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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
97/359

94、若き調教師の悩み

軍事国バナハに到着したケイ達は、第二部隊隊長のエミリアの元を訪れる。

聖都ウェストリアの騒動を解決したケイ達は、当初の目的であるエミリアの元に向かうため軍事国のバナハに向けて出発をしていた。


別れ際にレイモンドから、もっといろいろと教えてほしいと目を輝かせながら言われたが、護衛の男性達から予定が詰まっているので、こちらもすぐに帰還しなければなりませんと制止されていた。どうやら興味があることに関しては貪欲になおかつ周りが見えなくなるタイプのようだ。


後ろ髪を引かれるレイモンド達やウェストリアの面々と別れて数日。

ケイ達は、当初より少し遅れてバナハに到着をした。



バナハに到着したケイ達は、その足で商業地区から西側にある軍事基地に向かった。その道中、以前あったとおぼしき試練の塔の跡地には、様々な料理店や店舗が建ち並んでいた。もともと軍事国ということもあり、産業自体にはあまり着手されていなかったようだが、最近になってそちらの方面にも手を伸ばしたと言ったところだろう。


「ここって、元々試練の塔があった場所なんだって!」

「でも、今はないじゃん!」

「なんでも、素手で塔を破壊した男の人がいるって噂だよ!」

「ははっ!そんな怪力な男がいるんなら会ってみたいな!」


一組のカップルがケイ達とすれ違う。

会話の内容は事実を湾曲されまくった噂のようだが、まさかその噂の元となった人物とすれ違っているとは夢にも思わないだろう。


「あれってお前の事じゃないよな?」

「だいぶ事実が違っているようだけど・・・?」

「知らん。触れてくれるな・・・」


アダムと苦笑いを浮かべたレイブンが小声でケイに聞いたが、何をどうしたらそんな噂が飛び交うのか理解に苦しむケイだった。



軍事基地があるバナハの西側に訪れると、入れ違うように見覚えのある茶色の髪をした男性と出会った。


「よぉ!ジェス!」

「あっ!ケイさん達じゃないですか!」


見覚えのある人物は、エミリアの補佐をしているジェスだった。

数ヶ月ぶりの再会とマルセールの急激な成長を目の当たりにした後のため、前と変わらない彼の姿に安堵感を覚える。


「もしかして、エミリア隊長の頼みの件ですか?」

「なんだ知ってるのか?」

「だいぶ困っていたようですからね」


苦笑いを浮かべジェスが語る。

伝言では至急の頼み事ではなさそうだったが、ジェスの表情を見る限りもう少し早く来るべきだったのかなと思いに至る。


「で、エミリアはロアンのところか?」

「いえ。この時間でしたら、第五部隊のところかと」

「第五部隊?」

「えぇ。説明するより実際に見て貰った方がいいと思います」



ジェスに案内されケイ達が向かった先は、基地の南側にある厩舎だった。


ここには兵士が利用する馬が何頭も管理されており、調教師やその見習いらしき人々が世話を行っている。

その厩舎の中を通り反対側に出た先には、別の厩舎が建っていた。

鉄や鋼のような素材で建てられたであろうその建物は、重厚で物々しい雰囲気を纏い、まるで監獄の様な風貌をしている。


その建物の圧倒的な迫力に、ケイ達は思わず目を丸くする。


「なにここ?」

「ここは第五部隊が管理している厩舎です」

「まるで監獄じゃん。なぜ他とは違うんだ?」

「それは第五部隊に関係があるんです・・・エミリア隊長!」


重厚な厩舎の前で、見覚えのある銀髪の女性と長身の男性が話しをしている。


ジェスが彼女の名を呼ぶと、二人は会話を止めこちらを向いた。

そのうちの女性の方は、ケイ達が見知った第二部隊隊長のエミリア・ワイトである。


「ジェス、今日は午後から非番だと聞いていたのだが?」

「実はケイさん達に会いましたので、こちらにお連れしました」


その言葉にエミリアが驚き、ケイ達との久々の再会に満面の笑みを浮かべ、男性の方はケイ達と面識がないので困った笑みを浮かべている。

その表情を見たエミリアが、「この前話した・・・」と前置きをしてからケイ達を紹介する。


「イーサン、彼らが例の冒険者達だよ」

「あぁ。面白い噂の・・・」


男性の言葉に、こちらは一瞬何のことだと冷や汗を掻きながら考えあぐねる。

そんなケイに礼を詫びてから、男性が自己紹介をした。


「紹介が遅れました。私はバナハの第五部隊隊長のイーサン・レオールです」


イーサン・レオール

軍事国バナハの第五部隊隊長を務めている。

第五部隊は空中戦を得意とする部隊で、グリフォンと共に戦闘に参加する特殊部隊として知られている。


イーサンは長い黒髪を一つに結わき、端正な顔立ちと長身で細身であるため、一見女性に見えなくもないが、肩幅や指先の形から男性だと判別できる。


「面白い噂って言ってたが、俺たちどんな風に言われてるんだ?」

「気を悪くしたらすまない。実は以前キャトル村の牛たちが暴走した際に、動物の言葉がわかる冒険者に場を収めて貰ったと噂で聞いたんだ」

「で、その人物が俺たちだって突き止めた訳だ」

「そうなんだ。ケイ達にも予定があると思って、急いでいないと伝言で伝えたのだが・・・」


エミリアがそこまで発言をすると、厩舎の方から複数の動物の奇声と建物の中から勢い良く何かが放り出されたところが目に入る。どうやらその物体は青年だったようで、イーサンが慌てた様子でその人物に駆け寄った。


