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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
87/359

85、氷の少女

洞窟で見つけた氷塊の中に人がいる!?

歴史的な発見に驚くケイ達の話。

巨大な氷塊に少女の存在を確認した一同は、あまりの出来事に声を失った。


「これってミイラか!?」

「ミイラってこんな完全なものがあるの!?」

「恐らく冷凍保存と同じ原理で保存されていたんだろう。状態も生前のものに近いと思う」


唖然としているシンシア達の横で、まじまじと氷塊を見つめるケイにとエケンデリコスも興味深げにそれを観察する。


ケイ達がミイラを見たのは、王家の墓以来である。

しかしこのミイラは、氷塊に閉じ込められている形で保存されている。周りの蒼光石や洞窟内の魔素の条件と影響で氷塊ごと保たれているようだ。


ミイラと聞けば、やはりエジブトが有名だろう。

最近では生前とかわらない姿で発見されているのも多く、教会に安置されている少女や生贄として捧げられた子供のミイラも存在する。


ケイ達の眼前にあるものも、おそらくその類いに近いのだろう。


「この洞窟は生贄の場ってことか?」

「祭壇の類いが見当たらないことを考えると、予め用意していた場所ではなさそうだね」


天然の氷塊に蒼光石と魔素と保存環境が整った場所で、どのような経緯で彼女が安置されていたのかはわからないが、エケンデリコスの推測では、祭壇やお供え物が存在しないところを見ると事前に行われたということではなさそうだ。


「これって、領主に相談した方がいいのかしら?」

「ここまで完全なミイラがあると考えると、そうした方がいいのかもな」

「でもこのミイラ、アレグロとタレナに少し似てない?」


シンシアの言葉に一同がミイラと二人を見比べる。


褐色の肌に腰まで伸びた橙色の髪で成人前後であろう少女のミイラは、どことなくアレグロとタレナに似ている。その事を当の二人に尋ねると、もちろん彼女に見覚えはないと返ってくる。


「しかし、すげぇな!完全な状態のミイラって!」

「もしかしたら、過去の歴史を紐解くひとつの証拠になるかもしれません」


ケイがエケンデリコスと何気ない会話を交わしたのち、何気なくその氷に触れた。

その次の瞬間、ケイが腕にしていた腕輪が一瞬だけ光る。


「え゛っ!?」


ケイが反応する前に、氷に手を着いた箇所から光の亀裂が走り、あっという間に全体に広がったと同時に激しい音を立てて氷塊が飛び散った。


砕ける氷塊と少女が倒れてくる姿がスローモーションのように見える。


とっさの行動が出来なかったケイは、氷塊の欠片と少女に巻き込まれるかたちで下敷きになった。それに慌てた五人が急いでケイを助け起こす。


「ケイ!大丈夫か!?」

「ちょっと!無事なの!!?」


崩壊した氷塊の山の隙間からケイが顔を出す。


「し、死ぬかと思った…!!!」

「こっちのセリフよ!」

「ケイさん大丈夫ですか!?」

「レイブン!悪いがこの大きい破片をどかすから手伝ってくれ!」

「わかった!」


しばらくしてケイは無事に仲間たちに助けられたが、問題が一つ残る。


氷塊が崩壊したことで、中にいた少女のミイラも放り出される形で表に出てきてしまったのだ。歴史的発見のひとつになろうとしていたものが、不測の事態でダメになってしまった。その事実に頭を悩ませる。


「さて、これどうすっかな~」

「この状況で、どうしてそんなに冷静なのよ!」

「起きちまったもんは仕方ないだろう?しょうがないからアイテムボックスにも入れておくか~」


アイテムボックスというワードに興味を抱いたエケンデリコスだが、今はそんなことをしている場合ではない。ケイはアイテムボックスを開いた状態で少女のミイラを入れようとしたが、なぜかうまく入らず首をかしげる。


「あれ?おかしいな?」

「ケイ様どうしたの?」

「ミイラって死体だと思ったから、アイテムボックスに入れられると思ったんだけど入らないんだ」

「…なぁ、それってもしかして生きてるとかじゃないよな?」


アダムの指摘にケイが少女のミイラに鑑定をかける。



名前 ??? 年齢 推定15~17才 職業 ???


状態 生存

氷結系の魔法で封印されていたため、かなりの衰弱が見られる。

なお、アスル・カディーム人の可能性が大。



「こいつミイラじゃない・・・生きてるぞ!」


ケイの言葉に全員の表情が変わった。

ミイラだと思っていた人物は実は生存しており、何らかの原因で魔法をかけられそのままの状態で保存されていたようだ。


「というかどうするのよ!」

「どうするって言っても…」

「あんたが招いたことでしょ!ちょっとは考えなさいよ!!」


ケイの襟首をつかみ、前後に揺さぶるシンシアをレイブンが制止する。

その横で、アレグロとタレナが濡れた少女をタオルで拭き、現在使用していない羽織ものを少女に羽織らせる。


「ケイさん、一度洞窟に出ませんか?」

「どっちにしたって氷塊がなくなっちゃったから、ここにいる意味がないわ」

「えっ?じゃあ、あれはやっぱり魔法だったのか」


鑑定の結果、魔法の影響で少女は生きたまま冷凍されたということを伝えると、だから氷がなくなったのねとアレグロは納得した。事実、先ほどまであった大量の氷塊の山はいつの間にか姿を消している。


