第107話:決着
太一郎&ラインハルトVS真・魔王カーミラ。
瑠璃亜VSベルド。
クレアVS神也。
ラストバトルが遂に決着です。
ベルドの美海に対する執念は、凄まじい物があった。
無理も無いだろう。美海を制する者は、この世界を制する…それをその身をもって思い知らされてしまったのが、他でも無いこのベルドなのだ。
事実、美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』によって、全く労する事無く2つの国を支配する事が出来てしまったのだから。
だからこそベルドは異常なまでに、瑠璃亜に守られながら希望の歌を歌い続ける美海に執着していたのだが。
【美海ダ!!美海サエイレバ!!マダマダ俺ニ逆転ノ余地ハ充分ニアル!!】
ベルドの剣と瑠璃亜の神刀アマツカゼが、何度もぶつかり合う。
仮にも魔王カーミラたる瑠璃亜が相手でも、ベルドは一歩も引かずに渡り合っていた。
ラインハルトに敗れたとはいえ、曲がりなりにも太一郎を苦戦させただけの事はあるようだ。
【貴様ラ全員ヲ美海ノ歌デ皆殺シニシタ上デ!!俺ガコノ世界ノ覇者トナルノダァッ!!】
「くっ…!!」
【暗黒流鳳凰剣究極奥義!!鳳凰瞬王殺!!ホウオオオオオオオオオウ!!ホウオオオオオオオオオオオオオオウ!!ホウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウ!!】
ベルドの鳳凰瞬王殺を瑠璃亜が神刀アマツカゼで受け止めるものの、あまりの威力に吹っ飛ばされてしまう。
自分を守ってくれている瑠璃亜との距離を、物理的に離されてしまった美海ではあったが、それでも美海は怯まずに目の前のベルドを見据えながら、希望の歌を歌い続けていた。
美海は信じているのだ。瑠璃亜が必ず自分の事を守り抜いてくれると。
だから美海は逃げない。怯まない。
自分を守ってくれる瑠璃亜を信じ、まるで目の前のベルドに挑むかのように、威風堂々と希望の歌を歌い続ける。
【美海ァァァァァァ!!貴様ノ絶望ノ歌ニヨッテ、俺ガコノ世界ノ覇者トナルノダァァァァァァ!!】
「もう今の貴方にそれは不可能よ。だって貴方もう死んでるから。」
【ナ、何ダト!?】
何事も無かったように平然と立ち上がった瑠璃亜が、神刀アマツカゼの先端を威風堂々とベルドに突き付ける。
瑠璃亜の言葉に、驚愕の表情になるベルド。
どうやらベルドは自分が既に死んでしまっており、真・魔王カーミラによって作り出された偽物だという自覚が全く無いようだった。
「それに、私がその子を守ってるんだもの。貴方に奪還なんかさせないわよ。」
【貴様如キガ俺ニ勝テルトデモ思ッテイルノカ!?思イ上ガリモ甚ダシイワ!!魔王カーミラァッ!!】
妖艶な笑顔で再び瑠璃亜に鳳凰瞬王殺を放つベルドだったが、瑠璃亜はそれを『防壁【プロテクション】』の『異能【スキル】』で容易く防いでみせた。
【バ、馬鹿ナァッ!?】
直後にベルドの脳裏に浮かんだ、ラインハルトに敗北した時のデジャヴ。
そう言えば、あの時のラインハルトも瑠璃亜のように、こうして障壁を展開してベルドの鳳凰瞬王殺を破っていた。
そう…ベルドはあの時、ラインハルトのダインスレイブによって戦死したはずなのだ。
なのにどうして、自分はこうして生きているのか。戸惑いの表情を隠せないベルドだったのだが。
【オ、俺ハ貴様ノ言ウヨウニ、本当ニ死ンデイルトデモ言ウノカ!?ソンナ馬鹿ナ事ガ!?】
「もういい加減に貴方を楽にしてあげるわ!!『潜在能力解放【トランザム】』!!」
【ナ、何ィッ!?】
『潜在能力解放【トランザム】』の『異能【スキル】』を発動し、全身から凄まじい真紅の光を放つ瑠璃亜。
そして神刀アマツカゼを鞘に納めた瑠璃亜が、決意に満ちた表情で必殺の奥義を発動したのだった。
「夢幻一刀流究極奥義!!朱雀天翔破ぁっ!!」
【ギィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
直撃を食らい、全身に斬撃を浴びせられ、塵と化して消えていくベルド。
