91、久々の再会と錬金術ギルド
お待たせしました!
聖都ウェストリアでの再会と錬金術ギルドの回です。
数ヶ月ぶりの聖都ウェストリアに赴いたケイ達は、アシエル商会の錬金術ギルドへの視察まで時間があるため、まずはその足でマルセールの屋敷に向かった。
大聖堂から東にある青い屋根の屋敷は、以前と変わりなく建っている。
門番に至急マルセールに取り次ぐように願うと、生憎出かけてしまったとの返答が返ってくる。司祭の家系なら国をまとめている代表に会えると思っていたが、タイミングが悪かったようだ。
門番にまた出直すといい来た道を戻ろうとした時、青年と並んでこちらに歩いて来る見覚えのある女性の姿があった。
「あら?ケイさん達じゃない!」
「アルマか!?久しぶりだな!」
見覚えのある女性は、マルセールの姉であるアルマだった。
アルマは連れの青年と一緒だったため間が悪かったかなと思ったが、青年の方はケイ達の方を向くと礼をしてこう述べる。
「皆さん、お久しぶりです。あの時はありがとうございました」
見覚えのない青年にケイ達が首を傾げ、誰だろうと必死に思い出そうとする。
その光景を見ていたアルマが愉快そうにこう告げる。
「やっぱりわかりませんよね?」
「アルマ、こいつ誰だ?」
「ふふっ・・・マルセールですよ」
ケイ達はその衝撃の一言に、辺りが木霊するほどの驚愕の声を上げた。
「う、嘘でしょう!?」
「変わりすぎじゃねぇか!?」
シンシアは目を見開き口をパクパクとさせ、ケイはあまりの変貌ぶりになにをどうしたらそうなるのか理解出来ずに絶句している。
それもそのはず、ケイ達の知っているマルセールは、金髪を肩口に切りそろえた虚弱体質の小柄な美少年のイメージしか残っていない。それが今では髪を短く切り、背はケイとさほど変わらず、鍛え始めたのか体格は細身でありながらしっかりしており、青年と言ってもいいほどの風貌になっていたのだ。
「マルセール、お前何があった!?」
「実はあの後から背が伸び始めたんです」
「体質を改善した辺りから急激に背も体格も大きくなって、少し前から本格的に身体を鍛えるために武芸も始めたようなんです」
恥ずかしそうにマルセールが語ると、アルマは嬉しそうに弟の近状を教えてくれた。聞けば数ヶ月の間に身長が20cm近く伸び、体格もどんどんしっかりとしてきたようで、最近ではもともと武芸の才能もあったことにより、司祭の仕事の合間に一般兵との訓練を日課にしているそうだ。
そんな異世界ビフォーアフターをまざまざと見せつけられたケイ達は、世の中何が起こるかわからないなと納得してしまった。
マルセールとアルマに案内され、屋敷の応接室に通されたケイ達は、本来の目的を忘れずに二人に相談をすることにした。
「二人にお願いがあって来たんだ」
「お願いってなんでしょう?」
「なにかあったのですか?」
「実は・・・」
神妙な面持ちのケイが、互いに不思議そうに顔を見合わせているマルセールとアルマに、オネットの町で起きたウェストリアの錬金術ギルドで処方された薬のことを説明した。そして近くアシエル商会とギルドとの話し合いがあり、揉めないように第三者を派遣できないかと相談を持ちかけたのだ。それを聞いたアルマがそう言えばとこんな話を始める。
「そういえば、ヴァネッサさんが伯父と何かを話しをしているところを見たことがあるわ」
「ヴァネッサ?」
「ウェストリアにある錬金術ギルドの代表です。私たちの伯父はウェストリアのまとめ役をしてまして彼女とも親交がありますから、おそらく最近起きている薬の不具合の報告を受けたのだと思います」
アルマからまとめ役を勤めている伯父には、すでに報告が上がっていると語られた。しかも明日にはアシエル商会と会談が行われるようで、今はその段取りと確認のため錬金術ギルドに向かっているそうだ。
「伯父も随分と頭を悩ませている様子でした。今ままでにない事例だったようで、現在はその対応に追われているようです」
「そもそも錬金術って言うのは、同じ薬を大量に調合するものなのか?」
「僕もはっきりとはわかりませんが、基本依頼を受けてから調合すると聞いたことがあります」
「それよりも伯父が危惧していることは、ドトポの花自体に異変が起こっているかもしれないことだと思います」
ドトポの花は一般的に聖都ウェストリア周辺に生息しているが、錬金術や薬の材料、ひいては料理の具材によく使われており、一部の場所では栽培されているところもあるのだそうだ。そのため、害が確認されたとなると混乱は免れないことは目に見えている。
「お偉いさんには話がされているようだし、ここで考えてもしかたない。ケイ、一度錬金術ギルドに行ってみるしかないと思う」
「だな、サルビアから手紙を預かっているし」
「それなら私たちがギルドまで案内します」
アダムの提案に、サルビアからエトワール宛の手紙を預かっていることもあるため、渡すついでにギルドの様子を伺うため、町の中央にある錬金術ギルドに向かうことにした。
錬金術ギルドは、街の大通りに面した一画に建っていた。
グレーの壁に白い柱が特徴的な二階建てのモダンな造りで、両開きの扉の上部に釜が描かれている木の看板が掲げられている建物だ。
