57、無敗の女王
ケイ、ギャンブルをするの回。
レイブンを残しメリンダの家を出た三人は、領主の屋敷に帰るため来た道を戻っていた。
「そういや、歓楽街って何があるんだ?」
ケイは、ふとそんなことを思った。しかしシンシアが凄く嫌そうな顔で興味があるのかと聞いてくる。
「全くなくはないけど、機会がなかっただけだ」
「バーとか賭け事とか女性がたくさんいるお店があったりするわ。でもなんであんなのがあるのかしら!?」
シンシアは少し怒っていた。
確かに彼女のように、そういうことに嫌悪感がある人も一定数いるわけなので仕方がないのだろう。
ケイは少し寄ってみようと二人に提案。興味のあるアレグロとあまり肯定的ではないシンシアを連れて、東にある歓楽街に行ってみることにした。
「へぇ~ここが歓楽街か」
夜の歓楽街は、昼間のように人の出入りが多く様々な人が行き交っていた。
日本で言うところの歌舞伎町に少し雰囲気が似ている。
あそこまで派手さはないが、店の外装が個性的でよくわからない仮面や飾りがつけられており、いっそう華やかさを感じられる。
「そこのお兄さん!いい子いるよ!」
「今日はいい酒が入ってるから寄って来なよ!」
通りを歩いていると、店員が客引きをしている姿が見える。
しかも、いくつかの店には女性が入っていく姿もある。聞けばホストクラブみたいなところもあるらしい。
やっぱりそういうモノもあるんだなと、妙に納得してしまった。
「ここはなんだ?」
暫く歩いていると、他の建物より少し大きな二階建ての建物が見える。
「あそこは【フロンルソ】」
「フロンルソ?」
「要は賭け事の場よ」
フロンルソという店は、知っている人は知っている有名な穴場スポットらしい。一攫千金を夢見て夜な夜な人が集まる、要はカジノみたいな施設とのこと。
「よし!ちょっと見てみようぜ!」
「ケイ様!私も行くわ!」
「えっ!ち、ちょっと二人共!?」
賭け事には疎いが、せっかく来たのだから寄ってみようとケイとアレグロが突入。シンシアは暴走する二人を止めようと一緒に入っていった。
建物の扉をくぐると、ムーディーな照明が三人を迎え入れる。
全体的に落ち着いた雰囲気で、間接照明として床にも光源が使われている。鑑定すると光属性の魔石と出ており、お金がかかってるなと印象づける。
室内は吹き抜けになっており、入り口から左右に二階に続く木製の階段がある。二階はVIP専用ルームとなっているらしく、ガードマンらしい屈強な男性が立っていたためは上がることはできない。
正面には受付カウンターがあり、二人の女性が座っている。その奥を覗くと賭け場になっているようだ。
ケイは、受付の右カウンターの女性に話しかけた。
「フロンルソへようこそ。ご用件を伺います」
「ここに初めて来たんだけど、ルールを教えてくれないか?」
「はい。ここは賭け事を主としておりまして、まずは現金をメダルと交換します。最低は1.000ダリからです。次にお好きな場で遊んでいただく形となります」
要はお金とメダルを交換して、遊べということらしい。この辺は俺の知っているカジノとそんなに変わらないようだ。
終了したい場合は、受付にてメダルを現金に交換したり、左のカウンターでメダルと交換で物が貰えるそうだ。余ったメダルはとっておけるらしい。
とりあえずケイは、10.000ダリでメダルと交換した。アレグロとシンシアは見ているだけでいいと言った。
麻袋に入ったメダルを手に、とりあえず場を一周することにした。
「こうなってるのか」
フロアはいくつかのブースに分かれていた。
いろいろなところから、歓喜の声や悔しがる声が聞こえてくる。
「ケイ様は何をするの?」
「何って言われてもなぁ~」
いかんせんルールがよくわからないものばかりである。
他人が行っているところを観察すると、一部のものはおそらくブラックジャックやポーカーなのだろうと察する事ができる。
「これならわかるかも」
ケイが示したのは、ルーレットだった。
地球で見かける円盤よりはクオリティー的な面で劣ってはいるが、概ね同じ造りをしている。
ディーラーにルールを確認すると、知っているものと同じだった。
ここのルーレットは、黒と白の38マスで、基本的な賭け方も大して変わらない。
賭け方に関しては、大きく分けて二つ。
一つ目は、数字で賭ける『インサイドベット』
二つ目は、数字以外で賭ける『アウトサイドベット』
『インサイドベット』は難易度が高いがその分配当も高く、逆に『アウトサイドベット』は当たりやすいが配当は低いというもの。
以前ネットで調べたことがあるが、賭け方にもいろいろな方法があり、まさか異世界でできるなんて思ってもみなかった。
「それでは始めますので、ベットしてください」
ディーラーの合図に参加者が次々と予想を立て、ボードに置いていく。
ちなみにベットとはお金やチップを賭ける意味である。
ケイもとりあえずメダル1.000枚を『白の16』の一点に置く。
ベットに関しては、リスクを抑えて分散して置くのが一般的であるが、ケイはそんなことはお構いなしに一点型である。
無謀な賭け方に、参加者数名はケイの方を二度見している。
