46、ミクロス村
ミクロス村に向かうケイ達に、思いがけない人達と再会します。
さてさて今回はどうなるかな?
バナハから出発し、南西にあるチューニの森に着いた頃には日没を迎えていた。
ケイ達は森に入るのは危険と判断し、今夜は近くで野営することになった。
テントを張り、夕食の支度をしていたところに五人組のパーティがやって来るのが見えた。
「あれ?ケイ達じゃねぇか!」
無精髭を生やした男が声をかける。
「もしかして、ロベルか!?」
「なんだ!久しぶりじゃねぇか!!」
見覚えのある五人組だと思ったら『エレフセリア』の一行だった。
彼らとは、幻のダンジョン以来の再会になる。
「こんなところで何してるんだ?」
「ちょっと用があってミクロス村に行く途中だったんだ。ロベル達は?」
「俺たちはミクロス村出身だから、毎年祭になると一度戻ることにしてるんだ」
ロベル達も今晩はここで野営をすることになり、せっかくだからと一緒に食事を取ることにした。
夕食時にロベルが、妙なことを口に出した。
「そういやバナハ経由で戻ってきたんだが、見えるはずの試練の塔がなくなっていたんだが何か知ってるか?」
「ぶっ!!」
口に水を含んでいたケイが、思わず吹き出す。
「おいおい、大丈夫か?」
ロベルが咳き込むケイの背中をさすり、タレナがタオルを手渡す。
一旦落ち着いてから実はと掻い摘まんで説明すると、想定通り唖然とした五人の表情があった。
「お前は破壊神かなにかか?」
「壊してねぇよ!勝手に崩壊したんだよ!」
「何言ってるの、出入り口がないから魔法で壁に穴を開けようと言ってたじゃない?」
弁解するケイに、シンシアがしれっと爆弾投下をする。それを聞いて何故か納得する五人。
「そういや魔法使えるんだったな」
「・・・納得」
「いや~革の装備だから、前衛と間違えるんだよね~」
「なぜか忘れてしまいそうよね?」
「ローブを着ない魔法専門職の方は、なかなかいませんよね?」
スッカリ忘れてたという表情のロベルに、他の四人も同意する。
「一つ聞きたいんだけど、ケイは何で杖を持っていないの?」
ここで、同じ魔法専門職のマリアンナが問いかける。
幻のダンジョンの時、杖を所持していなかったことに疑問を感じたからだ。
「だって、杖って邪魔だし殴っても威力でないし持つ意味がない。そういや登録する時、受付嬢から【杖術】ないのに魔法が扱えるのを不思議がってたな」
「え?【杖術】ないの?」
目をパチパチとさせたマリアンナが聞き返す。
【杖術】は魔法の威力を上げるためのスキルで、魔法を扱う者ならかならず持っているスキルである。
「まぁなくても支障ないし、気にしてないけど?」
何も問題はないと言った表情で、マリアンナに返す。
ちなみに三人を鑑定したところ【杖術】のスキルレベルは、マリアンナはLv6でルナがLv5、アレグロはLv8である。
三人比べるとアレグロが圧倒的に高いがやはり経験の差だろうか?アレグロに至っては、魔力促進剤を飲んでいるためレベルと数値は比例しない。
「そういえばケイは、武器に関しては大体現地調達だな。ちゃんと使用しているといえば、クラーケンとマミークイーンの時ぐらいか?」
「最初の頃はスライムは踏み潰すし、レッドボアなんて素手で仕留めてたぞ」
レイブンとアダムの、何気ない一言にエレフセリアの五人は驚き戸惑いの表情を浮かべる。
「それに、回復魔法も扱えますし」
「ケイ様にできないことなんてないわよ!」
「空を飛べる時点で、何があっても驚かない自信はできたわ」
タレナとシンシアは賞賛を述べ、シンシアは諦めたと言わんばかりに水の入ったコップを飲み干す。
「ケイ、お前魔法使いだよな?」
「あぁ・・・てか、なんて顔してるんだよ?」
「いやいやいや!前衛もやってるってどうなってるんだよ!?」
「え?普通だけど?」
「絶対違う!!!!!」
エレフセリアの五人が、一斉に声を上げそれが辺りにこだました。
