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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
82/359

80、変わり者のエルフの持論

遅くなりました!!

今回は、助けたエケンデリコスによる持論です。


白い馬に揺られ、集落へ戻った頃には丁度日没を迎えていた。


ここまで乗せてくれた六頭にお礼を言うと、彼らは頭を一度下げ、くるりと後ろを向くと来た道を颯爽と去って行った。だいぶ個性的な上司(?)に仕えてはいるが、素直に人の話を聞くことは出来るんだなと、妙に納得する。


集落の入り口から直接トキサの家に向かい、出迎えた彼に簡潔に事情を説明した後にエケンデリコスが眠るベッドへ。


「で、これどうするんだ?」

「普通に飲ませたらいいんじゃないの?」

「喉に詰まるだろう~」


サントマから聖者の光を受け取ったはいいが、肝心なことを聞き忘れている。

これを使えば改善できると言われたものの、飲ませるべきなのかどこかにかけるのか、それとも他の施し方があるのか?

そう悩んでいるケイ達に、トキサが気になることを口にする。


「そういえば皆さんには言っていなかったのですが、リコスの身体に妙なモノが浮かんでいるんです」

「妙なモノ?」

「えぇ。これを見てください」


トキサがエケンデリコスの服の左袖を捲ると、その左腕は左手首から肘にかけて黒い斑模様が浮かんでいる。話によると最初は普通のアザにしか見えなかったが、ケイ達が来る少し前からどんどんと色が濃くなっていったそうだ。

鑑定してみると『死の呪いに浸食されている』と表示されている。

恐らく、サントマのおかげで文字が読めなかった部分が解明されたのだろう。


もしやと思い、ケイは聖者の光を少しだけ腕のアザがある部分に振りかけた。


「おい!窓開けろ!」

「ちょっと!大丈夫なの!?」

「トキサ、悪いが窓を開けてくれ!」

「は、はい!」


アザのある腕に聖者の光を降りかけた瞬間、その部分から煙が上がり、焼けるような臭いが部屋中に広がる。突然の出来事にアダムがベッド横の窓を開け、トキサとタレナが家中の窓を開ける。


しばらく経ち、煙も臭いも収まってから腕の方をみると、先ほどまであったアザがキレイに消えていた。

同時にエケンデリコスが意識を取り戻したようで、無意識に身じろぎしながら目をゆっくりと開ける。まだ意識がはっきりしていないせいか状況が理解出来ないようで、体勢をそのままに両目だけで辺りを見回す。


「リコス!」

「・・・トキサかい?」


トキサがベッドの脇に手を着き、覗くようにエケンデリコスの表情を見る。

彼もそれに答えるように目線がこちらを向いたので、徐々にではあるが意識が戻って来たようだ。


「僕は一体・・・何があったんだい?」

「お前いきなり倒れたんだ。一週間も眠ってたんだ、覚えてないのか?」

「えっ?」


その言葉に驚きの表情を浮かべるエケンデリコスに、トキサが当時の状況やケイ達が領主から話を聞いてやって来たことを説明した。当時の事は、トキサの家に来て談笑していたところまでは覚えていたらしい。ケイは薬はサントマから貰ったものだと話し、自分たちは領主の代理プラス、スアン渓谷にあったペカド・トレのことを聞きにやって来たと述べた。


「わざわざ遠いところまで申し訳ない。僕はエケンデリコス。ここの集落で学者をしていて、親しい者はリコスって呼んでいるよ」


上体を起こそうとしたエケンデリコスを今は安静にした方がいいと制し、まだ体内に残っている可能性もあるため、残っていた聖者の光を彼に飲ませた。

いろいろと聞きたいことはあったが、病み上がりの人物に無理はさせられない。


その日は遅い時間ということで、トキサの好意で一晩泊めて貰えることになった。



翌日、すっかり体調が戻ったエケンデリコスから貴重な証言を得ることができた。


「ペカド・トレのことだけど、どうやら月花石に蒼光石が塗られているようだ」

「蒼光石?」

「これを見てほしい」


エケンデリコスが、鞄の中から紫色の布に包まれた二つのカケラを取り出す。


一つは片方は黒っぽい色をしており、もう片方は白っぽい色が上に塗装されている。もう一つは全体的に白っぽいカケラだった。


鑑定してみると、黒っぽい方は片方が月花石で、片方が蒼光石。

もう一つの白いカケラは、陽花石だった。


月花石が汚染されていないところを見ると、無事だったところを持ち帰ったのだろう。リスキーな行動によく無事だったなと言うと、他の部分は色が紫がかった黒色だったから、ちょっとまずいかなと思っていたらしい。


