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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
53/359

51、疑わしき者

異世界サスペンス劇場

犯人は誰だ!?

ケイ達が領主の自室を退出すると、同じタイミングでレイブンとフローナが戻ってきた。

「シンシアは?」

「シンシアなら自室に籠もってしまったよ」

暫く自室の前で説得を続けていたが、ほっといてほしいと聞く耳を持たない状態だった。

二人は時間が必要だと判断し、ケイ達と合流することにした。

レイブンがオランドの容態を聞いてくると、先ほど薬を飲んで眠ったと伝え、領主の好意で屋敷に泊めて貰えることになったと告げた。

「旦那様の客人でしたら、客室にご案内します」

フローナの案内で客室に向かうことになった。



屋敷の構造は、中央が来客対応の応接間やパーティ会場。

東の二階は、領主やシンシアの自室と一階はダイニングルームと客室。

西側は、住み込みで働いているメイド達や従業員の部屋となる。


一階のエントランスまで戻ってくると、見慣れない青年が屋敷に入っていく姿が見えた。

オランドと同じ色素の薄い茶髪に端正な顔立ちと青い目で、きっちりと服を着こなしている。



「アーヴィン様、お帰りなさい」

「ただいま、フローナ。ところで彼らは?」

フローナがケイ達を、シンシアの冒険者仲間でオランドの客人だと説明すると、へぇ~と声を上げ礼をした。


「妹がお世話になっています。兄のアーヴィン・ケフトノーズです」


アーヴィン・ケフトノーズは、オランドの息子で次期領主である。

幼少の頃から勉学に勤しみ、一年前にメルサント学園を卒業後、領主の補佐として日々公務を行っている。


「あれ?肖像画の人?」

ケイが階段にかけられている大きな肖像画を指さす。

肖像画には、領主とその妻、幼少の頃とおぼしきアーヴィンとシンシアの姿が描かれている。

「あぁ。あの絵は、母が存命の時に描かれた唯一の肖像画なんだ」

そう言って、アーヴィンが肖像画を見上げる。


肖像画には、茶色の髪に青い目をした女性が幼いシンシアを抱いている姿がある。


ジェシカ・ケフトノーズ。

元はフリージア出身の商人の娘で、若き日のオランドと恋に落ち添い遂げる。

しかし、シンシアが二歳の時に病死。幼かったシンシアは母の面影をあまり覚えていない様子だ。


「シンシアも帰ってきてるのか?」

それが・・・とフローナが話すと、やはりといった表情をした。

「シンシアは親父に嫌われてるのか?」

「いや。僕から見ても父は厳しいだけで、辛辣な言い方をするなんて思わないよ」

フローナからオランドとシンシアのやりとりを聞き、耳を疑っている。

「一人娘だから心配なだけじゃない?」

「そうなのか」

アレグロの言葉に疑問を感じる。


少なくともケイは、一人娘と聞いて地球にいた姉のことを思い出す。

趣味で格闘技を始め、寄ってくる男達をボコボコにし、私より強いヤツとしか付き合わないと豪語していたが、その半年後に格闘家の男性と結婚。

当時の顔合わせで、相手の男性にゴリラな姉ですけどよろしくお願いしますと言ったら、姉にチョークスリーパーをかけられ気絶したという苦い思い出である。


アーヴィンと別れたケイ達は、それぞれ客室に通され、夕食の時にお呼びしますと告げられそれまで自由にすることにした。


「ケイ、ちょっといいか?」

客室の扉がノックされ、隙間からアダムが顔を出す。

招き入れると、彼は客室にある質素な椅子に腰を掛けた。

話題は先ほどの領主の件である。


「領主に毒を入れたヤツなんてどうやって探すんだ?」

アダムが、全員を鑑定すれば済む話じゃないか?と問いた。

しかし短期間で捕まえることを考えると、屋敷内の人間関係や出入りしている業者などを一から洗わなければいけないためそんな時間はない。


「『肉を切らせて骨を断つ』ってところかな」

「?」

ケイの言葉に理解が出来ないアダムが首を傾げた。