翌日ケイ達はエレフセリアの案内の元、ミクロス村に向かうためチューニの森を歩いていた。
「ロベル、ミクロス村までは結構あるのか?」
「いや、この道をまっすぐ行くと村に着くから、距離的にはそんなに離れてないぞ」
「他にも道があるけど?」
「あれは駄目だ。野生の鹿や猪が出るから、村の奴らは行かないんだ」
ケイ達が歩いている道は土で舗装されており、横道は獣道を切り開いたような道も存在する。
「ねぇ、あの実はなにかしら?」
シンシアが木の上になっているピンク色の実を指さした。
「あれは【リコリスの実】だよ」
「リコリスの実?」
「チューニの森にしか存在していない実で、いろいろな料理に使われるんだ」
ノイシュが説明をする。
リコリスの実は、表面の皮が固くそのままでは食べられず、袋に入れて棒のようなもので叩き砕いてから料理に使用するのだと言う。
ケイは一つ木からもぎ取ると、表面がデコボコしてさらに軽く振るとカラカラという音もする。
「よっと・・・あ、うま!」
ケイは殻を手で割り、中身を取り出し口にほおりこむ。味はクルミにだいぶ近かった。
「なんだ、それ食べられるのか?」
アダムが興味深そうにケイに尋ねると、外側は固いが中は美味しいというと、アダムが二つ取りレイブンにも一つ渡す。
二人は中身を潰さないよう、片手で軽く殻に力を入れると縦に亀裂が入る。
中身を取り出し口に入れると、歯ごたえのある食感がした。
「これ旨いな~」
「ナッツに近いが、食感はこっちがしっかりしている」
アダムとレイブンは気に入った様子だった。
「お前らよく開けられるな~」
隣にいたロベルが感心したように言った。
「ロベルも食べればいいじゃん!」
「普通、素手で開けられるもんじゃねぇよ」
ケイ達三人は軽く開けられたが、本来は日本で言うところのオニグルミの様な強度で、割る際はハンマーを使用するほどである。
しかし、元々チートのケイにドーピングされたアダムとレイブンには造作もない。
「着いたぞ!ここがミクロス村だ!」
しばらく歩くと、目の前が開けた。
木造平屋が点在する、人口が100人ほどの小さな村だ。主に農業を営んでいる。
「ロベル達か?よく帰ってきてくれた」
村の奥から白髪混じりの茶髪の頭に髭を蓄えた中年の男性が現れ、ロベル達を出迎える。
「村長、戻ったぜ!」
「今回は、ずいぶんと賑やかだな」
「あぁ、紹介するぜ。まずはウチのパーティのルナだ」
「ルナと申します」
ロベルに紹介され、ルナが礼をする。
「で、こっちがパーティのエクラだ」
「これは遥々お越し頂きました。私はミクロス村の村長をしております、トマスと申します」
次にケイ達が紹介され、村長とそれぞれ自己紹介の挨拶をする。
「ところでケイ達は用があって村に来たって行ってたが依頼か?」
「いや、実はこの村にある女神像を見にに来たんだ」
ケイが村長とロベル達に、ウェストリアで女神像の話を聞いたことを説明した。
「女神像を見に来たなんて、変わってるわね」
「特に変わったところのない普通の像なんだけどな」
マリアンナとノイシュが首を傾げた。
「まぁ来たんだから、俺が案内するよ」
ロベルも疑問に感じたが、一旦荷物を置いてから案内することになった。
ちなみに、ミクロス村には宿がないため、ケイ達は村の中央にある村長の家に泊ることになった。
ルナはマリアンナの家に泊ると言って、そこで別れる。
荷物を置き、ロベルに案内された場所は、村の外れにある西側の岬だった。
森を抜けた先にぽつんと岬があり、そこに海の方を見つめている女神像が建っていた。
「ケイ達が言っているのはこれのことか?」
ロベルが尋ねると、ケイ達は女神の顔を見ようと回り込んだ。
「ケイ!これって・・・」
「あぁ。俺たちが見たのと同じやつだ」
ミクロス村の女神像は、幻のダンジョンで見た女神像と同じものだった。
「ロベル、これってなんの像?」
