59、ダナンの地下遺跡
ダナンの地下遺跡の回
翌日ケイ達は、領主の屋敷から地下遺跡に続く入り口に向かっていた。
「遺跡の入り口ってここか?」
遺跡の入り口は西の港の一角にあり、そこには既に二人の兵士が警備についていた。
この場所は、普段は資材置き場になっているらしく、人が滅多に立ち入らないそうだが念のための警備をつけているそうだ。
「パーティ『エクラ』の皆様ですね?お話は領主様から聞いております」
「話が早いな~」
予め話がついていたようで、二人の兵士が礼をする。
「噂の遺跡はここでいいのか?」
「はい。修復士のヴィンチェ様が偶然発見したと伺ってます」
どういう経緯で入り口を見つけたのは定かではないが、一見普通の横穴で中を覗くと暗闇しか見えない。
「だいぶ暗いけど大丈夫なの?」
「今のところ危険性は確認されておりません。しかし、途中に下に続く階段がありますので、明かりが必要になるかと思われます」
不安そうなシンシアの言葉に、兵士から魔物が出現したと聞いていないため問題はないと答える。
たいまつがあるかどうかと聞かれたため、予備に持っていると丁重に断り、ケイ達は明かりを片手に中に入っていった。
「やっぱり暗いな」
「レイブン、松明があるならつけてくれ!」
「わかった」
入り口から数十メートルしか歩いていないが、思ったより内部が薄暗かったためケイのランタンだけでは足りず、アダムとレイブンが所持をしているたいまつにも明かりをつけることにした。
「階段があるから気をつけろよ!」
先頭にいるケイが後方の五人に声をかけてから、階段を慎重に下りた。
人数分の足音が響き渡り、ランタンと松明の明かりだけが彼らを包み込む。
壁は一面石で積み上げられた石垣で造られており、いかにも人工的な事がわかる。幅は一人分より少し余裕があるが、雰囲気からして本道ではないのだろう。
「ここは・・・?」
体感的に階段を50段下りた辺りで、開けた場所に着いた。
ここもミクロス村と同様に、壁や天井が青銅で造られ、所々に何かの建造物らしき跡が見える。
「ケイ、ここは・・・」
「あぁ。幻のダンジョンやミクロス村の地下遺跡と全く一緒だ」
「同年代に造られたってことか・・・」
ミクロス村の時にも一緒にいたアダムが唸る。
開けた場所には来た道とは別にいくつか道が見える。
来た道の反対側に道が一つ、来た道の隣に幅の広い通路と少し狭い通路が一つずつある。しかし、同じ並びにある通路は瓦礫に埋まっており入ることが出来ない。
「ここはなんの場所なんだ?」
中央には、何かが置かれていたとおぼしき台座の跡が残っている。
ケイがその場所に立ち足を鳴らすと、石の台座がしっかりした感触を感じる。ここは何かの場所だということがわかるが、これといった物や情報が見つからない。
「幻のダンジョンにも似たような場所があったわよね?」
「確かに雰囲気は似ているな」
壁を眺めていたシンシアとレイブンが、ケイの方を向く。
「ケイ様、奥に通路があるわ!」
奥の通路に立っているアレグロが呼ぶ。
ここには特にめぼしい物がないため、アレグロの方にある通路に向かうことにした。
直進が続く通路を歩いていくと、本来続くであろう通路の跡が所々に見えた。そちらも、先ほどの通路と同じように瓦礫で埋まっている。
「ここは一体何の遺跡なんだ?」
「お父様の話だと、年代的には1500年ぐらい前のものだといわれているそうよ」
「その時何か見つけたのか?」
「この通路の先に、何かの石像がいくつか立っていたって言ってたわ」
先日の調査団の報告だと、横並びにある石像と開かずの扉の報告があったそうだ。
広さと年代物のわりには思ったように情報が得られず難航していたと言っていたそうだ。しかし裏を返すと、知られたくないのではないのかと疑う。いわば秘密基地的な場所ともとれる。
長い通路の先には、先ほどより少し広い場所に出た。
そこも青銅で造られており、両端には鎧を着た石像が五体ずつ並んで立っている。また、奥には重厚な背の高い二枚扉が見える。
「シンシア、言ってた石像ってこれか?」
「そうみたい」
近づいて見てみると、2m前後ある石像は全て同じ鎧を着た兵士を模したもののようだ。
