエウンに対して迎撃態勢を取る。

 2人の周囲で兵士たちと盗賊たちの壮絶な戦いが繰り広げられている最中、互いに睨み合う両者だったのだが。


 「八卦はっけ良い!!」


 先に動いたのはゼエウンの方だった。

 立ち合いからの凄まじい威力のぶちかましが、情け容赦なくケイトに襲い掛かる。


 「ぐううううううううううううっ!!」


 咄嗟にロングソードで受け止めるケイトだったのだが、あまりの威力にふっ飛ばされてしまった。

 何とか体勢を立て直したケイトだったが、そこから容赦なくゼエウンの追撃が迫る。


 「残った!!残った残った!!残ったぁっ!!」

 「くっ…!!」


 ケイトに襲い掛かる、凄まじいまでの張り手の連打連打連打連打連打。


 「どすこい!!どすこい!!どすこい!!どすこい!!どすこい!!どっせーーーーーーーーーい!!」

 「がはあっ!!」


 何とかロングソードで受け止め続けるケイトだったが、やがて捌き切れずに張り手の直撃を腹部に食らってしまったのだった。

 またしても吹っ飛ばされ、あまりの威力にケイトの身体が民家の壁に叩きつけられてしまう。

 近衛騎士にのみ着用を許された、軽量さと高い防御力を併せ持ったミスリル製の鎧…それでも尚、鎧越しにケイトの腹部に襲い掛かる、凄まじい威力の『衝撃』。

 何とか立ち上がるものの、あまりの威力にケイトはその場で嗚咽してしまったのだった。


 「うっ…げほっ…げほっ…がはっ…!!」


 胃液が逆流する。そしてケイトに襲い掛かる不快な吐き気。

 とても辛そうな表情のケイトを、ゼエウンが妖艶な笑みを浮かべながら見下している。


 「な…何という…凄まじいパワーなのだ…っ!!」

 「近衛騎士だか何だか知らぬが、そんな女の細腕では、稽古とちゃんこによって徹底的に鍛え抜かれた、このワシの屈強な肉体を傷つける事など出来ぬでごわすな!!ぶわーーーーーーっはっはっはっはっは!!」


 よく『柔よく剛を制す』と言われるが、ゼエウンの強烈な張り手は、生半端な『技』など無理矢理捻り潰してしまう程の威力を秘めていた。

 技を超えた純粋な『パワー』。それこそが強大な力なのだ。

 さらにこのような集団戦闘においては、チームのリーダーが劣勢になってしまうと、そのチームの士気が一気にダダ下がりになってしまう物なのだ。

 先程まで盗賊たちを相手に優位に戦いを繰り広げていた兵士たちだったのだが、ケイト劣勢を目の当たりにさせられてしまい、一気に意気消沈してしまう。

 その隙を突き、一斉に攻勢に出る盗賊たち。

 盗賊たちの猛攻の前に、一気に劣勢に立たされてしまう兵士たちだったのだが。


 「隊長!!今、傷の手当てを!!」


 そうはさせまいと、ケイトの部下の精霊術師の少女が慌てて駆け寄り、ケイトに回復魔法をかけたのだった。


 「かの者の傷を癒したまえ!!」


 少女の両手から放たれた無数の光の粒子が、ケイトの傷を瞬く間に癒していく。

 何とか回復したケイトが、何の迷いも無い真っすぐな瞳で、全く怯む事無くゼエウンを見据えたのだった。

 まだケイトの目は死んではいない。まだケイトは戦える。

 まだケイトは、ゼエウンに勝つ事を全く諦めてはいない。


 「済まないソーニャ、助かった。」

 「ほう、精霊術師がいたでごわすか。」

 「死体にさえならなければ、私の傷はソーニャに治して貰える…!!ここからが本当の勝負だ!!」

 「しかしワシのスタミナが切れるのと、その嬢ちゃんの魔力が尽きるのと、果たしてどちらが先かのう?」


 妖艶な笑みを浮かべながら、ケイトを馬鹿にするゼエウン。

 確かにゼエウンの言う通りだ。幾ら精霊術師の少女に傷を治して貰えるといっても、彼女の魔力は有限なのだ。

 このままケイトがゼエウンに叩きのめされ続け、その度にケイトの傷を精霊魔法で治し続ければ、いずれは精霊術師の少女の魔力が底をついてしまう。

 そうなってしまったら、ゼエウンの勝ちだ。

 

