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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第2章:転生者たちの戦い
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第9話:身勝手な謀略

 フォルトニカ王国内で着実に名声を上げる太一郎と真由。

 しかしそんな彼らの力に魅せられたエリクシル王国国王アルベリッヒが、転生術を欲するあまり、あまりにも身勝手で非人道的な謀略を行います。


 村人たちを守る為に奮闘する太一郎と真由ですが…。

 以前クレアが太一郎たちに語っていた事だが、フォルトニカ王国の脅威になっているのは、何も魔王軍や野良の魔物、盗賊たちだけではない。

 フォルトニカ王国が独自運用している転生術を巡って、他国からも様々な難癖を付けられながら、技術提供を強く求め続けられている状況なのだ。


 だがクレアは他国による転生術の悪用を防ぐ為、転生術の外部への技術提供を固く禁じている。

 何しろ向こうの世界では喧嘩が同年代の中では突出して強いだけの、ただの高校生に過ぎなかった一馬たちが、『異能【スキル】』という強大な力を手に入れた事で、皇族直属の精鋭部隊である近衛騎士たちよりも強くなってしまったのだ。

 それ程の強力な代物である転生術の技術が他国に渡ってしまい、それが悪用されてしまったら、一体どうなってしまうのか。クレアの懸念は当然だと言えるだろう。

 クレアにはフォルトニカ王国の女王として、国や国民たちを守る責務があるのだから。


 転生術にも致命的な弱点があり、転生させる対象はランダムで決定されてしまうという事、発動するのに膨大な魔力が必要になるので莫大なコストがかかる、再発動に最低でも半年は必要になるなど、とても気軽に使えるような代物ではない。

 だがそれを差し引いても転生術というのは、他国にとって極めて魅力的な代物なのだ。


 転生術を欲する他国からのフォルトニカ王国の上層部への圧力は、一向に収まる気配を見せない。

 それどころか太一郎が『閃光の救世主』と呼ばれる程の大活躍を見せつけている事もあって、その圧力がより一層強くなってしまっている状況なのだ。

 当然、太一郎にも真由にも全く責任は無いのだが…これはもう皮肉だとしか言いようがない。


 転生術がどうしても欲しい…転生術さえあれば、我が国は『閃光の救世主』のような強大な戦力を得る事が出来る…。

 これはフォルトニカ王国の隣に位置するエリクシル王国の国王・アルベリッヒが、自国の軍事力強化の為に転生術を強く求めるが故に起こしてしまった…後に歴史の教科書にも載せられる事になる、過ちの物語。

 あまりの非人道的な行為によって、何の罪も無い多くの国民の命を理不尽に危険に晒してしまった事で、あの温厚なサーシャさえも本気でマジ切れさせてしまった…一大事件なのである…。


 「『防壁【プロテクション】』!!」


 真由が生み出した光の壁が、3体のサイクロプスの棍棒からシグマ村の村人たちを守る。

 その隙に縮地法で一気に間合いを詰めた太一郎が、3体のサイクロプスをねじ伏せた。


 「夢幻一刀流奥義…疾風はやて!!」

 「「「ぺっぺぺぺぺぺぺっぺっぺっぺ!!」」」


 腹を両断された3体のサイクロプスが、奇声を上げながら倒れ、絶命する。

 だが休む暇も無く、さらに10体のワイバーンが上空から太一郎に炎のブレスを浴びせてきた。

 それを難なく避けた太一郎だが、ワイバーンは見境無しに村人たちに襲い掛かる。


 「『敵視操作【ヘイトコントロール】』!!」


 そうはさせまいと、10体のワイバーンの殺意を無理矢理太一郎に向けた真由。

 今まさに村人たちに牙を突き立てようとした10体のワイバーンが、まるで真由に洗脳でもされたかのように、一斉に村人への攻撃を中断して太一郎に突撃してきた。


 「数が多過ぎる…!!お兄ちゃん!!」

 「問題無い。ねじ伏せる。」


 目の前に迫る10体のワイバーンに、『閃光』を浴びせる太一郎。


 「夢幻一刀流奥義…五月雨さみだれ!!」

 「「「「「ピヤアアアアアアアアアアアア!!」」」」」


 あっという間にバラバラにされてしまった、10体のワイバーン。

 だがさらに休む暇も無く、今度は30体近いキラーアントが一斉に村人たちに襲い掛かってきたのだった。


 「今度は巨大蟻か…!!しかもこんなに大量に…!!」

 「『敵視操作【ヘイトコントロール】』!!」


 またしても真由によって太一郎への殺意を強制的に植え付けられ、村人たちを無視して一斉に太一郎に襲い掛かるキラーアントたち。

 既に太一郎の周囲には、200体近い魔物たちの死体が転がっていたのだった。

 これだけの数の魔物たちを、全て太一郎が1人で斬り捨てたのだ。

 

