48、これからのこと
遺跡を発見後、村に戻ったケイ達はシンシア達と合流し今後について話し合うことにする。
「出てすぐ崖ってないわぁ」
断崖絶壁の崖を目の前にして、さすがのケイもため息をつく。
周囲を見渡すと、右側の方に石の階段の様なものが見えた。
「おーい、こっちに道があるぞ!」
アダムが、人の手で造られたとおぼしき石の階段はを発見する。幅が約40~50cmほどで人一人分通る分には可能であるが、隣はすぐ崖という危険性の高い場所に存在している。
「おいおい!ここを通るのか!?」
「仕方ないじゃん。ここしか道ないんだし」
ロベルとノイシュがこの状況に顔を引きつらせ、トビーに至っては青白い顔をする。
ノイシュ曰く、トビーは高いところが苦手で女神像のある岬も初めて来ると言っていた。
落ちても飛行魔法をかけてやるから心配するなと言ったら、お前は鬼か!と返された。失礼な奴らだ。
「ここに繋がっていたのか」
恐怖の石階段を上ると、女神像がある岬にたどり着いた。
どうやら、位置的に女神像の真下に遺跡への入り口があるらしい。
「トビー大丈夫か?」
心配そうに声をかけるアダムに、上り終えた緊張からかトビーは腰を抜かしてその場から立てなくなった。
「とりあえず俺は、先に戻って村長や村の奴らに知らせてくる」
ノイシュがトビーを担ぎ、ケイ達に言付けると先に戻るため駆けていった。
担がれるトビーに本当に大事にしているのか?と疑問に思うが、彼らのなかでは普通なのだろう。
「しかし、またなんで遺跡が真下に?村長達になんて伝えりゃいいんだ?」
頭を掻き思案するロベルに、ケイはミクロス村の遺跡と幻のダンジョンとの関連性を考える。
確かに先ほどみた遺跡は、幻のダンジョンの青い場所に似ている。確証はないが、もしかしたら同じモノで造られたのかもしれないと推測する。
「ロベル、一つ聞きたいけどいいか?」
「なんだ急に?」
「幻のダンジョンって、過去にチューニの森に出たことはあったか?」
ロベルは顎の無精髭を触り、考えた後そういえばと口を開く。
「五年前に、チューニの森から南東にある街道に出たことがあったな」
その時は、消失する二週間ちょっと村に滞在していたと言った。
何か気づいたことはあるかと尋ねると、さすがにわからないと返ってくる。
「ケイ、どういうことだ?」
「確証はないけど、幻のダンジョンとさっきの遺跡は同じモノで出来ている可能性がある」
「同じモノ?」
「なにで出来ているかはわからないが、おそらく何らかの事情で建てられたのは間違いない」
確定するには判断材料がなさ過ぎる。
しかしロベルの話から推測すると、城の地下に出現した幻のダンジョンの場所は存在しているのではないかと仮定する。
ケイは、過去に出現した幻のダンジョンも調べる必要はあると感じた。
西の岬から村に戻ると、同じタイミングでシンシア達が南の道からやって来る。
「二人共!大丈夫なの!?」
なかなか戻ってこないことを心配して待っていたが、岬の方から戻ってきたことを聞き村に帰ってきたのだという。
レイブンから何があったと尋ねられたため、トビーが落ちた地点から遺跡を見つけたと言うと目を見開き返してきた。
「遺跡って?」
「未発見のものだろうな。年代も相当古い」
シンシア達に説明をすると、遺跡も発見するのねと言われた。ケイ本人は別に狙ったわけではないと不服そうな顔をする。
「本当に村の真下に存在していたのだな・・・」
ロベルが村長や村人を集め説明をすると、口々に戸惑いや不安を言葉に出した。
ケイは、村の真下は巨大な建造物が建っていて、その中に遺跡があると説明した。
年数はだいぶ経ってはいるが、支えるための巨大な支柱も確認できたため倒壊や陥没の恐れは低いと伝える。
「どちらにしろ、バナハには伝えねばならないな。ロベル悪いが明日以降にでもこのことを伝えてきてはくれないか?」
「あぁ、任せておけ。どっちにしろバナハには行く予定だったしな」
ロベル達は祭の後に依頼を受けるため、バナハに行く予定なのだそうだ。ケイは第二部隊のエミリアと知り合いのため、彼女経由で相談してみてはどうかと助言する。
「ケイ、お前とんでもないやつと知り合いなんだな」
「?エミリアはいい奴だよ。信用もできるし」
感心しているのか呆れているのか、ロベルはケイのことを変わり者と判断しているようだ。
人間信用が第一である。
しかし冒険者を生業としている人達は、同時に努力と多少の駆け引きが要求される。
損得勘定の者もいれば、自分がのし上がるために他人を陥れ信用を勝ち取るといった輩もいるため信用が一番とは一概には言えない。
それを完全に相手に委ねているあたりに、ロベルはケイの異質さを感じている。単にそれは、ロベル達が今までの経験で培ってきた総合的な判断ともいえる。
正直知り合って日も浅いため、それも要因の一つであるが、それを差し引いても理解しがたいのだろう。
村の祭りは中止になるかと思いきや、そのまま開催すると村長のトマスが村人全員に伝える。
それはトビー救出を感謝し、同時に未発見の遺跡を祝してのことだった。
村人はその準備をするためその場で解散をする。
料理を振る舞うため女性達がいそいそと調理場に向かい、男たちは捕ってきた獲物を刃渡りの長い切物を手に解体を始める。
ケイ達も、村長に誘われお相伴に与ることになった。
辺りが夕焼けに染まる頃、ミクロス村で祭りが行われた。
祭と言っても宴会のようなもので、野外に設置されたテーブルにはたくさんの料理が配膳され、これでもかと言うほどのエールや果汁酒が並ぶ。
