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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
71/359

69、復元された塔の内部

時間限定で復元された塔の内部を、自分の目で確かめてみた。

「アレグロさんは大丈夫ですか?」


アレグロを外にある簡易テントに運んだケイ達に、後からやって来たヴィンチェ達が合流した。テントの椅子に腰をかけるアレグロにタレナが寄り添うが、相当肝が冷えたのか彼女まで青い顔をしている。


「本人は大丈夫だって言ってたけど、この様子じゃなぁ~」

「すみません。私がもう少し早く気がついていれば・・・」

「ヴィンチェ、何を見たんだ?」

「私が見上げた時には、上の方で一瞬何かが光っていました。それを認識する前に先ほどのことが起こったので、注意の声を上げることで精一杯でした」


もちろんヴィンチェを責めるつもりはない。あの短時間で判断し、注意を促すことなどなかなか出来ない。おそらく知らない間に何かの仕掛けが作動したのだろうと考える。それにしても、霧のように消えた黒い騎士は一体何者なのだろう?全体的に透けていたことから霊体的なものだと感じたが、それよりもアレグロの言った『パテラス』というのはどういうことなのか考えてみる。しかしわからないことだらけのため、アレグロの精神面を考慮しつつその辺を聞いてみることにした。


「アレグロ」

「ケイ様・・・」


先ほどの余韻が残っているのか、心なしか顔色が青いままで目線はこちらを向いているが、恐怖のため若干のブレがある事を察する。


「さっき言っていた『パテラス』って誰のことだ?」

「『パテラス』・・・ですか?」

「黒い騎士を見て言ってた言葉だ。何か思い出したんじゃないか?」


アレグロとタレナについては、記憶の改善や手がかりは少なく、全てが憶測であることから、今回の出来事は何かのきっかけになればと考えていた。


ケイの問いに目線をずらし考え込んだが、少し経った後で首を横に振る。


「ごめんなさい。どこかで見たことがあるのだけど思い出せないの」

「ケイさん、私も先ほどの方をどこかで見たことがある気がします」

「タレナもか?」


タレナも黒い騎士に見覚えがあるような口調をした。

しかし一瞬のことだったのか、二人共それがなんなのかは思い出せないでいた。

その様子を見てケイは、やはり二人の過去に何かあったのではと考える。

今までの経緯と情報・アレグロとタレナの言動から、二人には少なからず遺跡や(ペカド・トレ)に関係があることは薄々感じてはいた。それと同時に、マーダと交わした『アレグロとタレナの故郷を探す』という約束は、二人のルーツを辿る旅になりそうだと思いに至った。


「ケイ、ここにいたか」


そこに、調査が一段落したディナトとアマンダがやってきた。二人の後ろには、調査隊の一員とおぼしき軽装の男性も同行していた。ディナトはケイに、先ほどの出来事は調査隊の判断ミスによるものだと説明した。


「どういうことだ?」

「先ほど調査隊から、階段途中の壁に人間が使用していたとおぼしき武器が刺さっているところ発見したそうだ。それを調べようと不用意に触れた者がいたようで、一瞬の間に光を発し、人の形になったと思った頃には階段下に飛び出したらしい」

「それで、その剣は?」

「それが、触れた者の話によりますと一瞬のうちに消えてしまった、と」

「消えた?」


ディナトが連れた軽装の男性は、今回の調査隊の副指揮官を担っていたようで、通常、発見したモノに関しては、安全が確認できるまで不用意に触れてはならないという決まりがあるそうだ。主にトラップなどが施されている場合があるため、今回のように高所で足場が不安定な場所に関しては、より一層の注意が必要だと再三に渡り部隊に伝えていた。

副指揮官の男性は、アレグロを危険をさらした事を深く謝罪した。

アレグロはその男性に、とっさに行動を移せなかった自分にも非があると彼を気遣った。


「で、調査の方はどうだ?」

「思ったより階段が続いているらしくてな。それに降りる時間も考慮すると、正直、時間内に上に到達するには厳しいと思ってる」


ヴィンチェに確認したところ、塔の復元効果はあと二時間弱。

報告によると現在調査隊は、地上から約50メートルほどの地点に到達しているとのこと。下りの事を考えると滞在できる時間はそれほど多くはない。


「今現状でわかることは、壁に刺さっていた剣とそれから現れた幻の黒い騎士・・・それと、汚染された月花石か」

「月花石?」

「そういや、みんなに説明してなかったな」


ケイは黒い騎士の件とは別に、エイミーの疑問だった壁の違和感について話をした。月花石はバナハで見た試練の塔の扉でしかみたことがなかったが、今回、復元されたものには、塔全体に月花石が使われている。しかし汚染された部分が気になるが、ひとまずそれは置いておくことにした。


