第106話:果てしなき戦い
仕事の都合とはいえ掲載が遅れてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
オールスター軍団VSオールスター軍団。
この壮絶な戦いの行く末は…。
真・魔王カーミラと美海…両者の加護を受けた両陣営の死闘が…この異世界の未来を掛けた最終決戦が遂に始まった。
漆黒の闇に包まれたアリスたちを、緑色の光に包まれたルミアたちが迎撃する。
だが美海の『希望の夜想曲【ワルキューレ】』の『異能【スキル】』の威力は、真・魔王カーミラの想像を遥かに上回っていた。
美海を制する者は、この世界を制する…以前ベルドが言っていた事は、決して間違いなどでは無かったのだ。
【アアアアアア!!アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
自身の身長程の長さがあろうかという禍々しい漆黒の大剣を手に、物凄い勢いでルミアに次々と斬撃を浴びせるアリスだったが、それをルミアは涼しい表情で避け続ける。
これが美海の『希望の夜想曲【ワルキューレ】』の加護が無ければ、ルミアは真・魔王カーミラの加護を受けたアリスを相手に苦戦を強いられていただろうが…今は逆にルミアがアリスを圧倒していた。
こと『加護』においては、美海はこの異世界において最強。最強なのだ。
【アアアアアアアアアアアアアアアアッ…!?】
ルミアに横薙ぎの斬撃を浴びせるアリスだったが、それをルミアは軽くジャンプしてアリスの大剣を足場に華麗に着地。
驚愕するアリスに対し、さらに漆黒の大剣を足場にジャンプして天高く飛翔したルミアが、上空からアリスに凄まじい威力の蹴りの連打を浴びせたのだった。
「ぴぴぴぴぴ~~~~~!!暗黒流水鳥脚奥義!!天翔流星脚!!ぴぴぴぴぴぴぴいいいいいい!!ぴぴぴぴぴぴぴいいいいい!!ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴいいいいいいいいい!!」
【アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
凄まじい威力の蹴りの連打をまともに全身に食らったアリスが、物凄い勢いで吹っ飛ばされ、ドン!!ドン!!と受け身も取れずに派手に地面に叩きつけられる。
やがて動けなくなったアリスが身体を震わせながら目に大粒の涙を浮かべ、自分を倒したルミアを悲しみの笑顔で見つめていたのだが。
【ア…アアアア…アアアアアアアア…!!】
ルミアに敗北したアリスの身体が、漆黒の塵と化して消えていく。
その仮初めの命が最早風前の灯火となりながらも、アリスは自分を真・魔王カーミラの呪縛から解放してくれたルミアに、最期の力を振り絞って感謝の言葉を伝えたのだった。
【…アリガ…トウ…!!】
それだけルミアに告げて、塵と化して消えてしまったアリス。
偽物とはいえ、イリヤの幼馴染を手に掛けてしまったルミア…いいや、真・魔王カーミラの呪縛から解放したと言った方が正しいだろう。
アリスがルミアに対して最期に遺した笑顔が、ルミアに対して「気にしないで」と訴えかけているかのようだった。
【ルミアァァァァァァ!!ルミアァァァァァァァァァァァァァァァ!!】
「陛下!!」
だがそんなルミアに感慨に耽る余裕すら与えず、カーゼルが先程まで交戦していたレイナをほったらかしにして、ルミアに漆黒の双剣を手に突撃してきた。
完全に虚を突かれてしまったルミアだったのだが、そこへジュリアスを倒したエキドナが『転移【テレポート】』の『異能【スキル】』で先回りして、聖剣ティルフィングで漆黒の双剣を受け止めてルミアを守る。
「エキドナ!!」
「申し訳ありませんが今のルミアは、私たちの大切な仲間です。貴方がルミアに対してどれだけの思い入れがあるのかは存じ上げませんが、どうかお引き取りを。」
いかに偽物とはいえルミアにとってカーゼルは、かつて自身が仕えていた王だ。
