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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
最終章:光溢れる未来へ
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第100話:反撃の狼煙(のろし)

無事に美海を救助したルミアですが、そこへ神也が魔王軍を率いて戦場に乱入してきます。

三陣営全てを皆殺しにしろと兵士たちに命じる神也ですが…。

 突然の魔王軍乱入によって戦場は混迷の渦に飲み込まれてしまったのだが、それでもルミアのやるべき事は変わらない。

 それはドルムキマイラに乗って追撃するベルドを振り切り、一刻も早くサザーランド王国騎士団の後方支援部隊と合流し、美海を保護して貰う事だ。

 身体を震わせて号泣する美海を右腕でぎゅっと優しく抱きしめながら、左手でペガサスの手綱を握り、神也を無視して速度を落とす事無くペガサスを飛翔させるルミア。

 神也は太一郎たちが必ず何とかしてくれると、ルミアはそう信じているから。


 そしてそれはベルドとて同じであり、今はルミアから美海を奪還する事を最優先に考え、ドルムキマイラを全速力で飛ばしていたのだった。

 新たなる魔王だか何だか知らないが、美海さえ取り戻せば『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』で根こそぎ無力化出来るからだ。

 ラインハルトの戦術によってギャレット王国騎士団は追い込まれてしまっているが、まだまだ戦況をひっくり返す余地は充分に残されている。


 何故なら美海を制する者は、この世界を制する事が出来るのだから。

 美海という存在その物が、この異世界のパワーバランスをひっくり返す程の影響力を秘めているのだ。

 美海だ。美海さえいれば、まだまだベルドに逆転の余地は充分にある。

 その為にも一刻も早くルミアを殺し、美海を奪還しなければならない。ベルドは大急ぎでルミアを追撃していたのだった。

 

 『おいおいおいおいおいおいお前ら!!随分と面白可笑しい事をやってくれてんじゃねえか!!折角だから俺も混ぜてくれよぉ(笑)!!』


 そんな中で魔王軍の大軍を率い、拡声器のタリスマンを使って全軍に呼びかけながら、戦場に乱入してきた神也だったのだが。

 魔王軍の兵士たちの誰もが、苦虫を噛み締めたような表情になっていた。

 ルミアはペガサスを飛ばしながら、チラリと魔王軍を横目で見たのだが…これはもう全軍を戦場に投入しており、予備戦力やパンデモニウムを守る為の守備隊を全く残していないのではないのか。


 こんな状態で他国や盗賊たちにパンデモニウムを襲われでもしたら、あっという間に制圧されてしまうのだが…そもそも神也はパンデモニウムの魔族たちがどうなろうと知った事では無いのだ。

 何故なら神也の目的は、あくまでも強い奴と戦う事『だけ』なのだから。

 その為に、その為だけに、神也は転生術と『呪い』の技術を世界中にばらまいたのだ。

 それがこの異世界に、どれ程の混迷をもたらす事になるのか…それを全く考慮しようともせずに。

 いや、神也の事だ。きっとそれさえも楽しんでしまっているのだろう。


 『この戦場にベルドだか弁当だか何だか知らねえが、随分と調子ぶっこいてる奴がいるって聞かされてよぉ!!折角だから俺が相手してやろうと思って直々に参上してやったんだわ(笑)!!』

 「シルフィーゼ!!戦術プラン通り、僕を真野神也の所に転移させてくれ!!」

 「ええ、分かってるわ。それにしてもラインハルト陛下は予知能力者か何かなのかしらね。ここまでプラン通りに事が運ぶなんて。」


 神也の声が戦場に大音量で響き渡る最中、太一郎と自身を転移させる為に魔力を増大させるシルフィーゼ。

 もし万が一、太一郎がベルドを取り逃がしてしまった場合、太一郎が神也と戦っている間、代わりにラインハルトがベルドと戦う事になっているのだが。


 『何でもお前さぁ、転生者の小娘に歌を歌わせて敵を弱体化させるとか、めっちゃ面白ぇ事やってるみてぇじゃねえか!!一丁、俺にも歌姫とやらの力を見せてくれよぉ(笑)!!』

