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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
51/359

49、ダジュールの謎

王都アルバラントに戻ったケイ達は、報告と調査依頼を兼ねて、領主のマイヤーと王立図書館のバートの元を訪ねる。


翌日、ケイ達はアルバラントに向けてミクロス村を出発した。


同じタイミングで一緒に出たエレフセリアの五人とは、チューニの森を抜けたところでバナハに向かうということで別れる。

別れ際に今度会う時は、領主になっていたりしてな!とロベルにからからわれたが、どうだろね?とだけ返す。

もはや思っただけでフラグを立ててしまいかねないため、なるべく考えないようにしたい。



ミクロスの村から出発して数日。

ケイ達はアルバラント近郊までやって来た。

「はぁ~」

アルバラントに近づくにつれ、ケイはため息を漏らした。

なにせ街中で啖呵を切った挙げ句、威圧で兵を気絶させるという収集のつかないことしてしまったため、自分の行いを今更ながら冷静に分析していた。

「ケイ様、大丈夫?」

「大丈夫。今までの行いを2~3秒悔いていたところだったから」

数秒の反省が本当かは定かではないが、アレグロが首を傾げる隣で、あそこまでやったからな~といった表情でアダムとシンシアが微妙な面持ちでいた。

ともあれ、言ったからには用事は済まさなければならない。


門番の姿が見え、いざ街に入ろうとギルドカードを提示すると状況が一転する。


「あなた方はパーティ・エクラの皆様ですね?」

「し、しばしお待ちを!!」

門番の二人が何かを話しあった後、そのうちの一人が慌てた様子でどこかに走っていく。

あの・・・と声をかけようとしたが、残りの一人がすぐ対応しますのでと心なしか青白い顔で言われる。


暫く詰め所で待っていると、一台の馬車が到着した。


「どうしてこうなった・・・?」

ケイ達は拘束された・・・ということもなく、クレイオル家の馬車に唖然とした。


「皆様お久しぶりでございます」


馬車から現れたのは、笑みを浮かべた執事のヴォルトだった。

訳もわからず即されるまま馬車に乗ると、屋敷へと走り出した。もしかしたらとんでもないことになっているとかと、勝手に想像しながらヴォルトに尋ねる。


「あのーどういうこと?」

「マイヤー様から、皆様が見えられたら教えてほしいと門番の方々に周知しておりました」

「ということは、先日のあれね?」

シンシアの問いにヴォルトが頷く。

オリバーとの一件は領主のマイヤーにも伝わっていたようで、すぐさまご丁寧に国王に意見書まで提出したようだ。

内容までは見ていないが、おそらく一般人に手を出した狼藉者として訴えますがよろしいですか?といった感じなのだろうとヴォルトが推測する。

なかなかハードな領主代行である。



馬車は、上流地区の一角にあるマイヤーの屋敷の前で止まった。


ヴォルトに案内され応接室に通されると、メイドがケイ達にお茶を出したタイミングで、彼はマイヤーを呼びに行くと言ってから部屋を退出する。


今、応接室にはケイ達しかおらず、この際だから疑問に思っていることを五人に聞いてみた。

「そういえば、みんなは歴史についてどれだけ知ってるんだ?」

「何よ急に?」

「歴史のことか・・・たしか1500年前に他の大陸から移住して来た先住民が、この地で繁栄を築いたということしか知らないな」

アダムが言ったように一般的にはそこまでの認識しかないようで、レイブンもシンシアもケイが何が言いたいのかわかりかねた。

「じゃあ、その先住民はどこから来たんだ?」

「どこって、海の向こう側じゃない?」

シンシアがさも当たり前のように答える。

「その海の向こうってなんだ?」

「それは大陸があるからじゃないの・・・あっ!」

ここで、シンシアが何かに気づいた様な表情をする。

「シンシアも気づいた様だな」

含みのあるケイの表情に、レイブンも何かに気づいた表情をする。


「噛み合っていない」


レイブンの言葉に、アダムとアレグロとタレナが首を傾げる。

「どういうことだ?」