イリヤに親友殺しをさせまいと、自らの手でアリスを倒したルミアと同じように。
エキドナもまたルミアの心を守る為に、果敢にカーゼルに立ち向かう。
【ルミアァァァァァァァ!!ルミアァァァァァァァァァァァァァ!!】
ルミアの眼前で、漆黒の双剣と聖剣ティルフィングが何度もぶつかり合う。
最早完全に理性を失い、ただルミアを求めるだけの存在と化してしまったカーゼル。
だが美海の『希望の夜想曲【ワルキューレ】』の『異能【スキル】』による加護を受けたエキドナもまた、カーゼルを完全に圧倒していた。
そもそも今のカーゼルはルミアに対して異常なまでに執着するあまり、目の前のエキドナの事が全く見えてない。
そのような『愚物』如きに太刀打ち出来る程、エキドナは甘い相手では無いのだ。
「はあああああああああああああああああああっ!!」
【ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
やがてエキドナの聖剣ティルフィングが、情け容赦なくカーゼルの身体を斬り捨てる。
どう…っ、と派手に地面に倒れながら、薄れゆく意識の中でルミアを見つめるカーゼルだったのだが。
【ルミ…ア…!!】
「陛下…。」
今にも全身が漆黒の塵となって消えようとしているカーゼルに対し、エキドナの隣に歩み寄ったルミアが悲しみの表情で敬礼をした。
「…短い間でしたが、今までお世話になりました。」
【アアアア…ルミ…ア…!!】
カーゼルの最期を見送るルミアの肩を、エキドナが優しく抱き寄せる。
そんなエキドナにルミアが悲しみの表情で、温もりを求めるかのように自らの身体を寄せたのだった。
そしてケイトとセレーネもまた『ラビアンローズ』の女性たちと連携し、『ブラックロータス』の少年たちを完全に圧倒していく。
当然だろう。ケイトもセレーネも『ラビアンローズ』の女性たちも、全員が数多くの修羅場を潜り抜けてきた歴戦の猛者たちだ。
突然与えられた『異能【スキル】』という圧倒的な力に溺れてばかりで、自らを鍛える事をしてこなかった、ただ喧嘩が強いだけでしかないアマチュアの少年たち如きが、最初から勝てる相手では無かったのだ。
1人、また1人とケイトたちの斬撃を受けて、漆黒の塵と化して消えていく。
【フザケルナァァァァァァァ!!ドイツモコイツモ、俺ノ事ヲ馬鹿ニシヤガッテェェェェェェェェェ!!】
そうこうしている内に最後の1人になってしまった一馬が、怒りの形相で漆黒のオーラを爆発させ、『血液武器化【ブラッドウェポン】』の『異能【スキル】』で神剣バルムンクを作り出したのだが。
【オ前ラニ俺様トイウ存在ヲ思イ知ラセテヤルヨ!!暗黒流鳳凰剣奥義!!鳳凰紅蓮刃!!ドラァァァァァァァァァァァァ!!】
「言ったはずですよ!!皆さんは私が守ってみせると!!かの者たちを守る盾となれ!!」
エストファーネが精霊魔法で展開した障壁が、一馬が生み出した無数の衝撃波を情け容赦なくシャットアウトしたのだった。
戦闘は苦手だが回復と補助に関しては、エストファーネはイリーナを凌駕する。
美海の加護を受けたエストファーネによって生み出された障壁は、最早絶対防御と呼べる程の強度を発揮していた。
【フザケルナァ!!テメェラミテェナ女共ガ、コノ絶対無敵ノ俺様ヲ…ッ!!】
「「はああああああああああああああああっ!!」」
【ナ、何ィッ!?】
そうこうしている内に、いつの間にか一馬の側面に回り込んでいたケイトとセレーネが、それぞれ左右から渾身の一撃を浴びせる。
「シャインブレイク!!」
「サーベイジファング!!」
自分の必殺の一撃を容易く防いだエストファーネに対して怒りを爆発させた一馬は、完全に頭に血を昇らせて冷静さを失ってしまった事で、本来なら一番注視しなければならない相手であるはずの、この中で最強の使い手であるケイトとセレーネの動きが、全く見えていなかったのだ。
これが一馬の若さ故の甘さ…完全に虚を突かれた一馬は、2人の渾身の一撃に全く反応する事が出来なかった。
【ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
ケイトとセレーネが互いに交錯し、一馬の身体に強烈な光に包まれた×の字の斬撃が刻まれる。
そして派手に地面に倒れた一馬が全身を漆黒の塵と化しながらも、薄れゆく意識の中でシリウスに対しての呪詛の言葉を述べたのだが。
【アノ野郎が…ヒョロガリ魔術師ガ…俺タチニ『呪イ』ヲ…!!】
「そうですね。シリウス殿は皆さんに『呪い』を掛けて苦しめた。それは確かに紛れも無い事実ですが…。」
それに応えるかのように剣を鞘に納めたケイトが侮蔑の表情で、今にも消え去ろうとしている一馬を見下した。
「それでも一馬殿。貴方は聖地レイテルで姫様を陥れ、そして貴方のせいでエルダードラゴン殿も真由殿も死んだ。貴方の卑劣な行いを、私は一生許すつもりはありませんよ。」
【ダカラ何ダッテンダ…ソンナノ俺ノ…知ッタコッチャ…ネエ…!!】
「そうですか…本当にどうしようもないクズ野郎ですね。貴方は。」
【ウルセエ…ウルセエ…ウル…セエ…!!】
自分のせいで取り返しの付かない事態を招いてしまったのだという事を、最期の瞬間まで認めようとしないまま、一馬はケイトに対して憎たらしそうにガンを飛ばしながら、漆黒の塵と化して消滅してしまったのだった。
【アアアアアアアアアアアアア!!ダリアァァァァァァァァァ!!】
「アンタには世話になったが、今のアタシのクライアントはラインハルト陛下だ。これが傭兵の世界…悪く思わないでおくれよ。」
そしてヴァースとダリア…ほんの数日とはいえ主従関係にあった者たちが、今度は敵同士となって殺し合う。
だがダリアが言っていたように、これが傭兵という存在なのだ。
傭兵というのは雇われれば誰にでも協力し、誰とでも戦う存在…それ故に昨日まで背中を預けて互いに命を守り合った者と、翌日には殺し合うなんてのは日常茶飯事なのである。
【アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
「遅い遅い!!あくびが出るよ!!陛下!!」
ヴァースが繰り出す無数の居合を、ダリアが涼しい表情で槍で受け止め続ける。
確かにヴァースの斬撃は凄まじい威力だが、同じ居合の達人である太一郎の『閃光』の如き太刀筋を経験しているだけに、ダリアにはヴァースの居合がスローモーションのように感じられていた。
真・魔王カーミラの加護を受けてもなお、ヴァースの実力は太一郎には及ばない。
それに加えて美海の『希望の夜想曲【ワルキューレ】』の加護を受けたダリアの力は、まさに圧倒的だったのだが。
【オ願イ傭兵サン…私ヲ…殺シテ…!!】
目から大粒の涙を流しながら、真由がヴァースを『防壁【プロテクション】』の『異能【スキル】』で援護した…いいや、真・魔王カーミラによって援護を『強要させられた』のだった。
ダリアの槍の一撃が、真由が展開した防壁によって弾かれてしまう。
【私ヲ…殺シテ…殺シテ…殺シテ…!!】
【娘エエエエエエエエエ!!私ヲ援護セヨオオオオオオオオオオオ!!】
さらに『治療【ヒーリング】』の『異能【スキル】』によって、真由がダリアによって付けられたヴァースの傷を一瞬にして癒してしまう。
戦闘能力は皆無だが、それでもサポートに特化した真由の『異能【スキル】』の数々は確かに厄介だ。
太一郎がこれまでただの1人の犠牲者を出す事無く、村や街を魔物や野盗たちから守り抜く事が出来たのは、他でも無い…この真由の優れたサポートがあったからこそなのだ。
いかにダリアと言えども、決して軽く見ていい相手では無い。
ところで以前、太一郎は語っていた。
『ラビアンローズ』の中で一番の脅威なのは、ダリアではなくイリーナなのだと。
いくら雑魚だからと言って、こんな厄介な奴を戦場で放置しておいたら、何をしでかしてくるか分かったもんじゃないのだと。
「彼女は無視して構わないわダリア!!そのまま陛下に攻撃を続けて!!」