 「新たなる魔王カーミラめ!!そうやって調子に乗っていられるのも今の内だけだ!!貴様の望み通り美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』で、貴様の息の根を止めてくれるわ!!」


 自分の事を馬鹿にする神也の声を、ドルムキマイラを大急ぎでルミアに向けて飛ばしながら、顔を赤くしながら耳にするベルド。

 

 「サムソン!!兵たちの指揮は任せた!!私は当初の予定通り、『例の作戦』の為に真野神也の下に向かう!!」

 「はっ!!陛下、どうかご武運を!!」


 そんな中でラインハルトは配下の騎士に兵たちの指揮を任せ、単独で神也の下へと飛竜を飛ばしたのだった。

 ベルドと美海の事を嗅ぎ付けた神也が、2人と戦う為に魔王軍を率いて戦場に乱入する…ここまではラインハルトの予測通りだ。

 後は魔王軍の兵士たちを、神也の魔の手から解放してやらなければならないのだが。


 「よ〜し、お前ら!!取り敢えずあいつら全員漏れなく皆殺しにして来い!!弁当と歌姫は俺が相手してやるからよ(笑)!!」 

 「か、神也殿!!ギャレット王国はともかく、フォルトニカ王国とサザーランド王国は、我らパンデモニウムの同盟国です!!」

 「…あ?」

 「それを攻撃するとなれば重篤な国際問題となり、我ら魔族が他国の人間たちに攻撃される口実にされてしまいます!!」


 魔王軍の兵士の1人が必死の表情で、戦えと命じる神也に懇願したのだった。

 確かに彼の言う通りだ。フォルトニカ王国とサザーランド王国がパンデモニウムの同盟国であるという事実は、既にこの異世界全土の周知の事実となっている事だ。

 その両国の兵士たちに対して一方的に攻撃を仕掛けるという事は、それはもう彼が言う国際条約どころの話ではない。

 それは両国に対しての明確な裏切り行為であるばかりか、あれだけ瑠璃亜が人間たちとの共存共栄をうたっておきながらの悪質な騙し討ち行為も同然であり、間違いなく世界中から誹謗中傷を浴びせられる事となってしまうだろう。

 最悪の場合は彼の言う通り、それを理由にして人間たちから戦争を引き起こされる口実にもされかねないのだ。


 だからこそ神也に対し侵略を思いとどまってほしい、せめて他国に対して悪質な侵略行為を行っている事から、侵略する正当な理由があるギャレット王国だけにしてくれと、必死に懇願する魔王軍の兵士だったのだが…。


 「…はぁ…お前らさぁ…まだ自分の立場って奴を理解してねえみてぇだなぁおい。」


 そんな事は知った事ではないと言わんばかりに、神也が妖艶な笑顔で右手の指をパチンと鳴らした途端。

 突然神也の背後の空間に、巨大な映像スクリーンが出現したのだった。

 以前、瑠璃亜がサザーランド王国騎士団の5度目の侵攻作戦の際に使用した(第23話参照)、目の前の空間に任意の場所の映像を映す『映像【ビジョン】』の『異能【スキル】』だ。

 そこに映されていたのは広場に一か所に集められ、多数の盗賊たちに取り囲まれている、パンデモニウムに住む魔族の女性たちの姿。

 それを見せつけられた魔王軍の兵士たちが、一斉に絶望の声を上げてしまう。

 

