75、手がかりとその先
謎の隠し部屋発見!
何が見つかるのでしょう?
隠し通路の先には、小さな部屋が存在していた。
広さは日本でいう六畳程度で、右側の壁一面に天井まである重厚な本棚が置かれている。左側には木製の一人用の椅子と机が置かれており、だいぶ埃が積もっているようで相当の年月を感じさせる。
「ここは資料庫かなにかか?」
「年代は古いがその類いだろうな」
大量の本が収まっている本棚には、机と椅子と同様に、長年、手に取られた形跡がなく、ケイは積もっている埃を手で払ってから慎重に本を手に取った。
「なんて書いてあるのかわかんねぇな」
本の内容は古い文字で書かれており、劣化と相まって読むことが出来なかった。
他の本も、途中で何かの図解のようなものが記されていたが、それも読むことは難しい。貴重な資料の可能性もあるため、これ以上は触らないよう手に取った本を戻した。
「ん?」
本を戻したと同時に、本棚の右側の二段目から何かが落ちる音がした。
床に一冊の本が落ちていた。ケイがそれを拾い上げると、厚さは他の本の半分ほどしかなく、古いなめし革を使った表紙の本だった。中を開くと、何故か文章が読める。ケイが読める古い文字と言えばアスル語しか該当しないため、隣にいたアダムに確認を取る。
「アダム、これ読めるか?」
「・・・いや。もしかして読めるのか?」
「あぁ。アダムが読めないと言うことは、アスル語だな」
本の内容を読んでみると、どうやら誰かの手記のようであった。
記入者と年代は不明だが、独白のような形で記されている。
「『アスル・カディーム人を裏切った。我々は罪を償わなければならない』?」
この文章を書いた人の懺悔のような内容で、文章からでもこの人物の後悔のようなものを感じる。他には、アスル・カディーム人はある人物に従えていたようで、その人物を『帝王』と呼んでいたそうだ。彼らの言う帝王とは、トレントやアンダラが言っていた王のことなのだろうか?はたまた別々の可能性もある。
頁を捲ると、妙な記述が目に入る。
『我々の歴史は破滅の始まり』
それは最後の頁に一行だけ書かれていた。
推測ではあるがこの手記を書いた人物は、アスル・カディーム人とは別の人種・民族であり、何かのきっかけで彼らを裏切ったということになる。しかし、彼が何者でなんのために裏切ったのかは記されていない。
「我々の歴史は破滅の始まり・・・か」
その一文についての判断材料が少なすぎるため、とりあえずこれはケイの鞄にしまっておくことにした。
「ケイ、この地図ってダジュールの地図じゃない?」
部屋の奥で、シンシアとベルセ達がある一点をみてこう言った。
彼らの目線の先には、奥の壁にダジュールの世界地図が掲げられている。
そこには、四ヶ所に×印がつけられている。
「これって四つの塔がある場所かしら?」
「そういや、位置的にも東大陸のエストア北東部に、西大陸のバナハは合っているな」
残りの二箇所は、北大陸のスアン渓谷の北側、南大陸中心部のヴノ山を示しており、ただの偶然と片づけるのはちょっと違う気がする。
「ちょっと、オスカー!何をしているの!?」
「この地図の後ろに、なにかあるんだ」
手で地図の感触を確かめた時に違和感を感じたオスカーが、留めている部分外しにかかる。隣にいたベルセが慌てて制止をかけるも、左側半分がめくれると同時にそれは姿を現す。
地図の裏側の壁には、氷の結晶のような形に右上には星が三つ刻まれている。
「ベルセ。これ、ワイト家の紋章に似てないか?」
「え・・・えぇ。でもどういうことかしら?」
「公爵家の家紋のことか?」
「はい、ワイト家の紋章とほぼ同じです。しいていえば右上の星はありませんが」
壁のそれは、公爵家の紋章とほぼ同じらしい。
と考えると、ここは公爵家と何か関係があるのだろうか?注意深くそれを見ると、紋章の下に鍵穴らしきものを見つける。
周りの壁には横に擦った後も残っていることから、スライド式の仕掛けのようだ。
サーチをかけると、この先にも上に続く通路が確認できる。
「鍵穴があるが、鍵自体がないからこれ以上は無理っぽいな」