 野良の魔物たちが餌を求めて村を襲うなんてのは、別に珍しい事では無い。

 だがそれでも少数の魔物たちが単発で襲うのが大半であって、今日の襲撃ははっきり言って異常だ。

 これだけの数の魔物が大量に、しかもこんなにも狂気に支配されて凶暴化して、見境無しに襲撃をしかけてくるなど。

 太一郎と真由がこの異世界に転生してから3週間が経つが、こんな事は太一郎も真由も初めての経験だった。


 それでも決して引かず、太一郎はキラーアントたちの首を隼丸で次々と刎ねていく。

 その様子を物陰から、エリクシル王国騎士団の兵士たちが、驚愕の表情で見つめていたのだった…。


 「強い!!強過ぎる!!たった1人であれだけの数の魔物たちを圧倒するなど…!!一体何なんだあの男は!?これが転生者の力なのか!?」

 「お、おい…幾ら何でもよ、そろそろやばくねえか?魔物たちの襲撃が全然収まらねえんだけど…。」

 「そうは言ってもよ!!あいつらの足止めがアルベリッヒ様から与えられた任務だろ!?その為に手段を選ぶな、絶対に足止めを続けろって言われたじゃねえか!!」

 「だけどよ、このままじゃ村人たちにまで被害が及ぶんじゃ…。」 

 

 何とかキラーアントたちを全滅させた太一郎だったが、さすがに少し息が乱れ始めていた。

 無理も無いだろう。もうこれで1時間近くも休み無しで動き回り、ぶっ通しで戦い続けているのだから。


 「「「「「グガアアアアアアアアアアアア!!」」」」」

 「お兄ちゃん!!」

 「問題無い!!やってくれ!!真由!!」

 「…っ!!『敵視操作【ヘイトコントロール】』!!」

 

 村人たちを守る為に、既に疲れが目に見えて現れ始めている太一郎に、敢えて魔物たちを襲わせなければならない。

 それが真由には、何よりも歯がゆかった。


 真由が所有している『異能【スキル】』は、一馬たちと違い支援系の物ばかりで、攻撃系の『異能【スキル】』は全く所有していないのだ。

 そして真由自身も太一郎と違い、魔物たちと戦えるだけの武力を有している訳でもない。

 ただこうして、太一郎に守られながら、太一郎を支援する事しか出来ないのだ。

 

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 5体のワームを隼丸で斬り捨てる太一郎。

 1時間近く戦い続けて、この辺りの魔物たちを全て討伐したからなのか、ようやく魔物たちの襲撃が収まったようだ。


 だが、これで終わりではない。

 太一郎は息を整えながら、持ち前の聡明さで即座に分析したのだった。

 間違い無い。どこかに黒幕がいる…と。

 どんな理由でかは知らないが、何者かが何らかの手段で魔物たちを操り、一斉にシグマ村まで襲撃させたのだろう。

 そうでなければ今回のような大量の魔物たちの襲撃は、説明のしようがない。


 それに太一郎も魔物たちの様子に、戦いながら違和感を感じていた。

 まるで何かに当てられたかのように、恐ろしく凶暴になっていたのだ。


 「真由。『敵意感知【ホストセンサー】』を使ってくれるか?」

 「まさか、まだ周囲に敵がいるって言いたいの?」

 「ああ、恐らく今回の襲撃の黒幕が近くにいる。」

 「分かった…『敵意感知【ホストセンサー】』!!」


 真由の『異能【スキル】』によってあぶり出された、物陰に隠れている2人の兵士。


 「真由。顔を相手に向けるな。指も指すな。黒幕に感付かれて逃げられる恐れがある。方角と距離だけ口頭で伝えてくれ。」

 「お兄ちゃんの背後、距離約50m。物陰に隠れてる。武装した若い男の人が2人。」

 「了解だ。」


 即座に太一郎が背後を振り向き、隼丸を『抜いた』瞬間、兵士たちに向けて正確に放たれた、太一郎の『気』が込められた衝撃波。

 

