第105話:真なる魔王カーミラ
ラスボス登場。今回はいつもより掲載が少し遅れてしまいました。
神也とベルドを倒した太一郎とラインハルトですが、神也のせいでまたとんでもない事に…。
太一郎の陽炎・雷の直撃を顔面にまともに食らった神也は、顔面に襲い掛かる激痛と強烈な脳震盪によって、まともに起き上がる事が出来ずにいた。
そんな神也の無様な姿を、神也の手から弾き飛ばした神刀アマツカゼを回収し、威風堂々と見下す太一郎。
戦いに勝利したのに自分に止めを刺そうとしない太一郎を、神也が強烈な脳震盪で視界が定まらない中で、とてもウザそうに睨みつけていたのだった。
「て、てめぇ、何で俺を殺さねえんだ!?情けなんざ要らねえよ!!」
「僕の夢幻一刀流は、人を殺す為に身に着けた物じゃない。大切な物を守る為の力が欲しくて身に着けた物なんだ。」
「だから俺を殺さねえってか!?てめえのそういう所が気に食わねえっつってんだよぉ!!」
太一郎に罵声を浴びせる神也だったが、そもそも太一郎と神也は最初から、互いに相容れる事が出来ない存在なのだ。
現代社会で警察官として、『守る』為の戦いを続けてきた太一郎。
それに対して幕末時代に剣士として、『殺す』為の戦いを続けてきた神也。
互いの戦う目的も思想思念も全くの正反対であるこの2人が、どうして互いに歩み寄る事が出来るのだろうか。どうして分かり合う事が出来るのだろうか。
そんなの無理ゲーに決まっている。
「とは言え、俺はてめぇに完膚なきまでに負けた…!!それだけは潔く認めてやるよ…!!けどなぁ!!」
神也が勝ち誇った笑顔で、太一郎に自らの負けを認めた…次の瞬間。
「この戦いの勝利はてめぇにくれてやる!!だが俺の最期の贈り物だけは盛大に受け取りやがれぇっ!!」
【ファファファファファ…。】
「な、何ぃっ!?」
突然神也の身体から顕現した『呪い』が、情け容赦なく神也の身体を飲み込んだのだった。
漆黒の闇に飲み込まれ、『呪い』に食われる神也。
「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!約束通り俺を食らえ!!そんでもって、てめぇに魔王カーミラの座をくれてやる!!存分に暴れてきやがれぇっ!!」
【然り。そなたの敗北と共に、わらわがそなたを食らう…その契約を今こそ果たさせて貰うぞ。ファファファファファ…。】
「あがああああああああああああああああ!!」
あっという間に全身を飲み込まれ、最早顔だけが辛うじて飛び出ている状態になった神也が、とても楽しそうな笑顔で太一郎を睨みつけている。
いきなり『呪い』が神也を食らった事に戸惑いを隠せないシルフィーゼだったが、太一郎は持ち前の聡明さで神也が何をしたのかを、即座に理解したのだった。
「覚えておけよ軟弱野郎!!戦いに負けるってのはなぁ!!こういう事なんだよぉっ!!」
「馬鹿な!?君は自分の身体に『呪い』を取り憑かせていたのか!?」
「その通りだ!!俺が戦いで誰かに負ければ、魔王カーミラの座と俺の身体を一緒にくれてやるっていう契約も一緒になぁっ!!」
「何故そんな馬鹿げた真似を!!」
「その方が面白ぇからに決まってるだろうがぁ!!ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
神也は何も語らなかったが、恐らくは神也が戦いに勝ち続ける事で、『呪い』が神也に対して何らかのメリットを与えるという契約になっていたのだろう。
だからこそ、その対価として、こうして神也が太一郎に敗北した途端に、神也が『呪い』に殺される結果になってしまったのだ。
こんなハイリスクハイリターンっていうレベルではない馬鹿げた契約を、神也が何の躊躇もせずに『呪い』と交わした理由は、ただ1つ。
神也が言っていたように、『その方が面白いから』だ。
「それに博打ってのはなぁ!!外したら痛ぇ目見るからゾクゾクするんじゃねえかぁ!!ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃがああああああああああああああああああ!!」
