第12話:襲撃後
アルベリッヒの戦死後、色々と後処理に追われるクレアとサーシャ。
そんな中、人殺しをしてしまった事で心に傷を負った太一郎は、精神科医によるメンタルケアを受ける事になるのですが…。
今回は太一郎の入浴シーンという誰得展開ですwwwww
フォルトニカ王国が独自運用している転生術を巡っての、エリクシル王国による襲撃の騒動は、太一郎が特殊工作部隊の女性たちを一網打尽にし、国王であるアルベリッヒを討ち取った事で、ひとまずの解決を迎えた。
王都内に侵入した特殊工作部隊の女性と、フォルトニカ王国騎士団…、双方に多数の死傷者が出る事態となり、アルベリッヒの愚かな野心に振り回されたせいで、多くの者が傷つき、命が失われる結果となってしまった。
クレアとサーシャはアルベリッヒの戦死後、すぐに記者会見を開いて一連の経緯を報告。アルベリッヒの悪名は記者たちによって瞬く間に世界中に広まり、世界征服を企んだ『愚王』として歴史に名を残し続ける事になるのである。
この記者会見には一連の戦闘で八面六臂の大活躍を見せつけ、またしても『英雄』としての名声を高めた太一郎にも、記者たちから強く同席を求められた。
だが止むを得なかったとはいえ、生まれて初めて人を殺害した事で心に深い傷を負ってしまい、精神科医によるメンタルケアが必要になったという理由から、サーシャは太一郎の記者会見への同席を強く拒んだのだった。
それでもメンタルケアが必要だとサーシャが言っていたのに、心に傷を負った太一郎に対して、執拗にインタビューを試みようと企てる記者たちまでもが何人も現れてしまう。
そして精神科医による問診の最中に、病室に無理矢理押し入ろうとする記者たちまで何人か現れてしまい、太一郎に付き添った真由と怒鳴り合いの衝突になってしまう事態にまでなってしまった。
「記者としての当然の権利、当然の責務だ。」
「彼には当事者として全てを語る義務がある。」
「メンタルケアなら別に後でやればいいだろ。」
「この先、人殺しをしなければならなくなる事態なんて幾らでもやってくる。」
「そんな事で英雄を名乗れるとでも思っているのか。」
『売れる記事』を作るために、ここまでやるのかと…心に傷を負った太一郎を精神的に追い詰めるような事を、何故こんなにも平気で出来てしまうのかと…真由は記者たちの横暴さに怒りを露わにしたのだった。
とはいえ記者たちだって、生活が懸かっている。
1部でも多くの新聞を買って貰い、記事を読んで貰わないと、自分たちの収益に繋がらないのだから。
彼らとて仕事として記事を作っている以上、『売れる記事』を作る為に必死になるのも当然なのだ。
真由とて、それは理解していたのだが…それでも心に傷を負った太一郎の事を考えると、やはり到底納得が行かなかった。
そして1時間にも渡る記者会見が終わった後、フォルトニカ王国の上層部による緊急会議が行われた。
クレアとサーシャ、大臣たちによる議論の結果、国王のアルベリッヒには妻も子供もおらず跡継ぎがいない事から、エリクシル王国は正式な次期国王が決まるまでの間、暫定的にフォルトニカ王国の傘下に入る事が決定した。
これにより完全に正当防衛だとはいえ、フォルトニカ王国はエリクシル王国を一時的に占領してしまう形になってしまう。
エリクシル王国騎士団、並びに王都に襲撃を仕掛けた特殊工作部隊の女性たちは、クレアの意向によりフォルトニカ王国騎士団への併合は行われず、エリクシル王国の治安維持に回される事になった。
やがて緊急会議も終わり、王都に住む市民たちの騒動もようやく収まった、その日の夜9時頃。
太一郎は真由と共に食堂で遅めの夕食を済ませた後、今日の疲れを癒す為、自室の浴室で入浴を行っていたのだった。
浴槽に入れられた青りんごの入浴剤の香りと成分が、疲れ切った太一郎の心と身体を癒してくれる。
