47、消えた青年
現在ケイ達は、パーティのエレフセリアの出身であるミクロス村に滞在中。
二つ目の女神の涙を手に入れた矢先、騒動が起こる。
三人の子供達がケイ達の前を通り過ぎ、村長の家の方に走っていった。
「何かあったのか?」
「たぶんいつものことだよ。子供達は面白い物を見つけると、トマスさんに報告するんだ」
その光景を見てノイシュが悠長に話す。子供は発見すると何でも話したがるから、きっとそれなんじゃないか言った。
「ノイシュ!ノイシュはいるかぁ!!」
ほどなくして、村の中にノイシュを呼ぶトマスの声が聞こえる。
「トマスさーん、こっちでーす!」
「おぉ、ここにいたか」
何事かと思い、ノイシュが声を上げると、トマスは先ほどの子供達と一緒に慌てた様子で駆け寄る。
走ってきたせいで息が乱れたため、その場で深呼吸をする。
「トマスさん、なにか用?」
「落ち着いて聞くんだ。リコリスの実を摘みに行ったトビーが穴に落ちたらしい」
「えっ!トビーが!?」
それを聞いて慌てた様子のノイシュが子供達に尋ねると、三人が一斉に南の森を示す。
「ノイシュ、待て!!」
掛けだしたノイシュをロベルが止めようとしたが、一瞬のことだったので間に合わなかった。
トビーのことを聞くと、ノイシュの弟で今は両親と三人で暮らしていると言う。
「今夜の祭で使うリコリスの実を、子供達と一緒に取りに行くために森に行ったそうだ」
その時地盤が緩んだ影響で、脆くなった地面から落ちたのではないかと話す。
心配になったトマスが、助けを呼ぶために他の者に声をかけるとその場を離れる。
「ケイ、俺たちも追った方がいいんじゃないか?」
「そうだな」
「それなら俺たちも行こう!」
子供達を村に残し、ケイ達はノイシュを追うため、森の南側に向かうことにした。
「トビー!聞こえるか!トビー!!」
森の南に穴に呼びかけているノイシュの姿が見えた。
穴の大きさは大体1mほどで、大人一人がすっぽりと入るほどである。
周りには、かごと摘んだとおぼしきリコリスの実が散乱している。
「ノイシュ!」
「・・・ロベル、声が聞こえないんだ」
「しっかりしろ!トビーなら大丈夫だ」
狼狽えているノイシュにしっかりするようにと諭すロベル。
「こりゃ、だいぶ深いな」
「無事だといいのですが・・・」
ケイ達が穴を覗くが、深く続いているためか下がまったく見えない。試しにランタンで照らしてみたが効果はなかった。
「とりあえずロープを借りてこよう」
「その必要はない・・・これを使え」
『創造魔法:縄ばしごを作成』
アダムが村から縄を借りようとその場を離れようとしたが、ケイが魔法で作成した縄ばしごを渡す。
「俺が先に降りて、様子を見てくる!」
「ちょっとケイ!?」
シンシアが止める間もなく、ケイはその穴から飛び降りた。
「どぅわっ!!」
垂直に落ちたと思うと途中で急斜面に変わり、滑り台から滑り飛んだように地面に落下する。
ドンという衝撃を受け、ケイが悶絶する。
「あ゛~いっだ~~」
お尻を摩りながら立ち上がり、持っているランタンで辺りを照らす。
「人工の壁?」
ランタンに照らされた場所は、人の手で加えられたかのような作りをしていた。
加工した土に補強するように丸太が組み込まれている。広さは大体10~20mぐらいのドーム型になっている。
ケイが降りた場所を見ると、やはり人一人ほどの横穴が見える。
「ここはどこだ?」
ケイが首を傾げると、暗闇の奥からかすかに何かが動くのが見えた。
「だれかいるのか?」
ケイがその方向に明かりを照らすと、壁にもたれるように青年が座っていた。
ランタンの明かりが眩しいのか、目を細めてから手で遮る。