 「な、何いいいいいいいいいいいいい!?ぐああああああああああああああ!!」

 

 夢幻一刀流奥義・維綱いずな…衝撃波をまともに食らって吹っ飛ばされた兵士が、近くの大木に叩きつけられ、うずくまる。

 いきなりの出来事に驚くもう1人の兵士だったが、間髪入れずに縮地法で一気に間合いを詰めた太一郎が、もう1人の兵士の喉元に隼丸の先端を突き付けたのだった。


 「ひ、ひいっ!?」

 「魔物たちの凶暴化を止めろ。5秒待つ。5…4…3…」

 「わ、分かった!!止めるから!!だから命だけは助けてくれぇっ!!」


 懐から赤色に輝くタリスマンを取り出した兵士が、タリスマンの中心部にあるクリスタルに触れて何やら呪文を唱えた途端、タリスマンから放たれていた赤色の光が収まった。

 どうやらこのタリスマンが、近隣の魔物たちを凶暴化させていたようだ。

 太一郎は兵士からタリスマンを強奪して軽く上に放り投げ、落ちてきたタリスマンを隼丸で情け容赦なくぶった斬ったのだった。

 真っ二つになったタリスマンが、乾いた音を立てて地面に転がり落ちる。これで魔物たちの脅威は取り敢えず去ったと見ていいだろう。


 だが彼らは一体何故、わざわざこんな事を…?太一郎は怪訝な表情で、目の前で怯えているいる兵士たちを見据えていたのだった。

 魔物たちに村人を襲わせた所で、一体彼らに何のメリットがあるというのか。


 「君たちのその蒼白の鎧…エリクシル王国だったか?以前王女殿下に教えて頂いた事があるんだが。国王のアルベリッヒが筋肉ムキムキのマッスル兄貴だってな。」

 「ひいいいいいいいい!!そうだ!!俺たちはエリクシル王国騎士団所属の兵士だ!!質問には正直に答えるから命だけは助けてくれぇっ!!」

 「安心しろ。命まで取るつもりはないよ。ただし尋問はさせて貰う。何故君たちはあれだけの数の魔物たちをシグマ村にけしかけたんだ?君たちの目的は何だ?」


 隼丸を鞘に収めた太一郎が、兵士たちに事情聴取を始めたのだが。

 なんかもう泣きそうな表情で、兵士が太一郎に事の真相を語り出したのだった。

 

 「今アンタが破壊したタリスマンはアルベリッヒ様に与えられた物なんだが、魔物たちを凶暴化して理性を失わせる力を宿しているんだ!!」

 「それはもう理解しているよ。僕が聞いているのは君たちの行動の動機だ。」

 「アルベリッヒ様から厳命されたんだ!!アンタとそこの彼女を魔物たちで足止めして、可能な限り長時間、王都から引き離せってな!!」

 「…何だと!?」

 「アンタたちだけじゃない!!あの『ブラックロータス』とかいう連中も、今頃は魔物の大群と戦ってる最中のはずだ!!」


 つまりは、王都から自分たち転生者を引き離すための陽動作戦という訳か。

 だが一体何の為に…?わざわざこんなに大量の魔物たちを嗾けて村人たちの命を危険に晒してまで、一体何をやらかすつもりなのか。

 疑問に思う太一郎に、兵士がとんでもない事を口にしたのだった。

 エリクシル王国の国王アルベリッヒの、あまりにも傲慢で身勝手な計画を。


 「アルベリッヒ様は、フォルトニカ王国だけが独自運用に成功している転生術を、とても強く欲しておられているんだが…!!」

 「…まさか!!」

 「そのまさかだ!!アンタたち転生者を王都から可能な限り長時間引き離して、その隙に主力を失った王都に特殊部隊を潜入させて、転生術の開発に成功した宮廷魔術師シリウスを捕縛する計画なのだ!!」

