53、復讐
ケフトノーズ家暗殺未遂事件解決編です。
「そうだよなぁ?フローナ?」
ケイが目の前に立った人物は、フローナだった。
「オランドの紅茶やアーヴィンのワインに毒を入れたのも、シンシアの自室の窓に細工をしたのも全部お前だってこと」
顔を覗き込むように見つめるケイに、フローナは何のことかわからないと言った表情で返す。
「ケイさん、おっしゃっていることがよくわかりません」
「いやいや、自分でやったことを知らないって相当やばいよ」
ゲラゲラ笑うケイが、みんなに分かりやすく説明をするため再開させる。
「まずオランドには、いつも飲んでいる紅茶に入れていた。ベネノは持続性があり、しかも吸収されても残らないという特徴がある。あんたが、いつも決まった時間にオランドに紅茶を出していることは、他のメイドからの証言がある」
実はアーヴィンが被害に遭った際、みんなには内緒で他のメイドから話を聞いたのだ。
ケイは、周りの反応を見てから次の説明にうつる。
「次にアーヴィンは、当初彼のグラスだけ毒が入っていたんだ」
「でも、フローナからワインに入っていたと?」
「それはガルシアを陥れるために、後から毒をワインにも入れたんだ。それにその時、ワインの用意が出来たのはフローナだけだ」
アーヴィンの異論にも答える。こちらも、ワインとグラスを用意していた様子を料理長が見ている。
「シンシアに至ってはさっきも言ったように、侵入しやすいようにわざと鍵を閉めなかったってこと」
ちょっと待ってくれとアダムからストップがかかる。
「鍵を閉めないのなら、シンシアが気がつくはずだろう?」
「いや、シンシアは気がつかなかったんだ」
「どういうことだ?」
「仕事の一環で施錠しているのなら、例え施錠していなくても虚偽の説明をすれば誰だって信じるし、わざわざ確認なんてしないだろう?」
シンシア専属であろうと、メイドの仕事は普段からある程度決まっている。
その日は、就寝前にわざと鍵をかけずに部屋を退出。翌日、暗殺者が侵入し事に及んだというわけである。
たしかに、フローナがやったという物的証拠が提示されていない状況証拠のみの発言になる。
「ケイさん、証拠はあるんですか?」
「あるよ!」
しかし自信満々に答えるケイに、フローナが顔を強張らせる。
「【時空の棺桶】!」
ケイが魔法を唱えると、時空が開きそこから棺桶が出てくる。
棺桶を開き、中の者を取り出す。
床に左手を血まみれにさせながら気絶した男が倒れている。
「おい、その魔法・・・というより、こいつは誰だ?」
「暗殺者の仲間」
顔を引きずらせながらアダムが尋ねると、あっけらかんとケイが答える。
「なんで血まみれなんだ?」
尋ねても答えなかったから、魔法で拘束してナイフで左手の爪を全部剥いだら気絶したと答えると、思ってもみなかったのか引きずらせた顔を青くさせた。
少々やり方が荒かっただけだと付け加えておく。
「ケイさん、彼はなんと?」
「元・デレッタ家の密偵って言ってた」
ダナンの北西にある小さな森にアジトがあり、そこには他の仲間もいたが、この人物以外は全員手で首を切る動作で説明。さすがのビルもなんと・・・と唖然としていた。
「そうだよな?フローナ・デレッタ?」
「えっ? もしかしてフローナって貴族なの!?」
ケイの言葉にアレグロ達が驚き、彼女の方を見る。
「やはり『復讐』か・・・」
今まで黙ってやりとりを聞いていたオランドが、重い口を開く。
オランドの口から、十年近く前まではデレッタ家が存在していたと語った。
当時はケフトノーズ家と張り合うほどの権力を持ち、主に物流や貿易を中心に行っていたそうだ。
しかしその後、彼女の父親の不正が発覚し、家は取り壊され一家は離散。
彼女は、親戚の家を転々としながら過ごしたのちに、オランドの目に止まりそれ以降はメイドとして過ごすことになったという。
「十年前なら、当然あんたはフローナの事を知っていたんだろう?」
ケイがオランドに問うと、彼は首を縦に振った。
「私が告発したせいで、デレッタ家がなくなった。当時一人娘だったフローナは、いろいろな場所を転々として肩身の狭い思いばかりしていたそうだ」
フローナの両親の事を聞くと、当時のダナンの法律上重罪に当たるため二人は【死罪】となったそうだ。
「私はどうなってもいい。息子や娘には手を出さないでほしい。そう彼女に言ったんだ」