 「か、神也殿…!!そんな…!!」

 「お前らが早く俺の指示に従って侵略しねえと、俺が雇った盗賊共にこいつらが1人残さず犯される事になるんだぜぇ(笑)!?」


 そう…神也は大金をばらまいて雇った盗賊たちに、魔族の女性たちを人質にさせた上で、魔王軍の兵士たちが神也に逆らうようなら見せしめとして犯すように依頼したのである。

 映像の向こう側にいる盗賊たちがとてもニヤニヤしながら、神也の『犯せ』という命令を今か今かと待ち続けている。


 「これは…!!やはりパンデモニウムの民間人を人質に取り、魔王軍の兵士たちを脅迫していたのか!!」

 「ラインハルト陛下!!」


 そこへ飛竜に乗って大慌てで颯爽と駆けつけてきたラインハルトを、魔王軍の兵士たちが驚きの表情で見つめている。

 兵士たちの指揮を部下に任せ、自分たちを神也から救う為に単独で駆けつけてくれたとでも言うのか。

 だが、それでも…助けに来てくれたのは本当に有難いのだが…。

 あまりにも…あまりにも状況が悪過ぎた。

 この状況では如何にラインハルトと言えども、流石にどうしようも無いのではないか。

 何しろ今この場にいるラインハルトが手を出しようが無い、遥か彼方に位置するパンデモニウムにいる、無抵抗の魔族の女性たちが人質に取られてしまっているのだから。


 「ん?何だあいつは?魔術師か?」

 『おいおい魔王さんよ、早く俺らにこいつらを犯せって命令してくれよ!!俺ぁもう待ち切れねえよ!!』

 「まぁそう焦るなって。人質は無事だからこそ意味があるんだからよ。もうちょっとだけ辛抱してくれや(笑)。」

 『ひひひひひ!!焦らしプレイとか随分と興奮させてくれるじゃねえか!!見ての通り俺の股間のエクスカリバーがギンギンに爆裂してるからよ!!アンタの命令を待ってるからな!?』

 「おう(笑)!!」


 そんなラインハルトから興味が無いと言わんばかりに視線を外し、画面の向こう側にいる盗賊たちに対して笑顔で右手を上げて会釈する神也。

 そして魔王軍の兵士たちに対し、爆笑しながら向き直ったのだった。


 「ぶはははははははは!!ほれほれ!!存分に思い知ったか!?お前らの行動は全てあいつらに筒抜けなんだよ(笑)!!」

 「くっ…!!」

 「お前らが少しでも妙な真似をすれば、あいつらを即座に犯せって命令してあるからよ!!それが嫌ならとっととあいつら全員を皆殺しにしてこいや!!ぎゃはははははははは(笑)!!」


 兵士たちがとても悔しそうな表情で神也を睨みつける中、面白おかしく腹を抱えて爆笑する神也だったのだが。


 「よし、ここまでは全て私の計画通りだな。」

 「何ぃ!?」


 余裕の態度で、ラインハルトは神也にそう宣言してしまった。

 何とラインハルトは『人質を取って魔王軍の兵士たちを脅す』という一連の神也の行動さえも、全て戦術プランに組み込んでしまっていたのである。


 「お前、何を訳の分からねえ事をほざいてんだ…!?お前らの行動は全てあいつらに筒抜けだって言ってるじゃねえかよ!!」


 この状況においても余裕の態度を崩さないラインハルトに対し、露骨に不機嫌そうな態度を見せる神也。

 今、神也が自分で言っていたように、今この場での魔王軍の行動は、神也の『映像【ビジョン】』の『異能【スキル】』によって、全てパンデモニウムの盗賊たちに筒抜けだ。

 そしてそれは神也と盗賊たちのやり取りから察するに、逆もまたしかりだ。


 そう…重ねて言うが、逆もまた然り。

 『パンデモニウムの魔族たちの現状は、全てラインハルトたちに筒抜け』なのだ。

 ならばラインハルトは魔王軍の兵士たちを神也の支配から解き放つ為に、それを逆に利用させて貰うだけの話だ。


 「お前よぉ、やけに調子ぶっこいてるけどよ。別に人質を1人や2人くらい犯してやった所で、俺にとっては別にどうって事無いんだぜ?今ここで何人か犯せって命じてもいいんだぞ?おい。」


