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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
92/359

89、幼なじみ

聖都ウェストリアに向かう途中にあるチーズ名産の村での出来事。

今回はアダムの生まれ故郷のお話です。

現在ケイ達は、バナハに向かう前に聖都ウェストリアに向かっていた。

医師のサルビアから預かった手紙を彼女の姉であるエトワールに渡すことと、原因不明のドトポ中毒の謎が気になったからである。


オネットの町から南に2kmほど向かった先に、遠くを見通すほどの大きな橋が架かっている。


「これがカロナック大橋だよ」


レイブンの話ではこのカロナック大橋は、大理石で建てられた幅10m全長500m程のアーチ状の橋で、橋を支えるための柱は100本をゆうに超えると言われている。

橋の歴史は古く、今から700年程前に北大陸と西大陸の友好を記念して建てられたと言われているが、そのわずか200年後の世界大戦の際に全体の四割を損傷。修復には数十年以上かかったと言われている。


現在は多くの人が行き交い、観光としても有名な名所の一つになっている。


「すげぇーーー!!!」

「話には聞いていたけど、私も初めて見るわ!」

「山から海に続く水も澄んでいますし、観光としても魅力がある気持ちもわかりますね」

「同じ西大陸にいたのに、こっち側は初めて来るから驚いたわ!」


ケイとシンシアが目を丸くし、アレグロとタレナが驚きの表情を浮かべる。

橋の欄干から下を覗くと、山からの水が川を伝って西にある海に流れていくところが見える。また田舎の山奥でしか見られない透き通った水が、観光の目玉の一つにでもなっているのだろう、同じように欄干から下を覗く人々の姿も見える。



橋を渡り終え、予定通り中央にある聖都ウェストリアに向かおうとした時、どこからか嗅いだことのある匂いが漂ってくる。


「なんか匂うんだけど?」

「ん?あぁ、これはセルバ村で作っているチーズの匂いだね」

「セルバ村?」

「聖都ウェストリアから北東にある小さな村だよ。たしか全体の3割をセルバ村が作製しているって聞いたことがある。ほら、あそこがセルバ村だ」


レイブンが示した先に村が見える。

チーズと聞いて生唾を飲んだケイは、作りたてのチーズが食べられるかもと思い、行って食べたいと提案した。


「でも、ウェストリアに急がなくてもいいのか?」


それに難色を示したのはアダムだった。

オネットの町を出発する前に、アシエル商会の人間がいつ出発するのかをベルセにチャットを送ったところ、ケイ達が出発した後に正式決定し、二日後に出発するようだと返ってくる。フリージアから聖都ウェストリアまでは馬車でも二~三日なので、一日ぐらいは問題はないと結論づける。


「アシエル商会の人間の馬車でも二~三日はかかるし、それまで時間はある。だから俺はチーズを食べに行くぞ!」

「あ!ケイ様待ってー!」

「えっ?ケイさん!?姉さん!?」


チーズが作られる事を知って、ぜひ食べてみたいとケイは村に向かって走り出し、その後ろをアレグロとタレナが追っていく。それをシンシアとレイブンはやれやれと肩をすかせた。しかし、なぜかアダムだけは複雑な表情を浮かべていた。



セルバ村に足を踏み入れると、村のそこかしこからチーズの匂いが漂ってくる。

ケイはタレナから涎が垂れていると耳打ちで教えてもらい、服の袖で口を拭う。

たまたま通りかかった村の男性を捕まえてチーズのことを聞くと、男性はこちらを見て驚きの表情を浮かべた。


「アダムじゃないか!?」


ケイが疑問を浮かべ、後ろにいるアダムの方を振り向いた。

見るとアダムはバツが悪そうな表情を浮かべている。


「えっ?もしかして、ここってアダムの故郷なの?」

「あ、あぁ・・・まぁな」

「俺も初めて聞いたぞ?てっきりアーベン育ちとばかり思ってたぜ」


アレグロが尋ねると、アダムは顔を引きずらせながら肯定した。

ケイもアーベンで生まれ育ったとばかり思っていたが、まさかたまたま立ち寄った村がアダムの故郷だとは意外である。


村の男性はアダムの帰省に笑みを浮かべ、家族には会ったのか?とか今までどうしていたんだ?などと話しかける。男性の気迫に押されていたアダムが、男性越しに何かを目撃して慌てた表情を浮かべる。男性もその表情に気づき後ろを振り返ると、見知った人物だったようで大声を上げる。


「おーい!リーン!ラリー!アダムが帰ってきたぞ!!」


男性の声は道の奥からやって来た男女に投げかけられたようで、その二人も驚きの表情でこちらを見つめている。しかしアダムは、男性の呼び声と同時に数歩後ずさりをした後、どこかに逃げる様に走って行ってしまった。


「お、おい!?アダム!?」

「ちょっとどうしたのよ!?」


「待って!アダム!」


困惑したケイ達を余所に、目の前を茶色の髪の女性がアダムを追いかけるように走り駆けて来る。しかし舗装されていない土の道のせいで、何かに躓きケイ達の目の前で派手に転んでしまった。


