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幸せになれない

幸せを奪ってしまったわたし。

作者: はる

貴方は人形になった。

この男はずっと泣いてしかいない。こんな男のどこがよかったんだ。わたしの方がずっと貴方のことを愛していたというのに。



幼い頃は幸せだった。

両親はいなくとも、弟がいたからなんでもできた。孤児院で暮らしていたが、自分が不幸だとは思わなかった。

弟はとても優しい子だった。そのため、よくいじめっこにからかわれていて、そんな奴らをボコボコにするのがわたしの仕事だった。弟はわたしの事が大好きでいつもベッタリだった。ちょこちょことついて来る弟はとても可愛かった。



弟はとつぜん姿をけした。どれだけ探しても見つからなかった。

弟はわたしがいないと何も出来ないと思っていたのに、それは逆のようだった。弟がいなくなった私には生きる意味が無くなってしまった。

風呂に入らず、ご飯も喉を通らない。そんな日が続いた。


「もう死んでしまおう」

そう思い、最後に弟とよく遊びに行った森に行った。そこで貴方に出逢った。貴方は森でナイフを首に向けているわたしを見て驚いた顔をした。次の瞬間、汚いわたしを抱きしめながら泣きだした。何故か、わたしも涙がでてきて2人でずっと泣いていた。貴方はわたしの話を聞いて、「弟を死ぬ理由にしてはいけない」そう強く言って、また抱きしめた。「辛くなったら、またここにおいで」そう微笑む貴方はまぶしかった。

そして、見た目も心も酷く汚れている自分が恥ずかしくなった。あなたの隣に並べるくらいの人間になれたら、また会いに行こう。そう誓った。


それからは、毎日が充実していた。貴方のようになるため努力した。身なりなんて気にしたことも無かったけど髪の毛を綺麗にとかし、可愛いお洋服もお下がりで貰った。勉学に励み、人には優しく謙虚であろうとした。


16歳の誕生日、貴方に会いに行こうと決心した。出かけようとすると、孤児院では兄のような存在だった男が貴方を連れて結婚すると挨拶にきた。貴方は綺麗になったわたしに気づかなかった。貴方のために生きてきた。わたしには2人の幸せは願えそうにない。こんな濁った心では貴方には会いに行けない。


やっと気持ちの整理がついた頃、貴方は人形になった。

この男は泣いてしかいない。わたしは昔の貴方のように彼を励ました。この男が立ち直れば貴方も喜ぶと思ったのだ。貴方のために優しく、根気強く励まし続けた。


それなのにこの男は、わたしに結婚を申し込んできた。殺してやろうかと思った。

しかし、この男が私と結婚すれば、人形になった貴方はわたしの物になるのではないか。そんな馬鹿なことを考えてしまった。


結婚して、子供もできた。毎日この男の顔を見ることが苦痛だが、自分の子は可愛く、この子の為に生きたいと思えるし、貴方の家の窓から貴方が座っているのを覗くことを楽しみとしていた。そんな生活が続いた。



貴方が庭にいるのが見えたような気がして飛び出した。貴方の家まで行くと、貴方は知らない男に抱きしめられ泣いていた。その時に自分がしてしまった事の重大さに気づいた。結果的にわたしは、貴方からこの男を奪ってしまったのだ。貴方は私の顔など見たくも無いだろう。貴方がわたしの物になるはずもなく、今までやってきたことは全て、なんの意味もなかったのだ。



ある日を境に、この男がよそよそしく接してくるようになった。貴方が人間に戻れたことを知ったのかもしれない。子供も成長し、顔立ちがこの男に似てきた。私は、この子を愛し続けることができる自信が無い。



自分が犯した罪を償うために生きている。

こんな資格はないのかもしれないが、貴方が幸せになることを願う。


「生きることに明確な理由が必要か」そんな話でした。

「わたし」が人形になった「貴方」に直接会わなかったのは、心のどこかでやっている事が後ろめたいことだと気づいていたからなのかもしれません。

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