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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
56/359

54、シンシアテロ

シンシアのお料理回です。

さて、どうなることやら~

翌日、ケイが目覚めたのは九時の鐘が鳴った頃だった。


上体だけ起こし、暫くベッドの上でボーッとしてから立ち上がる。

そして頭を掻きながら、客室に備えつけられているシャワールームでシャワーを浴びてから客室を出た。


「おや?ケイさんおはようございます」


エントランスで、花瓶の花をを取り替えていたビルとメイドの姿を見かける。

「おはよー」

「九時の鐘が鳴りましたので、そろそろ起きられてはいかがでしょう?」

「うん。さっきシャワー浴びたから大丈夫ー」

昔からケイは朝起きることが苦手で、地球にいた頃は眠気覚ましのために必ずシャワーを浴びるのが日課になっている。

そうでもしなければ、一時間はベッドの上にいることになるのだ。


「そういえばみんなは?」

「皆様ならダイニングルームにおられます」

今日は、シンシアが料理に腕を振るっていると答えた。

「あいつ料理できるの?」

「冒険者をされているので、腕は上がっているとおっしゃってましたけど?」

それを聞いて、ケイは首を傾げた。

パーティ内での調理担当は、料理好きのレイブンかタレナになる。

自分とアレグロも少しはできるが、たまにしかやらない。

アダムに至っては、最近目玉焼きを覚えた程度だ。

言ってはなんだが、シンシア=料理得意という方式がいまいちケイの中では組み上がらないのである。


とりあえずビルに礼を言い、ダイニングルームに足を運ぶことにした。



「あら?ケイ!少し遅い起床だけど、一応おはようと言っておくわ」


シンシアが、食器を片付けているいる姿が見え、テーブルには朝食を終えたであろうアダム達が座っている。

「あぁ。おはよー、で何してるんだ?」

「何って、今回みんなに助けられたから朝食は私が作ってみたの!」

シンシアが嬉しそうな笑顔で、ケイの分もあるから座って!といい、奥の調理場に入っていく。


ケイはそれに大人しく従い、アダムの隣に座った。


「アダム達はもう食べたんだろう?どうだった?」

「う、うん・・・」

頷いたアダムが次の瞬間、勢いよく立ち上がり走って出て行ってしまった。

突然のことに呆然とするケイ。

「あいつ、どうしたんだ?」

他の三人を見ると、向かいに座っているタレナは口を手で押さえ、その横にいるアレグロは顔を両手で覆っている。

ケイの二つ隣に座っているレイブンは、心なしか顔色が青く困った表情をしている。


「あら?アダムは?」

疑問に思っているケイに、料理を運んできたシンシアが戻ってくる。

「なんか急に走って出て行った」

「やっぱり少し失敗しちゃったかしら~」


ケイの前に、クロッシュで被せられた三つの料理皿とフォーク・スプーン・ナイフを合わせて置かれる。

※クロッシュ=レストランなどで見かける銀の丸形の蓋。


「ちょっと作り過ぎちゃって、口に合えばいいんだけど」

そう言って、シンシアがクロッシュを外した。


(う゛っ!なんだこれ!?)

料理を見たケイが、思わず絶句する。


皿にのった三つの料理は、異質な形で奇妙な臭いを放っている。

一つ目は、四角て黒く、まるで習字の(すずり)のような形。

二つ目は、恐らく器と全体的な感じから、サラダだと思われるが中心に赤紫の固形物が不気味である。

三つ目に至っては、リアル火山の一部のような形状をしており、全く想像がつかない。


唯一わかるのはグラスに入った水だけである。というより、これしかわからない。


「シンシア、この料理って・・・なに?」

「失敗しちゃったんだけど、パンとサラダとグラタンなの」

半分顔を引きずらせたケイが質問をし、恥ずかしそうにシンシアが答える。


正解は・・・


一つ目=黒パン→丸焦げ。

二つ目=サラダ→紫色部分は本来は白色でポテトサラダみたいなものらしい。※カラの実という、日本でいうところの食紅のような物で色付けされたようだ。

三つ目=グラタン→リアルな火山部分は丸焦げになったチーズやホワイトソース。


(嘘だろぉおおおお!!!!)


ケイは内心、声を大にして叫びたかった。

しかし、お礼という手前上無下にはできない。

隣にはニコニコ顔のシンシアが立っており、期待の眼差しで見つめている。

ケイは、覚悟を決めてからそれらを口に入れた。



感想は、味のビッグバンである。


とにかく、甘くて辛くてしょっぱくて苦いのだ。

口に入れた瞬間は無味だったが、凝縮した味が一斉に弾けだした時は、さすがに見えるはずもない星とひよことチョウチョが飛び回って見えた。


これはやばいと命の危機を感じたケイは、シンシアに食べてみろとフォークでグラタンを指し、使っていたスプーンを渡す。

「そぉ?じゃあ、少しだけ貰うわね!」

シンシアは、受けとったスプーンでグラタンをすくうと口に入れた。


案の定、無言でテーブルを叩き、のたうち回る。

ケイが水が入ったコップを手渡すと、シンシアがそれを奪うように取り、一気に飲み干す。


「何なのこれぇぇえええ!!!!」


舌を出し、自分で作った料理のあまりの酷さに声を大にする。

味見したのか聞いてみると首を横に振り、相当ショックなのか今にも泣きそうである。


さすがのケイも可哀想だと思ったのか、シンシアを連れて奥の調理場に向かう。



(こっちも地獄だな)


