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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
70/359

68、塔の跡地

噂の塔の跡地に行ってみた。

翌日、簡易拠点から塔の跡地に進むことになった一同は、川沿いの道を北に向かって進んでいた。

調査隊の報告では、現地点から1.5kmほど北に広範囲に渡って敷地が広がっており、その場所で建造物の跡らしきモノを発見したとのことだった。



ケイ達がその場所に到着した頃には、ちょうど太陽が真上を向き、昼に差し掛かったところだった。道中、丘や急な坂道など足場の悪い箇所もあったが概ね時間通りだとディナトが言う。


「ここが塔の跡地か?」

「見事に何もないわね」


ケイ達が辺りを見回すと、広範囲に渡って更地に近い状態が広がっている。

よく見ると、建造物の跡らしき壁の一部などが辛うじて残っている。

ケイがそれを鑑定してみると、バナハの塔と同じ月花石が素材として使用されていた。恐らく同じ時期に建てられたとみて考えていい。


「ヴィンチェ、頼めるか?」

ディナトが合図を送り、ヴィンチェがいつでもいいという表情で頷いた。

「皆さーん!これから始めますので、一度敷地の外に出てくださーい!」

ヴィンチェが周りに合図を送ると、それに従うようにその場にいた全員が一斉に退避する。


全員の退避を確認したヴィンチェが、その場所に向かって手を伸ばす。

すこし間を置いてから、空中に発光体がぽつぽつと現れ始めた。

一瞬ホタルのように見えなくもないが、恐らく彼のスキルの効果であろう。


「なんだこれ?」

「ヴィンチェのスキル【復元】だ」

ケイの隣に立っているダニーが説明をする。

「光ってるのはスキルの効果か?」

「いや。正確には、周りにある魔素とヴィンチェの持っている魔力を共鳴させて光の粒子?ってヤツに変換しているらしい」


ダニー曰く、詳しい原理はわからないが【復元】のスキルは、辺り一帯にある魔素を自分の魔力によって変換させる能力があるそうだ。それにより復元による構築出来るようになるということらしい。

ちなみに【修復】のスキルは魔素を大量に消費するらしく、武器防具などの一般的なモノには向くが、建築物になるとうまくいかないそうだ。


イマイチ説明されてもぼんやりとしか理解出来ないため、今はヴィンチェに託すしかない。


ヴィンチェの魔力と共鳴している魔素は、光の粒子に変換され徐々に形が形成されていく。建物の規模としてはだいぶ広く高いようである。


暫くしてから光が収まり、建物の復元が完了したようだ。


眼前には月花石で建てられた高くそびえ立つ塔が見え、バナハで見たモノと外観は瓜二つであることがわかる。


「はぁ~、意外と出来るもんだな~」

「さすが修復士ね」

ケイとシンシアが賞賛の声を口にするが、ヴィンチェ本人は困った表情のままである。

「褒めてくれてありがとう。でも、結果は失敗だよ」

「失敗?完璧に見えるじゃないか?」

「ヴィンチェ、どういうことだ?」

ケイ達おろかディナトやアマンダも、その言葉に首を傾げる。

どう見てもバナハで見た塔と同じなだけに、言葉の意味を理解しかねる。


「実はこの辺りの魔素は質があまり良くなくて、時間が経つと魔素が霧散してしまうようなんだ。その関係でこの塔は3時間ぐらいしか持たないんだ」


どうやら山間にある魔素は、長い間留まった後に徐々に消えてしまうそうだ。

ヴィンチェには魔素の状態が見えるらしく、劣化すれば色が悪くなると言っていた。修復士とは実に奥が深い話である。


「ヴィンチェが気にすることはない。むしろ我々のわがままに付き合わせてしまって申し訳ない」

「デ、ディナトさん!?」

ディナトが頭を下げると、思ってもみなかったのか、ヴィンチェが慌てた様子で頭を上げるようにと返した。その様子を、ダニーとエイミーはいつものことだとまるで親が子供を見る目で見ている。