その晩ケイ達は、フローナに夕食ができたと呼ばれダイニングルームにやって来た。


ダイニングルームには、中央にテーブルクロスが掛けられた長方形のテーブルと一度に12人が座れるように椅子が並べられている。

上手側の一部に人数分の食事が並べられており、一応男性と女性で座ることにする。

「あれ?領主とシンシアは?」

「シンシアお嬢様なら、夕食はいらないと旦那様も体調が優れないようで・・・」

心配そうな表情をしたまま、仕事のため戻っていくフローナ。


そしてすぐ後にアーヴィンがやって来る。


「君達も一緒なんだ」

アーヴィンが空いている席に座り、ケイが並べられている料理のことを聞いた。

「そういえば、ここの料理ってみたことないもんばかりだけど、これって名産かなにかか?」

「ここに並んでいるものは、一般的な料理だよ。肉は子羊のソテーで、野菜は農村から直接取り寄せているんだ。シチューの具材はそこから買っているよ」

ケフトノーズ家は、実に健康志向の高い一族である。

栄養のバランスを考え、肉・魚・野菜などなどあらゆる物を取り入れているそうで、近年では街のメニューにヘルシーな物を取り入れようとしているそうだ。


「あら?このお肉美味しいわね!」

「ソースはオレンの実でしょうか?甘みと酸味のバランスがとてもいいです」

「シチューもいいな。家庭的な味がして俺は好きだな」

「久々に食べると、やっぱり野菜が新鮮でおいしい。帰ってきたって思うよ」

領主の料理は豪華な物だと想像したが、過程の一般的な味とさほど変わらない。

ケイも肉やシチュー、パンにいたってはシチューにつけるためにおかわりしたぐらいである。


料理を終えた一同は、アーヴィンから食後のワインを振る舞われた。


「そういえば、ガルシアからワインを貰ったんだった、フローナ持ってきてくれ」

「承知しました」

ほどなくして、トレーに乗せられているワインと人数分のグラスが運ばれてくる。

「これってどこのやつ?」

「これはフリージア産のワインだよ。最近評判のいいモノらしく、一緒に働いている人から貰ったんだ」

アーヴィンのグラスにワインが注がれ、それを回し匂いを確かめる。

そして順番にワインが注がれると、ケイもそれにならって匂いを嗅ぐ。

ワインの深い匂いが鼻腔を突き抜ける。

「匂いはいいな」

やっぱり結構な価値があるのだろうと、ケイがグラスに口をつけようとした。


「ぐふっ・・・」

突然、目の前でアーヴィンが吐血したのだ。


「おい!大丈夫か!!」

ケイが立ち上がり、慌ててアーヴィンに駆け寄る。

「しっかりしろ!!」

「アーヴィンさん大丈夫ですか!?」

彼の隣に座っていたタレナが、咳き込むアーヴィンの背中をさする。


「フローナ!医者を呼んできてくれ!」

「は、はい!」

アダムの指示でフローナが飛び出す。


口に手を当てているアーヴィンが、苦しそうに悶える。

「ケイさん、ワインを飲んだ瞬間にアーヴィンさんが・・・」

タレナの言葉にすぐさま鑑定をかける。


アーヴィン・ケフトノーズ

状態 猛毒

※至急解毒しなければ死に至ります。


「あ、これやばいヤツじゃん。とりあえず【エクスヒール】!」

アーヴィンの身体が淡く光り、鑑定の欄から猛毒が消える。

毒の効果が消失したが体力を消耗したため、残りの血を喉に詰まらせないようアダムとレイブンと協力してその場に身体を横に寝かせる。


ほどなくして専属の医師を連れてフローナが戻ってくる。

適切な処置を行い体調に異常がないと確認された後、ケイ達が彼の自室に運ぶ。


「みなさん、何かあったのですか?」


オランドの自室から執事のビルが顔を出す。

アダムが状況を説明すると、唖然とした表情でアーヴィンの無事を確かめる。

「ケイが、解毒したから今は安静にしてるよ」

「それはよかった・・・」

それを聞いて安堵の表情を浮かべると同時に、仕えている一家二人が何者かに殺されかけるという現実に表情を曇らせた。


そういえばその直前に、ガルシアという人物からフリージア産のワインを貰ったと伝えた。

