55、知らぬ間に
領主と夕食の回。
しかしケイに試練が!?
その日の夜、ケイ達はオランドとアーヴィンと共に食事をとることになった。
二人の体調も最初に比べれば随分とよくなったようで、今では普通に食事を取れるほどだ。
一同は、ダイニングルームに並べられたたくさんの料理に舌鼓を打ち、満足そうな笑みを浮かべる。
調理場の方から、料理人がまるで子を見つめる親のような眼差しで見つめている。昼間にあげた調理器具一式が役に立ったようだ。
「そういえば、ダナンには何をしに来たんだい?」
食事の途中で向かいに座っているアーヴィンが疑問の声を上げる。領主内の問題でスッカリ忘れていたが、本来は地下遺跡に行く予定だった。
「人づてにダナンに地下遺跡があるって聞いて、観に来たんだ」
「確か、ヴィンチェ達が見つけた遺跡のことだね」
彼の口から修復士のヴィンチェの名が出る。聞けば彼とは面識があり、だいぶ前に同行者と一緒にマライダに向かったそうだ。
直接会えなかったのは残念だが、いずれ会えるだろうとケイは思った。
「ビル、遺跡調査の進捗状況は?」
「調査団の報告では、遺跡内部が広大なため調査に今暫くかかるかと」
アーヴィンが側に控えていたビルに声をかけると、少し困った表情でビルが答える。
調査を始めたのはケイ達が来る一週間ほど前になるというが、内部の構造は簡素だがだいぶ広いらしい。
「なお調査は順調に進んでますが、あと1~2日ほどかかるそうです」
「じゃあ、その後だったら観てってもいいんだな?」
「そういうことになるね。父上、調査後にケイ達を遺跡に入る許可をお願いできませんか?」
「我々を助けてくれた恩人に無下な事はしない。調査の後で私から警備兵に伝えておこう」
「父上、ありがとうございます」
アーヴィンの交渉でオランドから遺跡に入る許可を得たケイ達は、調査終了を待つため屋敷に留まることになった。
「でも、なぜ遺跡に?」
許可は取り付けたが、アーヴィンが理由を尋ねる。
「俺たちは今までに、過去の遺産らしきモノを見てきたんだ」
「過去の遺産?」
「恐らくだが、バナハの試練の塔や毎年出現する幻のダンジョン、最近だとミクロス村の地下遺跡。それらから考えると、もしかして同年代のモノなんじゃないかと思ってる」
三人に、崩壊した試練の塔から発見された腕輪を見せた。腕輪に関しては、相変わらず使いどころがわからないので保留にしている。
それと古い本も見つかったが、時間はかかるが解読ができる王立図書館のバートにお願いしているとも伝える。
「しかし幻のダンジョンは消失したと聞いておるが?」
「俺の推測では、幻のダンジョンはまだ生きていると思う」
「えっ?そうなの!?」
それに反応したのがシンシア達である。今まで一緒にいたにも関わらず、いまいちケイの言っていることが理解できていない様子だ。
「どういうことなんだ?」
「あくまでも俺個人の意見だが、幻のダンジョンはダンジョンではないということだ」
反応したアダムの問いにケイが意見を述べる。しかし、ダンジョンではないとすると一体何なのか?
「ダンジョンじゃなかったら、なんなの?」
「正確には、幻のダンジョンじゃなくてダンジョンの元になったモノだ」
ケイは、その元となったモノが何らかの方法でダンジョンとして見せてきたのではないかと察する。
「考えてみてほしいんだけど、幻のダンジョンは毎年いろんな場所に現れる。以前ミクロス村の方にも出現し、そして村の地下に遺跡があったこと。また、ダナンの地下にも遺跡があること」
「共通点は遺跡ということか?」
アダムがケイの言いたいことを理解する。
「正解。ちなみに幻のダンジョンが過去に出現したことは?」
「確か過去に二度。一つはダナン北東の草原と、もう一つは北西にある小さい森の周辺で出現したよ」
アーヴィンの問いに、過去に他の場所に出現したところも遺跡があるのではないかと思ったのだ。
「じゃあ、今年出現したアルバラントにもあるってこと?」
「俺はそう考えている」
シンシアの問いにケイが答える。
アルバラントにいたっては、実物を見ていないから正確なところはわからない。しかし、その元となったモノが遺跡同士を結びつけていると考えると幻のダンジョンのことは妙に納得する。
「ケイの話で、遺跡と幻のダンジョンについてはわかったわ。でも試練の塔はどう解釈するの?」
「俺がバートに渡した本に『四つの塔が存在したが崩壊し、何かと断絶した』と読める部分があった。そう考えると試練の塔と呼ばれた塔はバナハとエストア以外にもあったということだ。それも遺跡とは同年代のものだと考えていい」
