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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
83/359

81、ペティとギルバート

今回はワイト家で働いている料理人のお話。


「ガイナスは居ないのか?」

「はい。現在旦那様は、地下神殿の調査に向かわれております。夕刻には戻られるかと」


領主の屋敷に戻ったケイ達に、出迎えた執事のベクトからそのように伝えられる。


自分ちの敷地内から地下神殿に行けることがわかっている以上、待ってはいなかったのだろう。自身の目で確かめるために出かけたそうだ。ベルセとオスカーも領主と一緒に向かっており、屋敷にはルミエとアベルトが領主代行のため、公務や執務を行っている。


「地下神殿ってなんですか!?」


それに反応を示したのはエケンデリコスである。

目をキラキラと輝かせ、喰い気味に迫るエケンデリコスに、ベクトは冷静な判断で詳細を説明した。それを受けたエケンデリコスは、ケイの想定通り自分も行ってみたいと今にも飛びださん様子でアダムとレイブンに制止されている。


「調査に加わりたいって言って、簡単に入れるものなのか?」

「旦那様から、もし皆様がいらしたら通すようにと仰せつかっております」

「用意周到だな」


ケイ達がエケンデリコスを連れて戻ることは、ガイナスの中では当然のことだったらしい。そのせいか周りには既に周知済みで、調査部隊に加わってくれることを切に望んでいるらしい。エケンデリコスの方もやる気はマンマンである。


「それでは念のため、護衛をお呼びしますので・・・」

「ベクトさん、護衛でしたら俺たちがやります」

「護衛の依頼経験もありますので、問題はないかと思います」


そこで、アダムとレイブンが名乗りを上げる。

山の集落から護衛に近い状態で同行し、また過去には護衛依頼を行った経験も十分にある。


「それなら私も行ってみようかしら?」

「アダムさんとレイブンさんだけに任せるわけにはいきませんし・・・」


アレグロとタレナも口を揃えて挙手をする。

二人に至っては、元・マライダの国王の護衛をしていたということもあり、問題は一切見当たらない。


「二人とも大丈夫なのか?」

「休んでいた方がいいと思うが・・・」

「大丈夫よ!」

「お気遣いありがとうございます」


アダムとレイブンが、以前の二人の状況や体調を見て気遣っているが、本人達は問題ないと首を振る。やはりまだ気になっているようで、無理だと思ったらすぐに言うことなどと、まるで一人でお使いに行く子供を心配する親のような心境で接している。四人とも既に成人済みである。(アレグロとタレナはいくつか知らないが)


そして、ケイとシンシアにも尋ねられる。


「ケイとシンシアはどうするんだ?」

「私も行ってみようかしら。ケイは?」

「俺はパス」

「めずらしいな?」


珍しく辞退したケイに目を丸くしたアダム。

もう休みたいし、五人もいれば問題ないだろう?と問いかける。

それを聞いたベクトは、ケイ達のために客室を用意していると伝え、側に控えていた黒髪のメイドに案内するように言付けた。


メイドから案内しますとケイに話し、ケイはアダム達に後はよろしく!と言ってその後に続いた。



「こちらが客室になります。どうぞごゆっくり」


案内してくれたメイドが一礼をし退出をすると、ケイは一呼吸置いてからベッドに腰をかけた。実際は休みたいと言ったのは半分本当で、もう半分はヴィンチェからの連絡が届き、その確認をしたいがためにエケンデリコスの同行を辞退したのだ。


鞄の中からスマホを取り出そうとした時に、あることに気づいた。


「トイレって何処だっけ?」


先ほどのメイドに声をかけようとしたが、既に業務に戻って行ったようで廊下には人っ子一人いない。他人の家で、サーチやマップはかっこ悪くて使いたくない。


ケイはため息をついてから、再度鞄を手にトイレを探すことにした。



「なんだあれ?」


目的の場所が目と鼻の先と言うことがわかったため、ケイが客室に戻ろうとした時に突き当たりの通路から、橙色の物体が飛び跳ねながら横切る姿が見えた。

見間違いだと思い目を擦ったが、どうやら実物のようだ。ケイが小走りでそちらに向かうと、跳ねながらどこかへ向かう後ろ姿(?)が見える。形からしておそらくスライムなのだろう。


スライムの後をつけたケイがたどり着いた場所は、屋敷の厨房だった。


物陰からその様子を伺うと、長身で金色混じりの茶色の髪と切り揃えられたあご髭の男性が奥から現れた。年齢は三十代半ばぐらいで左足が悪いのかを引きずっている様子がみられる。おそらく服装からして、この屋敷の料理人のようだ。


「ペティ、ご苦労さん・・・それとそこにいるのは誰だい?」


男性は後をつけてきたケイの存在に気づいていたようで、こちらに向かって話しかけた。別に隠れるつもりもないので、彼の方に赴き、この屋敷の客人だと自分のことを説明した。


「あー君たちの事は聞いてるよ。俺はギルバート、この屋敷の専属料理人だ」

「ギルバート?あんたもしかして、元・第二部隊の?」

「あぁ、そうさ。一年半前まで、元・バナハの騎士団第二部隊隊長をしてたよ」


その名前に聞き覚えがあったため、もしやと思い聞いてみたところやはり本人だった。ギルバートもたまにエミリアから便りが届き、その中にケイ達の事も書いてあったそうだ。最初に気配を察知できる事を考えると、現役時代のように感覚が鋭いままなのだろう。


「でも、なんで領主の屋敷で料理人をやってるんだ?」

「俺は元々、現役の時から料理も兼任してたんだ。怪我で引退する時に、エミリアから実家の専属料理人が高齢のためにやめるって言ってたから、第二の就職先としてどうかと紹介されたんだよ」