キリッとした表情に目線は前を向いている。正直、今にも動き出すのではないかと思ったがそういうことはなさそうだ。幻のダンジョンのように急に動いて襲ってくるようなことは勘弁してほしい。
「タレナ大丈夫か?」
「えっ?は、はい。大丈夫です」
遺跡に入ってから極端に口数が少なくなったタレナをアダムが心配する。
それを見てケイも声をかけた。
「タレナ大丈夫か?気分が悪かったら一旦戻るか?」
「い、いえ。大丈夫です・・・ただ」
「ただ?」
タレナが奥の二枚扉に目線を移す。何かが気になるようでそれ以上口を開かなかったが、ケイは彼女の意向を汲んでそちらに行ってみることにした。
「でっかいな~」
奥の扉は、近くで見てみるとかなり大きいことがわかった。2m弱ある石像から考えると、約3mはあろう扉はランタンやたいまつの反射で鈍い光を放っている。
手で触れてみると、金属に近い冷たい感触を感じる。1500年も経っているにも関わらず錆びなどの形跡が一切ない。そしてここにも鍵穴やドアノブが存在していない。
「調査隊の話だと、ここが開かずの扉になるそうよ」
シンシアが聞いた話だと、調査隊はこの場所まで来たが押しても引いても扉が動かなかったため調査を断念したそうだ。現地に住んでいる専門家も資料や見たことがないものばかりで頭を悩ませているとのこと。
「扉が開かないって調査の意味ないじゃん」
「なるべく遺跡を保存しておきたいんだろう」
ケイの隣で、アダムが手の甲で扉を軽く叩くが扉が分厚いのか鈍い音しか出ない。
今までの出来事から考えると、蒼いペンダントに関係があるのではないかと思い取り出してから扉に近づける。
「やっぱり」
その扉も蒼いペンダントと連動するように、光り出しそして収まると同時に扉が大きな音を立てて内側にゆっくりと開く。
「ひ、開いたわ・・・」
「そのペンダントがないと駄目ってことか」
唖然とするシンシアと納得するレイブンを余所に、ケイが奥へと足を踏み入れた。
『・・・王の帰還だ・・・』
『・・・我らの王に忠誠を・・・』
『・・・我が国に繁栄を・・・』
複数人の声がケイの耳に届いた。後方から聞こえてきたため、勢いよく振り返る。
「きゃっ!ち、ちょっとなんなの!?」
ケイが急に振り返ったため、後ろに居た五人が一斉に驚く。真後ろにいたシンシアに至っては、驚いて後ろにいたレイブンにぶつかる。
「なんか言ったか?」
「いや、何も言ってないが?」
アダムとレイブンが顔を見合わせ首を振る。アレグロとタレナも何も言っていないと同様の反応を返す。
首を傾げたケイが、先ほどまでいた場所を覗いてみるが特別変わったことはなく石像にもこれといった変化はなかった。
奥の部屋は、要人がいた部屋らしく中央に玉座らしき物が鎮座している。ランタンで周りを照らすと所々に装飾の跡が見え、恐らく金で施された部分は色が変色していたり剥がれていたりと相当の年代を感じる。
「ケイ、何座ってるの?」
「何ってあったら座りたくなるじゃん」
こめかみに青筋を立ててシンシアが、中央の玉座に座り足を組んでふんぞり返っているケイに尋ねる。
「それにしても、1500年も経ってるのにホコリがないことに驚くな~」
「遺跡といえば汚れがあったりしてるけど、ここはそうでもないわね」
「むしろ塵一つないってやつ」
他のメンバーも同じ事を思っていたようで、恐らく密閉された中で風化はあれど汚れがないのはそれが原因なのだろう。
「ここもめぼしいもんはないな」
「あっても調査団が回収ちゃったんじゃないの?」
「かもしれないな。なんて言っても遺跡の広さに最低でもあと数回は調査に来るとは思うぞ」
ケイが立ち上がり、室内を見ていたアダムとレイブンもこちらにやって来る。
「あれ?アレグロとタレナは?」
ここでケイがアレグロとタレナの所在を問う。アダム達も辺りを見回すが姿が見当たらない。
「でも、一緒に入ってきたわよね?」
「そういえば、二人が奥に向かっていくのが見えた気がしたんだが」
レイブンが指す先に、奥に続く通路が見える。二人は明かりを持っていないはずなのだが、暗闇の方にむかったのだろうか?
