74、白銀の少女
ケイ達は意外な人物と出会った話。
アダムの持っているたいまつの照らした先には、防寒服を着た少年とスライムを抱えた少女の姿があった。
少女の方は銀髪に青い瞳で、腕には淡い青色のスライムを抱きかかえている。
少年の方は赤髪に黄色の瞳をしており、ケイよりも少し身長が高い。
二人とも年齢から考えて、成人直後なのだろう。
少女は怯えた表情を見せ、少年は少女を庇うように前に立つ。傍から見たら完全にかつあげしているヤンキーと学生のようにしか見えない。いたたまれなくなったケイ達は、二人に声をかけることにした。
「あー、話をしてもいいか?」
「なんだ?」
「二人は何をしてるんだ?」
「お前達こそ、ここで何をしている?」
「ち、ちょっとオスカー!?」
質問を質問で返し、後ろに立っている少女が慌てて少年を止める。
たしかに、素性がわからない者が急に現れてたら誰だって警戒はする。
ケイに至っては少年から攻撃をされていたため、状況的に少女の護衛なのだろうと察する。とにかく二人の警戒心を解くため、自分たちの事を話すことにした。
「俺は冒険者で、パーティ【エクラ】のケイだ。で、こっちがアダム」
「アダムだ。急に声をかけてすまない」
ケイ達は二人に、穴から落ちた人物を探していると伝えた。
二人はそれは自分たちだと言い、こちらも不手際があったと謝罪を述べる。
「わざわざ探しに来て頂きありがとうございます。私はフリージア公爵家令嬢のベルセ・ワイトと申します。そしてこの子はペス、私の従魔です」
ベルセ・ワイト
フリージアの公爵家令嬢。
生まれつき身体が弱く、それが原因で魔力を持たないため、現在はフリージアにある錬金術専門の【アルキミア学園】に在籍している。
ペス
ベルセの従魔で、希少種であるエンシャントスライム。
「先ほどはすまない。俺はベルセの護衛でオスカー・アドニアスだ」
オスカー・アドニアス
ベルセの護衛で、代々要人を護衛する傭兵一族の三男。
わずか15才で剣の腕は一流と言われ、一部では『鋼の騎士』などと呼ばれている。
「その公爵家の令嬢が何をしてるんだ?」
「実は森に木の実や野いちごを取りに行った際に、穴に落ちてしまって」
「そんなに食うモンないのか?」
「あ、いえ。そういうわけではないのですが・・・」
「じゃあ、こいつはお前達のか?」
ケイはそう言って、傍らで飛び跳ねているペティを二人に見せた。
「ペティ!無事だったのか!?」
「どこも怪我はない?よかった~」
どうやら二人はペティの事を知っていたらしく、一緒に連れてきた従魔だと言い、安堵の表情を浮かべる。ケイが鑑定でギルバートの従魔となっているが本人はいないのか?と訪ねると、二人は一瞬驚愕の表情に変わり、ベルセがケイの質問に答える。
「ギルバートは私の家の専属料理人です。いつもは彼と一緒なのですが、今回は彼にお願いをしてペティに同行をして貰っているんです」
ペティは、素材採取の荷物持ち要員として同行していた。
その証拠にペティは身体を少し膨らませながら、二~三回プルプルと震えた後に身体から木の実や野いちごの入ったカゴを取り出した。ケイ達の知らない間に、大穴の近くに落ちていたものを回収していたようだ。ペティがもう一度カゴを収納した後にベルセがペティに優しく触れ、その身体を持参していた自分の鞄に入れた。
通路側にいたレイブン達が、ケイ達の様子を見にやって来た。
オスカーが警戒の態勢を取ったため、他の仲間だと言うとその行動を取りやめる。
合流した四人に説明をし、ベルセ達に紹介をした。四人は、まさか公爵令嬢がこんなところにいるなんてと目を丸くさせる。当然といえば当然である。
「ケイ、詳しい話はここから出てからにしましょう?臭いがきつくて具合が悪くなりそうよ」
シンシアの言葉通り、臭いの元は一つ前の部屋の人骨から来ている。
密室状態で腐敗していたため、周囲に悪臭が漂っている。空気が思いのもそれが原因だ。
「それなら私、いいモノを持ってます」
ベルセがおもむろに鞄を開き、黒い液体が入ったビンを取り出した。
蓋を外し地面に置くこと数秒で、辺りの空気は徐々に緩和されていく。おそらく消臭剤の効果と似たようなものなのだろう。
「消臭剤か?」
「はい。錬金で作成した消臭薬で試作品ですけど、強力な臭いだと約30分ほど吸収し続けます」