そして最後に残された頭部も完全に『呪い』に飲み込まれてしまった神也が、壮絶な絶叫と共に『呪い』に食われ、絶命してしまったのだった。
回収したばかりの神刀アマツカゼを慌てて正眼に構え、『呪い』を睨みつける太一郎だったのだが。
「くそっ、何て事だ!!」
【神也を倒した勇者であるそなたと、今ここで一戦交えるのも一興ではあるが…今は食事が終わった後のおやつを食しに行かねばならぬのでな。】
「何!?おやつだと!?」
【そなたの相手はその後に、ゆるりとな。ファファファファファ…。】
それだけ告げて『呪い』は太一郎を無視して、フォルトニカ王国の城下町の方角へと飛び去って行ったのだった。
何とか神也を討ち取ったというのに…神也も余計な真似をしてくれた物だ。
そんな太一郎の下に、慌ててシルフィーゼが駆けつけてきたのだが。
「太一郎!!」
「シルフィーゼ!!すぐに僕を城下町へと飛ばしてくれ!!」
「駄目!!転移魔法が使えないの!!あの女に何らかの手段でジャミングされてるみたい!!」
「くそっ!!新手の嫌がらせかよ!!」
ここから城下町までは相当な距離がある。慌てて走った所で城下町に辿り着くまでに、相当な時間が掛かってしまうだろう。それまでに『呪い』が何をしでかしてくるか。
歯軋りする太一郎だったが、その時だ。
「案ずるな2人共!!私の飛竜に乗れ!!城下町まで全速力で連れて行ってやる!!」
「ラインハルト!!ベルドを倒したのか!?」
太一郎の救援に駆けつけてきたラインハルトが神剣バルムンクを手に、颯爽と上空から飛竜に乗ってやってきたのだ。
一連の出来事はラインハルトも上空から確認はしていたが、まさか神也が自らを『呪い』に食わせる程の変態だったとは。流石のラインハルトも全くの想定外だったようだ。
だが今は、そんな事を気にしていられる状況では無い。
一刻も早く城下町へと向かい、神也を食らった『呪い』を討伐しなければならないのだ。
3人を乗せた飛竜がバッサバッサと上空へと飛翔し、力強い咆哮を放ったのだった。
「シルフィーゼ殿、悪いがこの聖杖セイファート、今しばらくの間貸しておいてくれ!!」
「いいけど、絶対に壊さないでよ!!」
「ははは、尽力させて貰うよ!!2人共、全力で飛ばすから振り落とされるなよ!!」
太一郎たちが飛竜に乗って全速力で城下町へと向かう最中、シリウスとレイナが苦戦しながらも、何とか『呪い』に膝を付かせていたのだった。
戦闘中に美海の『希望の夜想曲【ワルキューレ】』の『異能【スキル】』の持続時間が切れてしまったのだが、それでも『呪い』は無様にシリウスとレイナに敗北を喫してしまったのである。
【お、おのれ…!!そなた、何という姑息な真似を…!!】
「姑息か。まあ君の言い分も一理あるが、せめて私の魔法の技術を褒めて貰いたかったのだがな。」
『呪い』のバリアチェンジに苦しめられていたシリウスだったのだが、それでも『魔力を調整して炎魔法の見た目を光魔法に似せる』という方法で、強引にバリアチェンジを打ち破ってみせたのだ。
こんな奇想天外な、誰も予想もしなかった方法でバリアチェンジを攻略された事で、とても悔しそうにシリウスに侮蔑の言葉を浴びせる『呪い』だったのだが…その時だ。
【ファファファファファファ!!こんな雑魚に無様に敗れおって!!では食後のおやつを頂くとしようかのう!!】
【な、何ぃっ!?ぎぃあああああああああああああああああああああああ!!】
突然上空から飛んできた『呪い』が、無様に膝を付いている『呪い』を漆黒の闇に飲み込み、情け容赦なく取り込み始めたのである。
いきなりの出来事に、シリウスもレイナも戸惑いを隠せない。
「何だ!?『呪い』がもう一体!?いやこいつ、まさか仲間を共食いしているのか!?」
【ファファファファファファファ!!】
【や、止めろぉ!!わ、わらわは、ま、まだ…あがああああああああああああああああああああああああああああ!!】