調理場を見て、ケイが素直な感想を浮かべる。

なぜなら、流しに黒焦げになった鍋や、どうやったらそうなるのかわからないほどにひしゃげた調理器具。

フライパンに至っては、穴が空いている。

その前で、料理人とおぼしき中年男が愕然としている姿を見て、気の毒に思ったほどだ。


「シンシア、とりあえずもう一度作るぞ!」

その発言に、専属料理人が青い顔をこちらに向ける。まるで、勘弁してくれと言わんばかりの表情である。

「俺も少しならできるから、一緒に簡単な料理を作るぞ!」

絶望的な表情をした料理人の隣でシンシアが渋々と頷く。

しかしこれ以上、ここの調理器具を使うわけにはいかないため、創造で調理器具一式を創造した。ご親切に、全てオリハルコンとミスリルの合金で構成されている。

これなら、像が踏んでも爆炎に投げ込んでも心配はなさそうだ。


一応料理人に断りをいれ、魔道コンロを使わせて貰う。

「何を作るの?」

「目玉焼きだ」

鞄の中から、以前使って余った卵を二つ取り出す。


三口魔道コンロの内の二口の上にフライパンを置き、火を入れ、少し温まったところに油をひき全体になじませる。


「よし!ここで卵を割って入れるぞ」

台の角を使って卵にヒビを入れ、片手で器用に割る。


「あ!」


シンシアも同じように角を使って割ろうとしたが、力が強かったのか卵が潰れてしまった。

「力は少しでいいんだよ」

「ご、ごめん・・・」

ケイは鞄から卵をいくつか取り出し、そのうちの一つをシンシアに持たせ、自身は彼女の背後に回る。

シンシアの手を重ねるように握り、先ほどやった通りに一緒にやってみせる。その際、シンシアは顔を赤くさせたが、後ろに立っているケイは気づかない。


「こうやって・・・そうそう、ほらできたじゃん!」

うまく割れた卵がフライパンの上に落ちる。

反応を見るために、ケイがシンシアの顔を覗き込むと、なぜか赤くさせたので大丈夫か?と聞いたら大丈夫と声が返ってくる。


「目玉焼きは、好みがあるから奥が深いんだ。俺の場合は半熟にしたいから蓋をして一分ぐらい。人によっては固めが好きなヤツもいるから、その場合は蓋をして二~三分ほど置いとけばいい」

シンシアも半熟がいいということで、出来るまで待つことにする。


「ケイは料理できたわよね?」

「まぁ、兄貴直伝だけどね」

「お兄さんがいるの?」

「兄貴は料理人で、年が一回り離れているんだ」


ケイの兄は、彼が小学生だった時には既に社会人として働いていた。

風貌はヤンキーに近いが、元々料理が得意で、中学を卒業してすぐに実家の東京から大阪に移住し、料亭で働いている料理人の元で住み込みで弟子入りをしていた。

休みは正月の三日間だけでなかなか実家に帰ることはなかったが、帰ってきた際にはかならず家族に料理を振る舞ってくれた。

ケイはその中でも、兄の作った半熟の目玉焼きが好きだった。シンプルだからこそ兄の気持ちが入っている気がしたからだ。


「兄貴の言葉に『料理は引き算だ』って言ってた」

「どういう意味?」

「俺の国の日本料理は素材を楽しむためのモノで、工夫次第で味付けがなくても食材が生きるってわけ」

「素材本来の味ってことね」

「まぁ、足し算をする料理もあるけど、兄貴曰く『足し算は大博打』って言ってたな」

「足し算は大博打?」

そう言われて、いまいち想像できないシンシアが首を傾げる。

「調味料一つで、いい意味でも悪い意味でも料理全体が大きく変わってしまうって意味」

確かに海外の料理では、日本料理とは違い、ソースなどの味付けをして楽しむというモノもある。

おそらく別々の国同士が、一斉に同じ料理を作った場合、料理の印象がだいぶ変わってくるだろう。


「料理って奥が深いのね」

「まぁ俺もそんなにうまくないから、人のことは言えねぇけどな」

時間が経ったようで、蓋を外しコンロの火を止める。

用意した皿に素早く移すと、美味しそうな卵の風味が漂う。


シンシアの方もうまくいったようで、感動のあまり涙ぐむ様子もあった。


フォークで黄身を割ると、半熟の黄身がじんわりと広がっていく。

白身を一口サイズに切り、黄身につけてから頬張ると半熟の黄身とふんわりした白身の風味が口いっぱいに広がる。


どうやら目玉焼きは大成功で、二人はあっという間に食べきった。


「シンシア、やればできるじゃん!」

「ケイが教えてくれたおかげよ!」

料理に満足した二人は、後片付けをしてから調理場を貸してくれた料理人に礼を述べた。

その際、使えなくなってしまった調理器具の代わりにケイが作製した調理器具一式をあげると、大喜びで受け取ってくれた。

最初のアレがだいぶ堪えたのだろう。

シンシアが、また教えてねと言うと、気が向いたらなとケイが返す。


二人は、ほっこりした気分でゆっくりと過ごすことにした。


地獄を見たケイ達の今後も続く!?

次回の更新は8月2日(金)です。

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