玉座に夢中になりすぎて気づかなかったケイが、そちらに向いて大声を上げる。
「アレグロー!タレナー!返事しろー!!」
問いかけをしてから、四人が耳を澄ます。
よく聞くと、遠くからかすかに革靴の音が二人分聞こえる。
「やっぱり先に行ったか!」
「ちょっと待ちなさいよ!!」
ケイが奥に続く道を急き三人がその後に続く。
開かずの扉から未調査のため魔物やトラップがあるかもしれないが、それ以前に二人の行動が妙に気になった。
細い通路を全力で走った先には、広大な空間が広がっていた。
先ほどの場所とは違い装飾品などがほぼなく、平面な空間が広がっている。中央の見ると、棺の様なモノを見下ろしているアレグロとタレナの姿があった。
「アレグロ!タレナ!」
ケイが二人の肩を掴みこちらに向かせる。焦点が定まっていないのか、軽く数回揺さぶるとようやくこちらに気がつく。
「・・・あれ?ケイ、様?」
「・・・何故、ここに?」
二人とも怪我はないが、無意識にここに来ていたようだ。遺跡に入ってから二人の様子がおかしいと思っていたが、まさかふらっとどこかに行ってしまうとは思ってもみなかった。
「ふらっとどっかにいくなよ~心配したろ?」
「ごめんなさ~い」
「申し訳ありません。何かに呼ばれたような気がして・・・」
その間の記憶が曖昧だったようで、タレナが感じていたモノはケイが聞いた声と何か関係があるのだろうか?どちらにしても現段階ではわからないため、とりあえず今は脇に置いておくことにした。
「二人が無事ならいいよ。で、これはなんだ?」
二人が見下ろしていた棺らしきモノに目を向ける。風化しているようだがこちらも目立った傷や傷みはみられなかった。
「なんか入ってるのか?」
「あ、おい!?」
遺体であろうと棺が気になるケイは、アダムの制止も聞かずに勢いよくそれを開けることにした。スライドした棺の蓋が開き、中を覗いたケイが疑問の声を上げる。
「なんだこれ?」
手を入れてそれを取り出すと、それは手のひら大の小さい壺だった。
色はグレーでなにかの模様がついており、両側に取っ手とコルクの様な栓がされている。
「飲み物か?」
だとしたら飲まないことをおすすめするが、一度気になり出したら調べたいのか躊躇なく壺の栓を抜くと、壺からボンッと音を立てて煙が舞った。
「ゲホゲホ!・・・ケイ、なんで開けるんだ!?」
「ゴホゴホ・・・鑑定かけてから対応しなさいよ!」
「あ、ごめん」
栓を開けたケイにはあまり降りかからなかったが、正面にいた五人がその煙を直に被ってしまった。幸いにも髪や服・防具の汚れはなかったが、念のため壺に鑑定をかけてみることにした。
【スキルポット(空)】 スキルが入っていたが現在は空である。
その表示にケイが首を傾げる。空ということは中身が入っていたのか、はたまた元々なかったのかはわからない。念のため五人を順番に鑑定してみた。
【縛り無効】拘束系のスキルや魔法や関連アイテムの効果が無効になる。
「なぁ、縛り無効の効果があるんだが元々あったやつか?」
「はぁ?それはないぞ」
「私も持ってないわ」
全員が同じスキルを所持していることは希のため、恐らくこれがスキルポットの中身なのだろう。実害がないようなので、一応五人に伝えておく。
「この壺は『スキルポット』と言って、これにはスキルが入っていたみたいだ。みんながかかったのは【縛り無効】の効果で実害はないと考えている」
「実害がなくても、何故開ける前に確認しなかったのよ!」
「今回は運がよかったが、呪いなんてかけられたら目も当てられないぞ」
ケイの首元を掴み前後に揺さぶるシンシアに、呆れて物も言えないアダムに、乾いた笑みを浮かべるレイブンとアレグロとタレナ。
ちなみにケイ本人にも少量だがかかっていたようで、もれなくみんなと同じスキルが付与されていた。
「まぁ、次から気をつけるよ」
「次、破ったら殴るわよ!」
揺さぶられ続けるケイに、シンシアから次回の鉄拳予告を受ける。
シンシアを宥め、一段落したところで他にめぼしいところはなさそうだったため、来た道を戻ることにする。
「ケイ様、まだ奥に通路があるみたいよ?」
「まだあるのか?」
ケイがアレグロの指した通路に目を向ける。正直だいぶ奥まで来た気でいたが、まだ続くとなると正直この辺で一旦戻りたい気持ちになる。
「奥から微かですが、風が吹いているようです」
「外に出る道があるってことか?」
首を傾げ通路の方を見てみると、確かに微かに風が吹いている。
「もう少し様子を見てみるか?」
「そうだな。とりあえず遺跡自体これ以上は何もなさそうだし、外に出られたらそこからダナンに戻るか」
アダムの問いに首を縦に振ると、ケイ達は外に通じているらしい方向に歩くことにした。
更新がズレて申し訳ありません。
諸事情により次回の更新は8月16日(金)になります。
細々と活動してます。