瑠璃亜は美海の『希望の夜想曲【ワルキューレ】』の加護を受けている上に、神刀アマツカゼまで手にしているのだ。
神剣バルムンクを失った上に、目の前の美海に異常に執着する『だけ』の『愚物』に成り果ててしまったベルド如きが、そもそも最初から勝てる相手では無かったのである。
【イ、一度ナラズ…二度マデモ…ッ!?】
瑠璃亜が神刀アマツカゼを鞘に納めたのを合図に、完全に消滅してしまったベルド。
それでも美海は目の前のベルドの消滅にも怯む事無く、太一郎たちの為に希望の歌を歌い続ける。
自分の希望の歌が、今も自分の事を命懸けて守ってくれている太一郎たちに、加護を与える事を分かっているから。
本当ならば泣きたくて泣きたくて、仕方が無いはずなのに。
そんな健気な美海を少しでも安心させてあげようと、瑠璃亜が穏やかな笑顔で背後から美海を優しく抱き締める。
その瑠璃亜の温もりと優しさを全身に感じ取った美海は、目から大粒の涙を流しながらも健気に希望の歌を歌い続けたのだった。
【強ェ!!アンタマジデ強ェヨ!!瑠璃亜タント同ジ位ノ強サナンジャネエノカ!?】
「お褒めに預かり光栄だとでも言っておこうかしら。」
その一方で繰り広げられている、クレアと神也の死闘。
クレアの『目視出来ない剣閃』を、爆笑しながら的確に受け止め続ける神也。
その絶望的な光景に、周囲にいるサーシャたちは驚愕の表情になってしまう。
本来ならばいかにクレアと言えども、真・魔王カーミラの加護を受けた神也が相手では苦戦は免れなかったはずだ。
だがクレアもまた神剣バルムンクを手にした上に、美海の『希望の夜想曲【ワルキューレ】』による加護を受けているのだ。
神刀アマツカゼを失った上に、何の想いも信念も持たずに強敵との戦いを…それこそ生きるか死ぬかのギリギリの状況を楽しむ事『だけ』しか考えていない『愚物』である神也如きが、そもそも最初から勝てる相手では無かったのである。
【ウ、ウオオオオオオオオオオオオオオオ!?】
クレアの『目視出来ない剣閃』が、さらに速度を増していく。
それは最早目視出来ないのをすっ飛ばした、まさに高速を超えた神速…いいや、最早それさえも完全に超越した『光速』の如き光速剣だ。
必死に粘る神也ではあるが、少しずつ、しかし確実に、クレアの神剣バルムンクが神也の身体を傷つけていく。
【オ、面白ェ!!マジデ楽シクテ、タマンネエヨ!!コンナニ興奮シタノハ鈴音タン以来ダワ!!】
「貴方の頭の中には、それしか無いのかしら?」
【ソレダケダヨォ!?アギャギャギャギャギャギャ@pミンf@オシvナエ@ジェ@オgニンf@オウェンgpフジコ(笑)!!】
それでも神也は『潜在能力解放【トランザム】』の『異能【スキル】』を発動し、クレアの光速剣にさえも対応。
『潜在能力解放【トランザム】』発動による強烈なバックファイアが情け容赦なく神也に襲い掛かるが、そんな物は知った事ではないと言わんばかりに、神也は『潜在能力解放【トランザム】』を発動し続ける。
「その『異能【スキル】』を長時間使い続ければ、貴方の身体が壊れてしまうわよ?太一郎も30秒が限界だって言ってたのに。」
【アンタ、分ッテネェナァ!?『ダカラ』面白ェンジャネエカヨォ!!アギャギャギャギャギャギャギャギャ(笑)!!】
太一郎に敗北した神也ではあるが、それでも神也は太一郎との戦いで物足りなさを感じていたのだ。
夢幻一刀流本来の殺人剣ではなく、人を活かし、守る為の『活人剣』を振るう太一郎。
そんな『甘ちゃん』の彼と戦った所で、生きるか死ぬかのギリギリの状況を楽しむ事に生きがいを感じる神也が、充実感を得られる訳が無いのだ。
だが目の前のクレアは違う。太一郎と違って本気で自分を殺しにきている。
クレアの光速剣から放たれるのは、凄まじいまでの情け容赦無い『殺気』。
少しでも気を抜けば、神也はクレアに殺される。
それが神也には、何よりも心地良くて楽しくて仕方が無いのだ。
【アギャ!!アギャギャギャギャ!!アギャギャギャギャギャギャギャ(笑)!!】