そして瞬く間に『呪い』を飲み込んだ『呪い』が、凄まじい漆黒のオーラを爆発させる。
その全身から放たれる凄まじい圧力だけで、シリウスもレイナも吹き飛ばされそうになってしまった。
やがて漆黒のオーラが収まると、そこにいたのは…先程までの化け物の姿をしていたのとは一転して、とても美しい…しかし妖艶さを感じさせる1人の女性だった。
【…ふうっ、ご馳走様でした。とても美味しかったですよ?さて、待たせましたね。フォルトニカの魔術師と双剣士よ。】
「き、君は一体何者なのだ!?」
【真・魔王カーミラと申します。どうか今後もお見知りおきを。】
「な、何だとぉっ!?」
とても妖艶な、しかし美しい笑顔で、シリウスとレイナに礼儀正しく一礼する真・魔王カーミラ。
最早そこにいたのは、『呪い』などという低レベルな存在などではない。
神也を食らい、同胞を食らい、真なる魔王カーミラとして生まれ変わった、とても美しい女性…しかしとんでもない化け物なのだ。
「馬鹿な、真・魔王カーミラだと!?何を馬鹿げた事を!!」
【馬鹿げた事ではありませんよ。神也から魔王カーミラの座を正式に譲り受けたのです。彼が『閃光の救世主』に敗北した事でね。元々彼とはそのような契約になっていましたから。】
「なっ…!?太一郎が真野神也を倒したと言うのか!?」
【ええ。ですが私は神也ほど甘くはありませんよ?】
シリウスとレイナが事情をよく理解出来ないまま、真・魔王カーミラが問答無用で襲い掛かってきた。
【…維綱。】
「「ぐあああああああああああああああああああっ!!」」
真・魔王カーミラが軽く右手を振り払っただけで、シリウスとレイナが物凄い勢いで吹っ飛ばされてしまった。
『模倣【ラーニング】』の『異能【スキル】』によって、太一郎の維綱をコピーして繰り出したのだ。
地面にうずくまり、全身に襲い掛かる激痛でまともに動けずにいるシリウスとレイナ。
「ば、馬鹿な…っ!?今のは太一郎の…っ!!」
「シ、シリウス様…っ!!」
【安心しなさい。お2人共、せめて苦しまずに楽に殺して差し上げますよ。】
『血液武器化【ブラッドウェポン】』の『異能【スキル】』で右手に神刀アマツカゼを生み出し、シリウスとレイナに向かってゆっくりと歩み寄る真・魔王カーミラだったのだが。
「シリウス!!レイナ!!」
そこへギャレット王国騎士団を制圧完了したサーシャが、間一髪の所で真・魔王カーミラの斬撃を隼丸で受け止めたのだった。
互いに鍔迫り合いのまま、睨み合う2人。
【無駄ですよサーシャ王女。今更貴女が駆けつけた所で何も変わりはしない。】
「いいえ、お母様は必ず瑠璃亜さんの命を救ってくれるはずです!!だから…!!」
【それまでの時間稼ぎのつもりですか?ふふふっ、果たしてそこまで貴女の命が持つでしょうかね?】
「持たせますよ!!太一郎さんの為にも、私はまだここで死ぬ訳にはいきませんから!!」
隼丸と神刀アマツカゼが何度もぶつかり合うが、明らかにサーシャは押されていた。
2人の実力だけでなく、互いの武器の質にも誤魔化しようの無い差があるからだ。
オリハルコンで強化されたとはいえ普通の武器でしかない隼丸と、模造品とはいえ伝説の武器の一刀である神刀アマツカゼとでは、その威力に雲泥の差があるのだ。
せめてサーシャも自身の身の丈に合った伝説の武器を所持していれば、真・魔王カーミラと何とか渡り合う事が出来ただろうに。
【光の矢よ。敵を撃て。】
「うあああああああああああああああああああっ!!」
サーシャの必死の粘りも虚しく、真・魔王カーミラの精霊魔法で派手に吹っ飛ばされて、地面に叩きつけられてしまう。
太一郎の夢幻一刀流だけでなく、自分の得意とする精霊魔法まで完璧に真似され、驚愕の表情を見せるサーシャ。
「ば、馬鹿な…っ!!」
【寂しがる事はありませんよ。貴女の愛しの『閃光の救世主』も、すぐに後を追わせてあげますから。】
「ま、まだ…まだ私は…負けてはいない…っ!!」