シャンプーとリンスで髪を洗い、ボディーソープで身体の汚れを丹念に洗った後、適温に温められたお湯にゆっくりと浸かりながら、太一郎はふうっ…と一息つく。
今日は本当に疲れた。色々あって本当に疲れてしまった。
自分と真由を王都から引き離す為という理不尽な理由から、シグマ村近辺の魔物たちがエリクシル王国騎士団の兵たちによって、無理矢理凶暴化させられた。
それによりシグマ村の人たちを守る為に、大量に襲い掛かる凶暴化した魔物たちを相手に1時間近くもぶっ通しで戦い続け、250体近くもの魔物たちを討伐。
そしてアルベリッヒの企みを知った事で大急ぎで王都に戻った後は、エリクシル王国の特殊工作部隊の女性たちに拉致られる寸前だったシリウスを救助。城内に侵入した特殊工作部隊の女性たちを100人近く、全員まとめて一網打尽にした。
さらにアルベリッヒと交戦中のサーシャの救援に駆けつけ、サーシャに人殺しをさせない為に、サーシャに敗北したアルベリッヒを自らの手で殺害する結果になってしまった。
それによって太一郎自身が心に傷を負ってしまい、精神科医によるメンタルケアの最中に、太一郎にインタビューをしようと企てる記者たちが何人か押しかけ、付き添ってくれた真由と怒鳴り合いになる事態にまでなってしまったのだが。
精神科医による診断の結果、太一郎が事前に心の準備、覚悟をしていたからなのか、心の傷に関してはそんなに大した事は無かったようだ。
太一郎がアルベリッヒを殺害後、すぐにサーシャが自分を慰め、支えてくれた事…さらにメンタルケアの最中に真由がずっと付き添い、押しかけた記者たちに対して本気で激怒してくれた事も、太一郎の心の傷が広がらずに済んだ大きな要因になったのだろう。
この2人がいてくれなかったら、太一郎の心に一生消えない深い傷が出来てしまっていたかもしれない。
取り敢えず精神科医からは、3日分の精神安定剤を処方された。
精神科医によると精神安定剤というのは、下手に長期間常用してしまうと逆に依存症を引き起こしてしまいかねない、諸刃の剣だとの事らしい。
なので取り敢えず3日間服用して、その後に経過観察をして追加する薬の量を決めたいから、また問診に来てくれと…まあパッと見た感じでは多分大丈夫だろうと…そう精神科医に笑顔で言われたのだった。
「…ふうっ…。」
風呂から上がった太一郎はバスタオルで身体を拭いて、城の給仕の少女が洗濯してくれたパジャマに着替える。
そう、特殊工作部隊の女性たちに人質にされ、マッチの火を直接浴びせられて顔に火傷を負ってしまった所を、太一郎に救助されて真由が火傷を治した、あの少女だ。
後に洗濯を終えたパジャマを、精神科医の問診を終えた太一郎に渡した際、この少女は物凄い勢いで太一郎と真由に頭を下げて、感謝の意を示したのだった。
彼女には婚約者がいるとの事で、これで婚約者を悲しませずに済んだと涙を流し、真由に笑顔で慰められたのだが。
こうやって命を救った者に心からの感謝されると、こういう戦いばかりの毎日も決して悪くは無いと思えてくる。
自分が倒した敵の分だけ、救われる命が生まれるのだから。
風呂上がりに冷蔵庫から、無償支給されたパック入りのコーヒー牛乳を取り出した太一郎は、両足を肩幅まで開いて左手を腰に当て、グイッと身体を後ろに逸らしながら、右手に持ったコーヒー牛乳を一気飲みする。
これが、これこそが、風呂上がりに飲むコーヒー牛乳の正しい飲み方の作法だ。
例え『呪い』に苦しめられたって、これだけは絶対に譲るつもりは無いね。
そんなしょーもない事を、心の中で誰かに熱弁していた太一郎だったのだが。
「ぶはーっ。」
「太一郎殿。よろしいでしょうか?」
コンコンコン。
扉から軽快なノックの音と同時に、ケイトの声が聞こえてきたのだった。
「あ、待っててくれ。今行くよ。」