「霧吹きタイプじゃないんだ~」
「合う容器がなかなか見つからないんです」
そこでベルセははたと気づき、ケイの方を向いた。
ケイは、俺の国にも似たような物があるからと肩をすかせる。
しばらくして、臭い自体は先ほどよりは幾分マシになったように感じた。試作品と言っていたわりには吸収性が非常に高い印象を持つ。錬金で作製したと言っていたが、使いようによっては応用が利きそうな感じはする。
落ち着いたところで、ケイ達は改めて部屋を見回した。
この部屋にも、何体かの苦痛の状態で倒れている人骨が散乱している。
奥には壁にもたれかかるように人骨が存在しており、両足は腐敗による損傷の跡があり、右腕は肘から下はなく、まともについているのは左腕だけだった。
「ここまで酷いと惨劇だな」
「でも、今までの遺跡とは少し違いますね?」
「そういえばそうだな。何か意味があるのだろうか?」
アダムが首を傾げ、タレナとレイブンがこの状況に疑問を感じている。
たしかにケイ達が見てきた遺跡には人の気配すらなかったのだが、むしろなぜここに来て遺体があるのかが不思議でならない。
「あの、どういうことですか?」
ベルセとオスカーがケイ達にその意味を問いだ。
ケイ達はこれまでのいきさつを説明し、この神殿のような遺跡も他の遺跡に関連しているのではとひとまず結論づける。
気を取り直して、ケイは壁にもたれている人骨に注目した。
初めて見たときから、なぜか妙な違和感を感じた。
人骨にランタンを近づけ、それを隅々まで観察してみる。後ろで見ていたシンシアから、よくまじまじと見れるわねと小言を言われるが気にしない。
「これだ・・・」
ケイが、違和感に気づきランタンを近づけた先は右腕だった。
肘から下がないのだが、初めは腐敗のためなくなったとばかり思っていた。
注意深く観察すると、肘は何かで切断されたような綺麗な断面になっている。
「ケイ、なにかあったか?」
後ろからやってきたアダムが、ケイの後ろから覗き見る。
「この人骨の右腕が、鋭利な物で切断されている」
「本当だ」
「死ぬ前か後かはわからねぇけど、確実になにかで切られていることは間違いねぇな」
「でも、だれが?」
「さぁな」
確認のために他の人骨も見てみるが、どれも切断などの断面や不審な部分は見つからなかった。そう考えると、何かと争って襲われたのだろうと推測する。
「ケイ様、その後ろの壁を見て!」
頭上でアレグロの声が聞こえる。
ケイは何事かと思い、彼女の方を向いた。
「アレグロ、どうした?」
「この壁の色が微妙に違うんだけど、気のせい?」
アレグロが人骨がもたれている壁の方を指さす。
ランタンを向けると、灯りに照らされた壁が見える。
壁は年月が経っているせいか、人骨がある場所と他の場所との色が微妙に違っており、ケイがその部分を軽く手の甲で叩くと軽い音がした。他の壁は、固い音がしたため何かあると直感的に感じとる。
「アダム!レイブン!手伝ってくれ!」
近くにいる二人に声をかけ、辺りにある固そうな物を手に壁に向かって叩くと、壁はボロボロと剥がれ落ち、人一人分の空洞が現れた。恐らくその空洞を隠すために上から塗装していたのだろう。
ケイがランタンで中を照らすと、上に続く階段が現れる。
「まだ続いているわね」
「隠し部屋ってことか」
「ここに向かう途中、部屋が他に見当たらなかったのはそのせいか?」
「サーチしたら他にもいくつかあったから、おそらくそうだろう」
やはりアダムとシンシアも疑問に持っていたようで、他の三人もやっぱりと言った表情をする。ベルセとオスカーは全く予想外だったようで、ただただ呆然としている。サーチとマップで確認すると、その先にも部屋が続いている様子があったため、さてと気合いを入れ直して進むことにした。
階段を上った先に、一枚の扉が見えた。
扉は一見古い木製のようだが、特殊な技法で木の腐食を防いでいるように見えるため、だいぶ頑丈でしっかりしている。ケイがドアノブに手をかけると、鍵がかかっていないのかゆっくりと回り扉が開く。
「これは・・・!?」
扉を開けケイ達の目に飛び込んできたのは、巨大な本棚が置かれた小さな部屋だった。
ベルセ・ワイトの登場です!
補足:白銀の少女 → フリージアの公爵令嬢の異名みたいなものです。
次回の更新は9月23日(月)です。