「じゃあ来た道を戻るしかないわね」
「ちょっと待ってください!もしかしたら・・・」
ケイ達が踵を返し戻ろうとした時、ベルセが思い出したように声を上げる。
彼女が胸元から取り出したのは、革のひもに通された銀色の鍵だった。
「ベルセ、それは?」
「亡くなったおばあさまの遺品整理した際に、見つけたものです」
ベルセがそう言うと、銀色の鍵を鍵穴に挿した。
鍵は鍵穴とぴったり合い、ゆっくりと回すとカチッとした音がしたと同時に壁が横にスライドした。ケイの予想通り、さらなる隠し通路の出現である。
「忍者屋敷かよ~」
「ここまで来ると何でもありね」
「ケイ、これも関係あると思うか?」
「さぁな。だが少なくとも、ベルセの祖母が持っていた鍵がここの謎と関係はあることはたしかだ」
困った表情のアダムとケイとシンシアがげんなりしている隣で、鍵を手にベルセが呆然としている。まさか鍵穴に合うとは思わなかったのだろう。彼女の祖母は何故この鍵を持っていたのか?そう考えると、神殿と公爵家との謎の関係性が浮かんでくる。
ケイ達とオスカーは呆然としているベルセの背を押し、上に続く階段を上った。
上までやって来ると、レンガで縁取られたアーチ状の入り口の様な物が見えた。
しかし、本来入り口である箇所は壁で覆われている。
ケイが軽く叩くと、中が空洞になっているようで軽い音がする。
下から持参していた固い棒のような物を壁に突き刺し剥がしてみると、ボロボロと崩れ落ち奥の姿が見えてきた。
「一気に時代が進んだな~」
人が通れるぐらいまで穴を広げ奥へ進むと、どこかの地下にたどり着く。
使われなくなった廃材や美術品がそこかしこに置かれている。
正確な位置はわからないが、神殿と繋がっているのはたしかのようである。
「ここ、どこかで見たことがあるわ」
「そうなのか?」
「えぇ。たしか・・・こっちよ!」
ケイ達を呼ぶベルセの後に続くと、手すりの着いた20段ほどの階段を上がった先に現代風の木製の扉が見えた。
ベルセが扉を開けると、どこかの屋敷に通じているらしく通路が見える。
「どこだここ?」
「離れにある屋敷よ」
「離れ?」
「ワイト家の敷地内にある別館よ・・・じゃなくて、です」
本来のベルセの口調が垣間見えたが公式の場ではないため、変につっこんでも仕方ないと思ったケイは気にしないことにする。
通路の左側には、白枠の大窓があり外の様子が見える。
そこから見える景色は別館の中庭のようで、だいぶ時間が経っていたのか、外は真っ暗になっていた。ランタン以外の灯りを消し、別館の外へ続く扉を開くと夜風と木々の香りを感じる。
「ということは、今居る場所は公爵家の敷地内って事か?」
「はい。地下神殿と繋がっているなんて思ってもみませんでした」
「ベルセ、ガイナス様に報告した方がいいと思う」
「えぇ。まさかこんなことになるなんて思ってもみなかったわ」
本来、南の森に木の実や野いちごを取りに出かけたはずなのに、なぜか遺跡を見つけることになったベルセ達が、思わずため息を漏らす。それを、気の毒だなとケイ達は雰囲気で察した。
夜も遅いため、ベルセ達の案内で敷地の外に出ようとしたケイ達に思わぬ災難が降りかかる。
「おい!お前達ここで何をしている!!」
「ベルセ様!・・・お前達彼女をどこへ!!」
ケイ達が屋敷の外に出ようとした時、巡回兵らしき二人組に呼び止められた。
ベルセ達と同行していたため、そのうちの一人がケイ達の事を誘拐犯だと疑っている様子だった。
「俺たちは何もしてないって!ちょっと話を聞けって!!」
「嘘をつくな!」
「落ち着いてください!」
「ベルセ様、ご安心ください!私たちがお救いします!」
ケイ達を逃さないよう剣や槍を突きつける二人組をベルセが止めようとするが、騒ぎを聞きつけ他の巡回兵もやって来るという悪循環を招く。彼らはケイ達の話に聞く耳を持たず、ベルセを誘拐する不届き者として捕らえようとしている。
完全にアウェーな状況で、ケイ達は心底困った表情を浮かべた。
予期しない出来事にタジタジのケイ達はどうなるのでしょう?
次回の更新は9月25日(水)です。