「そうなると、塔の内部が違うわね」

「もしかしたら、目的によって内部の構造が違うんじゃないか?」

「俺もそう考えている。残りの二つも、見てみないことにはなんとも言えないな」


シンシアが内部の構造が異なることを指摘し、レイブンが目的別で建てられたのではないかと推測する。ケイもレイブンと同じ考えを持ち、以前バートに渡した文献の一節を思い出す。


「ヴィンチェ、まだ復元時間あるよな?」

「えぇ。ただしあまり時間はないかと思います」

「それについては心配する必要はない」

「ケイ、まさか上るつもりか?」

「とりあえず、剣があった場所まで行ってみるつもりだ」


アダムの問いに、ケイは調査隊が言っていた剣があった場所まで行ってみると言った。話だけではどういう状況なのかは把握しかねるため、自分の目で確かめて見るべきだと思ったからだ。


「ケイ様、私もいくわ」

「アレグロ、まだ顔色が悪いようだからここで待ってろ」

「で、でも・・・」

「それならあたしが残るよ」


もう一度塔に行くことになったケイにアレグロが自分も行くと行った。しかし、こころなしか顔色が戻っていないため、ここで待つようにと伝えると、アマンダが代わりに残ると名乗り出る。時間が押しているため、アレグロをアマンダに任せ、もう一度塔の内部に向かうことにした。



「じゃあ、準備はいいか?【フライ】!」


ケイに塔を真面目に上る気はさらさらない。

全員に浮遊魔法をかけると、案の定ディナトと副指揮官の男性にヴィンチェ達がそれぞれ声を上げる。こちらの方が慣れるにはコツがあるが、スピードも出るため早く目的地に着くことが出来る。それぞれにちょっとしたアドバイスをした後、副指揮官の案内で剣のあった場所まで飛んでいくことにした。


「ここがさっき言ってた場所か?」

「はい。ここに剣が刺さっていました」


ケイ達が目的の場所までやって来ると、階段横にある壁の一部に大きな亀裂が入っていた。大きさから考えると、縦3m・横1.5mほどあり、なにかを突き刺したかあるいは切り裂いたとみられる。

持っていたランタンでその亀裂を見てみると、下で見た光の通らない部分も一緒に見える。ただし、先ほどより亀裂の部分以外にもそれが顕著に見られた。


「これが、さっき話に出ていた黒い部分か?」

「あぁ。だけどさっきより黒い部分が多い」

「こりゃ、まるでなにかが垂れたような跡だな」

「この黒い部分はなんでしょうね?」


ディナトもヴィンチェ達も、今までに見たことがないのかその部分に関心を向けている。ケイが見上げると、ダニーが言っていたように黒い部分が上の方から垂れ下がった跡が見えた。鑑定には生物が汚染されると死ぬと物騒な内容が出ていたため、先ほど触った時には違和感がなかったが、万が一ということもあるため注意するべきだと思い直す。


「あれ、ディナト様じゃないですか?どうしてここへ?」


そこへ調査隊の面々が下りてくる姿が見えた。まさか国王本人が上ってくるとは思わず各々戸惑いや心配をしている。先ほど声をかけた男性は部隊の指揮官で、副指揮官が簡潔に事情を説明する。



「お前達こそ、どうしたんだ?」

「申し訳ありません。上の方まで上がったのですが、途中で進めなくなってしまいやむを得ず戻ってきました」


調査隊の報告によると、階段を上がるにつれ黒い部分が多くなり、たいまつを増やしても光で照らしている範囲が狭く、足元が見えない危険性が出たため引き返してきたのだという。ケイ達が感じていた予感は、少なからず当たっているということだろう。ディナトは、調査隊に撤退の合図を送ると、部隊は慎重に螺旋階段を下りて行った。


「私たちも行ってみるべき?」

「いや、俺たちも戻ろう。そろそろ復元の時間も切れるはずだ」


シンシアの提案を辞退したケイの言葉通りに、復元された塔全体が魔素の霧散が始まっている。復元された部分が塔のどこからどこまでなのか、ケイ達おろかヴィンチェ本人も把握しかねる。


今回のことでわかった事といえば数少ないが、アレグロとタレナの過去が大きく関係していることと、幻と仮定している黒い騎士は、二人に関係があることだろう。


ケイは、歴史の一端は、大きな道に通じているかもしれないとそんなことを感じていた。


幻の黒い騎士はその内解明します(断言)

気長にお待ちください。


次回の更新は9月9日(月)です。

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