ここで得られる情報はもうないため、ケイ達は少女を背負い洞窟から出ることにした。



洞窟から出ると少しの時間しか経っていなかったが、やけに太陽が眩しく感じた。


一旦岬の方に戻り、開けた場所にコテージを設置し、生存していると思しき少女を室内の一室にあるベッドに寝かせ、その後の少女の着替えを女性陣総出で行う。


「ケイ様、彼女の着替えは終わりました」

「あぁ。ありがとう」


タレナに了解を得て中に入ると、柔らかい素材の長そでを着た少女が眠っている。

背丈はシンシアとさほど変わらなかったため、彼女の服を着せている。


「ケイさん、この方の衣服はどうしましょう?」

「洗濯しかないが…しても大丈夫なのか?」


そして先ほどまで少女が着ていた衣服は、白い装束に近いような形状をしていた。

しかし白装束の割にはワンピースにも見えなくはない。

全体的に氷の影響でだいぶ汚れているため、早急に洗濯機に放り込む。

コテージには生活必需品は一通り揃っており、キッチンの反対側にはシャワールームとリネン室がある。リネン室には乾燥付洗濯機も小型ではあるが設置している。

しかし状態から見ると、手洗いした方がよいのかと思案する。


タレナは少女の様子を見るということで部屋に残り、ケイは受け取った衣服の汚れを取ろうと一階に下りた。


リネン室に向かい、受け取った衣服をネットに入れ洗濯機に放り込む。

女性の衣服を手洗いする趣味は毛頭ないので、手洗いに近い設定をしスイッチを入れる。あとは終わったらどうなるかだ。



「彼女の様子は?」

「鑑定したら衰弱してたようだから、施すならある程度安定してからだな」


リビングに戻ってきたケイは、手持ち無沙汰な男性陣に交じって今後の事を考えることにした。


現段階で一番の問題は、少女のことだ。

なぜあのような場所にいたのか?そしてシンシアが言っていた、外見がアレグロとタレナによく似ていること。もしかしたら二人に関係があるかもしれない。

氷結魔法で衰弱しているが生存していることを考えると、最近の可能性もあるがそれは本人が目覚めてから聞くことにする。


「ところでリコス、お前は歴史家としても活躍してたって言ってたけど、実際どのくらい解明されているんだ?」

「ダジュールの歴史のことかい?実は、資料自体500年前の世界戦争でほとんどが消失してしまったから、あまり多くのことはわかっていないんだよ。だけど、今回領主家の敷地内から見つかった隠し部屋の資料から、少しずつだけどわかってきたこともある」

「その内容は?」

「過去、だいたい1500年前にアスル・カディーム人と親交のあったビェールィ人という人種が存在していたようです」

「ビェールィ人?」

「北大陸をまとめていた古代人のことのようで、まだ発見された資料を読み切っていないから正確なことは言えませんが・・・」


エケンデリコスの言葉にケイは、ふと隠し部屋で見つけた手記の内容を思い出す。

手記には親交のあったアスル・カディーム人を帝王の命令で皆殺しにすることになったこと。そして、我々はそれに対して罰を受けねばならぬと。


ケイは、アスル・カディーム人を殺したのはビェールィ人ではないかと考える。


ケイが見つけた手記とエケンデリコスが解読している資料を元に推測すると、そのように今のところ考えが行き着く。しかし帝王と呼ばれる人物は何故アスル・カディーム人を殺すようにビェールィ人に命令したのか?その部分はまだ解明されていない。


ここで、過去に疑問に思ったことをエケンデリコスに尋ねてみることにした。


「そういえば、歴史家って古代の言語も話せたり読めたりするのか?」

「物に寄りますが、僕はアスル語とベルテ語、あとロホ語を少し」

「知っているなら教えてほしいんだが、『パテラス』って何語なんだ?」


以前エストアの復元された塔で、アレグロが遭遇した幻の黒い騎士を見た言葉の意味を聞いてみた。すると意外な返答が返ってくる。


「パテラスですか?えっと、ちょっと待ってくださいね・・・そうそう!確かアスル語で『父上』という意味かと」

「・・・父上!?」


その言葉に三人は驚きの色を隠せなかった。


たしかにあの時、アレグロは幻の黒い騎士に向かって言っていた。


その幻の黒い騎士はアレグロとタレナの父親なのだろうか?

二人は現に生きている訳で、過去の人物=肉親と決めつけるのは早計だ。

しかし仮に二人の肉親だと考えた時、ケイの頭の中で一つの仮説が現実味を帯びる。


「ケイ!ちょっと来て!!」


その時、二階からシンシアの声が聞こえた。

何事かと返事を返すと、アレグロとタレナが!と続けて声が返ってくる。


ただならぬ様子に、四人は急いで二階にいるシンシア達の元に向かった。


フラグは立った時点で成立する。

言葉通りです!

謎の中に放り込まれているケイ達はどう行動するのでしょう?


次回の更新は10月18日(金)に更新します。

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