82、調査された地下神殿の話
地下神殿に向かったメンバーの報告。
明かされる出来事が謎を呼ぶ?
地下神殿に調査に出た他のメンバーが戻ってきたのは、日没を過ぎてからだった。
「お~おかえり・・・って、みんな大丈夫か?」
エントランスで出迎えたケイとベクトが不思議そうな顔でみんなを見つめる。
それもそのはず、非常に満足気のエケンデリコスに疲労困憊のアダム達、何故か汚れや埃だらけの領主・ガイナスとベルセに、なんとも言えない表情のオスカーと精根尽き果てた様子の護衛の兵士達の姿があった。護衛の兵士達については、数人がその場で崩れるように倒れる。たかが調査なのに、なぜかレンジャー部隊の訓練後のようなハードさを感じるのは気のせいだろうか。
「なにがあったんだ?」
「ケイ、あんた行かなくて正解だったわ」
シンシアがそう口にすると、シャワーに入ると言ってエントランスを後にした。
他の四人もそれに続き、エケンデリコスに至っては重要な資料ありがとうございます!部屋に戻りますので夕食には呼んでください!と意気揚々で戻っていく。
「旦那様、何かあったのですか?」
「全くないとは言わないが、本格的に調査の方向性を定めねばなるまいな」
「私も汚れてしまったので、一度着替えてまいります」
まるで泥遊びをした子供のような二人の外見に、オスカーが収穫はあったとだけ言い残し、その後を追う。
その様子を見て、ケイとベクトが顔を見合わせ首を傾げた。
夕食を終えたケイは仲間と共に領主同席の元、応接室で今回の調査報告を受けることになった。
「もーこっちは大変だったんだから~」
「まさかここまで振り回されるとは・・・」
開口一番にシンシアとアダムが、ため息交じりで口を開く。
どうやらエケンデリコスの暴走っぷりに振り回されたようで、当の本人は、重要な文献の解読やらで熱心に研究している様子だったそうだ。しかし護衛として同行した五人は何があるかわからないため、念のために注意はしていた。
「隠し扉の仕掛けを踏み抜いた時なんか、トラップだと思ってドキッとしたわ!」
「注意はしておりましたが、力不足で申し訳ありません」
「まぁまぁ、エケンデリコスさんも悪気があったわけじゃないから~」
「あはは・・・ご迷惑をおかけしました」
調査途中に何度か仕掛けを踏み抜いたり作動させてしまったため、そのたびに五人が冷や汗をかいていた。当の本人は面目ないとばかりに肩を小さくさせている。
一方のベルセ達は、領主が初めて見る光景にあちこちと歩き回っており、そのたびに護衛が右往左往する状態になっていたらしい。オスカーの口からその様子を聞き、こちらも大して変わらないなと思っていた。
「で、調査はどうだった?」
彼らが調査をしたのは、地下神殿の左側の区間である。
話では右側と同じ間取りだったが、こちらは古ぼけた祭壇が存在していた。
エケンデリコスのおかげで、奥は隠し部屋だったようで大部屋が広がっていた。
大部屋には、折り重なるように人骨が散乱していたそうだ。
「人骨の方を調べたのですが、損傷が激しく何かに噛み千切られたような跡も見られました」
「ん?噛み千切られた?」
「えぇ。恐らく大型の魔物かなにかかと思われます」
ふと、エケンデリコスの話に疑問を感じた。
屋敷のはなれに続く右側の方は、剣で切られたような跡のモノもあったが、全体的に大きな損傷が見られなかった。対して左側は噛み千切られたことを考えると、何らかの原因で襲われたのは明白だが、どうも釈然としない。
「すでに話を聞いて疑問に感じているとは思いますが、右側にあった遺体とは異なった方法で殺されたと推測されます。その証拠に、左側の区間には隠し部屋を含めて全ての遺体に同じかみ切られた跡が存在しています。そして違いがもう一つ」
「違いって?」
「骨格です。右側と左側の人骨は明らかに異なっていました。これは僕個人の意見ですが、左側にあった人骨の方が一回り以上大きい感じはしました。なお、今後の調査のため、遺体の一部を回収し調査を進めています」
骨格の違う少なくとも二種族の遺体が存在し、同時期に襲われた可能性が出てくる。しかし二種族の遺体には、損傷の度合いに開きがあることを考えると、時間差で殺害された可能性も浮上する。
これに関しては、もう少し情報や証拠が必要だろう。
「そうなると今後、我々も君達に協力することとなるだろう」
そう口を開いたのは、ガイナスだった。
エケンデリコスとアダム達から今までの話を聞いたそうで、自分たちの敷地の地下がら遺跡が見つかったとなると、黙ってはいられないのだろう。実際に他の国では地下に遺跡が見つかったことを聞き、自分たちの国でもある可能性は捨てきれないと判断し、近々調査隊を編成しようとした矢先だったそうだ。
「それとエケンデリコスのことだが、今後アルバラントが接触する可能性も出てくるだろう」
「一度追い出した奴を、引き入れるってことか?」
「優秀な人材あれば、どこにいようと探し出して説得することもあるわ。だけどアルバラントは別ってところかも」
「別って?」
「噂では、前・国王が追放した優秀な人材を再度雇用しようと動いているそうよ」