 「近衛騎士を…舐めるな!!」


 こんな時に、太一郎殿がいてくれたら…その言葉をケイトは必死に飲み込んだのだった。

 確かに太一郎は強い。王室直属の精鋭部隊である近衛騎士さえも遥かに凌駕し、サーシャやクレアにも匹敵する程の戦闘能力を秘めているのだ。

 心底悔しいが、例えケイト、ロファール、レイナら近衛騎士12人全員が束になった所で、太一郎には到底歯が立たないだろう。

 もし太一郎がゼエウンと戦えば、圧倒的な強さでゼエウンを叩きのめしてしまうに違いない。

 だからこそケイトは、太一郎殿がいてくれたらと…思わず口にしそうになってしまったのだ。


 だがしかし、そうやって太一郎にこれまで頼り過ぎてしまった結果、太一郎が風邪と過労でダウンするという最悪の結果を招いてしまったのではないのか。

 だからこそ、いつまでも太一郎におんぶに抱っこで頼りっぱなしという訳にはいかない。

 トメラ村の人々を守る為にゼエウンは今ここで、ケイトがその手で責任を持って討伐しなければならないのだ。

 そうでなければケイトら近衛騎士たちは、一体何の為に存在しているというのか。

 このような外道たちの魔の手から、力無き国民を守る為…その為に近衛騎士は存在しているのではないのか。


 「古来より鬼をも殺すとされる、ワシの暗黒流殺鬼掌…お主如きに見切れる代物では無いわ!!」


 再び前傾姿勢となったゼエウンが、凄まじい威力のぶちかましをケイトに放ったのだが。


 「八卦良い!!」

 「無駄だぁっ!!」


 ケイトは絶妙なタイミングで、ゼエウンのぶちかましを軽々とロングソードで受け流したのだった。

 ゼエウンのぶちかましは、確かに凄まじい威力を誇る。

 だが威力があるとは言っても、所詮は直線的な動きしか出来ない単調な突進技に過ぎないのだ。

 タイミングさえ把握してしまえば、ケイト程の使い手ならば受け流すのは造作も無い事だった。


 「ぬうっ、一度食らっただけでタイミングを見切ったと!?流石は腐っても近衛騎士よのう!!」

 

 その強靭な下半身、そして優れたボディバランスによって、即座に体勢を立て直したゼエウンだったのだが。


 「だが無駄な事よ!!そんな事でこのワシが…っ!?」

 「はあああああああああああああああああああああああああっ!!」


 体勢を崩したゼエウンが体勢を立て直すまでの、僅か数秒…その数秒が欲しかったのだ。

 いつの間にかケイトのロングソードに凄まじいまでの『気』が込められ、ミスリル製の蒼白の刀身から凄まじいまでの白銀の輝きが放たれていた。

 そして体勢を立て直したばかりのゼエウンに放たれた、凄まじいまでの『突き』。


 「刮目しろ!!これが我が秘剣!!カナリオン流剣闘術奥義、シャインブレイクだあああああああああああっ!!」

 「舐めるなでごわすよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 ケイトの突きとゼエウンの掌打が、両者真っ向から激しくぶつかり合う。

 生半端な刃物を弾く程の、鍛え抜かれたゼエウンの掌打…しかしケイトの白銀の突きは、それさえも容易くぶち破った。


 「な、何ぃ!?」

 「ぬああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 そしてケイトのロングソードがゼエウンの掌を突き破り…そのままの勢いでゼエウンの心臓を貫いたのだった。