「さぁ~。他の奴らは『村の守り神』とか言ってたけど本当のところは知らないんだ。もしかしたら村長が知っているのかもしれない」
「守り神なら、何でこれは海の方を見てるんだ?」
ケイは女神像と同じ目線でそちらを見たが、どこまでも続く水平線しか見えなかった。
「結構古そうだが、いつ頃からあるんだ?」
「それもよくは・・・だけど、俺が生まれた時には既にあったと思うぜ」
ダンジョンに存在しているわけではないことがわかった今、ケイは鞄から蒼いペンダントを取り出し、女神像に掲げた。
すると、ペンダントと女神像が共鳴するように淡く光り出し、光が雫に形成されるとペンダントの中に吸い込まれるように消えていった。
確認のために鑑定をすると、女神の雫(2/5)と表示されている。
未だになんの意味があるのかはわからないが、とりあえずはこれを集めていくしかないと思った。
「なっ・・・ケイ、どういうことか説明してくれるか?」
その光景を一部始終見つめていたロベルが、唖然とした表情でケイに説明を願う。
ケイは、ロベルに幻のダンジョンで同じ女神像を見つけ、女神の涙を集めていると説明した。
「じゃあ、幻のダンジョンを攻略したのは・・・」
「先に言っておくが攻略したのは俺たちだ。正直、面倒事を起こしたくないから黙っててくれないか?」
「あ、あぁ。まさか自分の村にこんなことがあるなんて思わなかったぜ。村のみんなにも迷惑をかけたくないから約束するよ」
ロベルに内緒にしてほしいと頼むと、村のこともあるし内緒にしておくと約束した。
女神像から村の方に戻ると、村の子供を肩車しているサイオンと子供達に何かを教えているノイシュの姿があった。
「手をあわせてこう持って・・・そうそう!で、引いて、滑らすように離す・・・できたじゃないか!」
子供の手から何かが回転しながら飛んでいき、それを喜ぶ子供とノイシュ。
飛んでいた物がケイの足元に落ちた。
それを拾い上げると、ケイは驚いた様子で口にした。
「これ、竹とんぼじゃね?」
拾い上げた物は竹ではなく木製で作られていたが、回転する翼の中央に軸になる棒がついている見たことのあるそれだった。
ケイはそれを手で合わせ、少し引いてから滑らすように空に飛ばした。
「わぁ!すごくたかーい!!」
勢いよく飛んでいった竹とんぼを見て、子供達が大はしゃぎする。
「ケイって、これ知ってるのか?」
「俺の国にあるおもちゃだよ。でもなんでこれがあるんだ?」
異世界に竹とんぼがあることに驚いたが、木であそこまで再現してしかも飛ばせることに感動を覚える。
「実は少し前に、ダナンで出会った修復士から貰ったんだ」
「修復士?」
「なんでも直せる職業だと言っていた」
ノイシュの説明にケイが疑問の顔をする。
「修復士っていう職業もあるのか?」
「いや、俺たちもそいつに会って初めてそれを知ったんだ」
ロベル達の話によると、商業都市のダナンで活躍しているヴィンチェという男がそれを作ったらしい。
武器や防具に壁や家と、とにかく何でも直せるらしい。以前、サイオンの盾が壊れた時に彼が瞬時に直したそうだ。
「まるで仙人みたいだな~」
「でも、そういう人って誰かが一緒にいないと、いいように利用されそうね」
アレグロが指摘すると、ノイシュが彼の同行者を思い出す。
「確か親子連れと一緒だったから、問題はないんじゃないか?」
その時は、父と娘の親子連れが一緒に居たから本人達曰く問題はないそうだ。
「世の中って広いんだな~」
ケイはが感心した様子で、竹とんぼで遊ぶ子供達をみた。
「おーい!はやくぅ!!」
「はやく村長さんに知らせないと!!!」
「二人ともまってよぉ~」
その時、村の反対側から三人の子供達が慌てた様子で走って行く姿が見えた。
パーティ『エレフセリア』との再会です。
誰?と言う人は、幻のダンジョン編をご覧ください。
次回の更新は7月15日(月)です。