 確かに神也の言う通りだ。人質というのは無事だからこそ価値があるのだが、だからといって全員漏れなく無傷のままで済ませてやる必要など、これっぽっちも無いのだ。

 それどころか魔王軍の兵士たちへの見せしめとして、彼らの目の前で何人か人質の女性たちを犯させれば、彼らも下手に神也に逆らおうなどとは思えなくなるだろう。

 そう…『本来であれば』、全くもってその通りなのだが…。


 『雷神の魔術師』の異名を持つ程の天才軍師であるラインハルトを、敵に回してしまった事…それが神也にとっての最大の不運なのだ。


 『魔王さんよ!!俺もう我慢出来ねえぜ!!早くこいつらに俺の股間のエクスカリバーを食らわせろって命じてくれよ!!』

 「ああ、いいぜ!!こいつらへの見せしめとして何人か犯してやってくれや!!ただし全員は駄目だからな!?何人か無事な奴を残しておかねえと人質の意味がねえからよ(笑)!!」

 『『『『『うおおおおおおおおっしゃあああああああああああああ!!』』』』』


 盗賊たちが狂喜乱舞の笑顔で、人質の魔族の女性たちに襲いかかった。

 その光景を見せつけられた魔王軍の兵士たちが、一斉に悲痛の叫びを上げる。

 彼らが無様に絶望する様を、神也がとても面白おかしく腹を抱えて爆笑しながら見下していたのだが。


 「ぶはははははは!!お前らが最初から俺の命令に従って、あいつらを皆殺しにしてさえいれば、こんな事にはならなかったのによぉ(笑)!!」


 ドカッ!!バキッ!!グシャッ!!


 「そこの魔術師!!な~にが『ここまでは全て私の計画通りだな(ドヤァ)』だ!?一体これのどこがお前の計画通りだってんだよ!?ぎゃはははははは(笑)!!」


 ズバババーーーーン!!スババババババーーーーーーーーン!!


 「取り敢えずお前、マジでムカつくから今から死刑な!!おいお前ら!!まずはあの魔術師から先にぶっ殺せ(笑)!!」


 ち〜ん。


 「おいお前ら!!俺の命令が聞けねえのか!?早くあの魔術師をぶっ殺せっつってんだろうが!!早くしねえと人質がどうなるか…っ!?」


 これは一体どういう事なのか。魔王軍の兵士たちの誰もが、涙目になりながら羨望せんぼうの眼差しで、神也の後ろにある巨大スクリーンを見つめているではないか。

 何故か魔王軍の兵士たちが誰一人として、一向に神也の命令に従おうとしない。

 目の前の巨大スクリーンに、人質になった魔族の女性たちが犯される光景を見せつけてやったというのに。

 それなのに、この魔王軍の兵士たちの…何と言うか、この嬉しそうな、安堵したような、感動したような…希望に満ち溢れた表情は一体何なのか。

 一体全体何がどうなっているのかと、神也が怪訝な表情で背後を振り向いたのだが。


 「なんじゃこりゃあああああああああああああああああああああ!?」


 果たして神也の背後の巨大スクリーンに映し出されていたのは…いつの間にかダリアら『ラビアンローズ』たちに一網打尽にされた盗賊たちの無様な姿だった。

 槍を手にしたダリアがとってもニヤニヤしながら、映像の向こう側にいる神也に手を振っている。


 「おい!!何がどうなってやがるんだ!?何でパンデモニウムにあんな連中が…!?」

 「我が国に亡命してきたエキドナ殿に事情聴取をした際に、君が人質を取って魔王軍の兵士たちを脅そうとするであろう事は、エキドナ殿から聞かされた君の性格からして充分有り得ると思ったからね。」

 「エキドナだと…!?まさか!?」


 ダリアの隣にいたエキドナの姿に、神也が驚愕の表情になってしまう。

 