塔の内部に入ると、ケイ達がバナハで見た塔の内部と同じ構造になっていた。


少し違うといえば、塔の入り口から階段が螺旋状に上に続いており、手すりはなく、階段の片側が壁に取り付けられた状態になっている。


ケイ達とは別に、ディナトが調査隊に外観からの高さを考えて、出来るところまで調査するように指示をする。


その様子を見ながらケイがヴィンチェに尋ねた。

「ヴィンチェ、これはどこまで再現されているんだ?」

「どこまでって?」

「内部にあった物も復元されるのか?」

「どうだろう?今までは壁や扉などは復元できたけど、当時のモノを完全に再現できているかはわからないな」


言われてみても、当時のモノなど誰も見たことがない。

しかし、何かの目的で建てられたことはわかる。


上に続く螺旋階段を見上げ、ケイが何か見えないかと目を細めた。



「上の状態はどうだ!!!」


ディナトが、調査のために階段を上っている一部の調査隊へと張り上げるように声をかける。



『まだ上があるようで、ここからでは何も見えませーん!!』



上部から調査隊の反響した声が返ってくる。

見上げると、部隊が所持しているたいまつの光がいくつか見える。


「時間との勝負だな。なにか見つかればいいんだが・・・」

「ディナト、焦っちゃ見えるモノも見えないよ」

短時間とあって、部隊をまとめているディナトの言葉にアマンダが諭すように呟いた。


ディナト達が調査を続けている間、ケイ達とヴィンチェ達は残りの部隊の邪魔にならないところで各々見ていた。


「エイミー!何があるかわからんからあまり離れるなよ!」

「わかってるって!」

ダニーの忠告を背に、エイミーが壁を見つめながら首を傾げていた。


「エイミーさん、何をしているのですか?」

ケイとタレナが、彼女の行動に疑問を感じ話しかけた。


「この壁が何かおかしいの」

壁の一部に違和感を感じていたが、何がおかしいのかはわからないためしきりに首を傾げている。


「この壁がですか?」

「何もないぞ?」

エイミーに言われ、二人もそちらに注目するが特別変わったものは見られない。


「ん?ちょっとまて」


ケイが何かに気づき、壁の一部に手を触れる。

月花石のひんやりとした感触の他に、ザラザラとした感触を感じた。

一見同じ色の壁に見えるため、ケイが手に持っているランタンをかざしてみる。


「光が反射しない?」


ランタンの明かりを近づけると、月花石の方の壁は鈍い光を放っているが、ザラザラした部分は別の材質なのか黒いままで、まるで光を通さないように見える。


【汚染された月花石】

**によって浸食された月花石。

生物が**に浸食された場合は死亡する。


鑑定をしたところ何かに浸食されている月花石と言うことがわかった。

しかし、鑑定しても肝心の部分が文字化けをしているため表示されず、かゆいところに手が届かない状態を感じてしまう。


ケイ達がディナト達に伝えようと振り返った瞬間、ヴィンチェの叫び声が聞こえた。



「皆さん!その場から逃げてください!!!!」



その声と同時に、上空から何かが勢いよく降りてきた。


それが着地したと同時に内部に強烈な衝撃と揺れを感じ、ケイがタレナをタレナがエイミーを支える。揺れが収まり着地したそれは、幻のダンジョンで見かけた黒い騎士の石像に近いモノだった。しかしおかしなことに何故か姿が透けて見える。


「姉さん!!」


タレナの声にそちらを見ると、黒い騎士の前に腰を抜かした様子のアレグロがいた。


「アレグロ!!」


ケイが黒い騎士めがけて走り出し、飛び上がって蹴りを入れようとした。

黒い騎士はそれを察知したのか、こちらを振り向き大剣でケイの蹴りを防ぐ。

足の裏が大剣の刀身の側面を捕らえ、蹴りの衝撃を受けて大剣にヒビが入ったような音が響く。蹴りが入ったままの足に力を入れ大剣を折ろうとしたが、それを振り払うかのように大剣を振り回す。それを察知したのかケイが退き、拘束魔法を唱えようと次の行動を起こそうとした。



「・・・パテラス?」



その言葉に黒い騎士の動きが止まり、声を発したアレグロの方をゆっくりと向く。

そして次の瞬間、その姿は霧のように忽然と姿を消した。


「姉さん!!」

タレナがアレグロに駆け寄り、無事を確かめるかのように抱きつく。

「アレグロ!大丈夫か!!」

「怪我はない!?」

アダム達も駆け寄り無事を確かめる。

本人はヴィンチェの声に対応できず、衝撃で腰を抜かしただけで無事だった。


ディナトとアマンダも駆けつけ、彼女の無事を確認する。


「みんな、ごめんなさい。私なら大丈夫だから」

突然のことにまだ呆然としているアレグロが、絞り出すように声を出す。

「外に簡易のテントを用意している。彼女をそこで休ませてあげてくれ」

「ディナト、悪いな」

「気にするな」


アダムがアレグロを支え、表にあるテントに運ぶ。

ケイ達も二人の後に続くように、一度塔から出ることにした。

アレグロ危機一髪。

黒い騎士の正体は!?


次回の更新は9月6日(金)です。

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