65、上位精霊と魔法
セディルとダビアの話。
「で、どういうことか説明してくれるよな?」
アダム達と合流したケイ達は、案の定アダムによる言及がなされた。
仁王立ちでケイ達の前に立つアダムに、ありのままを伝えることしかできないため、先ほどの出来事を伝える。
「ザックリ説明すると、セディルを鑑定した結果、精霊魔法ではなく精霊召喚術がスキルにあったんだ。で、セディルが呪文を唱えたら、ダビアが召喚されたってわけ」
「本当にザックリね」
「だってそれしか言うことない」
シンシアは呆れたと言わんばかりの物言いをしたが、簡潔にまとめるとケイが言った通りの説明しかできないのだ。ダビアのことは、四大属性持ちの上位精霊ということを補足で伝える。やはり珍しい属性のようで聞いたことのないと、アダム達もましてや自然と共同しているハインも首を傾げる。
「四大属性持ちの精霊って聞いたことがないわ。というより、普通の子供に見えるんだけど?」
「上位精霊は、魔力の量よって大きさがことなるの!で、精霊の中でも数が少ないため希少も希少なのです!」
疑問を口にしたアレグロに、ダビアが腰に手を当てて自信満々に答える。
「セディル、私はお前が困っていながらなんの力もなれなかった・・・すまない」
ケイ達の横で、ハインはセディルに頭を下げた。実弟の力になれなかったばかりか、族長という立場を理由に庇うことをしなかった自分自身を深く反省していた。
「気にすんなよ。いつも言ってるが、お前は族長だろう?俺はお前についていくだけだ」
「だとしても・・・」
ハインの言葉を遮るようにダビアが二人の間に立つ。
その顔には、ケイ達が最初に見た排除的な表情が浮かんでいる。
「エルフの分際で、ご主人様に意見するなんておこがましいと感じませんか?」
「ダ、ダビア!?」
「困っている時には手を貸さないなんて、いつの時代も卑しいですね」
確かに先ほど言った通り、エルフに対しては辛辣な物言いである。
そう言っても兄弟であるため、事を荒立てるべきではないと察したケイは三人の仲裁に入った。
「はいはい、言いたいことはわかるがとりあえず落ち着こう!」
「王さま、これが落ち着いていられますか!?」
「まぁまぁ~・・・あんまりセディルを困らせてると嫌われるぞ」
ダビアの耳元でこう助言すると、彼女はハッという表情でセディルとハインを交互に見つめた。
「大変!大変に!不本意ではありますが、王さまとご主人様の顔に免じて!特別に譲歩いたします!!」
ダビアは不服そうな表情でハインに発言をした。
言い方に若干のトゲを感じるが、彼女なりの気遣いということにしておく。
「というわけだ。とりあえず夜も遅いし里に戻ろうぜ」
「そ、そうだな。いろいろ聞きたいこともあるが、詳しいことは明日にでも聞くことにしよう」
ケイの提案にハインが了承する形で、この日は夜も遅いためこのまま里に戻ることになった。
翌日、屋敷の応接室に一同が集まった。
ダビアの様子を見て、エルフに好意的ではない事は少なからず昨日の時点で理解した。初めは、セディルを守るための言動だと思っていた。しかしケイ達には普通に接しているのだが、セディルを除いたエルフ族に対してはあまりいい態度とはいえない部分もあるため、その辺の部分も詳しく聞いてみることにする。
「ダビア、お前を含めた上の精霊はどこにいるんだ?」
「ドゥフ・ウミュールシフです」
「ドゥ・・・?」
「ドゥフ・ウミュールシフ。精霊達が住まう大陸のことです」
そう発言したのだが、ケイ達もハイン達も首を傾げる。
ケイが鞄から地図を取り出し、テーブルに広げてダビアに見せてみる。
「その大陸ってこの地図のどこら辺になるんだ?」
「ん~ここにはないみたいです」
「載ってないってことか?」
「いえ、私は大陸から一度も出たことがないので、正確な位置がわかりません」
広げた地図を一通り見ながらダビアが答える。
「大陸から出たことがない?」
「本来私の家系は、召喚されて初めて契約が成立するのですが、時が経つにつれ召喚されることがなかったので大陸外のことは何もわからないんです」
ダビアの話によると、上位精霊はドゥフ・ウミュールシフという大陸で保護を名目に暮らしていたのだが、いつしか訪れる者もおらず、召喚も行われなかったため、いつの間にか忘れられた存在になっていたそうだ。ただ、召喚されることを解除することはなく、それだけが残った形となったとのこと。