『潜在能力解放【トランザム】』の恩恵により、光速剣を振るうクレアと互角以上に渡り合う神也。
神也の猛攻の前に、クレアは徐々に追い詰められていく。
だがその代償として、神也の全身がギシギシと悲鳴を上げてしまっていた。
既にクレアが忠告した30秒は過ぎているのだが、それでも神也はお構いなしに『潜在能力解放【トランザム】』を発動し続けている。
神也は太一郎に言っていた。博打というのは外したら痛い目を見るから楽しいのだと。
そう…ここで神也の身体が完全に壊れる前にクレアを殺せなければ、神也の負けだ。
自分の身体が壊れるのが先か、クレアが死ぬのが先か。
神也にとってこれは、まさに一世一代の大博打なのだ。
「ウリエル・インストール!!」
【ナ、何ィッ!?】
だがそれさえもクレアの前では、所詮は無駄な悪あがきに過ぎなかった。
精霊魔法で召喚した光の上位精霊ウリエルを自身の身に纏わせたクレアが、全身から神々しい光を放ちながら背中に光の翼を展開させる。
【…ア、アヒャヒャヒャヒャ…ク、クレアタン、マジ天使…(笑)!!】
「光竜滅魔剣!!」
【ギィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア(笑)!!】
さらにクレアの神剣バルムンクから放たれたのは、まさに光速さえも超越した、太一郎の朱雀天翔破が可愛く思えてしまう程の、表現のしようもない程の凄まじい威力の斬撃の嵐。
一瞬の内に全身をズタズタに切り刻まれた神也が、アヘアヘしながら力無く地面に倒れたのだった。
そして『潜在能力解放【トランザム】』の過剰発動によって、とうとう限界を迎えてしまった神也の身体が、今にも漆黒の塵と化して消えようとしている。
【ヘ、ヘヘヘ…最ッ高ニ楽シカッタゼ…アリガトナ、クレアタン。】
「貴方の事は忘れないわ。せめて安らかに眠りなさい。神也。」
クレアに敗北した神也だったが、それでも最期に最高の思い出を得る事が出来た。
太一郎との戦いでは味わえなかった、生きるか死ぬか、殺すか殺されるかのゾクゾクとした緊張感…それをクレアとの戦いで存分に味わう事が出来たのだ。
クレアに対して最高の笑顔を見せながら、神也はクレアに看取られながら、漆黒の塵と化して消滅してしまったのだった。
【ば、馬鹿な…!!まさかあの2人までも、こうも容易く敗れるとは…!!】
その様子を真・魔王カーミラが、太一郎とラインハルトの2人を相手に同時に戦いながら、歯軋りしながら見つめていた。
いや、クレアと瑠璃亜に負けたというより、2人に加護を与えた美海に負けたと言った方が正しいかもしれない。
美海の『希望の夜想曲【ワルキューレ】』を甘く見ていた事…それが真・魔王カーミラの最大の誤算、そして最大の敗因なのだ。
「さて、これで残るは君だけだな。」
【思い上がらないで頂けますか?貴方如きが私と張り合おうなどと…!!】
太一郎の鳳凰丸から放たれる無数の『閃光』を、余裕の笑顔で神刀アマツカゼで的確に受け止め続ける真・魔王カーミラ。
美海の『希望の夜想曲【ワルキューレ】』による加護を受けてもなお、太一郎は真・魔王カーミラを相手に苦戦を強いられていた。
何しろ瑠璃亜とクレア…この異世界の最強のお母さん2人を同時に相手にしてもなお、単独で互角以上に渡り合った程なのだ。
いかに太一郎といえども、そう簡単に勝たせてくれるような相手では無い。
「稲妻よ!!雷迅の槍となりて敵を穿て!!ブレンサンダー!!」
そんな太一郎を援護しようと、ラインハルトが聖杖セイファートから必殺の雷魔法を放ったのだが、真・魔王カーミラは妖艶な笑顔でそれを全て吸収してしまったのだった。
これまでの戦いで受けた真・魔王カーミラのダメージが、あっという間に回復してしまう。
しかも、なまじラインハルトのブレンサンダーの威力が絶大なばかりに、真・魔王カーミラにとって最高のご馳走になってしまっていた。
並の使い手ならば突然こんな事をされてしまったのでは、一体全体何がどうなっているのかと取り乱してしまうだろうが。