ケイの疑問にシンシアが答える。
ダナン・領主の娘である彼女にとっては、よく聞く話らしい。
事実、エケンデリコスの口から何度かアルバラントの兵士が接触してきたそうで、そのたびに断りを入れている。
王都アルバラントと言えば、今は若き王がその座に着いている。
なんでも一部では、現・国王が前・国王を殺したという噂が上がっているそうだ。
「実の子供に殺されたってことか?」
「正直、前・国王はあまりいい噂は聞かなかったわ。前までは、汚職・賄賂・不法賭博に過剰重税なんて当たり前だったもの。五年前に現・国王が即位してすぐに、前・国王を支持している者達全てを廃位したぐらいだから。まぁ表向きは病死ってことにしているみたいだけど」
「市民の不平不満を汲んで、子供自ら鉄槌を下すってことか」
シンシアの話から、エケンデリコスも前・国王に追放され、現・国王に引き入れられようとしている。その前にどこかに身を寄せる場があってもいいと思うが、そう簡単にはいかないらしい。アルバラントの歴史家として活動していただけに、少なくとも支持していた者もおり、風の噂では現・国王もその才能を高く評価している様子らしい。エケンデリコス本人は、現・国王と面識がなく、前・国王のこともあり、慎重に物事を見極めようとしている様子だ。
どちらにしろ、ケイ達がどうこう考えてなるようなことではない。
ここでケイが別の話題に変えるため、探しているもう一つの事を聞いてみることにした。
「話は変わるけど、知っているなら教えてほしいことがある」
「教えてほしいことですか?」
「俺たちは、女神像を探して各所を転々としている」
「女神像?」
エケンデリコス含めた五人が首を傾げる。
ケイは、彼らの返事を待たずに今までの経緯を説明した。
しかし黒狼を含めたメルディーナの話は伏せておくことにする。彼らもそうだが、アダム達にも話していない部分はある。信頼しているいない以前に、自分が転生者と知られると、いろいろと面倒くさいことになりかねない可能性はある。
一応アダム達には、折を見て自分のことを説明すべきだとは考えている。
「我々の知っている女神像以外に存在するということか?」
「・・・!もしかして君達の言っている女神像は、エルフの森にあるあの像の事か?」
「あぁ。あれは大陸に五つ存在している」
その残りの二つを探していると答えると、エケンデリコスが心当たりのあるような表情を浮かべ、ある証言を口にした。
「そういえば以前、岬に女神像らしきものを見たことがある」
「それってどこら辺だ?」
「えっと、たしか・・・そうそう!ちょうどこの辺りだ!」
ケイが持っていた地図をテーブルに広げ、エケンデリコスが示した場所は、スアン渓谷から北上して最北端の位置だった。
「スアン渓谷の先のようね」
「距離的に近いように見えるけど、渓谷がある関係で西から迂回するしか行けなかったはずだ」
「迂回する道はスアン渓谷にあるのか?」
「いや。山の集落の北側の山道の手前から、西側に迂回する道が存在するんだ」
エケンデリコスの話では、山の集落の北側から西に行ける道が存在するらしい。
集落前の坂道を上がった左側に獣道が存在し、そこから向かえるのだそうだ。
「それなら、実際に行ってみるしかないな」
「私たちだけで大丈夫なの?」
「それでしたら、僕も同行します。一度行った道なので案内役は必要かと」
「じゃあ、頼んだ!」
相談の結果、案内役としてエケンデリコスも同行することになった。
迂回する道から最北端の岬まで半日で到達できるということなので、ケイ達が道順の確認をしていると、ベルセから妙な話が出た。
「そういえば噂で、アルバラントの兵士と名乗る人物が、街中で誰かを探しているようだったと聞いたことがあるわ」
「アルバラントの奴らが来ているのか?」
「えぇ。私の侍女が偶然街で見かけた、と」
「ということは、エケンデリコスを探しているってことか?」
「あるいは、俺たちとか?」
アダムの言葉に、ケイ達は互いに顔を見合わせた。
以前アルバラントで騎士ともめ事を起こしたため、領主・マイヤーの助けがあったにしろ注意するべきかと考えていたのだ。それとエケンデリコスのことも大なり小なり目をつけられている前例があるため、他国で事を大きくしたくはない。
「もし、アルバラント側から何か言ってくるようなら、我々の客人ということにすればいい。この国では、客人として迎えられた人間を根拠無しに拘束・連行することは条約違反になっている」
「それって簡単に決定してもいいわけ?」
「娘達を助けてくれた君達を無下にはできん」
ガイナスがベクトに指示をすると、ケイ達の前に木箱を置いた。
それを開くと、結晶の形をしたブローチが人数分収まっている。話を聞くと、フリージア国の要人や客人に贈呈するものらしい。
貴重な品を受け取ったケイ達は、もしアルバラントの騎士団に会った時のため、それなりの対応と策を練った方がいいなと感じとっていた。
明らかにされた謎とアルバラント兵士の目撃情報。
これはフラグか?ケイ達はこの後どうなるのか!?
次回の更新は9月11日(金)です。




