6、冒険者ギルド
冒険者登録の回。
数値化って難しいね。
ステータス表示だけで一時間以上もかかってしまった。
「ケイ!朝食できてるから起きて来な!」
翌日、マリーの声にケイは目を覚ました。
表にいるマリーに「今行く」と告げるとベッドから起き上がり支度を始めた。
地球にいた頃は、眠気覚ましに朝は必ずシャワーを浴びていたが、ここにはシャワーおろか風呂というものはない。
正確に言えば、王族や貴族と言われる上流階級の人しか普及されておらず、一般市民は井戸の水を使うか川で身を清めるかしかないのだ。
「【クリーン】」
【クリーン】 身体や物を綺麗にする魔法。洗い立てのようにさっぱりときれいになる。
魔法で身体をきれいにするという初の行為に特に感動もなく、着々と準備を進める。
最後にブーツを履くと、朝食をとりに部屋を出た。
「おはよう!・・・なんだい、そんな顔をして~」
一階に下りると配膳途中のマリーが声を掛けた。
「朝が苦手なんだよ・・・」
「今、朝食持ってくるからちゃんと起きな!」
マリーに言われ、適当に席に着く。
今日の朝食は、白いパンに目玉焼きと野菜スープというシンプルな献立だった。
一通り食べ終えると、ケイは思い出したようにマリーに声を掛けた。
「マリー、お願いがあるんだけど~」
「なんだい急に?」
配膳を終えたマリーが近づく。
「これ、料理できるか?」
ケイがアイテムボックスからコカトリスの卵をマリーに差し出した。
何もないところからコカトリスの卵を出されたため、マリーは一瞬声を詰まらせたが堰を切ったように奥で料理をしている人物を呼んだ。
「どうしたんだマリー?」
奥から出てきたのは、茶色い髪に青いエプロンを着けている中年の男だった。
「あんた、これ見て!」
マリーがせかすように男性を誘導する。
「これは、コカトリスの卵じゃないか!?」
驚きの表情で男が声を上げると、続けてマリーが尋ねた。
「ケイ、これどうしたんだい?」
「昨日、山で見つけた」
「山?エバ山のことかい?」
信じられないといった表情で男が聞き返した。
「・・・というか誰?」
「あぁすまないね~あたしの旦那でドルマンていうんだ」
「初めまして、ドルマンだ。宿屋の料理人をしている」
軽く自己紹介をしてもらうと、ケイは話を進めた。
「これ料理してほしいんだけどできる?」
「料理するのは構わないが、これ使っていいのかい?」
「もう一つあるから構わない」
「えっ?」
その言葉にマリーとドルマンが驚いた。
本来コカトリスは、繁殖期になると卵を守ろうと獰猛になる。
いくら経験を積んだ冒険者であろうと、この時期はよほどのことがない限り山に近づくことはない。
希に運搬方法の研修で行うことはあるが、希望者が多くなければあえて時期をはずすほどである。
さらっと爆弾を投下したケイが気づくこともなく、ただコカトリスの卵の味を確かめたいということしか頭になかった。
「できるか?」
「あ、あぁ・・・できることはできるが準備に時間がかかる」
ケイの真剣な表情に思わずたじろぐドルマンだが、料理人である以上その願いを聞き入れようと努めた。
「どのくらいかかるんだ?」
「お昼頃から支度をすると今日の夜には出せると思う」
「おぉ~」
ケイが歓喜の声をあげる。
「それに、これだけの大きさだから、だいたい5~6人前にはなると思うが」
「俺はそれが食いたいから、残りは二人が食べるか他の奴にあげてもいい。その辺は任せる」
ケイはもともと興味がある物に関しては手段を問わず、それが満たされると後のことはどうでもよくなってしまう性格だった。
「はぁー、あんた変わってるね~」
感心しているようにも呆れているようにもとれる表情でマリーが言った。
ケイはマリーとドルマンに、夕食にコカトリスの卵を使った料理を出してくれることを約束し、冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドは教えられた通り、大通りを突き当たった場所に建っていた。
二階建ての茶色の屋根と、剣を二本並べて描かれている看板が見えた。
中に入ると朝のピークを過ぎていたようで、人もまばらな状態だった。
登録を済ませようと、カウンターにいた紫色の髪をした少女に声を掛ける。
「おはようございます。冒険者ギルドへようこそ!受付担当のミーアがお伺いします」
「冒険者の登録をしたいんだけど」
そう話を切り出すと、ミーアが用紙を手渡した。
「こちらに記入をお願いします。100ダリで代筆ができますがいかがでしょう?」
「その必要はない」
ペンを手に必要な情報を記入し、ミーアに渡す。
「・・・はい。確認できましたのでこちらに手を触れてください」
ミーアが手にしているのは、四角い形をした羅針盤のような装置だった。
「これ何?」
「これは本人の情報を読み取って、ギルドカードにする魔道具になります。