【フフフフフ…ご馳走様でした。とても美味しかったですよ?】
「成程な、バリアチェンジか…!!ならば!!」
だがラインハルトは真・魔王カーミラが何をしでかしたのかを、即座に見抜いてしまったのである。
「その場を離れろ太一郎!!大空を舞い上がれ!!ファンネル!!」
聖杖セイファートから分離させた6つのファンネルを、真・魔王カーミラの周囲に展開して高速回転させたラインハルトが、6つのファンネルから6属性の魔法を個別に、同時に放ったのだった。
炎、水、風、土、光、闇。それぞれ相反する属性の魔法が一斉に、同時に、情け容赦なく真・魔王カーミラに襲い掛かる。
「これならば吸収は出来まい!!」
【ええい、小賢しい真似を…!!】
慌てて真・魔王カーミラが『防壁【プロテクション】』の『異能【スキル】』で、ラインハルトの魔法をシャットダウンする。
シリウスが『呪い』との戦いで体験したように、バリアチェンジは自らにとっての吸収属性を任意で変化させる事が出来る秘術なのだが、同時に相反する属性が強制的に弱点となってしまうという欠点がある。弱点だけを消すなどという器用な真似は出来ないのだ。
ならばどれが弱点なのか分からないのであれば、とりま全部ぶつければ済むだけの話なのである。
最もこんな芸当は聖杖セイファートの圧倒的な性能と、底無しの魔力量に加えて常人離れした魔法の技術を有するラインハルトでなければ、到底不可能な話なのだが。
【バリアチェンジを攻略した事は褒めて差し上げましょう。ですが、だから何だというのです?】
だがそれでもなお、真・魔王カーミアは余裕の態度を崩さない。
これ位の事で倒せる相手ならば、瑠璃亜もクレアもとっくの昔に真・魔王カーミラを倒せていたはずだ。
『防壁【プロテクション】』の『異能【スキル】』でラインハルトの凄まじい魔法の嵐を防ぎつつ、さらにお返しとばかりにブレンサンダーで太一郎とラインハルトを攻撃する。
「私の魔法を『模倣【ラーニング】』でコピーしたのか!?ぐはあっ!!」
「ぐあああああああああああああああああっ!!」
真・魔王カーミラのブレンサンダーの直撃を食らい、派手に吹っ飛ばされて地面に叩きつけられてしまったラインハルトと太一郎。
その絶望的な光景を、サーシャたちが驚愕の表情で見せつけられていたのだった。
美海の『希望の夜想曲【ワルキューレ】』の加護を得た太一郎とラインハルトでさえも、真・魔王カーミラには勝てないとでも言うのか。
まさに魔王。圧倒的な力で歯向かう者を容赦なく捻じ伏せる暴虐の魔王だ。
「それでも私は、まだ諦めない!!」
そんな中でただ1人覚悟を決めた美海が、背後から瑠璃亜に優しく抱きしめられながら、吹っ飛ばされた太一郎とラインハルトが自身の視界に入らない事を確認した上で、再び絶望の歌を奏でたのだった。
「『絶望の輪舞曲』…!!【デストラクション】!!」
美海の視界に映る者全員に強烈なデバフを与える、全てを破壊する絶唱。
それを今度はベルドに命じられて大勢の人々を『殺す』為では無く、太一郎とラインハルトを『守る』為に。
だがその威力を最大限に発揮する為には、美海の心が絶望で満たされなければならない。
ルミアたちのお陰で絶望から解放され、この異世界に希望を見出した今の美海が絶望の歌を歌った所で、それこそ蚊に刺された程度の威力しか発揮出来ないはずだ。
それを分かっているからこそ、真・魔王カーミラは余裕の態度を崩さなかったのだが。
【無駄な足掻きですね。今更貴女が絶望の歌を歌った所で…っ!?】
だが美海が『絶望の輪舞曲【デストラクション】』を発動した瞬間、何故か真・魔王カーミラの戦闘能力が減退してしまったのだった。
【ば、馬鹿なあああああああああああああっ!?い、一体何故えええええええええええええええええええっ!?】
真・魔王カーミラの全身から力が抜ける。思うように身体を動かせない。
一体全体何がどうなっているのかと、真・魔王カーミラが驚愕の表情で美海を睨みつけたのだが…瑠璃亜に背後から抱き締められている美海が、目から大粒の涙を流していた。