「アーヴィン様がワインを飲んだ直後に?」

「仲間のタレナが、隣で見ていたから間違いない」

「まさかガルシア様が・・・?」

「知っている人か?」

「旦那様の学生時代からのご友人で、現在は我が国の物流や貿易などをお願いしている方です」


ケイが尋ねると知っている人物らしく、ビルは信じられないといった様子でかぶりをふった。



翌日、ケイは朝早くにアーヴィンの自室を訪ねた。


扉をノックし返事を待たずに開ける。

「ケイか」

「おはよ。意外と元気そうだな」

ベッドの上で上半身を起こし、本を読んでいた。

ケイは近くにあったアンティーク調の椅子に腰をかける。

「調子はどうだ?」

「体力は消耗しているけど、君たちのおかけで命拾いをしたよ」

本を閉じ、サイドテーブルにおくとケイの方を向き礼を述べた。

「気にすんなって、しかしお前も大変だな」

「僕は大丈夫だ。それにフローナから聞いたけど、ワインに毒が入っていたって」

アーヴィンが呆然と、ガルシアさんがまさか・・・といった表情をする。


彼の話では、将来的に父の仕事を継ぐため、学園卒業後すぐに、貿易や物流に精通しているガルシアの元で手伝いも始めたそうだ。

ガルシアは人当たりが良く、いろんな人からも人気があった。しかし反面、仕事柄か嫌みや妬みもあったそうだ。

本人曰く、どんなに配慮したり尽くしたとしても、一定数には嫌われるものだと悟っているそうだ。実に大人の思考である。


「そのことなんだけど」

ケイが前置きをしてからアーヴィンにとあることを聞いた。



アーヴィンの自室を後にしたケイは、エントランスで誰かが言い争っている声を聞いた。


階段から下を覗くと、フローナと男性が口論をしている。

「だから何のことなんだ!?」

「とぼけるのもいい加減にしてください!もう白状したらどうですか!?」

朝早くのいざこざに無視も出来ず、ケイが二人の間を割って入る。

「フローナどうした?」

「ケイさん!」

ケイの呼び声に男性が振り向く。

年齢は領主と同じぐらいだろうか。

身長は180cmもなく、茶色の髪を後ろで縛り、髭は生えているが顔立ちが整っている。

ジャケットにシャツとズボンと、仕事着であろう服装を着崩した感じの出で立ちだった。


「ケイさん、兵を呼んでください!犯人を捕まえました!」

「フローナどういうことなんだ!?」

男性はケイに、助けを乞うように接してきた。

「君、助けてくれないか!?さっきから彼女がこの調子なんだ!」

とぼけるにしてもあまりにも自然な態度だったため、本当に事実を知らないと見受ける。


「フローナ、朝からどうしたのです?」


その時、二階からビルが下りてきた。

ケイが今までのやりとりをビルに伝えると、今度はビルがその男性に昨日の出来事を話した。

「ガルシア様、実は昨日頂いたワインですが、どうやら毒が入っていたようなんです」

アーヴィンが毒で死にかけたと話すと思ってもみなかったのか、ガルシアと呼ばれた男性が顔を青白くさせた。


ガルシア・メルボルク

元は商人の息子で、オランドの学生時代の後輩になる。

次男のため実家を継ぐことはなかったが、顔の広さと腕の良さを買われて多方面から声がかかっているようだが、オランド以外と一緒に仕事をする気はないそうだ。


「毒・・・って、一週間前にアシエル商会から直で取り寄せて、昨日届いたばかりなんだぞ!?なんで・・・」

頭を抱え項垂れるガルシアに、ビルがとりあえず落ち着かせようと応接間に案内しようとした。



「きゃあああぁぁぁ!!!」



その時、二階から人の叫び声と、何かが倒れる音が響いた。

「まさか!シンシアお嬢様!?」

異常な様子を感じたケイは、二階にあるシンシアの自室に急いで向かった。

次に狙われたのはアーヴィン。

一命を取り留めた彼と、容疑者として浮上したガルシア・メルボルク。

一体どうなるのか!?

次回の更新は、7月26日(金)更新です。

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