なんでも1500年前に王都アルバラントの地下から発見されたそうです。
・・・といってもこれはオリジナルを元に作成されたレプリカですけどね」
「ふぅ~ん」
そんなやりとりをしてからケイはその装置に手を触れた。
「はい。結構です」
装置が数秒間点滅した後、ミーアが手を離すように指示をした。
「カードが作成されるまでの間、ギルドの説明をいたしますがどうなされますか?」
「説明を頼む」
ギルドの説明を要約すると、以下のような内容だった。
・ギルドランクはS~E。最初はEから始まる。
・依頼できるランクは、本人のランクから一つ下まで。
パーティの場合はランクの一番高い人間の一つ下まで。
・依頼を受けて失敗した場合は、違約金が発生する。
・基本冒険者の喧嘩等の仲裁をしないが、状況と場合によっては処罰もあること。
・Cランク以上の昇格には試験がある。
・ギルドカードを紛失した場合は、再発行に100.000ダリ。
「カードができましたので確認願います」
ミーアからカードを受け取る。
ケイ
レベル8
性別 男
職業 魔法使い
HP 108/108 MP 150/150
力 105
防御 95
速さ 120
魔力 150
器用 132
運 60
スキル:体術(Lv3) 魔力操作(Lv5) 魔力察知(Lv5)
火属性魔法(Lv3) 風属性魔法(Lv3) 光属性魔法(Lv2)
ユニークスキル:鑑定眼 アイテムボックス 創造魔法(隠蔽中) 完全隠蔽(隠蔽中)
称号 :アレサの寵愛 ダジュールの管理者(隠蔽中) 転生者(隠蔽中)
ケイはあらかじめスキルをいくつか創造魔法で作成していた。
それがうまく反映されていたことを確認すると、ミーアが声をかけた。
「ケイさんって意外ですね?」
「意外って?」
「最初、革の防具を着ていたので剣士かと思ってました」
通常の魔法使いの装備は、詠唱を阻害しないローブが一般的である。
「あと、杖も持っていませんね」
「杖?」
「魔法使いなどの職業は、魔法の威力を上げるために杖を用いるそうです。
それに、ケイさんは杖術のスキルがないみたいだったので・・・」
ミーアの言う通り、集中力を高め魔法の威力を上げるためには杖術というスキルも関係する。
しかし思い出してほしい。ケイの称号 アレサの寵愛を。
「ローブは邪魔くさいし杖なんていらねぇ。杖なんて殴っても木の棒で殴るのと変わんねぇじゃん」
「杖って殴るものですか?」
もちろん杖は殴る武器ではない。
「とにかく登録は以上になります。他に質問はありますか?」
「素材の買い取りはどこでやってるんだ?」
「登録前の討伐は評価の対象になりませんがよろしいですか?」
「売れればいい」
ミーアの確認にケイが同意した。
「それでしたら、左奥のカウンターが買い取り専門になります」
ミーアと別れ、教えて貰った左奥のカウンターに向かった。
「よう坊主!見慣れん顔だな?」
買い取り専門のカウンターに行くと、頬に傷のある50代ぐらいの銀髪の男が声をかけてきた。
「ここで素材の買い取りをやってるって聞いたんだけど?」
「あぁやってるぞ。わしはブランド。一応受付もしておる」
「俺はケイ。今日入ったばかりで、ここに来る前に魔物を狩ったから買い取りをしてほしい」
「大きさと量は?」
「少なくともこの上じゃ無理」
カウンターを指さしてケイが答えると、ブランドが目を細めほぅと関心の態度を表現した。
「なら裏にこい」
ブランドに案内されたのは、買い取り受付の裏側に位置する倉庫のような場所だった。
「ここは解体場兼倉庫というところだ」
血抜きのために上部に吊された動物や魔物、箱に入った解体済みの素材が所狭しと積まれていた。
奥には数名の職員や作業員が仕事をしていた。
「ここならいいだろう」
十分な広さまでくると、ブランドがケイにここに出すように指示した。
アイテムボックスからコカトリスの死体を出すと、ブランドの表情が一瞬驚きに変わる。
「こりゃ驚いた。これはお前さんが?」
「昨日、エバ山で見かけたから狩った」
ブランドはコカトリスの死体を注意深く観察し始めた。
「しかし、ここまで状態がいいモノは初めてだ」
一通り観察したブランドがケイの方を向いた。
「傷は眉間の一カ所、あと細かい傷があるようだが?」
「狩る前に別の奴がけん制のために攻撃してた」
「おそらくアダム達のことだな」
アダム達の報告は他の職員にも知られていた。
単独でコカトリスを討伐した人物がまさか入りたての新人だとは思わなかったようだが・・・
「解体には時間がかかる。今日の夕方にまた来てくれ、それまでには終わらせる」
「わかった」
「それとアイテムボックス持ちなら、他の奴に利用されかねないから気をつけろよ」
別れ際にブランドが忠告をした。
ケイは片手を振りギルドの受付に戻っていった。
ダジュールの常識という設定になります。