 「あの女…!!まさかあの時の…!!」

 「そうだ。エキドナ殿に『ラビアンローズ』をパンデモニウムへと転移して貰ったのだよ。奇襲を仕掛けてパンデモニウムの魔族たちを君の魔の手から救う為にね。」


 威風堂々とした余裕の態度で、神也にそう断言したラインハルト。

 普通に『ラビアンローズ』を正面から城下町まで向かわせたのでは、見張りに気付かれて人質に手出しをされる恐れがある。

 だがエキドナの『転移【テレポート】』の『異能【スキル】』があれば見張りに気付かれる事無く、一瞬で目的地まで移動する事が出来る。しかもエキドナは城下町の構造が全て頭の中に入っているのだから尚更だ。

 さらにイリーナの探知魔法を活用すれば、盗賊たちの配置や全戦力、伏兵の存在さえも事前に完璧に割り出し、十全な準備をした上で奇襲を仕掛ける事さえも可能になるのだ。


 これこそがラインハルトがパンデモニウム救出作戦の実行部隊として、エキドナと『ラビアンローズ』を登用した理由なのだ。

 まさにエキドナとイリーナの能力を存分に活かした、奇襲に特化した用兵術…神也もまたベルド同様、ラインハルトの戦術に完全に翻弄されてしまっていたのだった。


 「誇り高き魔王軍の兵士たちよ!!見ての通りパンデモニウムの市民たちは我々が救出した!!もう君たちが真野神也の理不尽な命令に縛られる必要は無い!!」


 そんな無様な醜態を晒す神也など完全に無視し、ラインハルトが決意に満ちた表情で魔王軍の兵士たちに呼びかける。

 もう一度、敢えて言わせて貰おう。

 神也の『映像【ビション】』の『異能【スキル】』のお陰で、『パンデモニウムの現状は、全てラインハルトたちに筒抜け』なのだ。

 ここまで言ってしまえば…後は言わなくても分かるな?


 そう、以前ラインハルトがエキドナに言っていた通りだ。

 パンデモニウムの魔族たちを神也の魔の手から救う為に、ラインハルトは神也の『映像【ビジョン】』の『異能【スキル】』を、人質を救助した事を知らせる為の伝達手段として逆に利用してしまったのである。

 これでもう魔王軍の兵士たちは、神也からの理不尽な命令に従う必要が微塵も無くなってしまったのだ。

 まさに固定観念に囚われない、利用出来る物は全て利用する、大胆さと繊細さを併せ持ったラインハルトの見事な戦術だ。


 「既に君たちも知っていると思うが、ギャレット王国国王ベルド殿が転生者の歌姫の少女の『異能【スキル】』を悪用し、この世界の制圧を企んでいる!!既にファムフリート王国とテレスティア王国が、ベルド殿の魔の手にかかり陥落してしまった!!」


 最早理不尽な命令に縛られる必要が無くなった事で、魔王軍の兵士たちの誰もが神也を無視し、一斉にラインハルトに傾注する。


 「このままベルド殿を野放しにしてしまえば、今後も数多くの命が理不尽に奪われる事になるだろう!!この世界の平和と秩序を守る為、そのような事を我々は断じて許す訳にはいかない!!こんな事を頼める立場ではない事は理解しているが、それでもどうか君たちの力を我々に貸してはくれないだろうか!?」