「ダニエル!大丈夫か!?」

「いててっ・・・は、はい、大丈夫です。イーサン隊長、申し訳ありません!」


イーサンか彼を抱き起こすと、青年はすまなそうな顔を向けてからゆっくりと立ち上がった。その様子を見たエミリアは心配そうな表情を向けながら、ケイ達に彼のことを説明した。


「彼は、第五部隊の調教師だ」

「調教師?」

「第五部隊は別名・グリフォン隊と呼ばれている特殊部隊で、彼はグリフォンの調教師をしている」


ダニエルと呼ばれた栗色の天然パーマにそばかす顔の青年がこちらを向くと、慌てた様子で一礼をする。どうやらエミリアの頼み事は彼にありそうだ。


「エミリア隊長、恥ずかしいところをお見せして申し訳ありません!ところでこちらの方々は?」

「紹介がまだだったな。彼らは私の友人で冒険者をしているんだが、もしかしたら君の悩みを解決するきっかけになるかもしれないと思って来て貰ったんだ」


エミリアからケイ達の事を紹介すると、青年は自分のことを紹介した。


「初めまして。僕はダニエル・ケンバーと申します。今はバナハで第五部隊の調教師をしています」


ダニエル・ケンバー

第五部隊に所属するグリフォンをまとめる若き調教師。

有名だったグリフォンの調教師である祖父の跡を継いで、彼も同じ道を歩んでいる。


「エミリア、もしかしてお前の頼み事ってこいつ?」

「あぁ。ちょっと厄介なことになっているんだ」

「どういうこと?」

「お恥ずかしい話なのですが、どうやら僕はグリフォンに好かれていないようなんです」


ダニエルは二ヶ月ほど前にグリフォンの調教師として、ウェストリアから赴任してきた。彼の家系は調教師のスキルを所有しており、自身もウェストリアで馬の調教師として世話をしていた。しかし前任者であった彼の祖父が高齢ということもあり、引退と同時に孫である彼を指名してきたのそうだ。

もちろん彼は、グリフォンの調教師として有名だった祖父の跡を継ぎこの地にやってきたのだが、赴任当初からグリフォン達との意思疎通がうまくいかず悩んでいる様子だった。


エミリアはそんな彼の姿を見て少し前の自分と重なった気持ちになり、なんとかならないかといろいろと情報を集めていたところに、キャトル村の噂を聞いてケイ達に連絡をとった次第だった。


「エミリア、動物と意思疎通ができるのはケイだけだぞ?」

「それに、ケイにどうこうできる問題なの?」


エミリア達の事情は理解したが、アダムとシンシアが彼女に疑問を投げかける。

ケイは動物と話ができるだけで専門家ではない。本業の調教師が振り回されているのに素人のケイがなんとかなる話なのだろうか?と首を傾げる。


「無理なのは承知だ。しかしダニエルのためにも少しの可能性があれば私はそれにかけたい」

「わかった。とりあえず見てから考えるよ」


エミリアの熱心な説明にできるできないかは置いておき、とりあえずケイ達はグリフォンのいる厩舎に案内されることになった。



午後から非番のため家に戻るジェスと別れたケイ達は、ダニエルの案内で厩舎に通された。


「ここは第五部隊が管理しているグリフォン専用の厩舎です。現在、約50頭ほどのグリフォンの世話を行っています」


厩舎の入り口から動物の奇声の様なものが聞こえてくる。


声の主はグリフォンで、この厩舎はグリフォン専用であるとダニエルから語られる。現在、50頭あるうちの35頭は部隊編成に組み込まれており、10頭は妊娠している雌と訓練中の子供のグリフォン。残りの5頭は生まれたばかりのグリフォンだと言う。


グリフォンは気性が荒く気むずかしい性格のため、野生の場合は飼育がほぼ不可能といわれている。しかし幼少の頃から人に馴れさせるような訓練をすると、人に対して懐く行為が見られるため、バナハでは空中戦を得意とする魔物に対抗するため、機動力が高いグリフォンを特殊部隊として編成している。

それが第五部隊である。


「すっげぇな!」

「これだけのグリフォンなんて初めて見るわ」


ケイ達の目の前には、見習いの兵士に世話をさせられている何頭ものグリフォンの姿があった。第五部隊では調教師以外にも、新人の兵士も訓練の一環として世話にあたっているのだそうだ。


「グリフォンは確か、北東の山に生息しているワイバーンに対抗するために編成されたと聞いたことがあるが?」

「あぁ、そうだ。もともと第五部隊は騎馬隊を編制していたが、地上戦は得意でも足場の悪い場所では力を発揮できない。そこで当時軍で保護をしていたグリフォンの子供を育てて、試験的に人と協力できるかと研究を重ねていた。その結果、地上や空中でも対応出来る今の第五部隊が編成されたわけなんだ」


レイブンは第五部隊の再編成の経緯を噂で聞いたことがあるらしく、イーサンに尋ねたところ、まさにきっかけは対ワイバーンを目的として編成されたわけだ。


ケイ達が中に入ると同時に、グリフォンが一斉にこちらを向く。

先ほどの奇声が嘘のように静まりかえると、世話をしていた新人の兵士達がまたかと戸惑った表情をする。


そんな中で、一頭のグリフォンがケイ達の前に現れた。

他より一回り大きく、柑子色をした風格のある雰囲気が漂っている。


『ギエェェェェェ!!!』


そして何故かそのグリフォンは、ケイ達に向かって威嚇するような奇声を上げたのである。


ケイ達はエミリアから、調教師のダニエルとグリフォンたちとの仲を取り持つといった願いにどう対応するのか?

次回の更新は11月8日(金)です。

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