7、再会と依頼
やっとケイとアダムが再会します。
「なぁ、そこのあんた!」
ブランドと別れたケイが受付の方に戻ると二人組の男に声を掛けられた。
「誰?」
「俺たち昨日あんたに助けられたんだけど、覚えてないか?」
ケイが考えると、金髪の男と一緒に居た二人を思い出した。
「あ~土下座した二人ね」
思い出し方が雑である。
「・・・で何か用?」
「アダムさんがあんたを探してた。お礼が言いたいって」
負傷していた男が続けて言った。
まだ治っていないのか、頭や腕の包帯が痛々しい。
「あ~別にいいよ」
面倒事を感じ取りその場を後にしようとした時、目の前に一人の男が立ちふさがった。
「君が俺達を助けてくれた人かい?」
金髪の男の緑色の目がケイを見下ろしていた。
「そうなるね。あんたがアダム?」
「あぁ。君にお礼が言いたくて探していたんだ」
「俺はケイ。ご丁寧にどうも・・・で用件は?」
「君に受け取ってほしいものがあるんだ」
アダムは一つの革袋をケイに差し出した。
受け取ったケイが中身を確認すると、硬貨が入っていた。
「何これ?」
「助けてくれたお礼さ。10.000ダリで少ないと思うけど」
本来この10.000ダリは、アダムの受けた依頼で支払われるはずの物だった。
「いや、いらねぇけど?」
「多くあっても困らないだろう?」
予めアレサに1.000.000ダリほど貰い、コカトリスの買い取りがプラスされる予定のため、
まず使い切れるかどうかわからない状態である。
しかしそれを知らないアダムは、返そうとするケイに取っておけと制した。
アダムと一緒に居た二人の男と別れたケイは、依頼を受けるために掲示板まできた。
「君は初心者の冒険者だったのか?」
「今日登録したばかりだ・・・ってなんであんたがまだ居るんだ?」
しれっと隣にいるアダムに声をかける。
「初心者ならおすすめの依頼があるよ」
アダムが二つの依頼書を手に受付カウンターに向かった。
「おいアダム!どういうつもりだ?」
アダムが見繕った依頼内容を見てケイが言った。
『ゴブリン5体討伐:討伐証明部位 右耳 報酬 500ダリ』
『スライム3体討伐:討伐証明部位 スライムの核 報酬 300ダリ』
「ケイは冒険者になりたてだろう?初歩の依頼だぞ」
確かにケイは冒険者になったばかりだが、
すでにコカトリスを討伐している分物足りなさと不満を感じた。
しかし、コカトリス討伐の状況を見ていないアダムには実力がわかりかねた。
「ケイさん、早速依頼を受けたんですね!」
受付嬢のミーアが声を掛けた。
「依頼を受けるのが初めてだから、いろいろと教えようと思ってね」
「そうだったんですね。ケイさんはとても運がいいですよ。
アダムさんはBランクの冒険者なので、
高ランクの冒険者と一緒になることなんて滅多にないんですから」
代わりにアダムが答えると、尊敬のまなざしでミーアが頷いた。
「ケイ、いつまでふて腐れているんだ?」
依頼に向かう道中でアダムが声を掛けた。
「勝手に依頼を選んだくせに・・・」
「初心者冒険者なら必ず通る道だぞ」
二人が向かった場所は、アーベンから北にある森だった。
この森は野ウサギや鹿などの野生の動物が生息しており、狩りを行う場所でもある。
「待て。ゴブリンを見つけた」
森を散策している途中でアダムが制止をかけた。
ゴブリン
レベル2
性別 オス
状態 通常
HP 30/30 MP 10/10
力 20
防御 10
速さ 15
魔力 5
器用 20
運 10
スキル 棒術(Lv1) 体当たり(Lv1)
人型系の魔物。
棍棒などの武器で攻撃を仕掛ける。
単独での力はそれほどでもないが、複数に囲まれると厄介なため注意が必要。
初心者がまず遭遇する魔物である。
前方15mほど先に3体のゴブリンの姿が見えた。
「まず、注意深く観察をす・・・」
「【エリアルブレイド】」
【エリアルブレイド】風属性魔法。無数の風の刃が対象者を切り裂く。
アダムが言い終わる前に、先手必勝と言わんばかりにケイが風属性の魔法を繰り出した。
魔法がゴブリンの首をはね飛ばす。
首が落ちると同時に身体も崩れ落ちた。
「ケイは魔法使いなのか?」
ケイが、ゴブリンの頭から討伐証明部位の右耳をナイフで切り取っているところをアダムが尋ねる。
「そうだけど?」
「装備からして、剣士だと思ってたよ」
唖然としているアダムを余所に、今度は【サーチ】を使い、位置情報を確認してから同じ要領でゴブリンを討伐し始めた。
【サーチ】は生体反応の有無を確認する物だったが、ダジュールの管理者の影響でスキルを作成しても調整することができた。
赤は魔物
黄は素材
緑は人
通常状態を上記の色として、生体反応が弱まるにつれてグレーとなり死亡した場合は黒になる。
魔法を駆使してゴブリンを狩り続けているケイに、アダムはなんとも言えない表情をした。
「次はスライム討伐に移ろう」
気を取り直してアダムが次の依頼の説明を始めた。
スライム
レベル2
性別 オス
状態 通常
HP 25/25 MP 15/15
力 15
防御 20
速さ 10
魔力 15
器用 10
運 10