会場の一角でケイ達専用の席を設けて貰い、そこで食事を取っていると村人と談笑していたロベルが声をかけてきた。
「ケイ!飲んでるか!?」
「ふぁべふぇる(たべてる)!」
話す暇はないという勢いで、肉や魚や野菜などさまざまな料理に手をつけている。
「なんだ、酒は飲まないのか?」
「あまり好きじゃないんだ」
水を飲み干しタレナに要求する。それを嫌な顔ひとつせず受け取ったコップに水を注ぐ。
「そういえば、ケイはあまり飲まないわよね?」
「この大陸にに来て、初めて飲んだ」
その発言に全員がえっ?という表情をする。
それもそのはず、日本では飲酒は二十歳からと法律で定められているため18才のケイには縁がない。
しかも酒に弱い父方の家系を継いでか、一口飲んだだけで吐いてしまうという。過去にエールを飲んでみたが、案の定一口飲んだだけでトイレに籠もってしまう始末。
これではヤバいと思ったのか、即座に創造頼みでいくら飲んでも酔わない【酒飲み放題】を作製し以来それに頼りっきりである。
しかし味は変えられないためビールに近いエールより、カクテルに近い果汁酒の方がまだ飲めるとのこと。
余談であるが、ケイには成人した兄と姉がいる。二人とも酒に強い母方の家系を継いでか大酒飲みである。
兄曰く、ビールは水だと豪語し時にはビンごと飲み干す酒豪で質より量派。
姉は、通常はワインを好むが、海外などの留学の影響からかウォッカやテキーラなどの度数の強い酒を好む。しかもストレートに飲み、顔色が変わらないという強者で恐らく家族一強いと思われる。
「意外と子どもなんだな」
「俺の国では飲酒は二十歳からなんだよ」
心外だと言った表情でロベル睨み付けると、アレグロが疑問を口にする。
「ケイ様の国は、成人はいくつからなの?」
「俺の国ニホンは法律で二十歳からって決まってるんだ。将来的に18才になると聞いているが、俺はいないし関係ないな」
へぇ~とアレグロが納得すると、国に戻る予定はないのかとシンシアが口をはさむと、ケイは無言で首を振り食事を続けた。
「ロベル、ここにいたのか」
ケイ達が談笑をしていると、ノイシュを含めたエレフセリアの他のメンバーが集まってきた。
「おまえの親父さんが酒樽片手に踊ってるぞ」
「まぁいつものことだ」
呆れた様子でロベルが苦笑いを浮かべる。
四人はそれぞれ席に着くと、やはり話は遺跡のことになる。
「私もまだ信じられないわ。やっぱりバナハに話をすることになるかしら?」
「遺跡発見の報告は義務になっていますので、お気持ちはわかりますが義務を怠ると処罰される可能性があります」
ルナの言うとおり、冒険者ギルドの規定により、ダンジョンや遺跡などの発見は速やかな報告が不可欠である。
それは、他の生存率を上げるためだけではなく、過去の歴史を確かめるために重要な任の一つでもある。
「だろうな。あれほどの大きな建造物だ、村の中にも不安がるやつもいるが仕方がないさ。それよりケイ達はこのあとどうするんだ?」
マリアンナとの会話の後、ロベルがジョッキに残っているエールを飲み干しケイ達の予定を尋ねる。
「俺たちはアルバラントに戻ろうと思う」
「やっぱり今回の件か?」
「まぁな。あと試練の塔関連も領主に相談しておきたい」
「おまっ!領主も知り合いなのか?」
「いろいろあってね」
意外な交友に驚くロベルに、タレナから何杯目かの水を受け取りそれを口に含むケイ。
「それにいろいろと聞きたいこともできたし」
ケイは以前から疑問に思っていたことがある。
この国の歴史は、1500年前に始まったそうだがそれ以前の文献は今だに見たことがない。
単に知らないだけかもしれないが、図書館を巡った結果あまりにも不自然過ぎたため逆に気になってしまったのだ。
以前、それをアダム達に尋ねたところそういえばそうだなという認識だった。それと、名もなき女神のことも謎に包まれている。
実は前から、ダジュールの管理者に1500年以前の歴史を検索をかけたところ相変わらず『該当無し』と出たため、逆の発想で【何故『該当無し』か】と検索したところ『管理者・メルディーナが記録削除行為をしたため』と回答がでた。
これで以前の歴史は存在し、メルディーナが隠蔽するためにわざと消したことが確定となった。
しかし記録を消しただけでは、人々の頭から長年の歴史に関して疑問に思わないことにはならない。
別の要因または原因があると見ている。
「そういえば・・・」
サイオンが何かを言いたそうに口を開く。
どうしたと尋ねると、以前ダナンに行った際に地下から遺跡が発見されたと聞いたことがあると言った。
「確かヴィンチェさん達がみつけたんですよね?」
「あぁ・・・」
ルナが、以前出会った修復士のヴィンチェ達が偶然発見したと言った。
「そういえばそんなこと言ってたな~。ヴィンチェ達も興味はあったが、アルバラントとの合同捜索のために入ることができなかったと残念がってたぜ」
遺跡と聞いて今回とは同じかはわからないが、興味があるならダメ元で行ってみるといいとロベル達に言われた。
似たような遺跡が存在していれば、もしかしたらダジュールの歴史がわかるかもしれない。
ケイはコップに残っていた水を飲み干すと、残っていた料理に手をつけた。
ここでも、ダナンの地下遺跡や修復士ヴィンチェの情報を手に入れたケイ達は、一度アルバラントのマイヤーのところに向かうことになった。
次回の更新は7月19日(金)です。
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