「あいよ!!」
そう…かつての部下であるイリーナを『取るに足らない相手』だと軽視して、放置してしまった事…それがヴァースの最大の敗因なのだ。
ヴァースは生前の頃からイリーナの脆弱な戦闘能力ばかりに目を取られ、ダリアと違って彼女の『本質』に全く気が付いていなかったのだ。
先の戦いで太一郎がイリーナを危険視して真っ先に退場させたのは、決して間違った判断では無かったのである。
「私が見た限りでは彼女の『異能【スキル】』は、目視していない相手に使用した場合は、威力が格段に落ちるみたいよ!!」
「了解だイリーナ殿!!ならば私とレイナで渡辺真由を集中攻撃する!!」
「そっちはお願い!!私はダリアを補助魔法で援護するわ!!」
シリウスとレイナの凄まじい猛攻を、『プロテクション【防壁】』の『異能【スキル】』で防ぐ事だけで精一杯の真由。
同時にヴァースに対して『プロテクション【防壁】』で援護するものの、ヴァースを目視する余裕が無いせいか、明らかにヴァースに対する防壁の威力が減退してしまっていた。
自身への攻撃を防ぎ切れず、ヴァースは少しずつ、しかし確実に傷付いていく。
『異能【スキル】』の対象となる相手を目視していないと、威力が大幅減退してしまう事が、真由の弱点。
美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』と同じ弱点なのだが、とにかくイリーナは真由の戦いぶりを少し見ただけで、それを即座に分析してしまったのである。
【何ヲシテイル娘エエエエエエエ!!早ク私ノ傷ヲ癒サヌカアアアアアアアアア!!】
「どうしたどうした!?さっきからジリ貧になってるよ!?陛下!!」
イリーナの補助魔法によって威力が増大したダリアの槍が、次々と防壁を突き破って情け容赦なくヴァースの身体を傷つけていく。
だからこんな奴を戦場で放置しておいたら、何をしでかすか分かったもんじゃないと、太一郎が以前語っていたというのに…。
「これで終わりだよ!!陛下!!」
【ガハァッ!!】
そして遂にヴァースを守っていた防壁がダリアの一撃で粉々になり、間髪入れずに放たれたダリアの槍が、ヴァースの左胸を情け容赦なく貫いた。
驚愕の表情で塵と化して消えたヴァースだったが、なおもダリアは真由に向けて駆け抜ける。
「望み通りアンタを楽にしてやるよ!!せめて安らかに眠りな!!」
【アアア…アアアアア…!!】
そしてダリアの槍が、防壁を突き破って…いいや、真由が真・魔王カーミラの支配に抗い、自らの意思で防壁を解除したようだ。
ダリアの渾身の一撃が、真由の左胸を貫く。
目に大粒の涙を浮かべながら、真由はダリアに精一杯の笑顔を浮かべ、そのままダリアに感謝しながら塵と化して消えてしまったのだった。
【筋肉ダ!!筋肉コソガ!!マサニ至高ニシテ究極ノ美学ナノダ!!】
「アンタ、さっきから筋肉筋肉キモいんだけど!?行きなさいヴァジュラ!!」
ポージングを決めながらイリヤに槍で斬りかかるアルベリッヒを、イリヤが魔剣ヴァジュラから放った無数の小さな刃で迎撃する。
美海の『希望の夜想曲【ワルキューレ】』の『異能【スキル】』による加護を受けた事で、魔剣ヴァジュラによる全方位オールレンジ攻撃が、これまで以上に鋭さを増していたのだった。
次から次へと、無数の小さな刃で全身を切り刻まれるアルベリッヒ。
【ワ、我ガ究極ノ肉体ガ…!!セ、セメテモット、プロテインヲ飲ンデ…イ、イレバアアアアアアアアアア!!】
「…ウザっ。」
驚愕の表情でポージングを決めながら、塵と化して消滅するアルベリッヒの傍らで、サーシャとチェスターの死闘も終局を迎えようとしていた。
サーシャの雷迅剣によって全身を情け容赦なく感電させられ、最早完全に虫の息のチェスター。
そもそもアルベリッヒ同様、チェスターもまたサーシャとの相性が最悪なのだ。
サーシャの雷迅剣は正面から武器で受け止めてしまうと、隼丸を通して全身に電撃を流し込まれて感電してしまう。