【ほう、まだ立ち上がりますか。流石は王家の血筋の者と言うべきでしょうか。】
それでも何とか立ち上がったサーシャが、息を切らしながらも隼丸を正眼に構える。
まだ彼女の瞳からは、希望の光が消えてはいない。
【ですが、もう見るに耐えませんね。せめてこの奥義でもって一瞬で葬りましょう。】
「朱雀天翔破…!!」
【さようなら、サーシャ王女。せめて来世では幸せな人生を。】
サーシャに繰り出される、凄まじい威力の斬撃の暴風雨。
だがそれでも、まだサーシャは絶望しない。まだサーシャは希望を捨ててはいない。
何故ならサーシャは感じ取ったからだ。真・魔王カーミラにも決して劣らない、この異世界を救う希望の2人の…とても優しくて温かく、そして力強い気配を。
サーシャの思惑通り、時間稼ぎの役目は充分に果たした。
【なっ…!?】
そう…後はこの異世界における最強のお母さん2人に、真・魔王カーミラとの戦いをバトンタッチするだけだ。
「よく頑張ったわね。サーシャ、シリウス、レイナ。」
「後の事は、お母さんたちに任せなさい。」
サーシャを庇うように立ちはだかり、『血液武器化【ブラッドウェポン】』の『異能【スキル】』で鳳凰丸をコピーした瑠璃亜が、余裕の笑顔で真・魔王カーミラの朱雀天翔破を受け止める。
『転移【テレポート】』の『異能【スキル】』でクレアと共に、サーシャの救援に駆けつけてきたのだ。
いきなりの出来事に、真・魔王カーミラも驚きを隠せない。
「お母様…!!瑠璃亜さん!!」
【馬鹿な、朱雀天翔破をこんなにもあっさりと破るなど…!!】
慌てて間合いを離した真・魔王カーミラだが、その隙にクレアが精霊魔法でサーシャ、シリウス、レイナを治療する。
まさか神也の暗黒魔法から、こんなにも早く復活を果たすとは…真・魔王カーミラが歯軋りしながら瑠璃亜を睨みつけていたのだった。
【まあいいでしょう。飛んで火にいる夏の虫…手間が省けて丁度良かったですよ。お2人を今ここで殺し、私こそが真なる魔王カーミラとしてこの世界に君臨するのです。】
「さて、そう簡単に上手く行くかしらね?」
【強がりはよしなさい魔王カーミラ。病み上がりの貴女如きに一体何が出来ると言うのですか?】
「私の体調はもう万全よ?クレアが身体を張って私を治療してくれたんだもの。」
自信に満ち溢れた笑顔で、真・魔王カーミラに向かい合う瑠璃亜。
そんな瑠璃亜を真・魔王カーミラが、とても厳しい表情で睨みつけていた。
神也との契約通り自らを真・魔王カーミラと名乗ったのはいいが、現在の魔王カーミラたる瑠璃亜を討たなければ、その称号は意味を成さない物となるだろう。
それを抜きにしたとしても瑠璃亜という存在その物が、真・魔王カーミラにとって放置出来ない脅威であるという事実は変わらない。
ならば今ここで、確実に瑠璃亜を殺す…真・魔王カーミラが妖艶な笑顔で、とっておきの切り札を発動したのだった。
【この世界に悔恨を残す強者の亡霊たちよ!!今こそ我が求めに応じ、再びこの世界に顕現しなさい!!】
真・魔王カーミラの呼びかけによって、漆黒の闇に包まれて出現したのは…この異世界において戦死した一馬ら『ブラックロータス』、それにアルベリッヒ、チェスター、カーゼル、ヴァース、ジュリアス…さらには真由とアリスの亡霊たちだった。
驚愕の表情を隠せないサーシャ、シリウス、レイナ。だがクレアも瑠璃亜も威風堂々とした態度を崩さない。
【ウウウ…アアアアアアアアアアアアアアアア!!】
焦点が定まらない虚ろな瞳で、クレアを睨みつける一馬。
その瞳に映るのは、クレアへの怒りや憎しみか…それとも…。
そして真由もまた両目に大粒の涙を浮かべながら、まるでクレアに助けを求めているかのようにクレアを見つめていたのだった。
【俺様…最強ォォォォォォォォォォォ!!】
【アアアアア…アアアアアアアアアアアアアア…!!】
「一馬…真由…。」
そんな一馬と真由の無様な姿を、悲しみの表情で見つめるクレア。
何故このような非道な真似を平気で出来るのか…クレアはとても厳しい表情で真・魔王カーミラを睨みつけたのだが。
