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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
96/359

93、解決策

自分の知っている一般常識って、みんな知っているわけじゃないよねって話。

「えっと・・・ケイ、俺たちにもわかりやすく説明してくれないか?」


先ほどから話についていけないアダム達が、ケイに説明を求めた。

全てケイの中で自己完結していた状態なので、当然と言えば当然である。


「こいつの状態と、今回の薬の件は繋がってるってことだ?」

「どういうことなの?」


ケイがレイモンドを護衛している男性を示し、それに首を傾げるアレグロと仲間達に分かりやすく説明をする。


「結論から言うと、こいつの症状はドトポの花に反応したんじゃなくて、別の花に反応してこんな状態になったってことだ」

「それがさっき言っていたウルペースの花か?」

「あぁ。ウルペースの花は元々フリージアの山とかに自生している植物で、魔素を多く含んでいて尚且つ、他の植物に擬態する能力を持っている。しかも擬態した植物より2~3倍と効果が高まるから、錬金素材には向いていない」

「ケイさん、この方はウルペースの花に反応したとはどういう意味ですか?」

「こいつの症状は、ウルペースの花で反応したアレルギーの一種だ」


アダムとタレナの問いに答えたのだが、そこでなぜか全員が閉口する。

そしてケイは、シンシアから衝撃的な言葉を聞くことになる。


「アレルギーってなによ?」

「はぁ!?知らねぇのか?」

「知らないし聞いたこともないわ」


よくよく聞いてみると、ダジュールでは護衛の男性の様な症状は全て風邪だと思われているらしい。地球では一般的とされるアレルギーや花粉症などの症状に関しては、認知されていないどころか存在すら知らない状態だった。


「アレルギーって言うのはざっくり説明すると、特定の物質に対して身体に拒否反応が出ることだ。他の人が大丈夫でも、その人間には鼻水や目のかゆみに湿疹などさまざまな症状が出るし、俺の国では最悪死んでしまう事例もあるんだ。まぁ、人の身体って言うのは同じってわけじゃないしな」

「へぇ~そういうことなのね。でも、なんでフリージアにあるべき花がウェストリアに自生しているのよ?」

「それは花粉の影響があるからじゃん」

「花粉?なによそれ?」


またしてもシンシアの言葉にケイの思考が一瞬止まる。

まさかと思い聞いてみると、案の定、想定していた答えが返ってくる。


「え゛っ!?一応聞くが植物の構造について知ってるか?」

「植物の構造?そんなの魔素の影響で生えているに決まってるじゃない?」


自信満々に答えるシンシアにどこから突っ込んでいいのかわからず、今度はケイが閉口した。


周りを見ると、ケイの言葉に理解している者とそうでない者と様々な表情をしていた。ラウルスやヴァネッサとレイモンドは、職業柄もちろん知っているようだったがこの状況に困った笑みを浮かべている。おそらく地球で習うはずの一般知識は、異世界では一般知識力に差があるのだろう。


ケイはこの状態に頭を悩ませるしかなかった。



「・・・というわけだ、植物の構造や花粉のことはわかったか?」


ケイはわかっている者もそうでない者のために、植物の構造と花粉の事を説明した。小中学生の時に習って以来のため、これ以上の専門的なことは知らないが彼らには十分納得して貰えたようだ。

しかし後からどっと疲れが出たので、教育者は大変なんだなと改めて思う。


「そのケイさんの話をふまえて、ウェストリアに自生しているウルペースの花については、ブリザードの影響で起こったものだろうと推測できる」


ケイの疲労具合に、助け船を出したレイモンドが口を開く。


彼の話では、フリージアでは今年に入ってから例年以上にブリザードの発生がみられたそうだ。頻繁に発生していた原因はわからないようだが、いつの間にか収まっていたそうで、ブリザードの変則的な発生により風が花に影響を及ぼし花粉がウェストリアまで運ばれたのだと考えられている。


そういえば以前ヴィンチェ達からエケンデリコスの話を聞いた時に、ブリザードの足止めを食らったと言っていたようだが、それと何か関係があるのだろうか?