アーヴィンはそのことを初めて聞いたのか、驚愕の表情でオランドを見つめる。
ガルシアも、デレッタ家の跡を継いた感じで今の仕事をしているため、そう考えると複雑な心境だった。
「じゃあ、フローナが毒を入れていることは、以前から知っていたということか?」
「あぁ。二年前のある時、彼女からそう告げられた」
当時フローナは、オランドに紅茶に定期的に毒を入れていると語っていた。
しかも、それを外部に漏らせばアーヴィンとシンシアを即殺すとまで公言したらしい。
「私は二人に害がいかないよう、誰にも話すことはしなかった」
執事であるビルもこの発言には耳を疑ったようだ。
オランドは、同じようにビルにも起こるかもしれないと危惧し彼にも黙っていたようだった。
「フローナ、ここまで言ってシラを切るつもりか?」
ケイが彼女の方を向き、意思を尋ねる。
「ふふっ・・・あはははははは!」
フローナは、おかしそうに愉快そうに笑って見せた。
「そうよ!私が指示したしやったの。でもね、どちらにしろシンシアはもう助からないわ!」
ケイ達の中で、シンシアと付き合いが長いレイブンが納得できない表情をする。
「フローナ!シンシアは君のことを慕っていたのになぜなんだ!?」
「なぜ?私の中ではケフトノーズ家は全て敵なの!やり方ががどうであれ、一人葬っただけでも満足だわ!まぁ強いていうなら、アーヴィンの時も即死するように調整したんだけどうまくいかなかったのが残念ね」
なかなかの悪役っぷりである。
「ぷっ!」
それを聞いていたケイが、途端に吹き出した。
「なにがおかしいのよ!?」
「い、いや~シンシアは助からないと豪語してたから可笑しくて・・・」
腹がよじれると言わんばかりに笑い泣きしたケイが、シンシアの方を指さす。
「ケイ・・・本当に恨むわよ・・・」
そこには、目を覚ましたシンシアが恨み節でケイに話しかけていた。
「シンシア!」
アーヴィンがシンシアの手を握ると、彼女もそれを握り返す。
まだ意識がおぼつかないのか、懸命に起き上がろうとしてアーヴィンとタレナに支えられながら上体を起こす。
「死ぬかと思ったじゃない・・・!」
「まぁ~これからは、毒や麻痺をくらったり飲んだりしても大丈夫だから気にすんな!」
二人以外に状況が飲み込めなかったため、アダムが説明を求める。
「ケイ、シンシアは確か毒にかかってるって?」
「そのことなんだけどな~」
実は予めシンシアと相談し、先手を打っていたのである。
話を戻すこと、倒れたアーヴィンを処置し自室に連れていった後のことである。
客室に戻ったケイは、自分のいる客室の真上がシンシアの部屋だと今更ながら気づいたのである。
そこで、窓を開けて外に出ると外壁の装飾部分や出っ張りを使って二階のベランダまで上り、窓をノックした。
「ちょっと!何やってるの!?」
ベッドに横になっているシンシアが慌てて飛び起き、窓を開ける。
「今更なんだけど、ここの真下って俺がいる客室なんだよね。だから上ってみた」
「ばっかじゃないの!一瞬泥棒かと思ったじゃない!!」
そう言ってはいるが、安堵の表情で迎え入れる。
「で、何?」
ここでケイは、先ほどアーヴィンが毒をくらったとシンシアに話した。
案の定気が動転しかけたが、ケイが解毒をして、なおかつ異常状態を無効にする方法を二人に施したと付け加える。
「二人?」
「もう一人はお前のおやじだよ」
「えっ?」
シンシアは気づかなかったようで、唖然とした表情をする。
「どういうこと!?」
詰め寄ったシンシアに、ベネノの毒物のことを話し、体調が悪かったのはそのせいだと説明した。
そして、犯人はまだ屋敷の中にいる可能性があるため、オランドには療養という名の引きこもりをお願いしているとも言った。
「そう考えると、次はシンシアの可能性がある」
「私?」
「そこでだ!一芝居に協力ほしい」
そう言うと、ある物を創造しシンシアに手渡す。
シンシアの手には、一粒のカプセル型の薬が乗っている。左半分が青色で、右半分が赤色の地球ではおなじみのあの形である。
「これ何?」
「カプセルバージョンの【無敵薬】だよ」
【無敵薬】異常状態を瞬時に無効化する薬。
また欠損以外の傷を負った場合、通常の10倍で完治する。
その代わり初回だけ、自然治癒の効果を上げ定着させるため、傷を受けた場合に一時間から数時間ほど昏睡状態になる。
「これ、飲んでも大丈夫なの?」
「問題ない!俺に任せておけって!」