 とても真剣な表情で、ラインハルトの演説に耳を傾ける魔王軍の兵士たち。

 無論、そんなに簡単な話ではない事は、ラインハルトも重々承知している。

 前国王チェスターの暴挙が招いた事とはいえ、度重なる侵略行為によって魔王軍に甚大な被害を与えてしまったのだから。

 互いに過去の事を水に流せとは言えない。あの時の戦争を無かった事にしろなどと言える立場でもない。

 だが、それでも。それでもだ。


 「おい!!お前ら、さっきから俺の事を放置プレイとか、舐めた真似を…っ!?」

 「ブレンサンダー!!」

 「どああああああああああああああああああ!?」


 割って入ろうとした神也に、ラインハルトが情け容赦なく稲妻を浴びせたのだった。

 慌ててそれをバックステップで避ける神也だったが、あまりの威力に驚きを隠せない。


 「今は私が彼らに大切な話をしている最中なのだ。君の話は後にして貰おうか。」

 「て、てめぇ…!!」


 瑠璃亜以外はクソつまらない雑魚ばかりだと思っていたが…まだこれ程の使い手がこの異世界に存在していたというのか。

 そんな神也を無視し、1人の魔王軍の兵士がラインハルトに語りかけてきた。


 「ラインハルト陛下!!我々は貴国の…いいや、チェスターによる侵略行為のせいで大きな犠牲を出してしまった!!それは逃れようのない事実だ!!」


 この兵士の呼びかけは、決して目の前のラインハルトを責める為の物では無い。

 それどころか、むしろ…。


 「だがそれでも陛下は度重なる侵略作戦のいずれにおいても、民間人には一切被害を出さなかったばかりか、我々との戦いにおいても卑劣な手段は一切使わなかった!!陛下のその素晴らしい騎士道精神には、この場を借りて改めて私から称賛を述べさせて頂く!!」


 そう、称賛だ。

 とても真剣な表情で、この兵士はラインハルトに敬礼をしたのだった。

 民間人にただの1人も犠牲者を出さず、騎士として正々堂々と自分たちと戦った、まさしく正真正銘の騎士であるラインハルトに敬意を払いながら。

 

 「そして陛下は真野神也の魔の手から、我々の大切な家族や友人、恋人たちを救ってくれたのだ!!ならば我々がその陛下からの力添えに報いる事に、果たして何を迷う必要があるのだろうか!?」


 ラインハルトに呼びかけを行った兵士が、今度は魔王軍の兵士たちに向き直る。


 「なあ、皆もそう思うだろう!?陛下に対して複雑な感情を持つ者たちは当然いるだろうが、ここは陛下に協力してギャレット王国騎士団を討つべきなんじゃないのか!?」


 彼に改めて言われるまでもなく、魔王軍の兵士たちの誰もが想いは同じだ。

 ラインハルトは何の見返りも求める事無く、パンデモニウムの女性たちを盗賊たちの魔の手から救ってくれたのだ。

 そのラインハルトに報いる事に、果たして何を躊躇ためらう必要があるというのか。

 