蒼光石はフリージアが原産国で、日の光を吸収し夜間に青白く光る性質を持つ。

実際に使用されている、砂漠の都市マライダの中央広場の噴水が有名だろう。

鉱石自体は山の至る所で取れるそうだが、質の高い物になると奥地に行かないと取れない。エケンデリコスによると、水晶の森にある湖の底にも蒼光石が埋まっているそうで、夜間には鮮やかな青白い光を放ち、森全体が昼間とは違った表情を見せるのだそうだ。


ちなみに今回は一人で調査に赴き、途中で足が石に躓きこけた拍子に触れてしまったそうだ。触れた部分は、たまたま腕まくりをしていた左腕に当たったそうで、本人も初めは普通のアザだとばかり思っていた。しかし結果は以前の通り。

今後も調査を続けると言っていたが、たまに護衛として同行しているフリージア領主直属の護衛にも周知するべきだと判断したようだ。


「そういえばサントマから、リコスがアルバラントの学者だったと聞いたが?」

「あーその話かー」

「聞いちゃまずかったか?」

「いや、そういうわけじゃないんだ」


今から30年前、エケンデリコスは以前から大陸の歴史について興味を持ち、アルバラントの歴史家として活動していたそうだ。


その過程で歴史の不思議な穴に疑問を抱き、独自に調査をしていたそうだが、それを快くおもわないアルバラントの貴族から妨害などを受け、国王に直訴したが取り合って貰えず、しまいには変わり者のエルフとしてつまはじきにあったそうだ。


エケンデリコスが疑問を持っていることは大きく二つ。


1、1500年前以前の資料が全く見当たらない。

2、この大陸は、代々続く祖先が暮らしていた場所ではない。


1つ目に関しては、何者かによって歴史的資料を隠蔽した可能性がある。

以前バナハに赴いた際、当時の資料庫が丸々なくなったと聞いたことだった。

資料自体は500年前の内乱で消失してしまったそうだが、最近になってその一部が300年前まであったのではないか?という証拠が出てきたからだ。


証拠を裏付ける物として、文化遺産保護法の正式書類だった。


ダジュールには文化遺産を保護する法律が存在し、文化遺産に指定されている、水晶の森があるスアン渓谷、ルフ島のヴノ山、マライダの王家の墓、バナハの試練の塔が対象になっている。バナハの試練の塔は、原因不明で倒壊してしまったため現在は登録取り消しになっている。これを聞いたケイ達がヒヤッとしたのは言うまでもない。


「僕は、アルバラントが歴史を隠蔽していると考えている」

「どういうことだ?」

「実は試練の塔に関して、アルバラントとバナハが取り交わした書類に不可解な記述みられた」

「記述?」

「試練の塔が文化遺産に正式に登録されたのは、今から約500年前だ。それから100年ごとに更新の手続きを行っていたようなんだが、300年程前のバナハの書類に『更新の手続きを行う上で、残りの資料を破棄すること』と書いてあった」

「その資料を破棄しないと更新しないぞってことか?脅しじゃねぇか」

「アルバラントは全国の文化遺産の登録を担っているから、おそらくアルバラントにとって不都合な部分が出たんだろう」

「その資料って歴史関係か?」

「僕はそう睨んでいるけど、それ以外にも不都合な部分があったんじゃないかと思ってる」

「バナハにはあり、アルバラントにはないもの・・・か。じゃあ契約更新のためにその資料を破棄した、と?」

「表向きは、ね。バナハの試練の塔に関しては、それ以降、書類上の取り交わしをしていないらしいんだ」


300年前の更新の際に、バナハ側は更新書類に不服を申し立て、取り交わしを行わなかったそうだ。要は更新破棄、アルバラント側は異議を申し立てたが、相互で再度取り交わしとはならなかったそうだ。しかし、体裁上、更新書類は別の形で処理を行ったとアルバラント側では記述されている。


アルバラントの命で、今までに歴史関係の重要な書類・文献を破棄したとなると、他の国で取り交わされている書類も確認するべきかと考える。

現在、破棄されるはずだった残りの書類は所在不明で、アルバラントにとって不都合なものが残っているのだとしたら、それこそ歴史的大事件となる可能性はある。


そして2つ目は、トレントが語った言葉だった。


『海の彼方で起こった脅威からこの大陸を守る』


以前ケイ達も聞いた言葉から、他にも大陸があるのではと考え、森を出て真実を知るため学者になったと。その際トレントから『彼らの王との約束のため、口外することは出来なかった』と内緒で教えてくれたそうだ。


しかしその王が所持していたであろう腕輪は、現在ケイが所持をしている。

そう考えると、エケンデリコスの協力も必要になってくるのではと薄々感じてはいた。



ケイ達は、取り交わされたスアン渓谷の書類の所在や今後について、領主・ガイナスの元に戻るべきと思い、エケンデリコスと一緒にフリージアに戻ることにした。

今回は、ダジュール内での法律のため、実際のものとはだいぶ違います。

ご了承ください。


次回の更新は、10月7日(月)です。


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