中に入ると、正面のカウンターに一人の受付嬢が作業をしていた。
「こんにちは。マルセール様、アルマさん!」
「こんにちはエトワール。実はあなたに会いたいとやって来た人達がいるの」
「私にですか?」
ふんわりとしたキャラメル色の髪を束ねた受付嬢が不思議そうにこちらを見つめると、アルマは彼女にケイ達を紹介した。エトワールと言われていたので、おそらく彼女がサルビアの姉なのだろう。
ケイは彼女に自分たちの事を説明し、サルビアの話を伝えてから手紙を添えた。
「あんたがエトワールか?実はサルビアから手紙を預かってる」
「はい、私がエトワールです。妹からの手紙ですか?拝見します」
ケイから手紙を受け取り、文面を読んだエトワールが顔を青くさせた。
おそらくケイ達が聞いた被害状況の相談なのだろう。
エトワールは少しお待ちくださいとだけを言い残し、二階へと階段を駆け上がっていった。
「手紙の内容ってなにかしら?」
「たぶんオネットの町で、薬による体調不良を起こした人達の相談なんだろう」
「サルビアさん、だいぶ困ってたようでしたからね」
「そんなに深刻なのですか?」
「俺たちが彼女から聞いたのは、薬による体調不良者はひと月に十人ほどいたそうだ」
シンシア達も手紙の内容を察したようで、なんだか居心地の悪さを感じる。
ケイ達の話を聞いたマルセールとアルマも、自分たちの国で作られた薬で助かる命に危機が訪れていたことに気が気でない表情をした。
暫くしてエトワールが二階から戻ってくると、ギルドマスターから詳しく話を聞きたいとケイ達を通すようにと話した。
ケイ達は彼女に言われるがまま、二階の応接室に通された。
「ヴァネッサ様、お連れしました」
応接室に通されると、室内には一組の男女が向かい合わせて座っていた。
女性の方は四十代ぐらいの落ち着いた印象を持った淑女で、男性の方は白髪で髭を整えた品のいい五十代ぐらいの男性だった。
「あら?マルセールとアルマも一緒だったのね?」
「お前達、なぜここに?」
「伯父様お忙しいところ申し訳ありません」
「ケイさん達は以前、僕が話した命を助けてくれた恩人です」
アルマが非礼を詫び、マルセールがケイ達の事を紹介する。
二人は大層驚き、女性の方はケイ達にソファーに着くようにと手で示した。
「マルセールが世話になったようだな。私はラウルス・ソル・ルーヴァンリッヒで、この国の政治的な役割を担っている」
ラウルス・ソル・ルーヴァンリッヒ
マルセールとアルマの伯父で、本来であれば司祭の素質を満たしていたが、自分には合わないと国を支える政治的な役割に即いている。あくまでも裏方メインの考えのため、表舞台では滅多にお目にかかることができない。
「ご紹介が遅れました。私は錬金術ギルドのギルドマスターを務めておりますヴァネッサ・イゴーラと申します」
ヴァネッサ・イゴーラ
聖都ウェストリアに住んでいる錬金術ギルドのギルドマスター。
物腰は柔らかいが、錬金や鑑定の腕は群を抜いているギルドマスターになるべくしてなった女性。
ケイ達も各々紹介を済ませ、さっそく本題に入ることにした。
「オネットの町の件は既に我がギルドにも報告は上がっています。医師のサルビアさんには申し訳ない思いです」
「ところでこの国の薬事情はどうなってるんだ?」
「今のところ我が国でもドトポの花を使った薬の製造・販売を停止している。原因を特定しなければ被害は拡大するだろう」
「で、原因は?」
「それが皆目見当がつかないんだ」
ラウルスの話では、ドトポの花の入手経路は二つある。
一つは街の西側にドトポの花の栽培所があり、そこで栽培されている花は鑑定や調査の結果異常はみられなかった。
もう一つは、冒険者ギルドに定期的に採取を依頼している。
こちらは、天候の変動で栽培所の花の収穫が遅れてしまうことがあるため、自然に自生しているドトポの花を入手しており、そちらを主に調合に当てているそうだ。
ラウルスは、自生しているドトポの花に何らかの要因があるのではと考える。
「じゃあ、自生している方の調査は?」
「今、鑑定が使える物を現地に派遣して調査を行っている。この後報告を受ける予定になっている」
数日前からウェストリア周辺に自生しているドトポの花の調査に乗り出しているそうで、そろそろ報告が上がるころだと語った。
「ドトポ中毒になるような量を入れていたってことか?」
「それも考えたのですが、そもそもドトポの花自体に薬の性能はありません。どちらかと言えば効果を補助する役割になります」
どんな薬や材料も過ぎれば毒となるのは異世界も同じ事で、ドトポの花を摂取して中毒を起こす量は大体1000gといわれている。
通常、薬に入っている量はせいぜい0.1mg程度で、調合しても独特の苦みが残るため大量に口に含むことは難しい。
「う~ん、これは現物を見ないと判断がつかないな」
「それでしたら調合場に置いてありますので、確認してはいかがですか?」
ヴァネッサの提案で、ケイ達はドトポの花を見に一階の調合場に向かうことにした。
はたしてケイ達は、不具合の原因を特定することができるのでしょうか?
次回の更新は11月1日(金)です。