四つの塔の役割は今現在では確定ではないが、ヒガンテを保管か製造していたのではと考える。
「どちらにしろ、頼みの綱はバートの解読しかないな」
そう言ってケイは、出されたばかりのスープに手をつけた。
「話は変わるが、ケイは妹のことをどう思う?」
パンをスープにつけて頬張るケイにアーヴィンが訪ねる。
「どうって何が?」
「妹は気は強いけど、自分の意見ははっきり言えるし物事をちゃんと考えられる。とてもいい子だと思うんだが」
褒めているのか貶しているのかわからないアーヴィンの隣で、シンシアがなぜか口をパクパクとさせながらこちらを見ている。
「確かに気は強いし、ガンガン物を言ってくるし、冗談言ったら「殴るわよ!」なんて言ってくるけど、別に普通じゃねぇ?」
アーヴィンが何を言いたいのか、よくわからないケイは首を傾げた。
「ケイさえよければ、妹を君の婚約者にしようかと思うんだ」
「はぁああああ!!????」
これには、ケイおろかアダムやレイブン、アレグロにタレナも驚いた。シンシアに至ってはまんざらでもない表情だ。なぜその思考になったのかわからない。
「いやいや!ここは『どこの馬の骨ともわからんヤツが、娘をやれるか!』とかいうんじゃねぇの!?」
「私は、助けてくれた君に娘を託したい」
ケイはそれでいいのかと尋ねたが、オランドは自分たちの恩人に託したいと言った。
国を担うトップがそれじゃ示しがつかない気がするが、そんなこと言える雰囲気ではない。
「というか、領主の娘なら引く手あまたじゃねぇの?」
「そのことなんだけど、実は父も僕もあまり気乗りしなくて・・・」
シンシアには、成人する一年ほど前からお見合いなどの話が来ていたようで、領主の娘という立場上、相手との問題だけでなく国が関わることになるため慎重にならざるおえなかったようだ。
「ケイ、君ならレッドボア討伐やクラーケンの討伐などの実績はあるし、さっきの話のように頭の回転も悪くはないと思っている」
そう過大評価をしているが、考えてみてほしい。
無敵薬を娘に飲ませ、暗殺者の囮にしてしまう様なヤツのどこに託す要素があるのだろうか?
言ってはなんだが、相当お疲れな様子である。
「それと娘から聞いたんだが、白閃花のブローチは君から貰ったと言っていたそうだが?」
「確かに俺があげたヤツだ。聖炎祭を観に行った時に、店先でほしそうな顔をしてたから買ってやったんだけど?」
ケイは、なぜここで白閃花のブローチの話が出るか疑問に思った。しかし、なぜかオランドとアーヴィンもケイの態度に疑問を浮かべている。
両者が噛み合わない状況で、ビルが何かを察したのか、オランドとアーヴィンの耳元で、とあることをそれぞれに伝える。
「それなら、ケイが不思議な顔をしても仕方がないな」
ようやく合点がいったのか、二人が納得の表情に変わる。未だにわかりかねるケイ達は置いてけぼりだ。
「なんの話だ?」
「あ、いや。ちなみにケイは白閃花の意味を知っているかい?」
「白閃花の意味?花言葉的なやつか?」
もちろんなんのことかわからないケイは首を傾げたままだ。
「実は白閃花の物を異性に送るということは、愛の告白を示しているんだ。花言葉は【あなたは私の物】」
「ぶっ!」
「ごほっ!」
それを聞いて、ケイは吹き出した。
隣で聞いていたアダムも、水を変に飲み込んだのか思わず咳き込む。
「やっぱり、知らなかったようだね。まぁ知らなくても問題はないけど、人によっては勘違いをするかもしれないから気をつけた方がいいよ」
アーヴィンが助言して、ようやく以前のツンデレ対応のシンシアの意味がわかった。あの時レイブンが肩をすくめたのは、彼も意味は知っていたからだろうと気づいた。
そう考えると、彼も天然なのかわざとなのかよくわからない。
しかし、既にアレグロとタレナにも白閃花を用いたアクセサリーを送っている。
ケイが二人を見ると、アレグロはキラキラした瞳を向け、タレナは顔を赤くさせながら俯いている。
「ケイ様!この国は一夫多妻制でもあるから、私は第二夫人でも大丈夫よ!」
何が大丈夫なのかはわからないが、もはや手におえない状況になっている。
さりげなく隣にいるアダムに助けを乞うと、菩薩の様な表情で頑張れよと言われた気がした。
いよいよ収集がつかなくなったケイは、全部保留!と言い無理矢理食事を続けることにした。
まさかのシンシアとの婚約話。
完全に保留するというところがある意味優しいと思う。
やるときはやるんですけどね~
次回の更新は8月5日(月)です。