「死者の魂を冒涜するなんて、貴女は何て酷い事を…!!」
【勘違いしないで頂けますかクレア女王。彼らは本物の霧崎一馬たちではありません。私が忠実に再現した影のような存在ですよ。とはいえその本質は、本物と何も変わりませんけどね。】
いかに真・魔王カーミラと言えども…いいや、この異世界全土を見渡したとしても、死者を生き返らせるなどという芸当が出来る者など存在しないのだ。
向こうの世界でのRPGだと、死者蘇生の魔法で死者がホイホイ生き返ったりするケースも相当数あるのだが、この異世界はゲームではなく現実なのだから。
それ故に今、クレアたちの目の前にいるのは本物の一馬たちではない。真・魔王カーミラが作り出した、ただの幻影…本物を模しただけの偽物だ。
だが、それでも。
【お2人も当然ご存じでしょうが彼らのいずれもが、この世界において随一を誇る一騎当千の強者たちです。幾らお2人と言えども、たった2人だけで太刀打ち出来る程甘くはありませんよ?】
そう、偽物とは言え、彼らのその驚異的な戦闘能力は健在だ。
それどころかクレアと瑠璃亜の見立てでは、真・魔王カーミラからの加護を受けた事で、全員が生前よりも強化されているようだ。
しかもフォルトニカ王国の転生者である一馬ら『ブラックロータス』を始めとして、真・魔王カーミラに召喚された彼ら全員が、いずれも一騎当千を誇る強者たちばかりだ。
こんな連中が束になって、しかも真・魔王カーミラによる統率を受けた状態で連携して襲い掛かってくるというのだから、いかにクレアと瑠璃亜が力を合わせて戦った所で、普通に考えれば相当な無理ゲーだろう。
ただしあくまでも、『普通に考えれば』の話なのだが。
【お2人を今ここで殺し、私こそが真なる魔王カーミラとして、この世界に君臨するのです!!】
「いいえ、そんな事はさせない!!」
【な、何ぃっ!?】
そう、目には目を、歯には歯を、加護には加護を。
今のクレアたちには、この異世界のパワーバランスを崩壊させかねない程の加護のスペシャリストが…最強の歌姫が味方に付いてくれているのだ。
ルミアの駆るペガサスに乗った美海が、イリヤ、ケイト、セレーネ、そしてエストファーネ率いるサザーランド王国騎士団の後方支援部隊と共に颯爽と駆けつけてきたのである。
ペガサスから降りた美海がルミアに守られながら、威風堂々と真・魔王カーミラを見据えている。
かつて自分を苦しめ、生き地獄を味合わせた『呪い』…その究極進化を果たした、美しくも妖艶な化け物の姿を。
【美海…!!気に入りませんね、貴女のその希望に満ち溢れた表情…!!昔の貴女はもっと魅力的な顔をしていたというのに…!!】
「私は、私の歌を戦争の為に利用されるなんて、そんな事は今でも到底許す事は出来ない…!!だけど貴女だけは今ここで消し去らないと、もっと沢山の人たちが苦しめられ、殺される事になる!!それ位の事は私でも分かる!!」
そして美海の周囲が緑色の光に包まれ、『ワルキューレ』の4人がそれぞれの楽器を手に、軽快な演奏を奏でる。
美海のみずぼらしい服装が、向こうの世界でライブを行う時の可憐な服へと変貌し、美海の背中から光の翼が展開される。
「だから私はもう迷わない!!皆は私が守ってみせる!!この私の希望の歌で!!」
これまでベルドに歌う事を強要された『殺す』為の歌では無く、『救う』為の歌を。
今、こうして自分の事を必死で守ろうとしてくれている、沢山の人たちを救う為に。
決意に満ちた表情で、美海は自らの『異能【スキル】』を発動させたのだった。
「『希望の夜想曲』…!!【ワルキューレ】!!」
美海は奏でた。この異世界を真・魔王カーミラの魔の手から守る為の希望の歌を。
そして美海の皆を守りたいという想いが、クレアたちに強烈な加護を与える。
【アアアアア…イリヤ…チャァァァァァァァン!!】
「アリス…!!」
そんな中で漆黒の闇に包まれたアリスを、美海からの加護を受けて緑色の光に包まれたイリヤが、悲しみの表情で見つめていた。
