61、遺跡を知る者
遺跡に関しての手がかりについて。
ケイ達が出てきた穴を他のエルフ達に警備を任せ、ハインとセディルの案内で森の中央にあるエルフの里に向かった。
「ここが我々の里だ」
森の中心にぽっかりと開けた場所が広がっている。
里を囲む木製の柵をくぐり抜けると、里のあちらこちらに木の上に家が建てられ、いわばツリーハウスのような建物が点在している。
ケイ達が里に入ると、他のエルフ達から困惑の眼差しを感じる。
「この里は人間とか他の種族は来るのか?」
「いや。基本この森には、他の者が立ち入らないように特別な結界を施しているんだ」
過去の種族紛争によって閉鎖的な環境を作り出しており、他の種族との関わりは薄いという。現在は全員が全員ではないが、それが嫌で里を出た者もおり、そういった者を『シティエルフ』と揶揄しているそうだ。
ケイ達は、中央の大木に建てられた大きな屋敷風の家へと通された。
この家は、族長であるハインとセディルの住居で、二人の他に召使いが六人ほどいるそうだ。全員美男美女ぞろいである。
応接室に通されたケイ達が腰をかけ、対面にハイン達が座る。
召使いの女性が人数分の紅茶をローテーブルに置き、退出した後でハインが話を切り出す。
「さっそくだが、ケイ達が通った遺跡というのはいつ頃発見されたのか?」
「遺跡が発見されたのは、ごく最近だと聞いている。確か修復士のヴィンチェという男が偶然発見したって言ってた」
その言葉にハインが何かを呟いたが、ケイ達には聞き取れなかった。
「ヴィンチェっていうヤツを知ってるのか?」
「あぁ。彼とは、以前セディルの件で世話になってね」
「ハ、ハイン!そのことはいいじゃねぇか~」
その話題になると、セディルが焦った様子でハインを制止するそぶりをする。
ケイは、二人の様子を見てから聞いてもいいのかと考えたが、ハインは隠すことはせずに話を続ける。
「彼は、我々が施している結界を修復したんだ」
以前、セディルが不注意で里に施している結界を壊してしまったそうだ。
その時、偶然森に迷い込んだヴィンチェに結界を修復して貰い、以来彼とは顔見知りだと語った。
「結界ってそんなに簡単に直せるものなのか?」
「特殊な方法を用いているので、すぐに直せる者ではないのだが、彼はそれをあっという間に修復してしまったんた」
その時の様子をハインも見ていたので間違いはないという。
まるで仙人のような人物と思うと同時に、ヴィンチェに関して妙な違和感を感じた。
「ところで、ハイン達は地下遺跡の事は知らなかったと言っていたが、他に知っているヤツはいるのか?」
「どうだろう?我々も初めてのことだから、もしかしたら知っている人物が里にはいるかもしれないな」
「じゃあ、里の中で一番年上なヤツはいるか?」
「なぜそんなことを聞くんだ?」
「あの遺跡は、大体1500年より前に造られた可能性がある。エルフは長命だから、もしかしたらそいつが知っているのかもしれないと思ったんだ」
ケイの疑問にハインとセディルが首を傾げる。
二人に過去の歴史に関係があると話し出してから、持論を兼ねた説明を詳しく行う。
「だからか。実はそれとは別に、風の精霊からエストアにもダナンにあった試練の塔の後が見つかったと聞いたよ。カレ等の話では、フリージアの北にあるスアン渓谷とルフ島のヴノ山の内部に似たような塔の跡があるとも言っていた」
「ケイ、それじゃ・・・」
「あぁ。恐らく四つの塔の残りの二つは、それだろうな」
シンシアがケイの方を向き、確認をするように声をかける。
同じ時代に建てられた四つの塔の位置を把握出来たことで、時間があればそちらにも寄ろうと思った。
「ハイン様、お取り込み中の申し訳ありません」
別の召使いの女性が、一礼をしてやって来る。
「どうした?」
「面会を求めている者がいるのですが・・・」
「誰なんだ?」
「アンダラです」
セディルが首を傾げ、ハインにどうするのかという表情をする。ハインは困惑した表情で召し使いに断りを入れる。
「今は来客中だ。こちらから伺うと返してくれ」
「そ、それが・・・」
煮え切らない態度の召使いにセディルが追い返せと即すと、ハインがそれを制して何かあったのか尋ねる。