「おい!?大丈夫か!?」

「ケガはありませんか?」

「す、すみません。どなたかは存じませんがありがとうございます」


ケイとタレナが女性を介抱し立たせようと手を差し伸べた時、ケイが彼女の違和感に気づき口を開く。


「あんた、もしかして目が見えてないのか?」

「はい。実はそうなんです」


その女性は目を開いてはいたが、見えていないせいで視点が合っていない。

声だけで、アダムを追ってきたようだ。そんな彼女の手を取りゆっくりと立たせ、タレナが彼女が着ている白いワンピースについていた土を軽くはたいて落とす。


「リーン!大丈夫かい!?走っちゃ駄目だっていったのに!」

「ラリーごめんなさい。でも、アダムが帰って来たって」

「リーンすまねぇな~俺が大声を出しちまったばかりに」

「うぅん。気にしないで!」


後からやってきた青年が慌てた様子で女性に近づきケガはないかと尋ねる。二人を呼び止めた男性もまさかアダムが逃げ、彼女が走ってくるとは思っていなかったのか頭を掻いて謝罪を述べる。

ラリーと呼ばれた少し色が抜けた茶髪の青年が隣にいたケイ達に気づき、礼と謝罪を述べる。


「彼女を気遣ってくださりありがとうございます、僕はラリー。彼女は・・・」

「私はリーンといいます。あの、もしかしてアダムのお知り合いですか?」

「あぁ、俺達は冒険者でアダムと行動している」


ケイが二人に自分達のことを紹介すると、リーンは嬉しさと寂しそうな表情が入り交じった笑みを浮かべる。隣にいたラリーも複雑な表情を浮かべ彼女の方を見る。


「あんたらアダムの知り合いか?」

「僕とアダムとリーンは幼なじみなんです。この村で生まれ一緒に育ちました」

「アダムに会えると思っていたけど、まだ早かったみたい・・・」


その言葉に疑問を感じ、タレナが二人に問いかける。


「アダムさんと会われるのは、いつぶりなんですか?」

「アダムと会うのは、八年ぶりになります」


リーンが答えるに、八年間もアダムはここには帰ってきていなかったことになる。

二人の表情の意味するところはわからないが、八年ぶりであれば嬉しさのあまり昔話に花が咲くと思うのだが、どうも様子がおかしい。アダムに至っては逃亡中だ。

それとリーンが言っていた「まだ早かった」とはどういうことなのだろうかと首を傾げる。


「久々の再会なら嬉しいんじゃないのか?」

「アダムが戻らなかった原因は、私にあるんです」


リーンは寂しそうに目を伏せた。

ケイ達は聞いてもいいのかどうか判断がつかなかったが、彼女の方からここではなんだからと家に案内してくれることになった。



彼女の家は、村の中心にあるチーズ工房兼用の住居であった。


彼女の家族は隣の工房で作業をしているため、今、家には彼女しかいないそうだ。

リーンは自分の家の構造は把握しているようで、ラリーの助けを借りなくとも慣れた様子で室内に入っていく。

応接室に通されケイ達がソファーに腰をかけると、ラリーと一緒にカップやお茶の入ったティーポットを運んでやって来る。


「リーン、さっき言ってた『会うには早かった』ってどういう意味なんだ?」

「そのことですか。それは私の目が原因なんです」

「目?」

「私の不注意でスタンビートルの鱗粉を浴びてしまい、アダムがそれに責任を感じてしまったようなんです」


八年前、当時から冒険者として活動していたアダムは久々に村に戻っていた。

村に戻る際に、聖都ウェストリアでスタンビートルの討伐を請け負っていたアダムは、村の周辺にいたスタンビートルを討伐中に誤って一匹逃してしまい、運悪くたまたま外で作業をしていたリーンがその鱗粉を浴びてしまい失明してしまったそうだ。

リーンや彼女の両親はアダムがいなければもっと酷いことになっていたと言い、ラリーやアダムの家族を含めた村人達は彼を慰めた。しかし昔から責任感が強かったのか、それ以降村に戻ることはなかったのだという。


「あいつそんなこと一言も言ってなかったのにな」

「誰だって自分の家族や友人が予期せぬことになったら、ショックを受けるわ」

「アダムには、私のことは大丈夫だからと伝えたのですが・・・」


ケイとアレグロの会話に、リーンが困ったような寂しそうな笑みを浮かべる。

自分の目が見えなくなったら普通の人でも狼狽えると思うが、彼女は自分よりもアダムを気遣った。


リーンは、もう一度アダムと会って話をしたいと思っている様子だった。



その頃アダムは、村の北側にある小さな川の岩場に腰をかけていた。


ケイの気まぐれで故郷に戻ったが、すぐに幼なじみに出会うとは思わなかった。

自分のせいで彼女があんな目にあったのに、何故彼女は自分のところに来るのだろう。本来であれば二度と戻るまいと故郷を出ていったのに、彼女と幸せになりたかったと後悔している自分も存在している。正直先延ばしをしているだけで、ただ逃げているだけだと自覚しているが、彼女に向き合う覚悟がつかなかった。

情けない話、八年経っても彼女の顔を見ることはできなかった。


ポケットの中から小さな木箱を取り出す。

本来であれば、これは彼女に渡すべき物だったが自分にはその資格がない。

何度も捨てようと思ったが捨てられず、ずっと手元に残している。


アダムは手の中にあるそれを見つめ、黙ったまま俯いていた。

幼なじみの再会に逃亡するアダム。

リーンの話を聞き、なんとか力になってあげたいと思っているが、もう一度二人が話をするにはどうすればいいのでしょう?


次回の更新は10月28日(月)です。


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