63、情報整理と協力
重要な証言を聞き、情報を整理するケイ達。
眠りから覚めたばかりのトレントは、もう少し休ませてほしいと願い出た。
他にもいろいろと聞きたいことはあるが、まだ本調子ではない様子のためケイ達は一度ハイン達の屋敷に戻ることにした。
「アスル・カディーム人か~」
屋敷の応接室へ戻ると、今まで得た情報を元に整理した方がいいと考える。
まずは、地下の遺跡がアスル・カディーム人によって造られた建造物だということ。目的の詳細は不明だが、生け贄を捧げるための場ということを仮定する。
彼らは、海の向こうの脅威から大陸を守るために、自ら犠牲となるしかなかったというわけになる。その彼らが行った方法の結果が、魔道航海士ダットが体験したあの結界の様な霧である。
しかしダジュールの歴史では、1500年前に他の大陸からやって来た人々が歴史の基礎を築いたという内容で語り継がれていることから、この時点から辻褄が合わない。アスル・カディーム人の生き残りが繁栄の基礎を築いたとすると、その記録がないのは不自然である。
そうなると、この大陸の人々は元々住んでいたか、あるいは別の大陸から避難した別の種族又は民族が存在していたのではないかと思ったのだ。
その彼らが、ダジュール人の祖先の可能性は捨てきれない。
そしてもう一つ、ダジュールの管理者であるメルディーナである。
黒狼が言っていた世界をまとめろという言葉は、メルディーナが1500年以上前にこの大陸とは別の場所で何かをやらかし、その結果収集がつかなくなり、なくなく彼女は歴史そのものの隠蔽を行った。しかしそれは完璧とは言えず、アンダラやトレントなどの一部の人物が秘密を知るきっかけになったと察する。
これらはケイの仮説と言うわけで物的証拠や決定打がないため、公にすることもなく、あくまでも自身の内に留めておくことにする。
「ケイはどう思うの?」
思考を巡らせていたケイに、隣に座っていたシンシアが声をかける。
その前後の話をまったく聞いていなかったため、とぼけて聞き返す。
「何の話だ?」
「だ・か・ら~アレグロとタレナの事よ!」
シンシアの口ぶりから、トレントの証言の続きのようである。
「アレグロとタレナがアスル・カディーム人なら1500年も生きられるのか?」
「二人が彼らの子孫の可能性もある」
「生き残りがいたということか?だとしたら、なぜ歴史に語り継がれてないんだ?」
レイブンの意見にアダムが異を唱える。
確かに、二人の言いたいことは理解出来る。
アスル・カディーム人がどういった民族なのかはわからないが、アンダラとトレントの証言から、アレグロとタレナが関連している可能性もある。
しかし試練の塔や女神像の関連性が不明なため、ここで意見を言い合っても仕方ないだろう。
「二人の言いたいことはわかるが、ここで言っても仕方ないだろう?」
「そうよ!一番困っているのは、アレグロとタレナなのよ?」
珍しくケイとシンシアが間に入り、二人に一旦落ち着くように諭す。
「ケイ様、私たちなら心配しないで」
「正直驚きはしましたが、あまり現実味を感じないといいますか・・・」
四人のやりとりに困惑していたアレグロとタレナだが、一番動揺しているのは二人だと言うことは見てとれる。
「ケイ、トレント様が協力をしろと言っていたが、我々は具体的に何をすればいいんだろうか?」
ハイン達も、具体性に欠けるトレントの指示に戸惑いを感じていた。
トレントは何かを知っているか、はたまた何も知らないかいずれにしても再度聞きに行った方がいいという思いに至る。
「せっかくだからハインにひとつ聞きたいんだが、エルフ族は代々この土地に住んでいるのか?」
「あぁ。我々は森の民と言われているからな」
「長生きと聞いているんだが、具体的にどのぐらい長く生きてるんだ?」
「それは個人によって様々だが、大体1500年前後までは生きられると言われている」
「ということは、アンダラはその年代から生きているということになるな」
「今の里では、彼女が年長者になるんだ」
「あれ?ということは、トレンドはそれ以前から存在しているってことだよな?それなら、この大陸のことを知ってるんじゃねぇの?」
「多分そうかもしれない」