それを防ぐ為にはサーシャの攻撃を全て避けるか、あるいは太一郎が模擬戦でやってみせたように、カウンターでサーシャを投げ飛ばすなりしなければならないのだが、巨大な斧を手にしており動きが鈍重なチェスターでは、そのいずれもが不可能な代物だった。
【コ、コノワシガ!!貴様ノヨウナ小娘如キニイイイイイイイイイイ!!】
「はあああああああああああああああああああっ!!」
【バ、馬鹿ナアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
サーシャの渾身の光竜滅魔剣を全身に食らったチェスターが、驚愕の表情で塵と化して消滅する。
その様子を瑠璃亜とクレアの2人を相手に戦いながら、真・魔王カーミラが歯軋りしながら見つめていたのだった。
まさか美海の『希望の夜想曲【ワルキューレ】』による加護の威力が、これ程の物だったとは。流石の真・魔王カーミラも想定外だったようだ。
【おのれ、まさか全員が倒されるとは…本当に役に立たない人たちですね。】
「で?どうするの?彼らをもう一度再召喚する?そんな事をしたら貴女の魔力が持たないと思うのだけれど?」
【まさに愚か極まりないですね、魔王カーミラ。私の魔力はまだまだ充分に余裕がありますよ。】
瑠璃亜が余裕の笑顔で放った鳳凰丸による斬撃を、真・魔王カーミラが神刀アマツカゼで受け止める。
その隙にクレアがソードレイピアで『目視出来ない剣閃』を浴びせるものの、それを真・魔王カーミラが『防壁【プロテクション】』の『異能【スキル】』で受け止める。
クレアと瑠璃亜…この異世界最強のお母さん2人を同時に相手にしてもなお、真・魔王カーミラはまだまだ余裕があるようだった。
【剣閃が見えないから何だと言うのです?そのような直線的な斬撃など、タイミングを合わせて防げば済むだけの話ですよ。】
「流石にやるわね。伊達に真なる魔王を名乗るだけの事はあるわ。」
【とはいえ、このままサーシャ王女たちに加勢でもされたら確かに厄介ですね。ここは私も奥の手を使わせて頂くとしましょうか。】
瑠璃亜とクレアを吹っ飛ばした真・魔王カーミラが、さらなる切り札を発動したのだった。
瑠璃亜の言うように真・魔王カーミラが作り出す亡霊たちは、作り出す亡霊の戦闘能力に比例して、消費する魔力が際限無く上昇してしまう。
まだまだ残存魔力に充分な余裕があるとはいえ、それでも出来ればこの2人だけは作らずに済ませておきたかったのだが。
今のこの状況においては、もうそんな事を言っていられる場合では無いのだ。
【これから私が召喚する2人は、先程までの雑魚共とは格が違いますよ?】
威風堂々と真・魔王カーミラが作り出した、最強の2人…それは…。
【オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!】
【アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
先程ラインハルトと太一郎に敗北して戦死したばかりの、ベルドと神也の亡霊たちだった。
【美海アアアアアア!!ミ~~~~~ウ~~~~~ナ~~~~~!!】
「ひいっ!?」
いきなりベルドに攻撃され、咄嗟に歌う事を止めてしまった美海。
ベルドの剣が美海に迫るが、それを瑠璃亜が真・魔王カーミラをほったらかしにして、手にした鳳凰丸で受け止めたのだった。
思わず地面にへたり込んでしまった美海が、唖然とした表情で瑠璃亜の後ろ姿を見つめている。
「安心しなさい。貴女は私が必ず守るわ。まあ同じ転生者同士、これからも仲良くやっていきましょう?」
「あ、貴女は…!?」
「それで?大丈夫?怪我は無い?まだ歌える?」
ベルドと瑠璃亜が鍔迫り合いの状態で睨み合う最中、美海は意を決した表情で立ち上がったのだった。
「…私はまだ歌える!!まだ戦える!!」
もう美海はベルドを恐れない。何も怖くない。
その後ろ姿からでも分かる。瑠璃亜がとても優しくて温かい存在だという事が。