ギルバートが現役の頃、時折、士官学校で臨時の講師も行っていた。


当時、士官学校生だったエミリアの能力の高さをいち早く見抜き、自分の後釜にしたいと思っていたそうだ。事実、彼女は学生の中でもずば抜けて高く、首席を不動のものとしていた。もちろん、本人にはそんな自覚はないのだが、教養も申し分ないと教員の中でも話題になっていた。


「俺の後任で隊長を指名したけど、一時期うまくいっていないらしく、時折手紙が届くことがあったんだ」


心配していた問題も、現在は立派に第二部隊の隊長として隊をまとめていると言い、それはケイ達が助言してくれたおかげだと手紙には書いてあったそうだ。

人づてで、しかも元・隊長経緯で聞くとちょっと恥ずかしい。


「ペティ、この台に食材を置いてくれ」


そんなケイを余所に、ギルバートは足元にいる橙色のスライムに命令を行った。

ペティと呼ばれたスライムは、器用に厨房にある台に乗ると、プルプルと震えた後、指定されていたであろう食材をキレイに並べて出した。


「そういえば、このスライムにペティって言ってたけど、俺が見たのと色が違うんだけど?」

「あ、あぁ。それはベルセの嬢ちゃんのせいだけどな」

「どういうことだ?」

「あいつ、ペティに『色をつけたい』と訳のわからないことを言って、オスカーと森に入って行ったんだ。あんた達と戻ってきた時にカラの実を手にしてたから、それを元に色をつけたと言っていたよ」


どうやら、ベルセがペティの体になんらかの方法で色をつけていた。


最初に見た、穴の周りに落ちていた木の実はカラの実ということだろう。

一見身体に悪そうな気はしたが、ペティ自体に異常はなく、近くで見ると鮮やかな橙色をしている。光の加減で、山吹色や黄色に見えなくもない。


ケイは、生き物に色をつけるなんてどんな方法なのだろうと不思議に思った。



「ケイ、すまないが少し手伝ってくれないか?」


厨房の奥で、ギルバートがすまなそうに声をかけた。

何かと思い覗いてみると、木箱に入った野菜が地面に置かれている。


「普段は見習いに任せているんだが、あいにく今日は休みでね。俺は足が悪くて重い物が持てないから、手伝ってくれると助かるんだが・・・」

「あぁ。いいぞ」

「本当に悪いな、助かるよ」


ケイはギルバートの指示通りに、野菜が入った木箱を台の上に移動させた。


選定した野菜を包丁で皮を剥いた後に切り分け、それを沸騰した鍋に入れる。

料理をしているギルバートにケイが気づいたことを口にした。


「足の怪我は、やっぱり現役の時のか?」

「あぁ。一年半前に任務でヘマをしちまってね。相手は神経麻痺持ちの魔物だったからすぐさま応急処置をしたけど、結果はこのザマだよ」


そう言ってズボンの裾を捲ると、左足首から膝下まで生々しいほどの傷跡が残っている。幸いにも足を切断するまでとはいかなかったが、麻痺が足の神経まで到達しており、今では満足に動かすことができないそうだ。


「あ!そういえばアレがあったな~」


突然ケイが、何かを思い出したかのように鞄をあさぐる。

取り出したのは、淡い緑色がかった液体が入っているビンだった。


【エリクサー】

体力・魔力全回復。全状態異常解除や人体欠損なども完治する。

現在の錬金術では再現は不可能。鮮度:100%。


皆さん覚えておられるでしょうか?そう。ケイが取り出したのは、以前作製した完全無欠のエリクサーだった。自分では試すことが出来ずお蔵入り寸前となったが、このたび日の目をみる運びとなった。


鑑定した結果、時間経過がないところで保存していたため、以前作製した物の鮮度が保たれている。ケイはそれを確認した後でギルバートに差し出した。


「これやるよ」

「これは?」

「魔法の薬さ。足の具合が緩和されるんだ」


そういってギルバートに勧めるが、元軍所属の軍人である彼は訝った。

恐る恐る蓋を開け、ビン口から匂いを確かめる。

少量を口に含み転がすように飲み込むが、少し時間を空けても身体に異常が見当たらなかったため、ビンの半分を飲み込んだ。


「慎重すぎるだろう?ただの薬だぞ!?」

「ただの薬と言っても、色合いはポーションに近いな。しかも匂いもそれに近い・・・で、なんの薬だ」


「エリクサー」


ケイが発言したと同時に、口をつけていたギルバートからむせる声が聞こえた。

突拍子もない状態で言われたため、完全に頭と身体がうまく反応できなかったようだ。ビンの半分を飲み込んだギルバートが、ケイの方を向きまくし立てるように尋ねてくる。


「エ、エリクサーだって!?なんで伝説上の薬がこんなところにあるんだよ!第一再現不可能な代物だぞ!?というか、知らずに半分飲んじまったじゃねぇか!!」

「うるせぇな、黙って飲めや」

「黙っていられるか!?これをどこで手に入れたんだ!?」

「俺が作った」

「・・・はぁ?」

「だから、俺が作った!・・・オッケー?」


ケイは190cm近くもあるギルバートの顔を覗き込みながら、理解した?と表情で返した。たしかに足の具合も良くなっている。事実、左足の怪我のせいで重心が右側に寄っていたが、今はきちんと両足で立つことができる。


ギルバート本人は、あんたもベルセの嬢ちゃんもとうなってるんだよと頭を掻き、その場にしゃがみ込んだ。



余談であるが、のちにギルバートは料理人兼オスカーの指南役として、時折ベルセ達に同行することになる。

ペティの主登場。

ベルセのせいで衣替えしてますが、まぁなんでもありなんでしょう。

気にしたら負けです。


次回の更新は10月9日(水)です。

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