以前ハインはトレントから、森自体は遥か昔から存在していたと聞いたそうだ。
その際に歴史について触れたようだが、曖昧な口調をしたため気になって詳しく聞いたが答えてくれなかったと述べた。
「はぐらかしたってことか?」
「もしくは詳しくは知らなかった可能性もある」
「文献とかってないのか?」
「両親の話では、過去の500年前の種族戦争の時に紛失したそうだ」
「こっちもか・・・」
ハインの話を聞いたケイがそう呟く。
「どういうこと?」
「過去の文献や資料は意図的に紛失・抹消された可能性がある」
「ちょっと!どういう意味!?」
ケイの発言に一同が驚きの声を上げる。
「バナハのエミリアの話を覚えているか?」
「確か、塔の資料は内乱のせいで消失したって」
「あれもエルフの里同様に、実は隠蔽のための行動だとしたら?」
「そんなまさか!だとしたらなんのためなんだ?」
アダムが一度否定するが、今までの疑問からか逆に問い返す。
「歴史の中に不都合な出来事があった、と俺は思っている」
「誰がなんのために?」
「それはまだわからねぇけど、1500年より前の資料・文献がまるっとないっておかしいと思わないか?俺のいた国だって、どこの誰がやってきて国やら歴史の一端を担ったとか調べりゃわかるぜ?」
とはいっても、テレビやネットでかじった程度の情報である。
しかし専門家の日々の研究である程度までは解明・推測されているはずだ。
本来であれば、この世界もこういった解明は進んでいるべき案件である。
「意図的にそうさされたということか。歴史を知れば、我々も考えを改めねばならないということか・・・」
「はっ!歴史がどうであれ、俺たちは里を守らなければならないんだぞ?第一、証拠も何もないじゃねぇか!?」
ハインは一人で納得した表情をしたが、隣にいる弟のセディルは納得いかない表情をしている。
対照的な二人の反応に、ケイは当然だなと思ってはいた。
「ハイン、俺は協力しねぇぞ」
「セディル、なぜなんだい?」
「いくらトレント様の命でも、相手は人間だ。どこまで本気で言っているのかわからねぇんだぞ?それに親父達が死んだのも人間達のせいじゃねぇのか!?」
「セディル、待つんだ!」
セディルは付き合い切れないといった表情でソファーから立ち上がると、ハインの言葉も聞かないまま応接室を出て行ってしまった。
「出て行っちゃったな」
「セディルの発言で気を悪くしたら申し訳ない」
ハインがケイ達に頭を下げて謝罪を述べる。
ケイは気にしないと言い、ハイン達の両親について聞いてみた。
「私たちの両親は、300年前に現れた魔王の討伐に参加をしていたんだ」
当時、魔王討伐部隊に魔法専門として軍を率いていた二人の両親は、魔王を討伐する際に死亡したそうだ。その攻撃で致命傷を負った魔王は無事に討伐部隊によって討伐されたが、それを知ったセディルは、それ以来、軍を指揮していた人間に強い恨みを抱いていたそうだ。
セディルが魔法を苦手とするのも、魔法を使っていた両親を庇わなかった人間のせいだと決めつけ、自身が強くなれば自分の身や仲間のを守れると思ったからであると考え、あえて魔法を選択しない道に進んだとハインは言った。
「セディルの話もわかるが、こればかりはなんとも言いづらいな~」
「魔法を選択しないエルフも存在するのですね?」
ケイとタレナが不思議そうな顔をする。
「セディルはあぁ言ってるけど、問題は別にあるんだ」
「ん?どういうことだ?」
「セディルは、生まれつき精霊を見ることができないんだ」
ハインの話によると、一般のエルフは生まれてすぐに精霊を見ることが出来るそうで、事実ハインも物心つく前に精霊と心を通わせていたらしい。
しかしセディルは、精霊の姿も気配も察することが出来ず、一部では『落ちこぼれ』と言われ続けて今に至ったそうだ。
要は、グレて不良になったということである。
「私としては、弟にも魔法が使えるという自信を持ってほしいのだが・・・」
兄だけは弟の可能性を信じたい。
ハインは、そんな面持ちでセディルが出て行ったドアを見つめていた。
協力拒否のセディルには、魔法が使えないという問題があった。
ケイ達はそれをどう解決するのか?
次回の更新は、8月26日(月)です。