「どなたですか?」
「俺は冒険者のケイだ。人が穴に落ちたと聞いて様子を見に来た」
ランタンを少し横に向けると、茶髪の青年が安堵の表情でこちらを見る。
「もしかしてあんたがトビーか?」
「はい。僕です」
トビーらしき人物はそういうと、その場から立ち上がろうとした。
しかし、バランスを崩しケイの方に倒れてくる。
「おっと!もしかしてどっかやられなのか?」
「えぇ。どうやら落ちた時に左足を痛めたみたいで」
トビーに足を見せてほしいと頼み、了承を得てから靴と靴下を脱がせる。
「少し赤くなってるな」
「戻ろうと思ったのですが上がることが出来ないため、他の道を探していました」
落ちた衝撃でねんざをしたのか、左足が少し腫れていた。
「とりあえず治しておくぞ。【エクスヒール】」
淡い光の後に、トビーの左足の腫れが引いた。
「あ、ありがとうございます」
「とりあえず上に出る道を探すか」
ケイはトビーと一緒に、他に道はないかと探すことにした。
「ケイさん!ここ見てください!」
しばらく辺りを探索していると、トビーが何かを見つけた様子でケイを呼ぶ。
「これはなんでしょう?」
「扉?どこかに繋がってるのか?」
そこには、なにかの模様が彫らている青銅の扉だった。よく見ると鍵穴がなくドアノブも存在しない。
「こういうモノって村の地下にあるものなのか?」
「いえ、少なくとも僕は知りませんでした」
トビーも知らなかったようで、戸惑いの表情をした。
「村の奴らが作ったとか?」
「さぁそこまでは、もしかしたら村長なら知っているのかもしれません」
完全に人工物だとわかる扉とドーム型の部屋らしき場所。後で村に戻ったら聞いてみようと思った。
「わっ!」
その時、後方で複数人の声がした。
そちらにランタンを向けると、アダムとロベル、ノイシュの姿があった。
途中で滑り落ちたのか、全員もれなく転げ落ちている。
「兄さん!?」
「トビー無事だったのか!」
ノイシュがトビーの両肩を掴み無事を確かめる。
トビーが大丈夫と声をかけると、安堵したのかノイシュはそのまま抱きつく。
「兄さん痛いよぉ」
「お前が穴から落ちたと聞いて、心配したんだぞ」
兄妹の再会を横目に、ケイがアダムに来ちゃったか~と言った表情をする。
呼びかけても返事がなく、降りた先が傾斜だとわからずそのまま滑り落ちたそうだ。
ケイの作成した縄ばしごは5mほどで、そこから滑り落ちたと考えると大体10mぐらいの高さなのだろう。
シンシア達とサイオンは、村人が間違えて落ちないように見張っているということで、三人だけで降りてきたそうだ。
「で、どうやって戻るんだ?」
「この辺りを探したら、扉らしきものはあったんだけどな」
アダムの問いに、ケイがランタンで青銅の扉の方を指すと三人も驚いた表情をみせた。
「ロベル、念のために聞くがミクロス村に地下はあるのか?」
「い、いや、俺もこういうのは初めてだ」
「俺もない。というより、これドアノブも鍵穴もないぜ?」
ロベルとノイシュの表情から村のモノではなさそうだった。
扉の雰囲気から、以前幻のダンジョンで見た青い壁の場所を思い出す。実にあの場所に似ていると思った。
「ケイ、ポケットに入っているモノが光ってるぞ!?」
アダムに言われ、右のポケットからそれを取り出すと、蒼いペンダントが仄かに光っていた。
「ペンダントが光ってる」
「おい、どういうことだ!?」
状況が理解できないロベルが尋ねる。
「おそらくだが・・・」
ケイはそう前置きをしてから、ペンダントを扉にかざしてみた。
ペンダントの光が青銅の扉に反応し、扉が消える。
「ひ、開いたぞ!?」
これにはケイも目を丸くした。