説明を聞いたシンシアが困惑気味の表情を浮かべるが、ケイは間違えなんてないと胸を張って答える。
「はぁ~わかったわ」
観念した様子で口に錠剤を含み、水と一緒に飲み干す。
ケイは飲んだことを確認してから今日はもう遅いから寝ると言い、入ってきた窓から出ようとした。
「あら?そういえば、窓を開ける時に鍵なんて開けたかしら?」
ケイの動作に、今更疑問を感じた。
「いや?そのまま開けてたけど?」
「きっとフローナが閉め忘れたのね」
ケイが外に出ると、シンシアに追加の提案をする。
「シンシア、ここの鍵を閉めずにそのままにしろ」
「どういうこと?」
ケイはさっき外に出た際、サーチで屋敷外から人の姿を確認したと話す。
恐らく、オランドとアーヴィンの出来事に関連があるのではと思い、シンシアを囮にしようとした。
「ちょっと!私死ぬわよ!?」
「大丈夫だって!俺が絶対に保証するから!」
ケイは相変わらず問題はないと言い張る。
「わかったわ・・・その代わり約束は守って頂戴よ!」
その言葉にケイは笑みを浮かべ頷いた。
そして翌日の朝に事件が発生し、今に至る。
「・・・というわけ。ご理解頂けた?」
ケイが皆に説明をすると、だいぶ無謀のように思えたが結果オーライということになる。
一人を覗いては・・・
フローナは、シンシアは生きており自分の計画が全て失敗したことに呆然としていた。
ケイのおかげで計画が頓挫し、全てが奪われたそんな心情だった。
「なんで・・・なんで!なんで!!」
髪を振り乱し、シンシアに掴みかかろうとする。
それをレイブンが制止して、慌てた様子でビルが警備兵を呼びに部屋を出る。
「シンシア!あんたの事が嫌いだったのよ!!」
フローナが叫び、シンシアに指をさす。
「私は家を失った!家族を失った!居場所も全部!全部!!なのにあなたは持っている!奪った側なのに可笑しいじゃない!!」
半狂乱になりながら、尖り声を上げる。
その表情は、初めに見た優しいものとは違い阿修羅のような表情に変化している。
「あんたも!この家も!この国も!全部全部嫌いよぉぉぉおおおお!!!!」
ビルが警備兵を連れて戻ってくると、喚いているフローナの両脇を抱え、その場から連れて行った。
シンシアは、それをただ呆然と見ていることしか出来なかった。
その晩、ケイは再度シンシアの部屋を訪ねた。
体調を考え自室で食事をとったため、ベッドのサイドテーブルには空の食器が置かれている。
「今日は扉から入ってきたのね?」
軽い口調でケイを出迎え、近くにあった談笑用のソファーに腰をかける。
「身体は大丈夫か?」
「おかげさまで問題ないわ」
薬の効果が定着したため、今後は怪我の急速完治や異常状態が無効となる。今度、毒キノコでもどう?と言ったら、殴るわよ!と返ってきた。
会話の間に少し沈黙が入る。
やはりケイも気まずいようで、どういう話しをしようかと考えていた。
「また、助けられたわね」
シンシアがぽつりと言葉を紡ぐ。
「レットボアのお礼もちゃんとしてなかったから」
「気にすんなって」
「二度も助けられたのよ。だいぶ荒かったけど・・・」
そこは否定できないため、黙っておくことにした。
ケイとは違い、シンシア達は一般の生身の人間である。
ハイリスクはなるべく避けたいが、保身のせいでリスクが出てくる可能性も今回の件で学んだ気がした。
「俺の方こそ悪かった」
「えっ?」
「フローナのことだ」
初めに会った時は、お嬢様とメイドと言うより良き友人という印象に見えた。
しかし実はまったく逆で、ましてや相手を殺そうと手を出したという現実まで起こったのだ。
仲良くしていた分、ショックなのは明白である。
「私の方こそ気にしないで。ケイは私だけでなく父や兄を助けてくれたじゃない!」
それに、ケイが来る少し前までオランドが来ていたそうだ。
今までの態度は、シンシアをフローナから遠ざけるためにわざと厳しく言っていたそうだ。親心ならではというところだろう。
ガルシアも疑いが晴れ、ケイに礼を言っていたそうだ。
自分は酒が飲めないけど、いいモノを見繕って送るよとまで言っていたそうだがケイとしては複雑である。
「今度、ちゃんとしたお礼をするわね」
「気長に待ってるよ」
シンシアの微笑みに、ケイもまた笑みで返した。
予想は当たりました?
完全にガバガバなのは認めます・・・認めますよちゃんと。
次回の更新は7月31日(水)です。