飲み終わったコーヒー牛乳のパックをゴミ箱に捨てた太一郎が、慌てて扉へと向かう。
扉を開けると私服姿のケイトが、穏やかな笑顔で出迎えに来ていたのだった。
「ケイト、こんな時間に一体どうしたんだ?」
「夜分に申し訳ございません。今、お時間はよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないけど、一体僕に何の用があるんだい?」
このケイトにもシリウスを救ってくれた事、サーシャに人殺しをさせなかった事を、先程物凄い勢いで頭を下げられて感謝されたのだが。
次の瞬間ケイトは、太一郎が全く思いもしなかった事を口にしたのだった。
「は、姫様が太一郎殿に、早急にお話したい事があるとの事で。」
「王女殿下が僕に?しかも早急な話って一体何なんだ?」
「それは私にも何とも…こんな夜分に申し訳ありませんが、とにかく私にご同行願えないでしょうか?」
サーシャもあの後、色々後処理やら記者会見やら緊急会議やらで立て込んでたせいで、太一郎と話をする時間が全く取れなかったのだが。
それを差し引いたとしても、自分に早急に話をしたい事とは一体何なのだろうか。
話なら別に明日でも構わないだろうに、わざわざこんな時間に自分を呼び出さなければならない用事とは、一体…。
ケイトから視線を外し、顎に右手を当てて少しだけ思案した太一郎だったのだが。
「…分かった。行こう。」
別にこの後、特に用事がある訳でもない。
意を決した太一郎は、サーシャからの呼び出しに同意したのだった。
「それで、場所はどこだい?」
「姫様の個室で御座います。」
「王女殿下の個室!?僕なんかが行って本当に大丈夫なのか!?」
応接室や食堂などではなく、まさかサーシャ自身の部屋とは。
女の子の部屋に男を招き入れる…それがどれだけ大変な事なのかというのは、太一郎もよく分かっているつもりだ。
相手側の男性を相当信頼していなければ、到底出来ない芸当だろう。
シリウスにかけられた『呪い』を解く為に、サーシャからの絶対的な信頼を得なければならない…それは太一郎もずっと考えてはいた事なのだが。
だからこそ太一郎はケイトの言葉に、正直驚きを隠せずにいたのだった。
「私も応接室では駄目なのかと姫様を問い正したのですが、姫様がどうしても太一郎殿に部屋まで来て頂きたいと。」
「そうか、分かったよ。こんな恰好じゃ何だから、すぐに着替えて…」
「いえ、私服やパジャマのままで問題無いとの事です。」
「…本当に王女殿下は一体どうなされてしまったんだ…。」
もう本当に何が何だか、全然意味が分からない。
だがそれでもサーシャ本人がそう言っているのなら、特に問題は無いのだろう。
こんなパジャマ姿の自分に、一体どんな話をするつもりなのか…聡明な太一郎もサーシャの考えが全然読めずにいるのだが。
それでも実際にサーシャの部屋に行ってみれば、嫌でも分かる事だ。
「では太一郎殿。どうぞ私にご同行下さいませ。」
「分かった。真由は一緒に行かせなくていいのかい?」
「本来なら真由殿のご同行も姫様にご依頼されていたのですが、私が真由殿の部屋を訪れた所、どうも留守になさっているようでして。」
「そうか。」
自分と同じように風呂にでも入っているのだろうか。
真由は向こうの世界にいた頃も、いつも比較的長風呂だったのだから。
まあそんな事よりも、とにかく今はサーシャの呼び出しに応える事が最優先だ。
どんな話があるのかは分からないが、真由にも話があるというのなら、明日にでも真由にサーシャからの話を伝えておけば、それでいい。
「じゃあ、行こうか。」
「は。」
意を決した表情で、太一郎はケイトに同行したのだった。
次回は太一郎とサーシャのお茶会です。
そこでサーシャが太一郎に語った「とても凄く大事な要件」…それは…。