「遺跡から出てきた者と話しがしたいと・・・」
そう言ってケイ達を示した。不意打ちを食らったケイ達は、疑問の表情で仲間同士で顔を見合わせてからハイン達の方を向いた。
「風の精霊から来客の事を知ったようで・・・」
申し訳なさそうな表情で女性が説明すると、ケイはその女性と話してみようとハインに持ちかける。
「ハイン、そいつと話しをしてもいいか?」
「ケイ達がいいというなら」
ハインは戸惑いながら断る理由もないため、彼女をこちらに案内するよう言付けると召使いは一礼をしてその場を去る。
「そういえば精霊ってそんじょそこらにいるモノのか?」
「精霊は自然の中でしか生息していないんだ。それはエルフ族しか見ることが出来ないといわれている」
自然界に属している精霊の中には、風の精霊のように自由に飛び回れる存在もいるため、閉鎖的でも比較的他国の情報などが耳に入りやすいといわれている。
少し間を置いて、召使いの女性が一人の人物を連れてやって来た。
小柄で白髪の年配女性だった。
外見では七十代ぐらいであろうか。
足が悪いのか、召使いの女性が支えになりゆっくりとソファーに腰を下ろす。
「アンダラ、話しがあると言っていたが?」
「はい。風の精霊から、岬の地面から人が出てきたと聞いてやって参りました」
アンダラは風の精霊と契約をしているエルフで、たまたま精霊から話しを聞いたと述べた。
「あんたの尋ね人は俺らのことだな。で、なんの用だ?」
「あの遺跡には、何があったんですか?」
「何もなかったが、あんた何か知ってるのか?」
彼女の疑問に疑問で返すケイ。直感的に彼女は何かを知っていると感じる。
「消えた彼女の事が気になっていまして・・・」
アンダラはそう言って顔を伏せた。
消えた彼女とは一体誰のことなのか?ケイはそんな彼女に質問をしてみることにした。
「消えた彼女って誰のことだ?」
「あの地下に住んでいた少女のことです」
「住んでいた?」
「彼女はそう言ってました」
「それっていつのことだ?」
「私が幼少の頃です」
彼女の話では、地下に住んでいたとおぼしき少女とは岬で数回出会ったそうだ。
「俺たちが通った時には何もなかったぞ?」
「・・・そうでしたか」
アンダラは、当時の事を思い出したのか悲しそうな表情をした。
「ケイ、確かミクロス村の遺跡の時も人が生活していた跡が残っていたよな?」
「あぁ。恐らくここでも生活していた人々がいたんだろう」
「それが通れなくなった通路の跡なの?」
「多分な」
ケイとアダムが見たミクロス村の地下遺跡の様子と、ダナンの地下遺跡には共通する部分が多いことから、恐らくここでも人が住んでいたのではないのかと推測する。
「アンダラ、そいつは他に何か言ってなかったか?」
「彼女は『自分は生け贄のために命を捨てなければならない』と言ってました」
「い、生け贄!?」
シンシアが驚きの声を上げる。
アンダラと会った少女は、自分は王のために命を捧げることを義務づけられていたと語ったそうだ。人柱に近いような発言だが、なんのためなのかは教えて貰えなかったと語った。
「そういえば彼女は、お二人によく似ていました」
アンダラは、アレグロとタレナを示す。
「えっ?私たち!?」
「その方と私達がですか?」
「褐色の肌に珍しい髪の色と青い目が印象的だから、よく覚えているわ」
懐かしむような眼差しで二人を見つめるアンダラに、ケイは、もしかしたらその少女はアレグロとタレナの祖先か関連のある人物なのかもしれないと悟る。
それに遺跡に関しては、住居兼何かの施設である可能性も出てきた。
少女の語った王とは誰のことなのか?そして生け贄を捧げるとはどういうことなのか?知れば知るほど謎が深まっている気がした。
「ハイン様!」
その時、別の召使いがこちらにやって来る。
相当急いでいたのか息を切らせている様子だった。
「どうしたんだ?」
「それが、トレント様が・・・」
慌てた様子の召使いに落ち着くように諭すと、息を整えた後に発言する。
「トレント様が目を覚ましました!」
その言葉にハインとセディルが驚愕の表情をした。
更新が遅れて申し訳ありません。
次回の更新は、8月22日(木)になります。