「1500年前に他の大陸から来たという認識なら、ダットが体験した出来事と辻褄が合わないんだ」

レイブンがそこで言葉を切ると、ようやく三人も理解できたのかあっ!と声を上げる。


本来船を進めれば、どこかしら別の大陸を発見するはずである。

しかし、ダットが霧で進めなかったという証言があったため、向こうから来れても、こちら側から行けないという不可解な現象が発生する。


そして歴史の認識程度と疑問である。


「なんで今まで疑問に思わなかったのかしら?」

アレグロの言葉の通り、アダム達は1500年前の前後のことを『別の大陸に移住してきた』で納得してしまうという中途半端な認識をしていた。

参考文献が極端に少ないせいかもしれないが、恐らく、他のダジュールの人々も似たような思想なのだろう。

しかしあくまでも、個人の理論なため確証がない。それとメルディーナの行為もイコールと結びつけるにはいささか弱すぎる。

そしてそれは今も続いている。


そう考えると、試練の塔で入手した本が鍵になる。相変わらず文字が読めないため、頼みの綱は王立図書館のバートになる。



話が一区切りした時にマイヤーとヴォルトが入ってきた。


「皆さんお久しぶりです」

笑みを浮かべたマイヤーがソファーに腰を掛ける。

「話が盛り上がっていたようですね」

「あ、すみません・・・」

アダムはばつが悪そうに答える。


ケイは挨拶もそこそこに、マイヤーとヴォルトに同じ質問を投げかけてみた。


「歴史ですか?それでしたら、1500年前に大陸から移住して来た先住民が築き上げたのでは?」

やはり二人も同じ答えで、疑問に思わない様子だった。

「じゃあそれ以前は?」

「それ以前?」

いまいち質問の意図が理解出来ていないのか首を傾げるマイヤーに、それを聞いて何かを思い当たるヴォルト。

「そういうことでしたか・・・」

「ケイ、どういうことですか?」

ケイは二人に、自分の考えと、ダットが体験したこと、バナハの試練の塔やミクロス村で発見した遺跡について説明をした。


「そういうことでしたか・・・それにしてもなぜ気づかなかったのかしら?」

「今の今まで気にも留めていませんでした」

やはり二人もケイに言われて気づいた様だ。

正直、不気味感は否めないが、これ以上は進まなくなるので、取り合えす話をまとめることにする。


「あくまでも俺独自の考えだから、気にするもしないもご自由に」

「それでは、(わたくし)にできることはありますか?」

ケイの話を聞いて、唖然とするでもなくむしろ好奇心旺盛の状態でマイヤーが尋ねる。

「そうだな・・・それなら、幻のダンジョンが過去にどこで発生したのか一覧みたいなのはあるか?」

「発生の一覧ですか?」

「それでしたら、アルバラントの騎士団に保管されています」

横からヴォルトが発言する。領主が保管するとばかり思っていたが、報告書は受け取っていてもダンジョン関係は全て発生した国の城や騎士団などで保管されているとのこと。

一括にされた書類などはないそうだ。結構不憫である。

「ないならしかたないわね」

諦めなさいと諭すシンシアに時間はかかるが、わかる範囲であれば揃えられるかもしれないとマイヤーが答える。


「それと、これを見つけたんだ」

前置きをしてから、マイヤーに試練の塔で見つけた一冊の本とヒガンテ制御装置の腕輪を見せる。

「これは?」

「試練の塔の最上階に存在していた巨人が持っていたものだ。詳細を聞こうとしたんだけど、壊れちゃったみたいで」

マイヤーは本を手に取りパラパラと捲った後、腕輪を手に取り丹念に調べていた。

「本は内容が読めませんが、恐らく古代の文字かと思われます。腕輪に関しては見たこともない材質で作製されています」


ちなみに本の方は、ロアンからバートが読めるんではないかと言われたため、報告を兼ねてアルバラントに来たと補足する。


「本当は来たくなかったけどな」

「それなら問題はありません。騎士団の方には私からお願いをしておきましたから、わかっていただいてます」

満面の笑みでマイヤーが語ると、本当のことを聞きたくなったがその笑顔が怖いため止めておくことにした。


「マイヤー様、フレデリック様がお戻りになられました」