それを見た真・魔王カーミラが、美海が一体何をしたのか…絶望から解放されたはずの美海が『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の威力を発揮出来た理由を、即座に理解したのである。
そう…美海はベルドによって受けた拷問の凄惨な光景や苦しみを、敢えて自らの意思で鮮明に脳内に思い浮かべる事で、一時的に自らの心を絶望に染め上げたのだ。
もう二度と思い出したくないはずの、自分にとっての最悪のトラウマを引きずり出してでも、真・魔王カーミラに苦戦を強いられている太一郎とラインハルトを守る為に。
下手をしたらPTSDを発症するかもしれないのに、そのリスクを承知の上で。
「貴女は何て無茶な真似を!!」
そして美海が何をしたのかを即座に理解した瑠璃亜が、悲しみの表情で美海を抱き締める両腕に力を込めた。
それでも美海は絶望の歌を止め、自分を背後から抱き締めてくれる瑠璃亜の温もりや感触、優しさを、存分にその身に刻み込む。
この瑠璃亜の温もりと優しさがあるからこそ、美海は再び『絶望の輪舞曲【デストラクション】』を使う覚悟を決める事が出来たのだ。
「私ならもう大丈夫!!こうして貴女が私の事を支えてくれているから!!」
その瑠璃亜の温もりと優しさに包まれながら、美海が決意に満ちた表情で、今度は希望の歌を奏でたのだった。
「『希望の夜想曲』!!【ワルキューレ】ぇっ!!」
そして再び奏でられた希望の歌が、太一郎とラインハルトに再び強烈な…しかし美海の想いが込められた優しくて温かい加護を与える。
絶望と希望…相反するが故に誰もが不可能だと思っていた、『絶望の輪舞曲【デストラクション】』と『希望の夜想曲【ワルキューレ】』の併用。
それを美海は、この最終決戦において見事にやってのけてみせたのである。
「『潜在能力解放【トランザム】』!!」
「稲妻よ!!我が身を纏い、疾風迅雷となれ!!エルトサンダー!!」
そして立ち上がった太一郎とラインハルトが決意に満ちた表情で、『潜在能力解放【トランザム】』とエルトサンダーを発動。
真紅の光に包まれた太一郎と、全身に稲妻を纏わせたラインハルトが、真・魔王カーミラに果敢に立ち向かう。
美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』が終了後も、3分間はデバフの効果が切れる事が無い。真・魔王カーミラはとても悔しそうに歯軋りしたのだった。
いくら美海が自らの意思で一時的に絶望しようが、それでも絶望から解放されてこの異世界に希望を見出した今の美海では、真・魔王カーミラの戦闘能力を精々2/3程度に減退させるので精一杯といった所だろう。
ファムフリート王国騎士団やテレスティア王国騎士団を壊滅させた時のような、あれ程の暴虐的な威力を発揮する事は、今の美海にはもう出来ない。
だが、それでも。
美海の『希望の夜想曲【ワルキューレ】』の加護を受けた今の太一郎とラインハルトにとっては、2/3も減退して貰えれば充分過ぎた。
『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の効果時間の3分どころか、1分もあれば充分にケリを付けられる。
【お、おのれぇっ!!美海ぁっ!!】
「稲妻よ!!雷神の渦となりて敵を飲み込め!!ダイムサンダー!!」
【愚かな事を!!再びバリアチェンジで吸収を…!!】
放たれた凄まじい威力の稲妻を再びバリアチェンジで吸収しようとした真・魔王カーミラではあったが。
【ぎぃああああああああああああああああああああああああああ!!】
何故か真・魔王カーミラはダイムサンダーを吸収するどころか、逆に大ダメージを受けてしまったのだった。
「…を、本当に発動すると本気で思っていたのかな?」
【こ、小賢しい真似をおおおおおおおおおおおおおっ!!】
ドヤ顔のラインハルトを、憎たらしそうな表情で睨みつける真・魔王カーミラ。