 「何て馬鹿な事を…!!それで村人に被害が出たら、どうするつもりだったんだ!?」

 「ひ、ひいっ!!正直に話したんだから殺さないでくれぇっ!!」


 何という…何という傲慢で身勝手な、あまりにも愚かな計画なのか。

 転生術を欲するのはまだいい。あれだけ強大かつ希少な代物なのだ。欲しがる者たちは山程いるだろうし、欲しがる事自体は自由だ。別に罪でも何でもない。

 それ自体を責めるつもりは、太一郎は毛頭無かった。

 だが太一郎が怒りを露わにしたのは、そんな事の為に太一郎と真由の陽動目的でシグマ村に魔物の大群をけしかけ、何の罪も無い村人たちの命を理不尽に危険に晒した事だ。

 

 太一郎と真由の活躍で魔物たちは全滅し、村人たちを誰1人として死なせずに済んだものの…もし村人たちに死傷者が出たら、彼らは一体どう責任を取るつもりだったのか。

 繰り返すが村人たちには何の罪も無い。ただ静かに穏やかに暮らしているだけなのだ。

 それなのに…こんな下らない事の為に、理不尽に命の危険に晒されるなど…。


 「そんな事の為に…!!そんな事の為に!!君たちは全く何の罪も無い村人たちの命を危険に晒したというのか!?国は違えど君たち王国騎士団は、力無き人々を守る事が責務じゃないのか!?」

 「そ、そんな事言ったってよ!!俺らにとって上からの命令は絶対なんだ!!それはアンタたち転生者だって同じだろ!?」

 「…くそっ!!」


 騎士団にとって上からの命令は絶対だ。どんな理由があろうとも逆らえば厳罰に処される事になる。

 だがそれによって生じた結果に対しての責任は、命令を出した上の者が全責任を負わなければならないのだ。

 太一郎も向こうの世界で警察官として働いていた時も、それは同様だった。


 だからこそ目の前で怯えている兵士たちを責めるつもりは無かったし、こんな所で兵士たちを斬り捨てた所で何もならない事も理解していた。

 彼らはただ国王の命令に従って、命令通りに働いただけに過ぎないのだから。責めるのは筋違いだろう。

 むしろ責めるべきなのは、こんな馬鹿げた命令を出して村人たちの命を理不尽に危険に晒した、国王のアルベリッヒの方だろう。

 

 「真由!!聞いての通りだ!!すぐに王都に帰還しよう!!」

 「うん!!」


 目の前で泣きそうな表情になっている兵士たちをほったらかして、真由と共に慌てて馬に飛び乗る太一郎。

 軽快に鞭を当てられた2頭の馬が、物凄い勢いで王都へと走り出していく。

 だが太一郎と真由がシグマ村から離れた、次の瞬間。

 

 「ぐあああああああああああああああああああああっ!!」

 「きゃああああああああああああああああああああっ!!」


 またしても『呪い』が発動したのだった。

 いきなり2人が苦しみ出した事で、びっくりした2頭の馬が訳が分からないといった表情で慌てて急停止する。


 「…はぁ…はぁ…!!あ、あいつら…性懲りもせず、また向こうで何かやらかしやがったな…!?真由、無事か!?」

 「わ、私は大丈夫…だけどこのままじゃ王都が…!!」

 「ああ、早く戻らないと女王陛下や王女殿下が…いや、あの2人なら恐らく大丈夫だろうが、それよりもシリウスが一番危険だ!!」


 別に復讐すべき相手であるシリウスがどうなろうと、太一郎と真由の知った事ではないのだが。

 それでもシリウスが捕縛されたり、最悪シリウスが殺されるような事態になった事で、シリウスに掛けられた『呪い』が永久に解けなくなったりしたら、たまった物ではないからだ。

 こんな理不尽かつ身勝手な『呪い』に苦しめられるのは、本当にもう沢山だ。

 だからこそ太一郎と真由は一刻も早く王都へと帰還し、シリウスをアルベリッヒの魔の手から全力で守らなければならないのだ。


 復讐すべき相手を全力で守らなければならない…太一郎と真由にとって、こんな皮肉な話は無いだろうが…。


 「僕たちなら大丈夫だ!!急いで王都に戻ってくれ!!」

 「ヒヒヒヒンッ!!」


 太一郎と真由を乗せた2頭の馬が、再び全速力で王都に向けて走り出したのだった…。


 次回とその次の回は、サーシャがメインの話となります。

 次回はシリウス&レイナ&ケイトVS特殊部隊。

 その次の回がサーシャVSアルベリッヒです。

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