58、女王陥落
無敗の女王と直接対決!
階段を上がってきたのは、先ほど一階にいた青いイヤリングに緑の髪と赤い目の女性だった。
彼女が無敗の女王・エリザである。
「あなた噂になっているわよ?ルーレットを全て一点で当てたって。だから興味が湧いて来てみたの」
「そう。でも俺の知っているゲームはあんまりないから、これを食ってから帰ろうと思ってたんだけど?」
ケイがそう言うと、エリザは夜はこれからなのに勿体ないわと言った。
「俺はプロじゃないから、ほどほどがいいんだよ」
「何を言ってるの?他人が引くぐらい荒稼ぎしてたじゃない?」
呆れたという様子のエリザに、ケイがそうなのか?とサンデルに問いかける。
「現金で換算しますと、大体500万ほどになるかと」
隣にいたシンシアが、驚きのあまり飲んでいた果汁酒を吹き出した。
「ちょっとシンシア大丈夫!?すみませ~ん、拭く物を貸してください!」
向かいに座っていたアレグロがウェイターからタオルを受け取り、ケイはそれを横目に話を続ける。
「で、どのぐらい賭けるんだ?」
「全部よ」
はぁ?とケイが返すと、ギャンブルというのはそういうモノよと付け加えられる。
正直ギャンブルジャンキーだが、これを主としている人間にとっては当たり前の感覚である。
「あんたは、ゲームのルールがわからないやつと勝負するのか?」
「大丈夫。私が遊んでいるモノは簡単なものだから」
エリザがケイを誘惑的な表情で見つめる。
断ることも出来ず、ケイはエリザにズルズルと引きずられていった。
一階の一部のスペースを使い、二人の勝負が行われることになった。
周りにはその勝負を見ようとギャラリーが集まっており、シンシアとアレグロは心配のあまり止めようとしたが、ケイに説得されて大人しくしている。
「で、なにすんの?」
「『カウンティングゲーム』よ」
ルールはいたってシンプルで、0~64の番号のついたカードをディーラーがそれぞれの分のカードを引き、数を当てるというモノ。当たれば配当金は10倍になり、負ければ全てなくなる。
「本当に一発勝負だな」
「これならあなたでもできるでしょ?」
エリザがケイに挑発的な物言いをする。
しかしこれこそ、彼女の得意分野で何人も地獄に陥れた勝負である。
「当たればデカいが負ければ破滅ってことか」
「だからギャンブルは止められないのよ、それじゃ初めて頂戴」
エリザの合図で勝負が始まる。
ディーラーが選んだカードがそれぞれ二人の前に置かれる。
カードは青色に白枠が施されている。
「では、予想をお願いします」
ディーラーの合図で、同時に予想を立てる。
「私は34」
「俺は0」
二人とも迷わず数字を出し、ディーラーがカードを裏返す。
カードには『34』と『0』の文字が出る。
周りから大きな歓声が上がる。
「スゲーぞあいつ!」
「エリザ様と引き分けなんて初めて見るぜ!」
周りの反応を見ると、どうやら初めてのことらしい。
シンシアとアレグロは当たったことに安堵の表情を浮かべる。
「これって何本勝負?」
「だいたい一回で終わりなんだけど、もう一回しましょう」
エリザは不思議な表情で、カードとケイを見つめる。
同じようにカードが配られ予想する。彼女は『14』でケイは『48』と二人共当たる。
周りの歓声が一際大きくなり盛り上がる。
ケイは向かいに座っているエリザの表情を見た。
彼女はポーカーフェイスをついているが、わずかだが目線が左右に揺れている。要は動揺しているということだ。
「エリザ、もう一回するか?」
「え、えぇ。お願い」
三回目もケイは『2』でエリザが『24』と予想し、それも当たる。
歓声は二人の勝負に盛り上がり、一種のお祭り騒ぎとなる。
しかしエリザだけは、周りの反応とは逆に焦りの表情が出ている。ポーカーフェイスもたいしたことないなとケイが思った。
周りが盛り上がる中、勝負は引き分けという結果になった。
「勝負はドローだけどどうすんの?永遠と終わらないぞ?」
「そ、そうね。今回は引き分けということにしましょう?」