どうやら地球でいうところのカードキーの様なモノじゃないかと思った。
「嘘だろ・・・!?」
五人が扉をくぐると、そこには大きな空間が広がっていた。
壁も床も全てが青銅で造られた空間で、下に降りる階段が数ヶ所。そして建物が建っていたであろう跡が残っている。
空間自体は大体幅が50m高さが30m前後といったところだろう。しかもよく見ると、壁や床に建物のガレキに模様が施されている。
また、空間を支えるためにいくつかの巨大な支柱が立てられており、全てが何かの建物のようにもみえる。
年代は不明だが、状態から察すると相当古いものであろう。
「もしかして、遺跡か?」
「兄さん・・・」
「まさか村の下が遺跡だったなんて・・・」
「なんてこった・・・」
ロベル達も、見たこともない光景に唖然としていた。
遺跡の中が気になったため、外に出る道を探すついでに探索してみる。
「もしかして、だれか住んでいたのか?」
その一角でロベルが、誰かが定住していた跡を見つける。
ボロボロの木製のテーブルと椅子が散乱している。数からして集団で集まって何かをする場所のようだ。
ケイが【サーチ】を使って生体反応を調べた。
「辺りに生体反応はなし・・・と」
「じゃあ、ここはただの遺跡か?」
「そうみたいだな。しかし、ここはなんの施設だったんだろう?」
ロベルに遺跡を見つけた場合はどうするのかと尋ねると、ここだとバナハ国が近いからそちらに連絡をするとのこと。
もっとも位置的には村の真下にあたるため、村長に相談してからにすると言った。
「ケイ、ここってどこか見覚えないか?」
何かを思い出したかのようにアダムが問いかける。
「やっぱりそう思うか?」
「ここ、幻のダンジョンのあの場所に似ている」
アダムの言った通り、以前ケイ達が幻のダンジョンで到達した青い空間によく似ていたのだ。
この空間は光っていないものの、先ほどの青銅の扉もおそらく同じ造りではないかと感じた。
「話の途中悪いが、さっき話していた女神像になにか関係があるのか?」
ロベルが話の途中で二人に話しかける。
「関連性は不明だが、否定はできないだろう」
「どちらにしろ、一度戻るしかないか」
これ以上考えてもしょうがないので、上に上がる道を探すため探索を再開した。
「兄さん、あっちから風が吹いているよ!」
トビーが指を指した先に、別の道に通じる通路が見えた。
念のため、ケイがサーチとマップを使用し危険でないことを確かめる。
「魔物の存在もないようだから、そっちに行ってみようぜ」
トビーの提案通り、ケイ達は通路の方に歩いて行った。
「だいぶ風が強くなってきたな」
通路を歩くたびに、風が強く吹き込んでくる。外に近い証拠なのだろう。
「しかし村の真下が遺跡だとは思わなかったぜ」
「ロベル、村長やみんなににどう説明しよう?」
未だに状況を理解し切れていないロベルと、不安の表情で尋ねるノイシュ。そしてそれを見つめるトビー。
「二人の気持ちもわかるぜ、まさか遺跡があるとはね」
ケイもこれには驚きを隠せないが、どちらかというと興奮ぎみである。
前方20mの地点に出口のようなモノを発見する。
「よっしゃ!外だぜ!」
ケイが意気揚々と掛けだし外に踏み出そうとした時、急に大声を上げた。
「のわぁあああ!!」
「どうしたケイ!?」
その声にアダム達が慌ててやって来る。
ケイは何とかバランスを立て直し一歩下がると、心臓をバクバクさせたままこう言った。
「・・・崖かよ」
ケイ達の目には、断崖絶壁の崖と青い海と空が見えた。
遺跡が発見されました。
幻のダンジョンとの関係性は?
謎が謎を呼ぶ事態にケイ達は、一度村に戻ることになった。
次回は7月17日(水)更新です。




