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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
81/359

79、アホ聖馬の証言

馬に落とされ四人を追って崖を降りる。

三頭の馬に崖から突き落とされた四人を追って、逃げ遅れた白い馬を拘束しなかば脅した状態でアレグロを乗せ、崖を滑走して行く。


「ケイ様あれ!」


ほどなくしてアレグロが崖下を示すと、岩肌の途中で草木が生い茂った出っ張りが存在し、そこに四人が運良く引っかかっていた。どうやら無事だったようで、声をかけるとアダムが手を上げたため、馬をそちらに向かせケイ達も降り立つ。


「みんな大丈夫か!?」

「だ、大丈夫・・・し、死ぬかと思った・・・」

「驚きました・・・」

「アダムとレイブンは大丈夫?」

「俺たちは大丈夫だ」

「さすがに焦ったよ。しかしなんで急に・・・?」


四人に目立った怪我はなかったが、念のために回復魔法をかけておく。

突然の出来事に理解が追いつかない四人に、ケイは当事者である白い馬に向かって尋ねてみた。


「おい、なんでこんなことしたんだ!?」

『えっ!?言葉話せるの!?』

「聞いているのはこっちだ!」

『だ、だってサントマ様が生き物をこう扱うと喜ぶって・・・』


どうやらサントマと言う人物は、時折やってくる人にこのような遊びをして楽しんでいるらしい。それを聞いたケイは、碌なことをしない非常に馬鹿な奴なのかと呆れてものも言えなかった。


今いる崖の地点から、渓谷に存在している水晶の森が近くに見える。


透明の木々の合間に湖の青緑色が鮮やかに存在しており、白い馬の話によると中央の湖にサントマがいるらしい。危うく人が死ぬところだったことと、馬に変な遊びを教えるなと注意しようと向かうことに決めた。四人が落ちた時、本当に肝が冷えたことはみんなには内緒である。



馬を連れたケイ達は、飛行魔法で森に隣接する開けた場所に降り立った。


遠くから見ると白に見えていた森は、近くで見ると透明な結晶を形成している。

日が高いため、遠目だと光の反射で白く見えていたせいなのだろう。


道なき道を森の中央にある湖に向かって歩き出す。

その道中、白い馬がヒヒィ~ンとなんとも情けない声を上げているが、ケイの耳には『ごめんなさ~い!食べないでぇ~!!!』と終始懇願している状態である。


あまりの五月蠅さに、本当に馬刺しにして食べようかと思ったほどだ。


「わぁ~キレイ!」

「すげぇな~!」


比較的歩きやすくかつ魔物の姿もない森の中央までやって来ると、青と緑のコントラストが映えた湖が一面に広がっている。山から冷たいそよ風を運び、水面(みなも)にわずかな動きを与える。

ケイ達以外に人の気配がないのだが、マップ上に複数の緑のマークと黄色のマークが表示されている。黄色の方はかなり警戒している様子が見て取れる。


「で、サントマってどこにいるんだ?」

『いつもだったら中央にいるはずなんだけど・・・』

「よし!呼び出せ!」

『は、はい・・・サントマ様ー!!』


ケイの馬刺し発言が効いたのか大人しくなった白い馬は、半分涙目になりながらも湖に向かって声をかけた。


「な、なに!?」

「おい!湖の中央だ!」


白い馬が呼びかけると、辺りの空気が瞬間的に突き刺すような冷気に変化する。

アダムが示した湖の中央から白い霧が発生し、徐々に形を変える。


『ワタシのかわいい子供に何をしているのです?』


白い霧から姿を現したのは、真っ白な馬だった。


湖を思わせる青いたてがみに硝子玉のような黄色の瞳。まるでおとぎ話に出てくる白馬のようだった。白馬はケイ達と一緒にいる自分の子供と思しき白い馬を見て、立腹しているようだった。


『あなた方ですか?ワタシの子供を返しなさい』

「はぁ?あんたアホなのか?」

『ワタシを聖馬・サントマと知って言っているのですか?』

「聖馬・サントマ?知らん!ただの馬じゃねぇか!」

『すぐに謝罪しなさい。今なら許して差し上げます』

「お断りだ!崖から人を突き落とし、なおかつそれをあんたから教えてもらった馬鹿共に謝るつもりは一切ない!謝るならお前らが謝れ!!」


聖馬・サントマと聞いてレイブンが思い当たる表情をしたが、既にケイVSサントマの構図が出来上がっていたため、タイミングを掴めず。


サントマは我慢ならないと言った様子で、湖を滑るようにこちらに向かって来る。


「バインド!」

『がはぁ!』


猪突猛進で向かってくるサントマを、拘束魔法をかけ動きを封じる。

魔法を使って湖の上を走っていたため効果がなくなった瞬間、水面を滑るように着水する。


『がぁ!ごぉほ!だ!だずげで~~~!!!』


水しぶきを上げてサントマが藻掻いている。


その姿を見て、馬って泳げるんじゃなかったっけ?と、先ほどまで頭に血が上っていた自分がバカバカしくなってくる。もう少し様子を見てもよかったのだが、藻掻きながらも『ワタシ泳げないの!』とか『謝ります!ごめんなさい!許してくださ~い!!!!』と言った言葉が聞こえた.