と思い、時間がある時にベルセにでも尋ねてみようと考える。


「そのブリザードの影響で、ウェストリアでもウルペースの花が咲いたということですか?」

「僕はそう考えている」

「でも、擬態している花をどうやって見分けたらいいのですか?」


マルセールとエトワールが不安げな表情で語る。


確かに、ドトポの花以外にも擬態している可能性があるウルペースの花を見分けることは難しい。しかも厄介なことに、魔素を含んだウルペースはその影響でわずか2~3日で花として機能するのだそうだ。その辺は地球の知識とまったく違っている。どちらにしろ、ウルペースの花がウェストリアに広がっているのは間違いなさそうだ。


「確かに擬態している花を見分けることは難しい。こればかりは完全に排除はできないだろうから、しばらくは薬の材料を外部から取り入れるしかないかな」

「短期間であるならそれでもいいですが、とにかく早めに改善策を練るしかありません」

「レイモンド様、長期になった場合に状況が苦しくなる可能性も捨てきれませんし、なによりも他の者達に不安が残ります」


レイモンドは思案し解決策を考えようとし、ラウルスとヴァネッサは短期よりも長期になった場合のリスクを危惧する。



そんな三人の話し合いを横目にアレグロがケイに話しかける。


「ケイ様、なんとかならない?」

「と、いわれてもな~」

「このままだとウェストリアもアシエル商会も無事じゃすまないわよ?」

「まぁ、国や商会のメンツにかかわるからな」


ケイの鑑定でも一度は欺かれてしまったわけなのだが、そこまで完璧に擬態できるウルペースの花は効果も擬態した物よりも高くなる反面、扱いが難しくなる。完全排除は現実的に不可能に近いので、なんとかウルペースの花を生かした調合法または見分け方がないのかと考えてみる。


ダジュールの管理者権限で検索をかけてみると、面白い項目が目に入る。


【ウルペースの花は魔素を多く含み2~3日で花として生長し、擬態した物から自力で戻ることはできない。また野生のオオカミが好んで食すため、場所を選んで自生する説もある。簡単に見分ける方法の一つとして、大きな音を出すこと】


ウルペースの花は、一度擬態した物から自力で戻ることができない。

逆をいえば、他のきっかけさえあれば簡単に戻るといいたところだろう。

そういえば鑑定結果に狐の花と呼ばれているそうだが、狐はオオカミが天敵と言われている。物は違えど、異世界でも苦手とされていることを考え、試しに手元にある擬態しているウルペースの花で確かめてみることにした。


空いている机にドトポの花に擬態したウルペースの花を置き、勢い良く両手を合わせるように叩く。乾いた大きな音が室内に響き渡ると、置いていた擬態された花からボンッ!と音を立てて紫の煙が舞い上がった。


「ちょっと!なにしてるのよ!?」

「え?実験だけど?」


ラウルス達の話し合いを大人しく見ていたシンシア達がこちらに気づくと、ケイは一言だけ言ってから煙の収まった場所に目を向けた。



白い百合のような花。

その言葉にふさわしく、美しく品の良い花びらが表現されている。

一見、白閃花に似ているようだが、よく見ると真っ白と言うよりかはアイボリーに近い色合いをしている。狐のように妖しく、しかし同時に気高い印象も持ち合わせているそんな花だった。


「ケイさん、これはどういうことですか?」

「ウルペースというのは、別名・狐の花と呼ばれているんだ。狐と言えば天敵のオオカミや大きな音が苦手と言われていて、その話を参考に試しに花相手に大きな音を出したら元に戻った」

「擬態した状態から戻ることなんてあるのですか?」

「たぶん、他所からの圧力には弱いんじゃないかな?」


レイモンドがケイに尋ねるが、最後の言葉の意味を理解出来ずに首を傾げる。


魔素を用いて擬態する花は場所を選んで自生すると考えると、それ以外の環境にはめっぽう弱いということになる。特に天敵のオオカミや大きな物音が出る場所を避けることから、今回のこの現象は一過性の可能性があると推測した。