 同盟国とはいえ、過去の事を水に流す事は出来ない。

 あの時の戦争を、無かった事にする事は出来ない。

 だが、それでも。それでもだ。


 「ラインハルト陛下!!俺は貴方に付いていくぞ!!」

 「何でも俺たちに命令してくれ!!」

 「俺の妻と娘を助けてくれたんだ!!アンタの言う事なら何だって聞いてやるぞ!!」


 魔王軍の兵士たちの誰もがラインハルトたちに対し、一斉に歓声を上げたのだった。

 大切な人たちを救ってくれた恩人に、精一杯の感謝の心を見せながら。

 そんな彼らの姿に、ラインハルトは笑顔で力強く頷いたのだった。


 「済まない、皆!!有難う!!君たちは今からフォルトニカ王国騎士団の救援に向かい、サーシャ王女の指揮下に入ってくれ!!真野神也は我々がどうにかする!!」

 「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」


 ラインハルトの呼びかけによって、神也を無視してフォルトニカ王国騎士団の下へと向かう魔王軍の兵士たち。

 取り残された神也は、まさに四面楚歌。たった1人で取り残される形になってしまった。

 魔王軍を率いて戦場を引っ掻き回すつもりが、逆にラインハルトの策によって魔王軍を根こそぎ奪われてしまったのだ。

 まんまとラインハルトにめられた事に、怒りを顕わにする神也だったのだが。


 「てめぇ…!!随分と舐めた真似してくれてんじゃねえか…!!俺の事を散々引っ掻き回しやがってよぉ!!」

 「君は確かに剣士としての腕は立つようだが、魔王としては三流以下だな。瑠璃亜殿には遥かに及ばんよ。」

 「抜かしやがれ!!まずは弁当の前に、てめぇから先にぶっ殺してやるよ!!」

 「その弁当というのが一体誰の事を言っているのか、まぁ大体察しは付くが…生憎と君の相手をするのは私ではないのでね。」

 「あんだとコラぁ!?」


 その瞬間、背後から神也に襲い掛かった、一筋の『閃光』。

 慌てて神也は振り向いて、その凄まじい威力の斬撃を受け止める。


 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 「真野神也!!君の相手はこの僕だ!!」


 シルフィーゼの転移魔法で駆けつけてきた太一郎が、ラインハルトと話し込んでいた神也に斬りかかってきたのだ。

 神也と鍔迫り合いの状態になり、睨み合う太一郎。

 そして神也は突然現れた太一郎の、見覚えのある『閃光』の如き太刀筋に、戸惑いを隠せずにいたのだった。

 

 「夢幻一刀流だとぉっ!?一体何なんだお前は!?」


 何故この異世界に、夢幻一刀流の使い手がいるのか。

 太一郎を弾き飛ばした神也が、驚きを隠せない表情になる。


 「済まないラインハルト、ベルドを取り逃がした!!」

 「いや、問題無い!!よくぞ歌姫を救出してくれた!!ベルド殿は私が相手をする!!済まないが君は真野神也を討伐してくれ!!」


 ラインハルトが神也の相手を太一郎に任せ、ベルドとの戦いをバトンタッチしたのは、ラインハルトにとって神也との相性が最悪だからだ。

 恐らく瑠璃亜同様『防壁【プロテクション】』の『異能【スキル】』を使用出来ると思われる神也が相手では、魔法を主力武器とするラインハルトには分が悪い。

 岩をも砕くルミアの蹴りを片手で容易く受け止めたように、ラインハルトは魔術師でありながら格闘戦もある程度はこなせるのだが、何しろ相手は魔王カーミラだ。『ある程度』では返り討ちに遭って殺されかねないのだ。

 そこで刀による物理攻撃主体の太一郎に、神也の相手をして貰ったと言う訳なのである。


 「ラインハルト陛下!!予定通り、貴方にこれを貸してあげるわ!!」


 太一郎と神也が死闘を繰り広げる最中、突然シルフィーゼがラインハルトに声を掛けてきたのだが。

 シルフィーゼがラインハルトに差し出したのは、聖杖セイファート。

 ベルドが持つ神剣バルムンクに対抗する為に一時的に借用させて欲しいと、戦術プランを通してラインハルトがシルフィーゼに懇願していたのである。

  

 「有難い!!君の聖杖セイファート、丁重に借り受けさせて頂く!!」


 決意に満ちた表情で、ラインハルトはシルフィーゼから聖杖セイファートを受け取ったのだった。

 

 「ベルド殿は私が必ず討つ!!君の想いが込められた、この聖杖セイファートでな!!」

 「いい!?勘違いしないでよね!?あくまでも貸すだけなんだから!!ちゃんと返しに来なさいよ!?分かった!?」

 「ああ、分かっているさ!!」


 遠回しに死ぬなと告げるツンデレのシルフィーゼに力強く頷き、ラインハルトはシルフィーゼの転移魔法で、飛竜ごとベルドの下へと飛んで行ったのだった。

 ラインハルトがいなくなった後、神也と戦う太一郎を遠くから見守るシルフィーゼ。

 聖杖セイファートをラインハルトに貸した今となっては…いいや、仮に聖杖セイファートがあったとしても、心底悔しいが神也が相手では、太一郎の救援に回った所で足手まといになるだけだろう。

 今のシルフィーゼに出来る事と言えば、太一郎が神也に追い詰められた際に、隙を見て転移魔法で救助してやる事だけだ。


 「太一郎…どうか死なないで…!!」


 神也と死闘を繰り広げる太一郎を、シルフィーゼが遠くから心配そうな表情で見守っていたのだった。

予想以上に長くなってしまい、文字数が1万文字を超えてしまいました…。

死闘を繰り広げる太一郎と神也。そんな中で遂にルミアに追いついたベルドが、美海を奪還せんと強襲を仕掛けてきます。

果たしてルミアは、ベルドの魔の手から美海を守り切る事が出来るのか…?

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