「よくわからんが、助けた方がいいんじゃないか?」

「そうした方がいいわよ・・・逆になんか可哀想になってきたし」


なんだかこちらが悪く感じたのかアダムとシンシアに諭され、しょうがなくサントマを岸に引き上げることにした。



『ごめんなざ~~~い!!!ありがどうございまずぅ!!!!』


ケイ達によって岸にあげられたサントマは、先ほどの口調とは打って変わり子供のように幼くなんとも情けない声を上げていた。ただ、虚勢を張っただけということだろう。


『本当に申し訳ありまぜん!ワタシは聖馬・サントマといいまずぅ』


聖馬・サントマ

スアン渓谷にある水晶の森を守護している聖馬。

表向きは凛とした態度だが、聖馬の中でも幼いため内面は意外と脆い。


「聖馬・サントマと言えば、スアン渓谷を守護している」

「こいつがか?」

「見た目とは裏腹に、フリージア一帯の魔素を管理していると聞いたことがある」


レイブンの説明を聞いて、にわかには信じられないと言った表情でケイがサントマを見る。馬の表情はわからないが、態度と声の雰囲気から怒られた子供のようにシュンとふさぎ込んでいる。


「で、なんであんなことを教えたんだ?」

『たまに来るエルフにすると、凄く喜ぶの!』

「…はぁ?」

『だから!エルフが前に空を飛んでみたいって言ってたから、上に登っていた時に落したの。そしたらすごく喜んでまたやってくれって言ってくれたの!』


それ以来、その人物が来ると同じ事をして崖から突き落としているという。

彼女の子供たち(?)もそれをみて覚えたらしい。


突然のドS&ドM発言に理解が追い付かない。馬にそういう思考があるのかもわからないが、エルフというのはエケンデリコスのことだろう。

第一、ケイ達がさっきほどまでいた丘は、高さ40~50メートルほどある。

そこから落ちれば、まず大怪我以上になるのは目に見えている。


「たまに来るエルフって、エケンデリコスのことか?」

『そうそう、学者をしているって。またすぐに来るって言っていたのに…』


もはや何がなんだかわからなくなったため、しょんぼりとする思考回路が若干可笑しいサントマに、エケンデリコスと調査していた丘のことを聞いてみた。


「エケンデリコスは、調査をしていたようなんだが知ってるか?」

『それなら丘の上にあったペカド・トレのことね』

「ぺカド・トレの事を知っているのか?」

『罪の塔と言われていて、あそこにあった塔は300年前に破壊されたわ』

「はっ?丘の上にあった塔は300年前まであったってことか!?」

『えぇ。確かその時エストアにあった塔も破壊されたって、精霊が言ってたわ』


300年前といえば、魔王が存在していた時代である。

のちに討伐されたが、そのことと何か関係があるのだろうか?


『そういえば、リコスはアルバラントから来たって言ってた』

「エルフの森じゃなくてか?」

『ここに来る前はアルバラントの城で学者をしていたけど、王族貴族の頭の悪さに愛想が尽きたって言ってた』


サントマの話では、エケンデリコスは元・アルバラントの学者で、数十年前まで歴史の調査などを行っていたそうだ。その際に調査で分かった資料を国王にみせたが破棄されたため、愛想をつかして国を出たらしい。


ケイはサントマにエケンデリコスの容態を伝え、原因は丘の上に残されている汚染された月花石のせいではないかと述べた。

それを聞いたサントマはたいそう驚き、これなら治せるかもとガラスの瓶に入った透明な黄色い液体を差し出した。


「これは?」

『聖者の光という、人で言うところの魔法薬よ。あれを改善させることができるのは聖属性で高能力を持つ者のみなの』


聖者の光とは、聖属性を極めた者しか扱うことができない魔法で、どんな病や症状も治してしまう力があるそうだ。ケイはここでふと疑問に思ったことをサントマに聞いた。


「サントマ、汚染された月花石って何に汚染されてるんだ?」

『死の呪いよ』

「死の呪い?」

『調査していたリコスが、300年前に存在した魔王が関係しているんじゃないかって言っていたわ』


それを聞いたケイ達は、互いに顔を見合わせた。


リコスは独自に歴史の調査を進めており、その過程で丘の上に残っていた汚染された月花石に触れたのだろう。サントマの口ぶりも、彼女自体生まれてあまり時が経っていないと推測し、歴史の証言は難しいと判断した。

事実、ケイがサントマに「どのぐらい生きてるんだ?」と聞いたら『どのくらいだと思う?』と聞き返され、本当に馬刺しにするべきかと悩んだほどである。



エケンデリコスの改善が可能となったため、ケイ達は一旦集落に戻ることにした。


サントマは自分の子供もとい部下を六頭を招集し、ケイ達を集落近くまで送ると提案した。今から急げば日没までには間に合うため、提案を受け入れる。


『リコスに会ったら、また来てねって伝えて頂戴!』

「わかった、伝えておく」


毎回、崖から突き落としているよくわからない一人と一頭の事情に、ケイ達は若干引きながらも集落に向けて、六頭の白い馬に揺られ帰路に着いた。

補足:聖馬=せいば

やっぱり、そういう人?馬?もいてもいいよね。


次回の更新は10月4日(金)です。

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