ケイが終わったと思い席を立つ。それを見て、わずかだがエリザの表情に安堵がみえる。
彼女の態度を見て、ケイはあることを確信した。
「なぁなぁ、そのカードって他のと違うけどなんで?」
「こちらは、エリザ様がVIPなられた記念に作製されたものです」
この店で使用されているカードは、通常赤色に白枠で店のオリジナルカラーとなっている。
「VIPになるとこういうもの作ったりするのか?」
「開店以来初のことでしたので、今回のみ特別に作製しました」
サンデルが補足をする横で、ディーラーの男性が持っていたカードを見せて貰う。
ケイがカードを表裏にしたり感触を確かめてみると、なめらかな表面に光沢感があり上質な素材だということが窺える。ちなみにカードの青色はエリザのイヤリングの色から連想させたそうだ。
「これがほしいの?」
「いや、そういうわけじゃない」
隣で見ていたシンシアが不思議そうな顔で問いかけるとケイが首を振る。横目で彼女方を見ると、触れてはいけないような表情を見せている。たぶん想定通りでありケイが気づいたことも感づいているだろう。
「ただ、これ仕掛けがあるからどうなのか?と」
シンシアの問いににケイが言葉を続けると、騒然としていたギャラリーが一瞬で静まりかえる。
まさか、そんなことをいうなんてだれが想像したであろう。ケイはそんな雰囲気をものともせずカードを器用にシャッフルした。
「今・・・なんていったの?」
「このカード仕掛けがあるっていった、じゃあ一枚引いて!」
言葉と同時にシンシアの前に裏向きでカードが広げられる。
シンシアが一瞬ケイの方を見てからカードに目線を移し、一枚だけ引く。
「そのまま裏返しで、俺が引いたカードを当てるぞ」
「な、そんなの無理じゃない!?」
「【47】!」
ケイがそう予想をして、シンシアに裏返しにするようにジェスチャーで伝えると、彼女は言われたとおりにカードを返した。
「うそ・・・」
「ケイ様、どういうことなの!?」
シンシアとアレグロが目をパチパチとさせている。まるで信じられないといった表情だ。
二人が驚くのも無理はない。なぜなら、ケイが予想したとおりカードには【47】の文字が出ていたからだ。
「なんでわかったの!?」
「そんなの簡単。見えたままを言っただけだ」
「どういうこと?」
実はケイには、カードが裏にも関わらず数字が見えていたのだ。
そのからくりを明かすべく、ケイがサンデルに室内の明かりをもう少し明るくしてくれと指示をした。
その後すぐに館内が明るくなると、ケイが二人に裏向きでカードを見せた。
「つまりはこういうこと」
「これって!?」
「そういうこと!」
ようやくシンシアとアレグロが気づき、ケイが意地悪そうな笑みを浮かべる。ケイが手にしているカードには、裏側の青い部分がみんなの方に向けられている。
「シンシアとアレグロはもうわかったかと思うが説明はしておこう。要は青色の部分の一部に微妙に色を変えているんだ。一見裏全面青色に見えるが、よく見ると数字が描かれている」
近くではわからないが、よく見るとその青い部分がわずかだが色が違う事がわかる。薄い部分には表のカードと同じ数字が書かれているのだ。
「人の目で認識できる色って言うのは、条件が良ければ大体750万、通常だと約187万ぐらいと言われている。それは人間での基準で、他の種族だと認識できる数が多いと言われている・・・エリザのようにな」
「だ、駄目!」
ケイがそう言ってエリザの前に立つと、彼女の耳についている青いイヤリングに手をかける。
エリザが血相を変えてそれを阻止するが、くしくも彼女の耳からイヤリングが取れた。
その瞬間、その場の全員が驚きの表情と声に変わった。
なぜならエリザは人間の姿ではなく、鳥類特有の姿をしていたからだ。
「ちなみに鳥類やカエルなんかは、人より見える色の数が多いし夜間でも飛行することがあるから、彼女も種族的な特徴で夜間などの暗い場所でも平気だったわけ」
ケイがエリザの方を見ると、悔しい表情を滲ませている。
