66、疑問
謎が謎を呼ぶ!?
ケイ達が岬から屋敷に戻ると、丁度夕食時を向えていた。
食事の際に、ハインに明日にでもダナンに戻る旨を伝えた。
ダナンから地下遺跡に入り、数日も連絡がない状態だったため領主が心配している可能性がある。そのため、今回の報告を兼ねての帰還を考えていた。
「そうか。確かに数日も連絡なしでは心配はすると思う」
「そういうことだから、急で悪いな」
「気にするな。それに今回の件で助けて貰った部分もあるし、こちらも考えねばならないことができたからな」
「考えねばならない?」
「エルフ族の在り方だ」
里にいるエルフ達は、あまり他種族との接点がない。
ハインは、今回の地下遺跡でダナンと繋がったことにより、今までのような閉鎖的な環境を続けていくことは難しいと考えていたようだ。里の中にも、同じような考えをする者も少なからず出始めていたため、近いうちに里の者を集めての話し合いを設けると言った。
もちろん、それを否定的に思う者もいるため、いかに互いの価値観を尊重するかという部分が肝になる。
「ケイ、エストアにはダナンに戻った後に向かうってことでいいか?」
「そうなるな」
アダムが確認をし、ケイが肯定する。
他の四人もそれで構わないとのことなので、明日の朝には里を出るという方針になった。
「そういえば、王さまはエストアに何しに行くの?」
会話が一区切りついたところで、ダビアがケイに話しかけた。
ケイはエストアにある試練の塔の跡地に行くといい、バナハで見た塔の特徴を伝える。
「試練の塔ね・・・たぶんそれって【ペカド・トレ】のことかしら?」
「ペカド・トレ?」
「私は見たことがないけど、アスル・カディーム人は【罪の塔】と呼んでいたわ」
ダビアの話によると、試練の塔改めペカド・トレは、アスル・カディーム人が当時の王さまの命により建てられた建造物だと、当時の関係者から聞いたそうだ。
それがなんのために建てられたかは知らないが、重要なものだということは察していたらしい。
「・・・というか、その『王さま』って言い方なんとかならないか?」
「え?なんでですか?」
「俺、別に王様とかじゃないし」
「何を言ってるんですか~【王の証】をしているのに?」
その言葉に、その場の空気が固まる。
全員がダビアに方を向き、何かを言い足そうな表情をした。
ケイは、トレントにも同じようなことを言われたため、何か知っていればと思い聞いてみた。
「もしかして、俺の腕にはまっているこれか?」
左腕のヒガンテ制御装置を示す。
鞄に出し入れする手間が面倒くさいため、アクセサリーとして装着することにした。腕輪は細かい銀細工が施されており、見ようによってはオシャレとして見えなくもない。
「そうですよ!それが大陸を束ねる王の証になるんです!」
「俺の鑑定では、ヒガンテ制御装置となっていたんだが?」
「ヒガンテは、王さましか制御することが出来ない兵のことです。私たちを保護してくれた時に、当時の王さまに仕えていたのを見たことがあります。あ、でも魔力を感じなかったので、どんな原理で動いているのかはわからなかったですけどね」
ダビアの証言を聞いたケイは首を傾げた。
そうなると、バナハの試練の塔で遭遇したヒガンテは、ケイを王と間違えていたとか大陸を束ねる王の意味合いも理解しかねる。
そして、ヒガンテに関して一つの仮説を打ち出したが、それはそっと自分の内に留めることにした。
夕食を終えたケイは、その足で北にあるトレントのいる広場に向かった。
長い間この地にいるトレントなら、他にも知っているのではと思っていたからだ。あの時、ハイン達の居る手前では言いづらいことがあったのかもしれないが、ケイが知りたい事を知らない可能性もある。
明日にはダナンに戻るため、考えていても仕方ないと行動を起こす。
『やはり来ましたね?』
「夜遅くに悪いな~明日には里に出なきゃ行けないから、今のうちに聞いとこうと思って」
特に悪びれもせず、ケイが簡単に挨拶を済ませるとさっそく本題に入ることにした。