スキル 体当たり(Lv1) 捕食(Lv2) 物理攻撃吸収(Lv2) 自己再生(Lv1)
不定形系の魔物。
剣などの物理攻撃が通りづらく、ハンマーなどの打撃が有効。
火属性魔法が弱点。
「スライムは物理攻撃を吸収する魔物で、初心者が苦戦する魔物の一体なんだ」
半透明をした水色のスライム。
ケイが近づき指先で軽く突くと、ゼリーのように揺れた。
攻撃されたと勘違いをしたスライムが、ケイに向かって体当たりをしようとした。
「ふん!」
ケイはスライムを足で踏みつぶした。
核が砕ける音がしたと同時に、体が水のように地面に流れて溶けた。
「スライムを踏みつぶすなんて初めて見たよ」
「むしろ、なぜ踏みつぶさないことに疑問を持たない?」
アダムの顔が引きつるが、ケイは我関せずの態度だった。
「打撃が有効と判断したけど失敗したな~」
「踏みつぶすことを打撃というかは疑問だけど、あとは火属性魔法ぐらいかな」
アダムが助言をする。
「他の奴らはどうやって倒すんだ?」
「初心者同士でパーティーを組んで、剣士を盾役に後方から魔法で攻撃が一般的かな」
「魔法が使える奴がいない場合は?」
「核を狙って剣で突きを行い傷つけるしかない。体を切ると自己再生を始めるから意味がないんだ」
「スライムの核が証明部位なのに?」
「その時は、買い取りの価格は落ちるけどね」
初心者にとっては矛盾と理不尽を感じるが、これは冒険者にとって通過儀礼の一つでもある。
ケイは再度【サーチ】を使い、スライムの位置を確認する。
半径10mの範囲に20体以上のスライムを確認すると、狙いを定め魔法を繰り出した。
「【バーンフレイム】」
【バーンフレイム】火属性魔法。高温の炎の塊を対象者にぶつける。異常追加 炎上
スライム目掛けて炎の塊が飛来すると、直撃と同時にスライムの体が水蒸気のように消失をした。
消失した場所には傷のないスライムの核が鎮座していた。
町に戻りギルドに報告をしてから、素材買い取りに向かう。
「こりゃあ、随分取ってきたな~」
カウンターの上にゴブリンの右耳とスライムの核が積まれているのを見て、ブランドが驚きの感想を口にした。
「ゴブリンの耳が35個にスライムの核が22個。あとコカトリスの素材も含めて25.100ダリだ」
硬貨の入った袋がカウンターの上に置かれる。
「スライムの核に関しては、通常一つ100ダリだが、
傷一つ見当たらないことから少し色をつけてやったぞ」
ブランドに言われ、礼を言うと鞄の中に硬貨入りの袋をしまった。
「・・・というかアダムはどうしたんだ?」
ケイの隣でカウンターに両手を着いて項垂れているアダムにブランドが話しかけた。
「いや・・・何でもない」
「そ、そうか」
アダムの脱力とも疲労とも言えない声にブランドは言及することなくに頷いた。
ケイがアダムを連れて宿屋に戻ったのは、日没を過ぎてからだった。
普段アダムは、大通りから一歩外れた場所にある家を借りて住んでいるのだが、
ケイがいい物を食わせてやると言って宿屋までついてきたのだ。
「ケイ、おかえり!」
「マリー!あれできてる?」
「もちろんさ!さぁ座って!」
空いている場所にケイとアダムが向かい合って座る。
「ケイ、いい物ってなんだい?」
「それは出てからのお楽しみ!」
今か今かと待ちわびるケイにアダムが首をかしげる。
「ケイ、待たせたね!」
マリーが料理を運んできた。
テーブルの上に置かれたのは『ベジルキッシュ』というフリージアの郷土料理の一つだった。
ベジルはフリージア地方で栽培されている山芋に近い食べ物で、カブみたいな形をしている。
すり下ろしたベジルとキャベツ・ストロパウダー(日本でいうところの薄力粉に近い粉)・卵・エビ・薄くスライスした豚肉を混ぜ、油を引いたフライパンに両面共焼きすぎないように火を通す。
火を通したら、皿に移して卵を塗りオーブンでじっくり焼く作業を数回繰り返す。
そしてできた物が『ベジルキッシュ』である。
「うまっ!」
一口入れると濃厚な卵とエビの甘さに、ベジルとキャベツに豚肉の食感が加わる。
見た目はキルシュだが、食感的にはお好み焼きに近い。
「ベジルキッシュを食べたことはあるけど、いつも以上に濃厚な味がする」
舌鼓をうつアダム。
「ウチの旦那がフリージアの出身でね~。久々に作って貰ったけどおいしかったよ」
先に試食をしていたマリーも満足げに頷いた。
「それに結構な数が作れたから、ひいきにしている客に出したら好評だったよ」
「やっぱ普通の卵とは違う?」
「そりゃそうさ!普通の卵をコカトリスの卵に置き換えるだけで、
全然違う料理みたいになるんだからね」
「ぶっ!」
ケイとマリーの会話にアダムが吹き出しそうになった。
「げっ!きったねぇ!」
「アダム大丈夫かい?」
コップの水を飲み干したアダムが、目を丸くしながら聞き返した。
「卵はコカトリスの卵なのか?」
「あぁ、食べたいから山から取ってきたのに何を文句がある」
「いや、そういうわけじゃ・・・」
ケイとマリーの会話が弾むなか、アダムは一人頭を抱えていた。
フリージア郷土料理は架空ですので、真似はおすすめしかねます。
しかしケイのやり方は外道です。