彼女曰く、まさか自分の代になって召喚されるとは思ってもみなかったそうだ。
「でも昨日のケイの話だと、エルフ族は精霊召喚術を使えないって」
シンシアが昨夜の説明を照らし合わせて、不明な点を上げる。
「鑑定に隔世遺伝のためセディルは例外と出ていた」
「隔世遺伝?」
「先祖の遺伝的な要因が親の代で受け継がれず、子供に受け継がれていることだ。一般的には『先祖返り』って呼んでる」
「じゃあエルフであるセディルが精霊を見えなかった理由は?」
「それはご主人様の魔力が一般のエルフより高いため、周りにいた精霊の魔力とうまく合わなかったためです」
ダビアが補足で説明をする。
中位・上位と上がるにつれて必要な魔力の量と質が上がるため、セディルが持っている魔力と、森の精霊の魔力に質の差が出てしまい見えなかったのだろうと語る。
「少なくともハインとセディルの先祖は、エルフ族と他の種族との間に生まれた子孫の可能性がある。じゃなければ、セディルに隔世遺伝の説明がつかない。ダビア、精霊召喚術を扱える種族は他にいるのか?」
「精霊召喚術を扱えるのは魔力量や質が高い者のみなので、特定の種族が会得するということはお答え出来かねます」
エルフを除いた魔力量と質の高い者が対象というわけだが、その部分も納得する材料が不足しているため、この話題は一時保留ということで一旦区切ることにする。
「そういえば、上位精霊はなんでエルフ族を嫌ってるんだ?」
「過去にエルフ族は、自分たちが魔法を会得する方法として精霊を乱獲して使役していたのです。そのおかげで精霊の数が極端に減っていき、見かねたアスル・カディーム人が私たちを保護し、ドゥフ・ウミュールシフで暮らすようにと手配を行ったと伝えられています」
それを聞いたハインとセディルは、複雑な表情を浮かべた。
自分たちの先祖が過去にこのような事を行っていたのかと考えると、その表情も理解出来る。
ケイは、そのことについてはこれ以上話を振るべきではないと打ち切った。
その日の午後、食事をとった後からセディルとダビアの姿が見えなかったため、たまたまその辺にいたエルフに居所を聞いた。
二人は少し前に岬の方に向かったと聞き、そちらの方へ向かってみることにした。
岬に近づくにつれ、破裂音と花火の上がるような音が遠くから聞こえてくる。
ケイが到着すると、汗だくのセディルとなぜか励ましているダビアの姿があった。
「お前らなにやってるんだ?」
「あ、王さま!」
「ケイか・・・実はダビアに魔法を教えて貰ってるんだ」
セディルは昨日の説明で、精霊を介して魔法が使えることを思い出し、ダビアに教えて貰おうとここで練習していたそうだ。
「で、結果は?」
「それが、使えることは使えるんだが」
セディルが息を整えた後、海に向かって風の魔法を放つ。
「風よ切り裂け!【ウィンドアロー】!」
発動された風の魔法が、凄まじい風圧と轟音を上げて海を滑るように飛んでいく。そして数秒たった後、遠くで爆音と煙らしきものが微かに見えた。
「威力が強すぎるんじゃねぇか?」
ケイの口から素直な感想がもれる。
自身も人のことは言えないが、明らかに威力がウィンドアローとは言えないほどの威力を誇っている。むしろ破壊魔法に近い気がするのだが気のせいだろうか。
精霊召喚術を使用できる者は、魔法を発動する際に自身の魔力と精霊の魔力が合わさって発動されるため、質が高ければ高いほど威力が上がっていく。
この状態で魔法を使った場合、地面がえぐれるだけではすまない気はする。
ケイはそう考えると、ダビアの放出する魔力を抑えてみろとアドバイスをしてみた。
セディルとダビアは最初こそうまくいかず何度か暴発を繰り返し、そのたびに森に止まっていた鳥達が慌てて飛び去り、動物たちが怯えてどこかへ去ってしまったりした。試行錯誤の結果、夕方をむかえた時にはなんとか一般よりも少し強いかな~というかたちまで持っていくことができた。
「ケイ、何から何まで助かった。ありがとう」
「王さま、ありがとう!おかげでご主人様も自信がついたようで嬉しいわ!」
セディルとダビアの嬉しそうな表情に、ケイは安堵と疲労が浮かんだのはいうまでもない。
謎が謎を呼ぶ状態に困惑するケイ達。
一進一退の状況に解明される日は来るのでしょうか?
次回の更新は8月30日(金)です。