それに瑠璃亜が美海の事を、全力でベルドから守ってくれるから。
だから美海は奏でる。瑠璃亜とクレアを守る為の希望の歌を。
そして神也の相手は、同じく真・魔王カーミラをほったらかしにしたクレアが。
神也の刀とクレアのソードレイピアが、凄まじい勢いで何度もぶつかり合う。
【アンタノ、ソノ物凄ク速イ太刀筋…見覚エガアルゾ!!以前瑠璃亜タンガ俺トノ戦イデ使ッテタ奴ダ!!】
「成程、貴方が以前瑠璃亜を負かしたっていう真野神也ね?」
【アンタガ、オリジナルダナ!?精々俺ノ事ヲ楽シマセテクレヨナァ!?】
瑠璃亜とベルド、クレアと神也…互いの壮絶な死闘が繰り広げられる最中、完全に蚊帳の外に置かれ、ほったらかしにされてしまった真・魔王カーミラが、とても不機嫌そうな表情になってしまったのだった。
確かにこの2人を召喚したのは彼女自身だが、だからと言ってまさかここまで完全にガン無視されるとは思わなかったからだ。
【…貴女たち、一体どういうつもりなのですか?】
ある意味では自分への侮辱とも取れる2人の行動に、苛立ちを隠せない真・魔王カーミラだったのだが、それでもクレアも瑠璃亜も感じ取ったのだ。
真・魔王カーミラと戦いを託すのに充分に値する、この異世界における最強の勇者2人が、もうすぐそこまで駆けつけてくれているという事を。
「私たちオバサンが主役を差し置いて出しゃばるのは、ここまでだという事よ。」
「ええ、魔王を倒すのはいつだって勇者の役目だって、相場は決まっているわ。」
ベルドを弾き飛ばした瑠璃亜が、自身に満ちた笑顔で呼びかけたのだった。
「そうでしょう!?太一郎君!!ラインハルト君!!」
瑠璃亜の呼びかけと共に、上空から飛竜に乗って颯爽と駆けつけた太一郎とラインハルトが、飛竜から飛び降りて真・魔王カーミラの前に立ちはだかったのだった。
そしてクレアと瑠璃亜に向かって、ベルトと神也から回収した伝説の武器を投げ飛ばす。
「クレア女王!!」
「母さん!!これを!!」
自分に向かって物凄い勢いで投げ飛ばされた2本の伝説の武器を、クレアと瑠璃亜はしっかりと受け止めたのだった。
神剣バルムンクを手にしたクレア。
神刀アマツカゼを手にした瑠璃亜。
今ここに、この異世界において、伝説の武器を手にした最強のお母さん2人が爆誕した。
神也とベルドの相手は、もうこの2人に任せておけば問題無いだろう。
「さてと、いよいよラスボス戦だな。」
「シルフィーゼ殿は怪我人の手当てを!!彼女は私と太一郎で何とかする!!」
後は目の前にいる真・魔王カーミラを、太一郎とラインハルトで討伐するだけだ。
【まあいいでしょう。貴方たち2人は、この世界における『希望』…。貴方たち2人を殺せば、この世界の全ての者たちは大いに絶望する事になるでしょう。】
「こいつは確かにとんでもない化け物だな。だが…。」
「ああ、それでも我々は負ける訳にはいかないぞ。」
太一郎が鞘に収めた鳳凰丸を構え、ラインハルトが聖杖セイファートからファンネルを展開する。
ここで真・魔王カーミラを取り逃がすような事になれば、この異世界において一体どれだけ多くの人々が傷つけられ、殺される事になるのか。
だからこそ太一郎もラインハルトも、真・魔王カーミラに敗北する事はおろか、撤退さえも絶対に許されないのだ。
それでも太一郎とラインハルトに対して、美海が精一杯の希望の歌を届けてくれている。
『潜在能力解放【トランザム】』の『異能【スキル】』のような暴虐な力とは違う、とても優しくて温かい加護の力を。
そして美海の想いが、2人に勇気と力を与えてくれる。
だから太一郎もラインハルトも、はっきり言って負ける気がしなかった。
【さあ、私の胸の中で永遠の眠りにつきなさい!!】
「行くぞ!!ラインハルト!!」
「おう!!」
決意に満ちた表情で、太一郎とラインハルトが真・魔王カーミラに立ち向かったのだった。
太一郎&ラインハルトVS真・魔王カーミラ。
瑠璃亜VSベルド。
クレアVS神也。
次回、決着です。