ちなみに聖都ウェストリアにもオオカミが存在する。


彼らは群れて行動し、農作物を荒らし自生している植物まで食い荒らすことがたびたびあるので、最近では錬金術ギルドに依頼をしてオオカミが嫌う匂いを畑や村の周辺に巻いていると、以前訪れたセルバ村のアダムの両親が教えてくれた。


それにもっと簡単かつ広範囲に、擬態を解除する方法は他にもある。


「そういや、大聖堂って鐘はあるのか?」

「鐘、ですか?もちろんありますが、今は交換を依頼しています」

「それっていつからだ?」

「ひと月ほど前からです」


マルセールからの話では、大聖堂には鐘が存在するが、ちょうど古い物を新しい物に取り替える作業を行っているため現在は使用していないそうだ。

本来であれば、9時・12時・15時・18時の4回で、その音は郊外の遠くからでも聞こえるほどだ。


そう考えると今回の一件は、全てが偶然に起こった事で、その結果ウルペースの花がウェストリア中に蔓延してしまったという結論に達する。



ケイは、この結論を全員に説明した。


先ほどケイが擬態した花に手を叩いて音を出したのは、大きな音とその震動で擬態した花が驚き、保持していた魔素が体内に強制的に排出されたことによる解除とみている。恐らく以前にもあったと思われるが、それらが機能していたため目立ったことにはならなかったのだろうと説明をしめた。


「さすがはケイさんだ!いやぁ僕もわからなかったよ!この方法であれば容易に擬態した花を見分けられるな!やっぱり力だけじゃなくて、博識であらせられるとは恐れ入ったよ!」


ケイの手を取り、ブンブンと腕を振るうレイモンド。

彼は、以前ジャニスからケイ達の事は聞いていたようで、レッドボアの魔石も完全に近い状態で手に入れられるとは実力者は違うなとベタ惚れをしていた。



「今回は偶然が重なった現象だったとは私も見抜けなかったよ。君の話を踏まえて今後の対策を検討していこうと思う」


ラウルスもケイの話を参考に、今後の対策を講じる姿勢を見せる。



「博識でありながらも、私たちの知らないことを惜しげもなく教えてくださるとは聖人と言ってもいいほどです。錬金術師の根本的な在り方を考えさせるきっかけになりました」


ヴァネッサも錬金術師の在り方というスケールの大きい発言をしてきたが、専門分野ではないため彼女の発言は静かに見守ることにする。



その後ウルペースの花の見分け方を理解したラウルス達は、ケイの話を参考に今後は錬金の調合素材として使用できるよう研究を本格的に行っていくと語った。


擬態をするため元の素材より効果は高いが扱いづらく、嫌煙されたままではいつまでたっても前に進まない。そう考え、ヴァネッサとエトワールを中心に研究機関を構成し、新しいステージに進む準備を整える予定だそうだ。


それと、今後は一般教養についても今以上に現・教育に組み込む段取りを整えるラウルスからも語られる。環境や物事を通して勉学に励み視野を広げていくことで、新しい可能性が発見されるだろうとケイの姿勢から学んだと感謝を述べられる。マルセールとアルマもこの案には賛成のようで、自分たちも学んで世界に役立てたいと前向きにとらえている。


レイモンドは今回の件で、ほかにもそういった可能性があることを前提とし、ほかの国と連携を取りつつ未知の領域にも挑戦すると述べる。アシエル商会も常に新しいことに挑戦していかなければ続けていけないと、流行以上にシビアな職種だとケイは感じた。



後に彼らの中で、密かにケイの事を『偉大なる先駆者』と呼んでいるらしいのだが、当のケイが知ることは今のところなさそうだ。


知らない間にケイが崇められているけど、知らぬが仏というやつです。

次回の更新は11月6日(水)です。

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