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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
90/359

87-2、大きな家(後編)

大きな家の後編です。

案内された二階にある六部屋の客室は、門が見える表側三部屋を女性陣、裏庭が見える三部屋を男性陣が使うことになっている。


食事を終え客室に戻ってきたケイは、そろそろ寝ようと床に就こうとした。

カーテンを閉める際に何気なく家の裏庭が見える窓を覗くと、暗闇の中に何かが建っているのが見える。


「あれは…墓か?」


窓の外に見えたのは、いくつも並んだ墓石のようなものだった。

暗がりで見えないが奥にも続いているようだ。少し気味が悪いなと思いつつもカーテンを閉め、寝る前にトイレに行くことにした。


客室とエントランスの階段との間にある来客用のトイレから出ると、吹き抜けから一階の様子が見えた。下を覗くとちょうど階段から誰かが上ってくる姿が見える。


「ブルーラじゃん」

「これはケイ様」

「食事美味しかったぜ」

「お褒めいただきありがとうございます」


食事を用意してくれたブルーラに礼を述べると、彼女は安堵の表情で一礼をする。

ローランが言った通り、久々の来客のため緊張したと語る。

そんな彼女にケイはそうだと、裏庭の話を聞いてみることにした。


「そういや部屋から裏庭が見えたんだが、あの墓石みたいなものはなんだ?」

「あれは旦那様のご家族のお墓になります」

「血縁者の墓か?」

「はい」


裏庭の墓石は、ローランの両親や血縁者、ご先祖様などが安置されている。

暗くて見えなかったがだいぶ数があったと記憶している。

聞けばフリージアにある教会は、北の山にある切り立った崖の上に存在しているそうで、なかなか足を運ぶことができず、その結果裏庭に建てたとのこと。

日本では決まった場所が存在するのだが、この世界ではその辺のところは緩いらしい。法律に関しては専門外のためなるほどと納得した。


「ケイ、何をしているの?」


ブルーラの話に関心を示すと、後ろからシンシアの声が聞こえてきた。


「何ってトイレだよ」

「さっきからぶつぶつ言ってたみたいだけど、誰と話していたの?」

「誰って、さっきからここにいた…あれ?」

「何を言ってるの?誰もいないじゃない?」


ケイがブルーラの方を振り返ると、彼女はいつの間にか消えていた。

たしかに先ほどまで一緒にいたのにと首をかしげる。たぶん仕事が残っているから戻っていったのかと納得することにした。



床に就いてから数時間といったところだろうか。ふいに何かの物音でケイが目を覚ました。目を開き身体を起こすと、部屋の外で誰かが争っているような音がする。

忍び足で扉に近づき耳を当てる。


「…ん…だ…たす…!」


どうやら口をふさがれているような人の声が聞こえる。

二、三度何かがぶつかり倒れる音がしたかと思うと、ずるずると何かを引きずりながら遠ざかっていく。


音が遠ざかったことを確認し扉を開けて確認すると、向かいの部屋の扉が開いている。その部屋にはシンシアがいるはずである。

ケイが中を覗くと、誰かと争った後で室内はだいぶ荒らされている。

ということは、先ほどの声と音はシンシアの可能性が高い。

ケイはこのことを他の部屋にいる四人に伝えるため、それぞれの部屋に声を掛けて扉を叩くがなぜか誰も出てこない。


「あ˝ー!もう、どうなってんだよ!」


四人とも熟睡しているのか反応がなく、しびれを切らしたケイは先ほどの音を辿ってシンシアを探すことにした。



「ケイ様どうかされました?」

「ブルーラ!ちょうどよかった!」


一階のエントランスに下りると、反対側の通路からブルーラがやって来る姿が見えた。ケイはナイスタイミングといわんばかりに、謎の音と部屋からいなくなったシンシアの事を説明した。すると、ブルーラは少し考えてからケイに返す。


「申し訳ございません、それはローラン様かもしれません」

「ん?どういうことだ?」

「どうやらローラン様が、先ほどの料理に睡眠薬を入れていたようです」


ローランは以前から、来客してきた人間の中から気に入った者を地下に囲い入れていたようで、ブルーラの口からシンシアは気に入られてたから地下に連れていかれたのではと答える。しかも囲い入れた人間が死んだら、その都度に裏庭に埋めていると語った。ケイが窓から見えた墓石は、今まで被害に遭っていた人たちのものだと把握した。それにあれほどの物音を立てているにも関わらず四人が起きなかったのは、そのせいかと納得した。ちなみにケイとシンシアは全異常状態無効のスキルを持っているため、それらが一切効くことはない。


その結果、シンシアは無理やりローランに連れ去られたことになる。


「とにかく!ローランに会わせろ!」

「わかりました。地下室は北館になりますのでご案内します」


ブルーラの話では、この家には南館と北館に分かれている。

ケイ達が最初にみた外観は南館で、主に来客用の区間となっている。対して北館は住人の個人住居となっており、めったに人が立ち入らない。


ブルーラに案内され向かった先は、北館の一階の西側にあるローランの仕事部屋とされる部屋だった。実はこの部屋には地下へと繋がる隠し階段が存在し、彼女はその場所を知っているそうで、自分の事のように仕事部屋の本棚にある仕掛けを操作する。