ディーラーによりルーレットが回され、その中に珠を投げ入れ、落ちる場所を予想する。
それを参加者は、緊張の面持ちで待っている。
そして円盤は次第に速度を落とし、止まった時に投げ入れた珠も転がり落ちる。
「白の16です」
ディーラーの声に、辺りは歓喜や哀愁の声が広がり渡る。
しかも、何気にケイの大勝ちである。
ちなみにケイの賭け方は『ストレートアップ』という一つの数字に賭ける方法で、配当は36倍と一番高配当なものになる。
「ケイ様凄いじゃない!」
「うそでしょ・・・」
アレグロは喜びのあまりにケイに抱きつき、シンシアは信じられない表情をする。
皆さんお忘れでしょうが、ケイには『アレサの寵愛』がある。
故にケイが当てたのではなく、当たるようにケイに合わせて自然と動いているのが正しい。しかし、そんなことは周りおろかケイ本人も知らない。
あの後、掛け金を多めに設置したりして何度か同じ方法で行っていた。結果それも全て大当たりをし、短時間で数百万単位に増えていったのである。
ルーレットに満足したケイは、もういいやと早々に引き上げる。
「あら?もういいの?」
「勝負事って言うのは、ある程度やったら切り上げるのがベストなんだよ」
シンシアの疑問に答える。欲を出すと破滅するということを知っているからである。
その後は、特にめぼしいモノがなかったため、室内を一周して帰ろうとした。
「おぉぉぉぉ!!!!」
ある一角で、一際大きな歓声と人だかりが出来ている。
興味がありそこを覗くと、項垂れている男性と青いイヤリングに緑の髪と赤い目をした女性が笑みを浮かべている姿があった。
どうやら勝負が終わった後のようだ。
「やっぱりエリザは凄いな!」
「さすが無敗の女王だぜ!」
勝負を観戦していた男性達が口々に感想を言い合っている。人だかりの一部は女性の後についていくようにその場から離れる。
「無敗の女王?」
ケイが首を傾げ、近くにいた男達に聞いてみた。
「なぁなぁ、あいつ誰だ?」
「あぁ、あんた初めてかい。彼女はエリザ、ここに通う奴らなら知らないモンはいないって言うぐらいの有名人さ」
男性によると、彼女は一年ほど前から通い出し、勝負は全戦全勝。今では無敗の女王なんていう異名までつけられている。
「そんな人もいるのねぇ~」
アレグロが感心したように女性が去った方を見つめる。
「お客様、お話中のところ申し訳ありません」
ケイ達が振り返ると、燕尾服を着た男性が立っていた。五十代ぐらいで、白髪をオールバックにした紳士的な印象を抱く。
「私、フロンルソのオーナーを務めておりますサンデルと申します」
「どうも、俺たちに何か用?」
「はい。実は先ほどのルーレットを拝見しておりまして、素晴らしい勝利に感動致しました。よろしければ二階のVIPルームにご案内いたします」
聞くとこの時間帯は、一般の客が多く来るため所持メダルが多いともめ事になったりするそうだ。
ケイ達も、人混みはあまり好きではないので彼に従いそちらに向かう。
入り口から左にある階段を上り二階へ。
二階はさすがVIPというだけあって、豪華な椅子とテーブルが並べられている。
左側にはカウンターがあり、ウェイターが二、三人立っている。ここでは酒や種類は少ないが軽食をタダで出してくれるそうだ。
この時間帯はVIP者がいないのか、ケイ達の独占状態である。
二階の吹き抜け部分に設置してある席に座ると、一階の様子が丸見えになっている。
近くにいるウェイターに果汁酒とつまみを人数分頼み、サンデルに質問をしてみた。
「そういえば、反対側にも同じ場所があるけど?」
「あちらは、エリザ様の特別ルームとなっております」
先ほど一階の場にいた女性の専用ルームらしい。
彼女は毎日ここに訪れ、負けなしの勝負をしてきた証としてあの場が与えられたそうだ。ちなみにケイ達が居る左側は、一般のVIPルームとのこと。
「世の中っていろんな人がいるのね~」
「ギャンブルにはプロもいるから、エリザって言う人もおそらくその部類に入るんだと思う」
感心した様子のアレグロにケイもそういう人がいるんだなという感想だった。
反対側のフロアに目を移せば、先ほどの女性がウェイター相手にお酒とつまみを片手に一階の様子を見学している。
「オーナー、お取り込み中のところ申し訳ありません」
ケイ達が談笑していると、ウェイターの一人がサンデルの元にやって来る。
ウェイターがサンデルに耳打ちをすると、彼は驚きの表情をウェイターに向ける。
「それは本当ですか?」
「はい。いかがいたしましょう・・・?」
サンデルは、少し考えた後ケイ達の方に話をした。
「ケイさん、談笑中のところ申し訳ありません」
「どうした?」
「実は、エリザ様からケイさんと是非勝負をしたいと指名がありまして・・・」
申し訳なさそうにサンデルが言う。
希にVIP同士の指名勝負があるようで、誰かから聞きつけたエリザがケイに勝負を持ちかけたのである。
「拒否ってできんの?」
「それは・・・」
「私との勝負を破棄する気?」
その時、会話に割って入るように女性が階段を上って現れた。
次回・無敗の女王との対決!?
果たしてケイは財産を守れるのか?
次回の更新は8月9日(金)です。