ラインハルトはシリウスが『呪い』に対してやってみせたように、魔力を調整する事で雷魔法の相反属性である風魔法を、見た目を雷魔法に似せて放ったのである。
バリアチェンジは確かに厄介な能力ではあるが、『雷神の魔術師』の異名を持つ程の凄腕の魔術師であるラインハルトにとっては、別にどうという事は無いのだ。
「夢幻一刀流奥義!!花吹雪!!」
そして大ダメージを受けた真・魔王カーミラに、さらに追撃を仕掛ける太一郎。
放たれた無数の『閃光』が、情け容赦なく真・魔王カーミラの全身を傷付ける。
美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の影響のせいで、真・魔王カーミラは本来の実力を発揮する事が出来ず、『潜在能力解放【トランザム】』を発動した太一郎に追い込まれていく。
【まだだ!!まだ私は負けてはいない!!貴方たちのようなゴミ虫如きが!!この世界の現人神たる私を好きに出来ると思うなぁっ!!】
それでも真・魔王カーミラは太一郎とラインハルトを衝撃波で吹っ飛ばし、神刀アマツカゼに凄まじい威力の闇の闘気を込めたのだった。
自分自身さえも巻き込んでしまう程の、それどころか周囲にいるサーシャたちや、フォルトニカ王国の城下町にさえも被害が及びかねない程の、自爆覚悟の広範囲攻撃だ。
まさに真・魔王カーミラの切り札…まともに食らえば太一郎もラインハルトも、決して無事では済まないだろう。
ただしあくまでも…まともに食らえばの話なのだが。
【これで終わりだあっ!!死になさいっ!!】
「そうだな、これで終わりだぁっ!!」
【な、何ぃっ!?】
そこへラインハルトが放ったのは、今度こそ正真正銘のダイムサンダー。
放たれた雷の渦が、情け容赦なく真・魔王カーミラを飲み込んでいく。
必殺の究極奥義であるが故に、発動の際に全身隙だらけになる。それを見逃す程ラインハルトは馬鹿ではなかった。
【こんなぁ!!チャチな電撃如きでぇっ!!唯一絶対神たる!!この私があっ!!】
それでも何とかダイムサンダーを闇の闘気で吹き飛ばした真・魔王カーミラだったのだが、それを見越したかのように既に太一郎が究極奥義の構えに入っていた。
鳳凰丸を鞘に納め、真っすぐに真・魔王カーミラを見据える。
隙だらけの真・魔王カーミラ。ラインハルトが作ってくれたこのチャンスを、太一郎は絶対に見逃さない。
「夢幻一刀流究極奥義!!」
【無駄な事を!!朱雀天翔破の見切りなら、神也の記憶から既に会得済みですよ!!】
「朱雀天翔破ぁっ!!」
かくして太一郎の鳳凰丸から放たれた、凄まじい威力の斬撃の『暴風雨』。
その太刀筋に合わせて的確に無数の障壁を作り出す真・魔王カーミラではあったが、彼女は失念していたのだ。
今の自分が美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』によって、戦闘能力を本来の2/3にまで減退させられている事を。
今の太一郎が自身の『潜在能力解放【トランザム】』と美海の『希望の夜想曲【ワルキューレ】』によって、戦闘能力が大幅に上昇しているという事を。
これらのどちらかが欠けていただけでも、真・魔王カーミラに朱雀天翔破を破られた太一郎は、カウンターで強烈な一撃を食らわされてしまっていただろう。
そう…美海を制する者は、この異世界全土を制する。
美海さえいなければ、真・魔王カーミラが太一郎やラインハルトに負けるはずがなかったのだ。
太一郎の朱雀天翔破が、真・魔王カーミラが朱雀天翔破の太刀筋に合わせて展開した障壁を、まるでボロ雑巾のように情け容赦なく粉々に粉砕してしまった。
【ば、馬鹿なあああああああああああああああああああっ!?】
予想外の事態に、驚愕の表情になる真・魔王カーミラ。
そして。
「これで終わりだああああああああああああああああっ!!」
【ぎぃああああああああああああああああああああああ!!】
太一郎の渾身の鳳凰丸による一撃が、遂に真・魔王カーミラの首を刎ねたのだった。
完結まで残り3話。
真・魔王カーミラを倒した太一郎とラインハルトですが…その時、美海は…。