随分時間が経ってしまったようで、マイヤーはメイドから家族の帰宅を告げられると、ケイ達もそれに合わせるように屋敷を出ることにした。


入り口まで見送ると言った二人と一緒にエントランスまで戻ってくると、反対側から制服を着た金髪に青い目の青年とその友人らしき姿が見えた。

二人はケイ達に会釈をしてからマイヤーに挨拶をする。


「母上、只今戻りました」

「おかえりなさい」

「おかえりなさいませ、フレデリック様」

どうやら彼がマイヤーの息子のようだ。

身長は二人ともケイより少し高めで、フレデリックはマイヤーによく似ている。

「ルイーズと学校の課題をしたいので、一緒に来たのですがよろしいですか?」

「えぇ。ルイーズ君もいらっしゃい」

「お邪魔してます」

銀髪に青い目の友人が礼をする。どこかで見たことがあるような気がしたが、長居は無用とマイヤーに声をかけてから屋敷を後にした。



日が傾き夕暮れになった頃、ケイ達はマイヤーの屋敷から王立図書館に足を運んでいた。


館内は日没が近いため、人もまばらだった。

正面のカウンターに職員の女性が作業のため座っており、館長のバートにつないでほしいと頼むと今は席を外しているということで館内にある応接室に通される。


来客用の長椅子に三人ずつに分かれて座る。


「すみません。待たせてしまいましたか?」

ほどなくして、バートが扉を開けて入ってきた。

先ほどの職員から来客だと告げられたため、慌ててやって来た。ケイは気にするなと答えてからさっそく用件を切り出す。


「バードに見てほしいものがあるんだ」


木製のローテーブルの上に一冊の本と腕輪を置いた。

「これは?」

「バナハの試練の塔上層部で見つけた物だ」

その際にヒガンテの話と本の内容が読めないことを伝える。

「こちら拝見します」

バートが本を捲ると、なるほどと言った表情で見つめている。

「ロアンから、あんたならこの本を読めるんじゃないかと聞いたんだ」

「読めると思います。しかし、この本は実に興味深い。アスル語の他に、ベルテ語・アマリリョ語・ロホ語など三つの言語が使われています」

「聞いたことない言語ね」

「アスル語は共通語の原語になっていますが、他の三語は失われたかアスル語に統合された可能性があるそうです。最近になって原語の研究もされているようなので、少なくともこの文献は貴重な資料になると思います」

「これの解読を頼めるか?」

「責任重大ですね。時間はかかりますが可能かと」

そう問われバートは驚いた表情をしたが、目の前にある本を自分が解読するという責任に心を震わせた。

ケイはアスル語しかわからないため、いくら時間がかかっても構わないと伝えると、バートからわかり次第のご報告になりますと返す。


「皆さんはこれからどうするのですか?」

「俺たちは商業都市ダナンに行ってみることにするよ」

「と、いうことは最近発見された地下遺跡のことですね」

ダナンの遺跡の話は、バートも知っていたようで機会があれば自分も行ってみたいと思っていたようだ。

エストアの塔の跡地の話も既に国内に伝わっているようで、最近になって他の冒険者が参考のために資料を探しに来ていると話した。

「そんな資料ってあるのか?」

「ほとんどは過去の戦争や内乱で消失してしまったことがほとんどです。今は手元にある資料を参考に解読を進めているのが現状です」

やはり過去の遺産や資料は他の国と同様にあまり残っておらず、研究者のなかでも難儀しているようすだった。


「・・・となると、ダナンやエストアに行って確かめてくるしかないな~」

「ダナンの遺跡も、他の遺跡と同じように関連があるということか?」

「実際に見ないとわからないけど、下手したら歴史を知る機会になるかもしれないと思ってる」


アダムの疑問に実物をみないと判断がつかないと答えたケイは、試練の塔で入手した本をバートに託し、一同は商業都市ダナンへと向かうことにした。


次回はシンシアの故郷である商業都市ダナンに向かいます。

地下の遺跡を巡ることになりそうです。


次回の更新は7月22日(月)です。

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