まさか無敗の女王が獣人の鳥類だったとは誰が想像したであろうか。
「このイヤリングは、姿を偽装するマジックアイテムだ。自分姿を隠してギャンブルに参加していたということ」
「無敗の女王を名乗っていたってワケ!?」
「それってズルじゃない!?」
シンシアもアレグロも、エリザのしていたことが反則行為だったと指摘し、周りも彼女に向かって様々な否定的な言葉をかけた。
「ケイ!もしかして初めから気づいてて?」
「当たり前だろう?」
「いつから?」
「彼女が他の客と勝負をしてた時さ」
実は、その時点からケイはカードの違和感に気づいていたのだ。間接照明が中心の館内で人の目では微妙な色合いを識別することが難しい。
そこで違和感を検証するべく、暗視のスキルを作製した。暗視のスキルを使用すると、昼の状態と同じように見えるため色の変化を確認し、彼女のからくりを解いたというわけである。
「サンデル、これは店ぐるみか?」
「そ、そんなとんでもない!我々の店はこういった行為を認めておりません!」
必死に否定するサンデルに周りの客は納得いかない声を上げる。
店としても利益を上げるためにそう言った行為を黙認するところもあるが、ここではそういうことはお断りらしい。
「そういえば・・・」
ケイ達のディーラーを務めた男性が口を開く。
「カード作成の際に青色の部分はもっと拘りたいとエリザ様からお話がありましたので、その部分だけ彼女にお任せしたことがあります」
そのディーラー曰く、その時の書類も保管してあるそうだ。
サンデルに頼んで作成時の書類を持ってきて貰うと、受領のサインがエリザになっている。
しかし、ここでなぜエリザがVIPになれたのか疑問が出てくる。
こういう場合、色仕掛けをして引っかかった人物が存在することがある。
ケイは一周見渡した後、一人の人間を指さした。
エリザの護衛を担当していた男である。ケイ達が初めに建物に入った時に、右側の階段でガードマンとして立っていた男で、スキンヘッドの彼は一瞬怯んだが顔には出さずに問い返す。
「何を根拠に?」
「悪いけど、俺鑑定持ちだから隠しても意味ないぞ。あんたの称号に【エリザの愛人】ってなってるけどどういうこと?」
ケイがサラっと男の称号を公衆の面前で言い放ったのである。
「なっ!?どういうことですか?答えなさい!」
何も聞かされていなかったサンデルがガードマンの男に問いかける。
男は観念したのか、エリザの関係と彼女から八百長の話を持ちかけたと話した。
「私はエリザ様の指示で、他のディーラーに賄賂を渡し彼女がVIPになれるように仕向けました」
そしてVIPになった後、細工したカードをディーラーに渡し彼女が100%勝てるようにしたというわけである。
異世界にも八百長やグルはあるが、ここまで単純で露骨でお粗末なものに引っかかったなどと考えたら他の客の怒りは相当なもので、店内はあっという間に店の教育不届きやエリザへの抗議で乱闘寸前になる。
ケイ達は一目散に入り口に避難し、メダルを全部現金に換えるとそそくさと店を後にした。
「あー楽しかった!」
「楽しかったのはあんただけじゃないの!?」
「まぁまぁ、二人とも」
三人はやりっ放しで店を出たため、その後のことはサンデルに丸投げをした。
ケイとアレグロは今回の結果に満足をし、シンシアは終始冷や汗をかいている状態だったがそれはそれでよしとする。
その後の店はというと、エリザはVIP剥奪&出禁に彼女に関係していたガードマンと店員数名をクビにしたそうだ。しかもエリザに至っては、賠償を請求されるという展開になり、今まで獲得していた分のほとんどを失う結果となった。
店の信用はだいぶ落ちたそうで、この一件を機にいろいろと対策を練って行くことになる。
そして一部の客からケイのことを【ギャンブルの神様】として崇められているが、当の本人は全く知らないままであるのは間違いなさそうであった。
次回はダナン地下遺跡をお届けします。
更新は都合上8月13日(火)になります。