真・魔王カーミラの言っていたように偽物だと分かっていても、彼女の本質はイリヤがよく知っているアリスその物だ。
だからと言って、ここでアリスを放っておくわけにはいかない。
今、ここでアリスを討たなければ、彼女は真・魔王カーミラの尖兵として、手にした禍々しい大剣で沢山の人々を手に掛ける事になるだろう。
そうなる前に、自分がアリスを討たなければならない…歯軋りしながら魔剣ヴァジュラを握る右手に力を込めたイリヤだったのだが。
「イリヤ。彼女が以前貴女が言っていた、私の前任の三魔将のアリスですね?」
そんなイリヤの右手を、イリヤと同じく緑色の光に包まれたルミアが、左手でそっ…と優しく包み込んだのだった。
「いかに偽物と言えども幼馴染をその手に掛けるのは、貴女にとって辛い事でしょう。だから彼女は私が討ちます。」
「ルミア…!!」
そしてアリスの前に、ルミアが立ちはだかる。
イリヤに親友殺しをさせない為に。大切な仲間であるイリヤを守る為に。
かつての三魔将と、現在の三魔将…勝つのは果たしてどちらなのか。
「私たちもいるという事を忘れて貰っては困るな!!」
「ラインハルト様たちが駆けつけるまでの間、我々がお相手をさせて頂く!!」
「回復と補助なら私に任せて下さい!!お2人は私が守ってみせます!!」
ケイト、セレーネ、エストファーネが、一馬ら『ブラックロータス』の相手を。
「仕方が無いわね。じゃ、アタシはこの筋肉馬鹿の相手をしてあげるわ!!」
イリヤが魔剣ヴァジュラを構え、先程から筋肉筋肉叫んでいるアルベリッヒを見据える。
「お母様、瑠璃亜さん!!ここは私たちが引き受けます!!お2人はその間に真・魔王カーミラを!!」
さらにサーシャが隼丸の先端を、威風堂々とチェスターに対して突き付ける。
では残りの真由、カーゼル、ヴァース、ジュリアスの相手は…。
「瑠璃亜様、遅くなってしまい申し訳ありません。」
「本来なら契約外の仕事だが、世界が滅んじまったら元も子も無いからねぇ!!ここは特別サービスでおまけしといてやるよ!!イリーナはアタシとエキドナのサポートを!!他の皆はエストファーネたちに加勢してやりな!!」
『転移【テレポート】』の『異能【スキル】』で颯爽と駆けつけてきたエキドナ、そしてダリアら『ラビアンローズ』たちが、瑠璃亜とクレアを守るように立ちはだかった。
「ならば私とレイナは、エキドナ殿たちに加勢させて頂こう!!」
「亡霊如きにシリウス様をやらせる物か!!」
そんなエキドナたちに寄り添い、真っすぐに真由たちを見据えるシリウスとレイナ。
皆がクレアと瑠璃亜の為に、真・魔王カーミラへの道筋を作ってくれている。
彼女たちの想いを、ここで無駄にする訳にはいかない。
クレアと瑠璃亜は互いに力強く頷き合い、真・魔王カーミラに向き直ったのだった。
【いいでしょう、ならば今ここで貴女以外の全員を皆殺しにし、再び貴女の顔を絶望の色に染め上げてみせますよ!!美海ぁっ!!】
怒りの形相で、希望の歌を奏で続ける美海を睨みつける真・魔王カーミラ。
だがそれでも美海は、これまでのように絶望しない。
こうして皆が必死になって、美海の事を守ろうとしてくれているから。
それに神也とベルドを倒した太一郎とラインハルトも、シルフィーゼと共にもうすぐ駆けつけてくれるはずだから。
だから美海は歌う。皆を守る為の…この異世界を救う為の希望の歌を。
【行きなさい!!皆さんの力、存分に彼女たちに思い知らせてあげるのです!!】
そんな美海に一泡吹かせてやろうと、真・魔王カーミラが一馬たちに対して突撃命令を下したのだった。
もうクライマックス間近ですが、ちょっと仕事が壊滅的なまでに忙しくなってきたので、次回の掲載は延期させて頂く事になりました。
なるべく早く執筆するよう尽力しますが、こればかりは仕事が最優先なので、どうかご了承下さいませ。出来れば年内には掲載したいとは思っていますが…。
次回はオールスタ集団VSオールスター集団。
この壮絶な戦いの行方はどうなるのか…?