「根本的な疑問なんだが、前にいた大陸を束ねる王は誰でどこに行ったんだ?」
ケイは、様々な謎から根本的な疑問を尋ねることにした。
そもそも最初にトレントの口から新たな王のワードが出た時に、一般的に考えれば、地下遺跡を建築したアスル・カディーム人の王を示していると思われがちだ。しかし、試練の塔で遭遇したヒガンテの『主』発言を考えると、アスル・カディーム人に関係がありそうなアレグロとタレナではなく、ケイに王の証であるヒガンテ制御装置を渡したことを考えると、それも腑に落ちない。
それとは別に、地下遺跡の空の棺も気になる。
そう考えると、当時彼らと会っているトレントならその部分を知っているのかもしれないと考えた。
『彼は、飲み込まれたようです』
「飲み込まれた?」
『海の向こうの脅威から皆を守るために、命を散らし闇に飲み込まれたのです』
「それは見たのか?」
『いえ。その時、地下の遺跡から闇の波動と彼の波動を感じました。里を守るために力を使い結界を強めた影響で私は眠りについたため、その後のことはわかりません』
その証言をまとめると、海の脅威から皆を守った王が亡くなりあの場所に安置され、何らかの原因で姿を消したことになる。
そうすると、試練の塔のヒガンテの腕輪の疑問が出てくる。
結局は謎しか残らないため、ケイは頭をガシガシと掻いてから、月が浮かんでいる空を見上げた。
翌日、ハインに見送られケイ達が里を出ようと入り口まで向かうと、彼から一通の手紙を受け取った。
「ケイ、この手紙をダナンの領主に渡してほしい」
「これは?」
「地下遺跡の保護を共同で行いたいという旨の内容だ」
エルフ族にとって他種族は警戒をする対象なのだが、今回の一件で考えを改めることとし、早めに話し合いをしたいと結論づけたそうだ。
賛否はあるだろうが、いずれは直面する問題である。それが早まったと考えると今がその時なのだろう。
「ケイ、その手紙は俺たちが渡してくる」
ハインの後方から、セディルとダビアがこちらにやって来るのが見えた。
いつもの服装ではなく、長距離用の服装と荷物に腰には護身用の剣をさげている。
「どういうことだ?」
「昨日、ハインと話しをしたが、俺とダビアは里を出ることにしたんだ」
「また急な話だな」
「まぁ、ダビアのことでな」
セディルはそう言ってダビアの方を見た。
どうやら里にいることに居心地の悪さを感じており、昨日の時点で意見を出していたそうだ。
そして、自分たちのルーツについて調べてみたいと思うようになり今に至ったわけである。今までハインの護衛や里の見回りなどは、他の者に任せたりすることで一段落ついているという。なんとも手際がいい。
「だから、お前達はこのままエストアに行ってくれ」
「お前がいうなら~」
セディルの発言にケイはそれじゃあと、彼に手紙を託した。
「それならこれを渡して置くわね」
シンシアは鞄からバッチのようなモノをセディルに手渡した。
バッチは、羽根の形に月の紋章があしらわれている。
「これは?」
「ダナンの領主であるケフトノーズ家の紋章よ」
「えっ!?」
ここで、ハインとバッチを受け取ったセディルが目を丸くする。
「言ってなかったかしら?私はシンシア・ケフトノーズ。商業都市ダナンの領主の娘よ?」
そういえばケイもアルバラントの領主・マイヤーからブローチを貰っている。
恐らく意味合いは違うが、役割的には近いものと推測する。
「それがあれば話を聞いて貰えると思うわ」
「で、でもいいのか?」
「気にしないで!そのかわり、私たちは無事だと伝えてほしいんだけど?」
「わかった。それはちゃんと伝えておこう」
セディル達が、シンシアからブローチを受け取り、オランドのところに行っても話を信用してくれるだろう。それほどこのバッチは効力が高い。
ハインと挨拶を交わし、セディルと森の外に出る。
森の外に出たケイ達は、二人に別れを告げエストアへ向けて出発をした。
エルフの森から、久々のドワーフの国・エストアに向かうことになったケイ達。
次回、意外な人物と出会うことに!?
次回の更新は9月2日(月)です。