 「がはあっ!?」

 「悪いが私には太一郎殿と違い、峰打ちで殺さないようにするなどといった器用な真似は出来ないのでな…!!」

 「ば…馬鹿な…!?このワシが…お主のような女子おなご如きに…っ…!?」


 ケイトがロングソードをゼエウンの左胸から引き抜いた瞬間、どうっ…とゼエウンが地面に仰向けに倒れ伏す。

 自分の敗北が未だ信じられないといった表情のまま事切れ、絶命したゼエウンを、息を切らしながら見下ろすケイト。


 「それに私は太一郎殿と違って甘くは無い…お前たちのような非道な輩を、このまま生かしておくわけにはいかないのだ…!!」

 「お、親方がやられた!!逃げろ~~~~~~~~!!」


 そして先程も言ったように、このような集団戦闘においてはチームのリーダーの勝敗が、そのままチームの士気に影響してしまう物なのだ。

 ケイトの勝利、ゼエウンの死を目の当たりにした事で一気に意気消沈してしまい、慌ててその場から逃げ出そうとする盗賊たちだったのだが。


 「そうはさせるか!!お前たち!!野盗共を全員この場で処刑しろ!!生かしておく必要は無い!!絶対に1人たりとも逃がすなよ!?いいな!!」

 「「「「「はっ!!」」」」」

 「降伏を認めるな!!命乞いにも耳を貸すな!!ここで連中を逃がしてしまえば逃がした者たちの手によって、より多くの国民たちの命が危険に晒される事になると肝に命じろ!!」


 ここで盗賊たちを逃がしてしまえば、彼らの手によって再び罪の無い村人たちの命が脅威に晒されかねない。

 それに彼らはゼエウンの元で無抵抗の村人たちを襲い、略奪や暴力、殺傷を行うという、逃れようのない罪を犯した。その罪は絶対に償わせなければならないのだ。

 ケイトの陣頭指揮の元、逃げ惑う盗賊たちに情け容赦なく放たれる、矢と魔法。

 ゼエウンという絶対的なリーダーを失い、完全に戦意を失った盗賊たちなど、ケイトの勝利で一気に勢い付いた兵士たちの敵では無かった。


 あっという間に一網打尽にされ、1人残らず叩きのめされ、全滅してしまった盗賊たち。

 かくしてトメラ村における今回の死闘は、ケイトらフォルトニカ王国騎士団の勝利に終わったのである。


 「隊長、お怪我はありませんか!?」

 「私なら大丈夫だソーニャ。それよりも他の兵や村人たちの怪我を診てやってくれ。」

 「は、はい!!」


 ケイトからの指示で、兵士たちの元に駆けつける精霊術師の少女。

 怪我人が何人か出たようだが、それでも兵士、村人共に1人の死者も出さずに済んだようだ。その事にケイトは安堵の表情を浮かべたのだった。

 ケイトたちに感謝の言葉を述べる村人たち…そんな彼らの元気な姿を見ていると、こういう命懸けの戦いの日々も決しては悪くは無いと、そうケイトは思えてくる。


 その後、村人たちの計らいで、ケイトや兵士たちを労う宴が開かれたトメラ村。

 帰り道に魔物や野盗たちに襲われる可能性があるという理由から酒は遠慮したのだが、代わりに村人たちの美味しい手料理を堪能し、満足そうな表情を浮かべる兵士たち。

 やがてケイトと兵士たちが綺麗に料理を平らげた後、村人たちからの歓声を受けながら、ケイトたちが撤収準備を始めたのだった。


 「皆!!今日は本当によくやってくれた!!準備が整い次第、撤収するぞ!!」

 「「「「「はっ!!」」」」」

 「王都に戻るまで絶対に気を緩めるなよ!?いいな!?太一郎殿が仰っておられた!!家に帰るまでが遠足だとな!!」


 太一郎が戦えない状況下においても、何とかトメラ村を守り抜いたケイトたち。

 他の近衛騎士率いる騎士団の者たちも、自分たちと同じように無事でいてくれるだろうか。

 祈る事しか出来ないのが歯痒いが、それでも無事でいてくれる事を信じるしかない。


 (太一郎殿。貴方がいなくても、私たちはトメラ村の人々を守り抜きましたよ。だから貴方も一日も早く、私たちに元気な姿を見せて下さいね…!!)


 軽快に馬を飛ばしながらケイトは心の中で、病気療養中の太一郎の身を案じたのだった。

次回は太一郎が完全復活します。

清々しい朝日に包まれながら、自分たちの過去について語り合う太一郎とクレア。

そんな中で太一郎の口から語られた、向こうの世界での壮絶な経験、そして夢幻一刀流を学ぶ事になった経緯とは…。

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