本棚が鈍い音を立ててスライドすると、地下に続く階段のようなものが現れる。

彼女に確認すると、ローランは来客後にかならず地下の部屋にいるそうだ。


それを聞いたケイは、地下に続く階段を急いで駆け下りた。



鉄の扉を蹴破りケイが最初に目撃したのは、シンシアの首を絞めようとしたロアンの姿だった。


「なにやってるんだ!!!!」


ケイの怒声に慌てて手を引きこちらを向いたローランは、突然の出来事に気が動転しているそぶりをみせ、声を荒げる。


「なぜお前がここに!?」

「あんたのとこのメイドに教えてもらったんだよ!この家に来る人間を地下に幽閉いるって!」

「嘘だ!だってこのことは誰にも言ってない!!」

「ふざけんなよ!てめぇのやってることは犯罪だろうが!?」


ローランはしきりに首を振り、嘘だ嘘だと呟く。

その隙にシンシアが態勢を整えたようで、ローランのむこう脛を力いっぱい蹴り飛ばした。蹴られた部分を抑え、のたうち回る彼の隙をついてケイがシンシアの手を引く。


「シンシア大丈夫か?」

「ゲホッ、危うく殺されかけたわよ!」

「それだけ口が達者なら大丈夫だ」


ケイはザっとシンシアに説明をすると、なんてことと言わんばかりの表情でローランを見つめる。


「くそっ!…決めた。君たち全員を殺してしまおうってね!」


ローランは隠し持っていたナイフを二人に突きつけ、刺し殺そうと襲ってくる。


ケイはそれを一蹴するようにローランの腕めがけて蹴り上げた後、タイミングを見計らってその足を後頭部めがけて振り下ろした。

ケイの脚力とローラン自身の重みで、蛙のような声と同時にローランの身体沈む。相当な衝撃だったようで、気絶こそしなかったがしばらく唸り蹲っている状態だった。


ケイはその隙に拘束しようと魔法を発動させようとしたが、蹲っていたローランが急に何かに怯えるような態度を示す。


「な、なんで君が…!」


ローランの視線の先を見ると、ケイに同行していたブルーラが立っている。

彼女は鬼の形相でロアンを見つめ、一歩また一歩と彼に近づいていく。


「嫌だ!お、俺じゃ…来るな…来るなぁぁぁ!!!!」


錯乱したローランが腰を抜かした状態で、這いつくばりながらも必死に身体を動かし地下を駆け上がる。ブルーラも彼を逃がすまいと早足でその後を追う。

突然のことにケイもシンシアも呆然としたが、ふと我に返り二人を追って地下を出る。


「おーい!ブルーラ!どこにいるんだ!?」


ケイは声を上げながらローランを追ったブルーラを呼んだ。北館の一階と二階にはいないのか人の気配も感じられない。サーチを使ったがその反応が一切みられない。どうしたものかと首を捻ると、シンシアが不思議そうに話しかける。


「ケイ、誰を探しているの?」

「誰って、この家のメイドだよ。俺たち一緒に入ってきただろう?」

「えっ?何言ってるの?初めから“ケイ一人だった”じゃない?」


ケイはここで初めて、ブルーラという人物が存在していなかったことに気づいた。


考えてみれば、扉を開けた時も食事を呼びに来た時もローランだった。

てっきり家の事をまかせたままの彼女を気遣っての行動だと思ったが、冷静に考えると彼女と会話をしたのはケイだけで、みんなと一緒の時はローランの後ろに控え黙ったままいたことを思い出す。


考えれば考えるほど、自分の身体から冷や汗が出るのを感じた。



翌朝、窓の外の天気は吹雪も止んで青空が見える。


部屋で熟睡していた四人が身体がだるいと言いながら起床する姿を見て、ケイとシンシアが荷物をまとめて早く出ようと急かした。

どういうことか理解できないまま四人は二人に言われるまま支度をし、階段を下りてエントランスまでやってくる。アダムが無断で出るのは失礼だと言ったが、そんなの必要ないからとケイとシンシアに押されて家を出る。


その後ケイ達はシャフランの森を疾走し、昼前にはオネットの町に到着をした。




実はこの話には続きがある。


ケイ達が町の宿屋でこの話をしたところ、亭主がある話をしてくれた。


なんでも三十年前に、当時どこかの貴族だった夫婦が森に家を建てて住み始めた。

しかしその家の妻が病気を患い、使用人を殺しては裏庭に埋めていたそうで、その人数は99人にも及んだ。その後おかしなことに、いくら探しても夫婦だけが見つからず、以来森にある家には誰も住んでいない。


ちなみにその夫婦の名は、ローランとブルーラと言ったそうだ。

いかがでしたか?

これ実は、私の実体験の一部を元にした話なんです。

あの時は気づかなかったけど、後から考えると怖かったということを書いていて思い出しました。


次回の投稿は10月23日(水)です。


※大きな家の主の名前を変更(10/28)

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